ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの奇妙な白蛇 第五話

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匿名ユーザー

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 まるで鮮血で染まったかのような紅い空で、二つの影が、同じく二つの月をバックに対峙していた。
 一つの影は、シルフィードを駆るタバサ。
そして、もう一つは右手に杖を握り、フライの魔法で浮遊するルイズであった。
 普通ならば、このような対比は有り得ない。
 何故なら、フライの魔法で飛行していると、他の魔法を使う事が出来ず、戦闘では的以外の何者でも無いからだ。
 しかし、ルイズは違った。
 フライの魔法で空を飛んでいた所で、今の彼女にはホワイトスネイクが居る。
 生半可な魔法など、その両の手で叩き落し、接近戦であるならば、通常の人間以上の動きで攻撃を仕掛けてくる。
 さらに、その手は頭部に触れると問答無用で対象の『記憶』をDISCとして引き出し、魔法すら奪う、悪魔の手だ。
 近づけば負ける。
 だが、それは反面、近づかなければ負けないと言う事でもある。
 フライの魔法は空を飛ぶのに確かに便利であるが、風韻竜である自分の使い魔には速度と移動距離、共に劣っている。
 さらに言えば、向こうはフライで飛んでいる限り、接近戦しか出来ないが、こちらは魔法を遠距離から唱えられる。
 相性的に言うのであれば、自分達は敵に勝っている。
 しかし、タバサは心の底から湧き上がる不安感を拭い去る事がどうしても出来なかった。



「ウオシャアアアアアアアアアアア!」
 獰猛な毒蛇を思わせるホワイトスネイク独特の声と共に繰り出されるラッシュは、ルイズの元へ飛来してくる氷の矢や空気の塊、風の刃を全て叩き落す。
 今の所、ルイズにダメージはゼロだが、それは向こうにも言えた事。
 攻撃を叩き落しながら、シルフィードを追いかけているルイズであったが、向こうのスピードは自分のフライの速度よりも速く、このままでは何時まで経っても追いつく事が出来ない。
 追いつけなければ、自分のホワイトスネイクを、あのクソ生意気な眼鏡の顔に叩き込む事が出来ないのだ。
(空中戦じゃあ勝ち目が無い! でも、だからってどうすれば良いの!?)
 二度目であるはずのホワイトスネイクの戦闘運用であるが、効率的な運用方法がルイズの頭には浮かんでこない。
 戦いとは、装備やそれを使う者の能力も必要であるが、最も重要なのは経験である。
 何時、何処で、どのようなタイミングで繰り出すのが効果的なのか。
 戦闘のセンス、或いは。戦術的な戦い方。
 それらを鍛えるには、戦いの中で、自分で学び取るしかない。
 一度目の戦いの時は、そんなものは必要無かった。
 ホワイトスネイクは相手のワルキューレの何もかもを上回っていたし、勝負自体も一瞬で片付いた。
 しかし、その一瞬で片付いた所為で、ルイズは戦いにおける経験を、まったくしていない。
 模擬戦すら、まともに行っていないルイズには、諸事情により、ちょっとした百戦錬磨になっているタバサの相手は荷が重い。

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース」

 タバサの詠唱が空に響く。
 先程の氷の矢では無く、一回りも二回りも大きい、氷の槍。
 蛇のようにシルフィードを回るその槍が、一直線にルイズへと襲い掛かる。
「ホワイトスネイク!!」
「不可能ダ」
 あのサイズともなると、完全に弾くのは無理がある。
 元の自分の性能なら可能だろうが、ルイズが本体となってから、ホワイトスネイクの破壊力は一段階下がっている。
 無理を悟ると、ルイズはフライの魔法を切り、朱色の空から落下する。
 その後を追うジャベリンに、キュルケのDISCから引き出した炎が喰らいつく。
 外面は一気に気体にまで昇華させたが、芯は、まだ形を保っている。
「弾きなさい!!」
 右腕を振るい、小さくなった氷の槍を弾く。
 しかし、魔法による串刺しは免れたが、目の前まで迫った地面による死が間近に迫っている。
 フライ、否、間に合わない!!
「なら、浮きなさい!」
 フライよりも詠唱の短いレビテーションにより、墜落死の運命を書き換える。
 だが、浮かぶ事しか出来ないレビテーションは、フライなどよりももっと、もっと簡単に当てる事の出来る的であった。
「来ルゾ!!」
 二本目のジャベリンが、ルイズの身体に風穴を開ける為に、放たれる。
 冗談じゃない。こちとら、嫁入り前なのよ、
 すでに地面に近かった為、レビテーションを切り、地面へと着地する。
 そして、ありったけの魔力を込めた火球をもう一度、ジャベリンにぶち当てた。
 ジュウウウウと言う耳に残る音と共に、結びつきを無くす氷達は、芯すら残さずに空気中へと拡散する。
 そうして拡散した水蒸気は、霧雨のようにルイズとホワイトスネイクを取り囲む。
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
 そして、紡がれる詠唱。
 その詠唱にルイズの頬が引きつった。
 この呪文は、確か空気中の水蒸気を凍らして、氷の矢とする呪文……即ち―――
「チェックメイト」
 タバサの無機質な声が、終わりを告げる。
 ルイズの周囲を囲む水蒸気が、一瞬にして50を優に超す数の氷の矢に変質し、目標へと一斉に放たれた。





 キュルケは走っていた。
 いや、片足を引き摺り、動く度に口元から溢れ出る朱色ののものを拭う彼女は、予想以上に歩みが遅く、彼女は走っているつもりでも、他人から見ると歩くよりも遅く歩を進めていた。
 顔は苦悶の表情しか表さず、動くだけで激痛を彼女が感じている事を物語っている。
 だが、止まらない。
 否、止まれない。
「すっごい……わがままなのよ……私はっ!」
 紅い液体と共に吐かれた言葉は誰に向けたものなのか。
 少なくとも、自身では無い。
 キュルケは、基本的に良い奴と言う認識が、学園ではされている。
 勿論、その明け透けな性格から恨みを買う事も多いが、友人間の間では広く信頼され、頼りにされている。
 だが、キュルケ本人は自分の事を、すっごい我侭な奴と思っている。
 自分は、自分のしたい事しかやっていない。
 誰かを好きになったから、その人と愛を語り、誰かが困っているなら、自分が相談に乗りたいから相談に乗る。
 元にあるのは全て、自分の意思。
 これを、我侭と言わずなんと呼ぶのか。
 キュルケは、くすりと微笑みと血を口元に張り付かせる。
 今だってそうだ。
 あれだけ拒絶され、殺されそうになるぐらいに恨まれている娘に自分は会いに行こうとしている。
 あの娘らしく無い。
 ただそれだけを戒め、そして出来ることであるならば、また共に歩きたいと思うが為。
 言ってしまった言葉は戻らない。
 やってしまった行動は覆らない。
「だから……どうしたって……言うのよ」
 そんなことは知っている。
 だから、どうした!?
 覆らないのならば、戻らないのならば、償わなければならない!
 そうだ……向こうにそんな気が無くたって、私は、私は!!
「私は……あの娘の味方でありたい―――!!」
 最後まで絶対に諦めない!!




 周囲を囲む50を超す氷の矢に、ルイズの思考は一瞬停止する。
 頭に浮かぶのは、氷の矢で串刺しになり、屍を晒す自分の姿。
 それがあんまりにも、おぞましくて、ルイズはその運命に抗った。
「アァァァァアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!」
 天を轟かさんばかりの咆哮と共に、ホワイトスネイクの腕と足が、ルイズを中心に四方八方へと繰り出される。
 拳打と蹴打の結界。
 限界を超えんとばかりに振るわれる四つの衝撃の前に、氷の矢は次々に塵芥へと還っていく。

 その数―――10―――20―――30―――40―――44!!

 44も守りぬけた事を褒めるべきなのか、それとも、完全に守りきれなかった事を貶めるべきなのか。
 ホワイトスネイクの拳が44個目を砕いた時、続く45本目がルイズの右肩を貫いた。
「あぐっ!」
 スタンドのダメージが本体に伝わるように、本体のダメージもまたスタンドへと伝わる。
 ルイズの右肩のダメージにより、右腕を使用できなくなったホワイトスネイクの結界に綻びが生じる。
 46、47本目を砕くが、48本目が今度は、ルイズの横っ腹を直撃した。
 同時にホワイトスネイクにもダメージが伝わり、動きが一瞬停止してしまった。
 後は、もうどうにもならなかった。


 なんとか頭部へと覆い被さる事で、本体の頭へと矢が刺さる事を阻止したが、それ以外の場所には余す事無く矢が突き刺さる。
「――――――ッ!!」
 もはや、声すら出なかった。
 殺到する氷の矢は、強姦魔の如く、少女の身体を自らの身体を持って陵辱する。
 穿った場所から滴る血は、氷の矢が纏う冷気により、瞬時に固まり、無用に血で彩るのを禁止する。



 それは、一つの彫刻であった。
 少女から生える、無骨な氷の長躯。
 彩るは、鮮血の朱色と桃色の細糸。
 黒のローブを地とするそれらは、見る者にある種の感動すら沸き上がらせるだろう。
 まだ幼き少女を、その彫刻へと変えた蒼の少女は、自らが駆る竜から降り、地面へと降り立った。
 蒼の少女は、竜に何事かを伝えると、竜は僅かに頷き、空へと消えていく。
 それを確認してから、少女は右手に杖を握り締めながら、ゆっくりと口を開いた。
「復讐に我を忘れ、力に酔った貴方は……危険」
 それは果たして、桃色の少女にだけに向けた言葉だったのか。
 蒼色の少女が、桃色の少女を見る目は、まるで自分の末路を見るように、絶望に彩られている。
 復讐の失敗者を処断する、復讐者。
 その、あまりの憐れさに、蒼色の少女は絶望していた。
 絶望していたが……油断はしていなかった。
 彫刻と化した少女から漏れる僅かな呼吸音。
 驚くべき事だが、あの少女は、全身を氷の矢で貫かれていながら、まだ生きているのだ。
 おまけに、その絶え絶えな息は、規則的では無く、少女が今だ意識を保っている事をタバサに告げていた。
「このまま、貴方を生かしておく訳にはいかない」
 もし、このまま彼女を生かしたままとすると、彼女は間違いなくタバサの前に立ち塞がるだろう。
 自らを傷付けた、その代償を貰いに――――――
 今回は、辛くも勝利したタバサであるが、次がどうなるかは分からない。
 いや、今回のような真っ向勝負になるのなら、まだ良いが、日常に、あの白い使い魔が牙を剥いて来たとしたら……
 ルイズを生かしておく事に、メリットなど存在しなかった。
「完全なるとどめを……刺す……」
 他の学生達と違い、ある事情から自国の厄介事を請け負っているタバサは、人を殺した経験も勿論あった。
 初めてで無い事に躊躇いなど存在しない。
 ただ、ルイズを殺したら、キュルケと、これまで通り友人してやっていけなくなるであろう事を考え、それだけが胸に僅かな痛みを抱かせた。

(…………ごめんなさい)
 心の中で友人に謝罪し、詠唱を始めようとした時、ルイズの身体が小刻みに振動し始めた。
「――――――くっ―――くくっ―――クククッ―――ク――――」
 笑いを必死に噛み殺しても、噛み殺しきれない笑いが喉を、身体を揺らしている。
 その認識にタバサが至ったと同時に、杖を握っていた右腕に激痛が奔る。
 焼き鏝を直接当てられたかのような痛みの原因は、地面から伸びる青銅の剣。
 鉄よりも柔らかいが、肉を断つには、まったく問題無いそれが、タバサの右腕に突き刺さっているのだ。
 咄嗟に呪文を放とうしたが、今度は槍が地面から生え、杖を弾き飛ばす。
「あは―――あはは―――アハハハハハハハハハハハハッ!!!」
 そんなタバサを、ルイズが哂いを噛み殺すの止め、耳元まで裂かんばかりに口を開き、禍々しいまでの嘲笑を持って、見つめていた。
 その顔に苦悶は無く、まるで痛みすら感じていないようである。
「不思議かしら? あんな串刺しにされながら、呪文の詠唱を終えていた事が? んっ?」
 ルイズの言葉に、タバサは耳を貸さない。
 確かに疑問はある。
 あんな傷だらけの身体では、痛みによって詠唱の為の集中など出来ないであろうに、彼女は自分が降り立つまでに錬金の詠唱を終えていた。
 それは、つまり、あの串刺しの最中から詠唱をしていた事に他ならない。
「私のホワイトスネイクは『記憶』をDISCとする。
 そして抜かれたDISCの『記憶』を失う。
 これはその応用なんだけど、『痛覚』を『記憶』DISCにして抜いた訳よ。
 痛覚さえ無ければ、痛みで詠唱の集中を邪魔される事も無かったわけ」
 耳を貸すな……あれは、優越から来る油断だ。
 今、この状況を打開するには、この油断の最中しかない。
 考えろ、考えろ、考えろ。
 この状況を打開する手段を。
「正直、あんたがここまで頑張れるなんて思わなかった。でも、それもお仕舞い。
 ホワイトスネイク! あいつのDISCを私の手に!!」
 傷だらけの白い身体が、歩き始める。
 ルイズの元から離れ、ゆっくりとタバサの方へと。
「怖がる事は無いわ。
 あんたの場合は、『才能』も『記憶』も両方奪ってあげる。
 苦痛なんて無い……だから安心して、眠りなさい」
 謳うように諦めろと言うルイズにタバサは、僅かに口に動かす。
「――――――――――――」
「何? 何か言い残す事でもあるの?」
 遺言ぐらいなら聞くわよ、と言うルイズに、タバサは確りと首を振り
「遺言では無い。もう十分と言った」
 確りした口調でそう言った。
「もう十分? 何、もう十分戦いましたとでも言いたいの?」
「もう十分引き付けた。後は貴方の仕事」
 タバサの言葉に答えたのは、風を切り裂くブレスの轟音であった。

「風竜!? そんな、今まで何処に!?」
 ルイズは知る訳が無い。
 頭上でブレスを吐いたその竜が、すでに絶滅されたとする風韻竜であり、その身を今まで先住魔法により、空と同化させていたなどと。
 いや、知っていた所で、これからの結末を変える事など彼女には出来なかった。
「ぐっ、ぐぐぐぐっ―――!」
 無理矢理に身体をブレスの着弾点から移動させようとするが、彼女の身体の足は、すでに足として機能できないまでに壊れている。
 例え、痛覚が無くなっていたとしても、壊れているモノは動かない。
 頼みの綱のホワイトスネイクも、タバサの近くへ行っている為に間に合わない。
「――――――――――――――――――あっ」
 今まで立っていた事が奇蹟のルイズの身体は、無理矢理に動かした事により、
 ゆっくりと地面へと倒れ落ちようとしていた。
 このまま倒れ落ちたら、多分、死ぬ。
 いや、倒れなくても、このままブレスの直撃を受けて……
 そこまでルイズの思考が辿りつくと、その先は、もうゼロだった。
 何も考えられない。
 何も考えたくない。
 無我の境地と言えば聞こえは良いが、それは、現実を拒否する者の至る所。
 忘却の果てのゼロに至ったルイズは、ぽかんとした顔で自分を完膚無きまでに 破壊するブレスを見上げ―――
「ルイズ!!」
 何処か懐かしい、赤髪の少女に突き飛ばされた。





「そうして……君は“此処”に辿りついたと言う訳か……
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
 何もかもを委ねたくなるような、壮言な響きにルイズは、顔を上げた。
 そこには、柔らかそうなキングサイズのベッドに身体を横たえ、ワイングラスを片手に大きな本を読む半裸の男が居た。
 何者だろうこの男?
 いや、それよりも、此処は一体?
「“此処”において名などあまり重要では無い
 そんなモノで分類できるものなど、存在しないのだからな。
 まぁ、それ以上に、私にとって名前は、意味は無い。
 所詮、今の私は、君のスタンドの『記憶』から作り出された残滓なのだからな」
 人の考えを読むように、疑問に答えた男は、僅かにワイングラスを傾け、それを口元へと運ぶ。
「そして“此処”だが……“此処”は君の中だよ、ルイズ」
 私の……中?
「正確には、君の中に居るホワイトスネイクの『記憶』と
 君の中の『才能』により、復元された『世界』だ」
 どういう意味?
 私の才能? それに世界って……
「本来、ホワイトスネイクは『記憶』を扱う能力しか無い。
 だが、あるスタンドと融合する事で、人々を天国へと到達させる存在へと成る。
 あぁ、そんな怪訝そうな顔をするな。天国と言っても精神的なものだ。
 何も、全ての者を死に絶えさせる存在じゃあ無い。
 特異点へと加速をし『ゼロ』へと至る、そのスタンドの名を
 『メイド・イン・ヘヴン』と呼ぶ」
 そこで、一拍置き、私の理解できない頭を余所に男は話を続ける。
 つうか、さっきの質問の答えにまるでなって無いわよ。
「天国へと至る為に、最も必要なのは特異点へ『ゼロ』へと至る事だ。
 何故ならば、時の加速は、『ゼロ』に対する引力によって行うからであり、その場所に至らなければ、天国を実現することなど夢のまた夢」
 さっきから『ゼロ』『ゼロ』『ゼロ』腹が立つんだけど……
 と言うか、あんた、一体何が言いたいの?
「済まなかったな。では簡潔に言うとしよう。
 ルイズ、君にはすでに天国へと至る準備が整っている。
 特異点であるはずの『ゼロ』を内包し、天国へと至った『記憶』を持つホワイトスネイクを従える君には、辿り付けるはずなのだよ。
 我々が望んでやまなかった。全てが『覚悟』を元に、運用される、天国に……な」
 言っている事が訳分からないし、まぁ、でも、なんというか……
 あんた……私に何かやらせる気なの?
「私がやらせる訳では無い。
 全ては引力により、動いている。
 人が誰と出会い、誰と恋し、誰と殺しあうのか。
 全ては引力により決定され、我々にそれを変える術は無い。
 その術を持つのは、『始まりから終わり』を持っている君だ。
 君だけは、どんな世界であろうと『運命』の束縛に縛られる事は無い。
 故に、君が天国へと至るのであれば、それは君の意思によるモノだ。
 なぁに、難しく考える事では無い。
 残念だが、今の君ではまだホワイトスネイクすら完全な性能で扱えていない。
 今は成長の時だよ、ルイズ。
 友と競い、学びあい、談笑しろ。それが君の精神を高め、スタンドを強める鍵となる」
…………私に……そんな相手なんか……

「果たしてそうかな?
 忌み嫌う相手だとしても、少し見方を変えるだけで、違って見えてくる。
 私もそうだった。見下し、忌み嫌っていた相手が、無くてはならない友であることに気が付いた。
 今では、もはや彼と私は文字通り、一心同体だがね」
…………………………………………………………………………
「さぁ、目覚めるが良いルイズ。
 君にとって必要な友を助けるか助けないかは、君が判断すれば良い」
……助ける?
私……誰を助け…………


――――――ルイズ!!――――――


…………キュルケッ!!
なんで!? どうして、私なんか……
 貴方の才能を奪って『ゼロ』にしたのは、私なのに……どうして!?
「それが友と言うものだからだ……
 さぁ、もう行くが良い。それと、このホワイトスネイクに残滓として残っている『世界』を君に預けよう。
 どうせ、『記憶』に過ぎない私には扱う事など出来ないのだからな。
 もう、僅かな力しか残っていないが、相応しい持ち手にDISCの選定者である君が渡してくれたまえ……」
 男はそう言うと、私の頭に、自分の頭から取り出したDISCを挿し込む。
 すると、ベッドしか無かった空間に靄が掛かり、少しずつ何もかもが消えていく。
 そうして、全てが消えたと同時に、私の頭は、この出来事すら忘れて現実へと帰還していった。




「キュルケッ!!!」
 ルイズは、自身を突き飛ばした赤髪の少女の名を叫ぶ。
 自身を呼ぶ声に気付いたキュルケは、ルイズへ微笑み、最後に鮮血で真っ赤に染まっている口元を動かす。


――――――ごめんなさい――――――


 それが謝罪の言葉であると理解した瞬間、ルイズの頭を血が駆け巡る。
 もうキュルケのすぐ傍まで迫ったブレスが、彼女を吹き飛ばすのに、後一秒も掛からない。
 一秒……それで十分だ。
 何が十分なのか良く分からないが、とにかく十分だとルイズは感じていた。
 その感覚は、吐き気を催す程の不快さをルイズへと与えてくるが、それに耐え、ルイズは、自分の身体に宿る、ホワイトスネイク以外の何かを『発動』させた。



 キュルケは死を『覚悟』していた。
 無論、自分には、まだまだ先があり、これから先、もっと生きていたいと言う欲求は確かにあった。
 しかし、その欲求は、目の前で今にもブレスでバラバラにされそうな少女を見殺しにしてまで叶えたい願いでは無かった。
 穴だらけのルイズを突き飛ばし、自分もブレスの着弾点から離れようとしたが、
 すでにホワイトスネイクに踏みつけられた事で負傷をしているのを、鞭を打って移動していたキュルケの身体は、最悪のタイミングで限界を迎えてしまった。
先程のルイズと同じように崩れ落ちる身体。
 ふと、キュルケはルイズと目が合った。
 色々と言いたい事はあったが、この一瞬で伝えられる事は限られている。
 だからこそ、彼女は、心の底からの謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい……」
 残念ながら、満足に口が動かず発音は出来なかったが、なんとか伝わってくれただろうか。
 そんな疑問を胸に抱きながら、キユルケは死を受け入れようと目を瞑り……
 凄まじい衝撃音を耳にした。
 あぁ、自分は死んでしまった、とキュルケは感じた。
 あの物凄い轟音は、ブレスが着弾した音で、自分はその着弾点の中心でその音を聞いている。
(死ぬ時ぐらいは、もっと静かに死にたかったと言うのに……耳を塞げば、聞こえなくなるかしらねぇ)
 ルイズを助けた事で、何も思い残す事は無くなったキュルケは、何時も通りのノリに戻り、他愛も無い考えをつらつらと考えていた。
(お迎えは、まだかしらねぇ……と言うか、あの世に良い男って居るのかしら?)
 まぁ、あの世なんだから、良い男ぐらい居るでしょ、と自分で自分の疑問に答えたキュルケは、なんというか、違和感を感じ始めていた。
 死んだはずだと言うのに、なんというか、痛い。
 ルイズの使い魔に、踏みつけられた背中と、たぶん中身のどれかが潰れた腹の中が、もの凄く痛い。
(何よ! 死んでも痛みって感じるなんて、ちょっと! どう言う事よ!?)
 そんな理不尽な文句を、誰とも言えぬ誰かに言っていたが、
 何者かに身体を抱き起こされる感覚に、キュルケは閉じていた目を開く。
 そこには、桃色の髪を血で紅く染め上げた少女が、泣きそうな顔で自分を見つめていた。
―――ルイズ……なんで?―――
 疑問を口にしたかったが、声が上手く出ない。
 それでも、ルイズには伝わったのか、自分もボロボロな癖に身体を持ち上げ、なんとか立ち上がらせてくれる。
 そうして、見えたきた光景にキュルケは目を丸くした。
 自分のすぐ横、その地点が、滅茶苦茶に抉れている。
 間違いなく、シルフィードのブレスによる痕跡である。
 しかし……何故?
 キュルケは、自分は確かにあそこに居たはずなのに、何故、位置がズレているのか、
 もの凄く疑問だったが、その事をルイズに訊ねる前に、自分の頭に何かが入ってくる感触が彼女を襲っていた。
 その何かは、まるで最初から自分の頭の中にあったように、ピタリとハマり、キュルケの中にあった喪失感を、まるごと消去する。
「……返す」
 素っ気無いルイズの言葉に、キュルケは、ようやく、この少女が自分を取り戻してくれたのを悟るのであった。




 ホワイトスネイクは、最初、何が起こったのか理解していなかった。
 ただ、上に居る竜の吐いた何かに本体が潰されるのを、赤髪の女が庇い―――
 その女が、まるで『時を止めた』かのように、着弾点から一瞬で移動していた。
(コレハ……ルイズ……君ガ?)
 ホワイトスネイクは、彼にしては珍しく混乱していた。
 時を止める。
 その力は、彼の知る限り、両方共、消失しているはずであった。
 一つは、彼自身の手で葬り、もう一つは、彼自身が取り込んだ。
 なのに……何故?
 赤髪の女を助け起こし、才能のDISCを返却する本体に目もくれずに、ホワイトスネイクは、ルイズが先程まで立っていた場所を調べる。
 すると、そこには、一枚のDISCが落ちていた。
 DISCの表面には、屈強な肉体を持つ右半身が砕けた人型が見て取れる。


 DISCに封じられし、スタンド名は『世界』
 ホワイトスネイクが吸収し、内に取り込んだはずのスタンドであった。





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