ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-8

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    ともだち~ ずっとともだち~♪

ギーシュは上機嫌だった。

    ずっとともだちいな~い♪

鼻歌まで歌ってゴキゲンである。彼は両手で何か大きな箱を抱えて
中庭を歩いていた。箱の中にはギッシリと、色んな形の小瓶が詰められて
いる。小瓶――そう、香水である。「香水」の二つ名を持つ彼女、
モンモランシー・マルガリタ・中略・モンモランシに、彼はこの香水の山を
プレゼントするつもりなのだ。こいつを決め台詞つきでプレゼントした
時の彼女の反応を考えると、ギーシュはニヤニヤが止まらなかった。率直に
形容すると、いわゆる「アホ面」というやつだ。そういうわけで、彼はこの後の
勝利を確信しながら、それはもう上機嫌でモンモランシーの元へと向かって
いたわけである。すると後ろの方から彼を呼ぶ声が聞える。
「ギーシュ!あなた何を持っているの?」
この声は・・・!ギーシュは確信した。モンモランシーだ!少し予定と違うが
まぁいい!コホン、と一つ咳払いをすると、
「ああ、まるでセイレーンの歌声のようなその声!君はモンモランシーだね!
なんという偶然、いやこれは始祖ブリミルの与えたもうた奇跡!僕も今君に
会いに行こうと・・・」
優雅な仕草でギーシュが振り返ったそこには、

般若のような形相で仁王立ちするケティの姿があった。

「ギーシュさま・・・」
背後からゴゴゴゴゴゴという擬音を引き連れて、ケティは死神のような眼で
ギーシュを睨む。
「やはり・・・・ミス・モンモランシーと・・・・・・」
「ケッ、ケケケケケケティ!!ちっちががちが違うんだよこれは!!これは
先生に頼まれて――」

バッチィィイィン!!!

「さよならギーシュさま・・・死ねッ!!!」
へなっぷすいませんと叫びながらフッ飛ぶギーシュに、ケティはもはや一瞥も
くれず歩き去った。

見事なきりもみ回転でフッ飛んだギーシュは地面に倒れたまましばらく痛みを
こらえていたが、ハッと香水のことを思い出して跳ね起きた。
「ああああ!!こっ、香水ッ!割れてないだろうなぁ~!?」
ギーシュは地面に跪き、急いで香水をかき集める。よかった、どれも割れては
ないようだ。使い魔に手伝わせてガチャガチャと箱に放り込む。草や土が
ついてるものもあるだろうが・・・モンモランシーなら適当に言い繕えば
ごまかせるだろう。ギーシュはそう判断すると、香水を仕舞い終わった箱を
持ち上げて歩き出した。さっきの事は色んな意味で痛かったが、この傷は
モンモランシーの笑顔で癒してもらおう・・・などと考えると、ギーシュの片側だけ
腫れた顔はまたニヤニヤと歪むのであった。しかし――、不幸とは往々にして
連鎖するものである。ニタニタと上の空で妄想にふけっていたギーシュは、
前から歩いてくる少女もまた考え事で前など見ていなかったことに気付かなかった。
そして。


ドンッ!!

「うわッ!?」
「きゃあッ!!」
二人はハデにぶつかり、ハデに吹っ飛んだ。
「いったたたたた・・・ き、君ッ!前はちゃんと見て・・・アッー!!!」
なんと不幸な偶然か、再びギーシュの手から落ちた香水の山は、2度目の
衝撃に耐えることは出来なかった。ギーシュと少女の周りに散乱した小瓶、
その実に3分の2が無残に砕け散ってしまっている。
「なッ・・・なッ・・・なんということだ・・・!大枚はたいて買ったモンモランシーの
ための香水が!!」
絶望と怒りに打ち震えるギーシュ。
「君ッ!!」
それがないまぜになった感情をぶつけるべく、ギーシュはキッと少女を睨む。
「責任は取ってもらうぞッ!!ゼロのルイズッ!!」

ルイズは悄然とした表情で中庭を歩いていた。ギアッチョはただ訳も分からず
異世界へ送り込まれてきただけの平民ではない。唯一心を許せる仲間達を
皆殺しにされ、その上リーダーを一人残したまま自分まで殺されてしまったのだ。
もしもギアッチョが自分だったら、とルイズは考えた。唯一無二の親友である
アンリエッタが、敬愛するワルドが、そして家族が皆殺しにされてしまったら。
そう考えると、今までギアッチョにされた仕打ちなんか全て忘れて、ギアッチョの
隣で泣きたくなる。ギアッチョの怒りは、悲しみは、痛いほど分かっている
つもりだった。それなのに、自分はギアッチョにあんな酷い事をしてしまった。
どれだけ悔やんでももう遅い。自分とギアッチョの心には、きっともう修復なんて
不可能な溝が出来ている。――ギアッチョは厨房の平民達の屈折のない善意に
囲まれていた。自分じゃきっと一生かかっても素直になんかなれない。自分は
あの輪の中には永遠に入れない。ルイズはそう確信していた。
ルイズは幼い頃から周囲にバカにされ続けてきた。例え口には出されなくても、
周囲の眼は「ゼロだ」「落ちこぼれだ」という意識を持ってルイズの心に突き刺さる。
幼いルイズが心無い他人達から身を守るには、虚勢という張子の盾を持つしか
なかったのである。そしてその盾はもはやルイズの心と完全に一体化し、
ごく一部の親しい人間を除いて、ルイズはその心の深奥を誰かに吐露する
事など出来なくなってしまっていた。
――あいつの居場所は・・・私の隣じゃ・・・ない
ルイズはもう一度呟き、そして悲しい決意をした。やっぱりダメだ。元の世界に
戻るにしろ、ここに留まるにしろ、あいつは私の使い魔なんかでいるべきじゃ
ない。あいつを元の世界に送り返す方法か・・・もしくは契約を解除する方法。
どっちを選ぶかはギアッチョ次第だが、とにかくどちらかを見つけなければ
いけない。そんな事を考えながらルイズは図書室へと歩き出し――そして、
ギーシュと衝突した。

「責任ですって!?前を見てなかったのはあんたも一緒でしょ!!どっちか
一人でも前を見ていたらぶつかりなんてしないわ!」
「黙りたまえゼロのルイズ!僕達の周りを見ろッ!!僕が大金をはたいて
買った香水だぞッ!!責任を取るのはそっちだ!!」
ルイズはそこで初めて周囲に眼をやり、香水瓶だったものの惨状を知った。
「フンッ!どうせモンモランシーにあげるつもりだったんでしょう!!あんた
みたいな趣味の悪い男にはお似合いのプレゼントね!!自分の不始末は
自分でぬぐいなさいよッ!!」
「言ったなゼロのルイズッ!!大体どうして君がまだここにいるんだ!?
魔法も使えないメイジが魔法学院にいるなんてお笑いだな!!君がとっとと
ここを辞めていれば僕がここでぶつかることもなかったんだ!!土下座して
謝りたまえ!!そしてこいつを全部弁償しろッ!!そうすれば君がこの学院に
居続ける事を許してやろう!!」
「・・・なんですって・・・!!何も・・・何も知らないくせに・・・ッ!!許さないわ
ギーシュッ!!決闘よッ!!!」
「ゼロのルイズが決闘だって!?アッハハハハハ!!いいだろう、女性に
手は上げない主義だが・・・受けて立とうじゃあないかッ!!僕が勝ったら
君は僕に土下座で謝った後にこいつを全て弁償し、その上でこの学院を
出て行けッ!!いいな!!」

「・・・上等じゃない・・・!!私が勝ったらもう二度と私を『ゼロ』だなんて
呼ばせないわッ!!ギーシュッ!!」
「いいだろう・・・フフフ・・・『君が勝ったら』ね!!こいつは傑作だ!!
アッハハハハハハ・・・!!」
こいつは自分の勝利を微塵も疑っていない。ルイズは悔しさで涙が出そう
だった。目頭が熱くなるのを必死で堪えていたその時、

バグシャアアッ!!

「あぁあぁああーーーーッ!!!ぶっ、無事だった香水をぉおお!!」
壊れることなく残っていた香水瓶を踏み潰しながら――

ギアッチョがそこに立っていた。

「・・・なッ・・・何してんのよッ・・・っく・・・ギアッチョ・・・!私を笑いに来たの
なら・・・帰りなさいよ・・・!あんたには・・・うっく・・・関係ないでしょ・・・ッ!」
悔しくて情けなくて、ルイズはついに涙を堪え切れなかった。涙を見せまいと
うつむきながら、ルイズは精一杯の強がりを言う。こいつには、ギアッチョに
だけは、こんな場面を見られたくはなかった。きっとこいつは完全に幻滅した。
そう思うと、ルイズの涙はいよいよ量を増して溢れて来る。
だが――
「いいや・・・関係あるね てめーはさっき言ったよなぁあぁ~~ 主の不始末は
使い魔の不始末だってよォォーー・・・!」
そこまで言うと、ギアッチョは色をなくした眼でギーシュを睨む。
「ルイズの不始末は・・・オレが引き受ける ギーシュとか言ったな・・・てめーの
決闘の相手はよォォーーー!!このオレだぜマンモーニッ!!!」


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