ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-30

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匿名ユーザー

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「お待たせ」
着地したシルフィードからぴょんと飛び降りて、キュルケは開口一番そう言った。
「お待たせじゃないわよ!何であんたがここにいるわけ!?おまけにタバサまで・・・あっ、あとギーシュも」
「『あっ』てなんだい『あっ』て」と呟くギーシュには眼もくれず、ルイズはキュルケに詰め寄る。
「助けに来てあげたんじゃないの 今朝廊下からあなた達が『姫さま』だの『任務』だの話してるのが聞こえてきたのよ 面白そうだからついてきたってわけ」
キュルケは本当に心底面白そうな顔でそう言った。
「あのねキュルケ、これお忍びなの 会話を聞いてたのならそれくらい察しなさいよ」
ルイズは呆れ顔で指弾するが、
「なんだ、そうだったの?言ってくれなきゃ分からないじゃない」
キュルケはそうしれっと言ってのけると、折り重なって倒れている男達に眼を向ける。
「ところでこいつら何なの?そこの素敵なアナタ、魔法衛士隊とやらの隊長なんでしょう?この国ではグリフォンはグリフォン隊の象徴だって言うじゃない
いくら大人数とはいえ、そんな人間を物取り目的で襲うものかしら?」
「ふむ しかしこの任務は姫殿下が私とルイズだけに内密で依頼したものだ 情報が漏れるとは考えにくいが・・・」
ワルドが顎髭をいじりながら応答する。それを聞いて、「ハイハイッ!」とギーシュが元気に手を上げた。
「はいギーシュ君」
キュルケがどうでもよさげに相手をする。
「こういうときこそ尋問じゃないか 僕に任せてくれたまえ」
一度やってみたかったんだなどと言いながら、ギーシュはまだ意識のある男の前に腰を落とす。身振り手振りを交えながら二言三言何かを話すと、ふんふんと頷いて立ち上がった。
「皆!彼らはただの物取りだって言ってるフんッ!!」
キュルケの掌底が綺麗に決まった瞬間であった。


「な、なんてことするんだねキュルケ!舌を噛んだらどうするつもりだよ全く・・・」
頭から倒れたギーシュは顎と後頭部をさすりながら立ち上がった。実にタフな男である。そんな彼をキュルケは屠殺場の豚を見るような眼で一瞥して言う。
「今のは尋問じゃなくてただの質問じゃない このバカ王子」
「バッ・・・!?」
「もういいからどきなさい 私がやるから――」
そう言いかけたキュルケを、横合いから突き出た一本の手が遮る。いいストレス解消を見つけたギアッチョだった。
「尋問ならよォォ~~、オレに任せな・・・ もっとも、拷問にならねえ保障はねぇがよォォォォ」
捜し求めていた玩具を見つけた喜びに、ギアッチョの顔がかつてないほど凶悪に歪む。その慈悲の欠片もない形相に、キュルケ達どころか今から尋問を受ける男達までもが震え上がった。
「・・・ああそう・・・・・・じゃあお任せするわ・・・ ・・・ほどほどにね・・・」
心の中で男達に合掌しながらキュルケは後じさった。ギアッチョはゆっくりと男達に近寄り、肩越しに振り返ってギーシュを見る。
「てめーも見るか?後学の為によォォォ~~」
ギーシュは首をブンブンと取れそうな程に振って遠慮の意を表した。
ギアッチョはフンと鼻を鳴らして笑うと、
「それじゃあてめーらは後ろを向いてな 女子供にゃ少々刺激が強いからよォ~」
実に楽しそうにそう言った。
光の速さで後ろを向いたギーシュに続いてルイズとキュルケが身体の向きを反転させる。その直後、彼女達の耳に微かに何か軽快な音楽のような幻聴が響き、数秒の後それを掻き消して、
「ウんがァアアアアーーーー!!」
という絶叫が轟いた。


「終わったぜ」
というギアッチョの声で恐る恐る振り向くと、彼の後ろでは数人の男達がピクピクと痙攣しながらのびていた。
よかった五体満足だ、と敵の安否を気遣ってからルイズ達はギアッチョの狼藉を見ていた二人に眼を向ける。ワルドの顔は微妙に血の気が引いていた。
口の端は妙な形に引き攣っている。タバサに視線を移すと、彼女はいつもの人形のような無表情のまま固まっていた。
デルフリンガーは小刻みに震えながら、もっとも恐ろしい者の片鱗を味わったなどとぶつぶつ呟いている。
そしてギアッチョは、信じられないことにまだ暴れ足りないといったような顔で首の骨をコキコキと鳴らしていた。「白い仮面をつけた貴族の男に雇われたらしいぜ」とあっさり手に入れた情報を話しているが、もう誰も彼の声など聞こえていなかった。

ギアッチョを除いた全員がそれこそホワイト・アルバムを喰らったかのように凍っていたが、やがてワルドがなんとか我を取り戻す。
「・・・さ、さあ皆 はやく宿まで行ってしまおうじゃないか ほら、もうここから見えてるよ」
彼はどうにかそう言葉を絞り出し、そこから彼らの泊まる『女神の杵』亭まで皆殆ど口をきかずに歩き続けた。なんとかルイズと話題を作ろうとして、
「・・・確かに凄い使い魔だね・・・彼は・・・」
と言ってみるが、ルイズは「あはは・・・は・・・」とただ乾いた笑いを返すだけだった。

宿の扉をくぐって、ルイズ達はようやく我を取り戻した。ぷはぁ、と息を吹き出して「なんかどっと疲れたわ・・・」とキュルケが言い、それを引き金にルイズ達の身体からは次々と力が抜けていった。ぽつぽつと会話が始まり、彼女達はようやくいつもの空気を取り戻す。
ギーシュが周りを見渡すと、タバサは懐から本を取り出し、キュルケはあくびをし、ルイズはギアッチョに怒鳴り始めた。「君、凄いね」という視線をルイズに送ってから、同じく緊張が解けたギーシュはへらへらと笑いながら軽口を叩く。
「しかし疲れたね どうにも運動不足らしい・・・これだけ歩いただけで足が棒になったよ」
それが、いけなかった。


「・・・てめー・・・今なんつった・・・?」
「え?」
ルイズの怒鳴り声など全く耳に入っていないかのような動きで、ギアッチョはギーシュに眼を向ける。
ワルドを除く全員の脳裏に一瞬である一つの予感がよぎり、「疲れたってのは分かる・・・・・・スゲーよく分かる てめーらは移動に魔法を使いまくっとるからな・・・」
それは三秒で的中した。
「だが『足が棒になる』ってのはどういうことだァァ~~~ッ!?人の足が棒に変わるかっつーのよォォォッ!!ナメやがってこの言葉ァ超イラつくぜぇ~~~ッ!!棒になったらその場で倒れちまうじゃあねーか!なれるもんならなってみやがれってんだ!
チクショーーーッ!!」
事態を把握した三人娘の心は一つだった。ルイズが宿の扉を空け、キュルケがギーシュを押してギアッチョにぶつけ、そしてタバサがウインド・ブレイクで二人纏めて宿屋の外へ吹っ飛ばした。
地面に転がったまま絶望的な表情でこっちを見るギーシュから全力で眼を逸らして、ルイズは「ごめん」と一言呟くが早いかバタンと音を立てて扉を閉めた。
「えええええ!?ちょっ、何やってんの!?冗談だよね!冗談だよね!!」
ギーシュは弾かれたように跳ね起きると、ぶつかるほどの勢いで扉へ駆け寄った。
「ギーシュ!あなたの犠牲、わたし達は敬意を表するッ!!」
「か、『鍵が閉まっているッ』!!いやいや何言ってんのキュルケ!!開けてーー!! お願いだから開けてーーー!!ていうか助け・・・」
必死の形相でそう叫びながらギーシュはドンドンと扉を叩くが、あえなく時間切れとなる。ガシィ!!と後ろから肩を掴まれて、彼は恐怖の叫びを上げた。
「どういうことだ!どういうことだよッ!!クソッ!!棒になるってどういうことだッ!!
ナメやがって!クソックソッ!!聞いてんのかてめー!!ええ!?クソッ!クソッ!!」
「ヒィィィイ!!どうして僕ばっかりがァアァアアァァ!!」
扉を通してギーシュの断末魔が宿屋に響き、ルイズ達は瞳を閉じて彼に黙祷を捧げた。

ワルドは普通にドン引きだった。


ボロ切れと化したギーシュを引きずってギアッチョが戻って来たので、一行はまずは一階の酒場で一服することにした。
ギーシュの恨みがましい視線を受けながら彼女達はしばらく歓談していたが、
「さて、僕は『桟橋』へ乗船の交渉に行ってこよう 君達はゆっくり食事でもしていてくれ」
頃合を見てワルドが立ち上がった。マントを翻して彼が扉の向こうへ消えるのを見届けてから、
「イヤッホォォォウ!やっと食事にありつける!」
ギーシュは両手を上げて吼えた。実に現金な男である。とは言え、彼が機嫌を治してくれたことは有り難かった。
ウェイトレスが持ってきたメニューを覗き込んで、ルイズ達はあーだこーだと言い合いながら料理を決めてゆく。一通り注文する
ものを決め終えて、ルイズは隣に座るギアッチョを見た。
「ギアッチョ あんたはどれにするの?」
「ああ?前に言ったろーが 言葉は喋れても文字は読めねーんだよ」
「あ・・・そうだったわね あんまり流暢に喋るからすっかり忘れてたわえーと、まずこれが・・・」
ルイズはひょいと身体をギアッチョのほうに傾けると、メニューの文字を指差してギアッチョの顔を見上げながらあれこれ説明をする。
ギーシュはそんな二人をなんとはなしに見ていたが、ふと面白いことを考えて隣のキュルケを見た。
丁度同じことを考えていたらしい彼女と眼が合うと、二人して悪戯っぽくにやりと笑う。ルイズは未だにメニューの説明中で、
「うーん・・・あとはこれとか美味しいわよ 牛肉と卵を・・・」
などと言っている。ギーシュは「君!君!」と会話に強引に割り込むと、
「これこれ、凄くオススメなんだけどどうかな!はしばみ草のサラダなんだけど――」
輝かんばかりににこやかな顔でサラダを勧めた。
「ちょ、ちょっとギーシュ!あんたまだ懲りないの!?」
何かを察したルイズがそれを止めようとするが、いつの間に呼んだのかそばに来ていたウェイトレスに、既にキュルケが最高のコンビネーションで注文を終えていた。

ドン、とテーブルに料理が並ぶ。色とりどりのそれらの中に、はしばみ草のサラダはあった。
所狭しと置かれている料理に手もつけず、ギーシュとキュルケは何かに期待しているような眼でギアッチョを見ている。
同じく彼を見ているタバサの瞳にはうっすらと興味の色が伺える。
そして彼のご主人様は、何かを心配するような顔でギアッチョとギーシュ達を見比べていた。
――・・・何なんだこいつら・・・
四色四対の瞳が全て自分を注視しているのである。正直言って気持ち悪い。
理由は分からないが、とにかくこいつらは自分がこのはしばみ草のサラダとやらを食べることに期待しているらしい。
得体の知れない期待に一つ溜息をつくと、ギアッチョはサラダに手を伸ばした。

はしばみ草。それは地球にはない独特の苦味を持つ植物である。その名状しがたい苦味の為に、好んで食べる者は少ない。
以前ルイズの父が誤ってそれを食べ、ブフォッという音を立てて見事に口から吹き出したことがあった。
厳格な父の有り得ない姿とその後の怒りように、ルイズははしばみ草のことを強烈に覚えていた。
はしばみ草がギアッチョの口に合えばいいが、そうでなければギーシュとキュルケはこの食事が最後の晩餐になるかも知れない。
ルイズはそんなわけで彼らの命の心配をしているのだが、当の二人は悪戯心と復讐心で後のことなど一切考えていなかった。
そんな彼女達の心も知らず、ギアッチョはあっさりとはしばみ草をフォークで突き刺す。
彼は無表情のままそれを口に放り込み、そして無表情のまま咀嚼し、ついに無表情のまま嚥下した。
――な・・・なんて男だ!顔色一つ変えないぞッ!?
はしばみ草を胃に送り込んで尚表情を変えないギアッチョに、ギーシュとキュルケは眼を見開く。
タバサは少しだけ嬉しそうな顔を見せ、ルイズは胸をなでおろした。
ギアッチョは無表情のままスッとフォークを置き、静かに席を立つと、4メイルほど離れた場所にある部屋へ静かに入って行く。
トイレだった。


そのままギアッチョは一分経っても戻らず、二分が過ぎても戻らず――そこまできて、ギーシュとキュルケはようやく嫌な予感がし始めた。
「・・・ね、ねえキュルケ・・・ これってひょっとして凄くヤバいんじゃないかな・・・?」
「・・・わたしもそんな気がしてきたわ・・・・・・」
不気味に静まり返るトイレが、芽生え始めた彼らの恐怖を加速する。
「どっ、どどどどどうしよう!!」
キュルケはガタガタと震え始めるギーシュの襟首を掴んで、
「ええい逃げるわよッ!!」
一目散に外へ逃げようとする、が。
「えっ!?」
「なっ!?」
二人の足は、その場から一歩も動かすことが出来なかった。
「ぼッ、僕達の足がァァァ!!」
「こ・・・『氷で固定されている』ッ!!」
二人の足は容赦なく凍結されていた。そして炎の魔法でそれを溶かす間もなく、氷よりも冷たい双眸に灼熱の怒気を纏わせて、ギアッチョが姿を現した。
「・・・や、やあお帰りギアッチョ・・・ はしばみ草のお味は ど、どうだったかな?」
一縷の望みを掛けて、ギーシュは蒼白な顔に無理やり笑みを浮かべて尋ねる。
「ああ・・・実に美味かったぜ 意識が飛ぶほどな・・・」
そう言ってギアッチョはニヤリというよりはニタリと表現するべき笑みを返した。
はしばみ草のあまりの美味さに一瞬のうちに阿頼耶識を潜り普遍的無意識を越え銀の鍵の門を通ってオオス=ナルガイを旅し未知なるカダスに至ったギアッチョの意識が現実世界に戻ってまず思ったことは、「よし、こいつら殺す」ということだった。

その後の展開は語るまでもないだろう。
こうしてラ・ロシェールが誇る高級旅館『女神の杵』亭は、昼は変な男が宿前で暴れ、夜は二人分の悲鳴が轟き、深夜は氷付けになった男がベランダに放置される恐ろしい宿として数ヶ月の間その評判を落とすことになったのである。


「一つ、聞き忘れていたことがあった」
薄汚い酒場で、仮面の男は土くれのフーケと会話をしていた。
「・・・なんだい」
男に一瞥をくれてから、フーケは煩そうに髪をかきあげる。
「貴様を倒したのは、あの得体の知れない平民の使い魔だったな」
「それがどうしたんだい」
その質問に、フーケの顔はいよいよ不機嫌さを増す。
「奴の力を教えろ」
有無を言わさぬ口調で仮面の男が命令する。しかしフーケはどこ吹く風で嘲笑うと、
「嫌だね」
と一言そう言った。フーケは脱獄と引き換えに自分達への協力を約束させられている。
しかしその実、それは「従わなければ殺す」という約束とは名ばかりの脅迫であった。己の目的の為の道具として扱われることに、フーケは強い不快感を抱いている。
「貴様・・・死にたいのか?」
「フン、やれるもんならやってみるがいいさ あたしだって土くれのフーケと呼ばれた女・・・こんな姿でも、あんたを無事で済ませるつもりはないよ
さて、それであんたはそうして消耗した状態で任務に挑むつもりかい?」
フーケはニヤリと笑った。仮面の男は決して失敗出来ない任務を負っている。
無駄な消耗など出来るはずがなかった。
「――くだらん知恵が働くようだな」
そう吐き捨てて、男は出口へと歩き出す。
「一つだけ教えてあげるわ」
その背中に、フーケは勝ち誇った笑みを浮かべて言葉を投げつける。
「あいつは『ガンダールヴ』よ」
「・・・何だと」
唐突に登場した「伝説の使い魔」を表す言葉に、仮面の男はフーケに振り返るが、しかし彼女はもはや何も言う気はないといった仕草で手を振る。男はそんなフーケを忌々しげにねめつけると、二度と振り向かずに歩き去った。

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