ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-27

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匿名ユーザー

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重々しい音を立てて魔法学院の正門が開き、王女の乗った馬車の一行が到着した。
整列した生徒達は一斉に杖を掲げて、王女アンリエッタの来訪を歓迎する。
敷き詰められた緋毛氈の上にアンリエッタが降り立つと、生徒達から一斉に歓声が上がった。
ギアッチョとルイズ、それにキュルケとタバサ、ついでにギーシュとモンモランシーも手を振る王女を眺めている。
正確に言えば、タバサだけは地面に座って我関せずで本を読みふけっていたが。
ギアッチョはしばらく興味深げに王女や御付の人間達を眺めていたが、やがて飽きてきたらしい。
あくびを噛み殺して隣の少女に眼を向けると、ルイズは紅潮した顔で一点を見つめている。
何とはなしにその視線を辿ると、どうやらルイズが見ているのはつばの広い羽帽子の下から凛々しい口髭の覗く、護衛の男のようだった。
「知り合いか?」
と声を掛けてみるが、聞こえていないのかぼんやりと男を見つめたままルイズは何の反応も返さない。
ギアッチョも別に気になっているわけでもなかったのですぐに顔を戻した。
「あの人はきっと魔法衛士隊の隊長だね」
と言ったのはギーシュである。
「何だそりゃあ?」
アンリエッタに鼻の下を伸ばしていたことがバレたらしく、モンモランシーに足を踏みつけられた格好のままギーシュは続けて説明をする。
「女王陛下の護衛隊さ グリフォン、マンティコア、ヒポグリフの三つの隊があるんだが、あのマントの刺繍からするとグリフォン隊だろうね 僕達メイジには憧れの存在だよ」


「・・・マンティコア?」
聞き覚えのある単語に、ギアッチョは記憶を辿る。
――あれは・・・プリニウスの博物誌だったか?
確か、とギアッチョは思い返す。ギアッチョが読んだ記述では、それはライオンの身体を持つ化け物だった。
それだけなら問題はないのだが、博物誌ではその前後に「人面に三列の歯を持つ」という記述があり、おまけに彼が読んだものにはご丁寧に口の下にもう一つ口がついた顔で人面のライオンが不気味に微笑んでいる挿絵までついていて、その気持ち悪さにギアッチョは一瞬で本を二つに引き裂いたのだった。
更に出禁の図書館が増えたそんな記憶を思い出して、ギアッチョはギーシュに眼を向けて一言、
「てめーらのセンスはわからねー」
と呟いた。


さてその夜。ルイズは未だに思案顔でベッドに転がっていた。ギアッチョやデルフリンガーが何を言っても生返事である。
「それで、ルイズの嬢ちゃんはどったのよ?」
とデルフが問いかけるが、ルイズはやっぱりうわの空で「あー」とか「うー」とか言うだけなので、仕方なくギアッチョが返事をする。
「さぁな・・・昼からずっとこの調子だがよォォ~」
ルイズは何かを思い悩んでいるようだった。
「あのヒゲが憎いなら暗殺してやるぜ」と言おうかと思ったギアッチョだったが、どうもそんな感じの悩みではなさそうだったのでやめておいた。
他に何か言ってやるべきかと少し考えたが、数秒の黙考の後どうせ明日になったら治るだろうと投げやり気味に結論してギアッチョはさっさと藁束に寝転がる。
その時、トントンと決められたような間隔を空けて扉がノックされ、ルイズはその音にハッと飛び上がると急いで服を着て扉に駆け寄った。

果たして、入ってきたのは真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女だった。
ノックの合図はギアッチョにとって懐かしいもの――己が仲間であることを知らせるサインだったので、彼は特に警戒はしなかった。
しかしノックの後に入ってきた人物が黒い頭巾で正体を覆い隠しているとなれば話は別である。
ギアッチョはさりげなくデルフリンガーに手を掛けて少女の動向を見守った。

しかしギアッチョの心配は杞憂だった。少女は黒いフードを外すと、
「ああ、ルイズ・フランソワーズ!お久しぶりね!」
と感極まった声で言うや否や跪いたルイズに抱きついた。
「姫殿下!いけません、こんな下賎な場所へお越しになられるなんて!」
ルイズがかしこまった声で言えば、
「そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!ルイズ・フランソワーズ、わたくしとあなたはお友達じゃないの!」
フードの少女――アンリエッタ王女は即座にそれを否定する。
ギアッチョは小さく溜息をつくと、デルフリンガーを元の場所へ立てかけた。
聞けばアンリエッタは閉塞した宮廷にうんざりしているらしい。
幼馴染であるらしいルイズとしきりに昔話に興じている。

「・・・・・・結婚するのよ、わたくし」
ひとしきり思い出を語り合った後、王女は無理に笑顔を作ってそう言った。
その声に何か悲しげなものを感じて、ルイズは複雑な顔で祝いの言葉を述べた。
そこで初めて、アンリエッタは藁束の上に座るギアッチョの存在に気付く。
「あら・・・ごめんなさい もしかしてお邪魔だったかしら」
「お邪魔?どうして?」
「だって、そこの彼・・・あなたの恋人なのでしょう? いやだわ、わたくしったら
つい懐かしさにかまけてとんだ粗相をいたしてしまったみたいね」
そう言って、アンリエッタはすまないという顔をする。


「こ、恋人?ギアッチョが?わたしの?」
思ってもみなかった角度からの攻撃に、ルイズは少しうろたえる。ちらりとギアッチョに眼を向けると、思いっきり視線がぶつかった。
途端に顔が赤くなるのを感じて、ルイズは理由も分からぬままにバッと俯いて顔を隠す。
「そそ、そんなんじゃありません!これはただの使い魔です!」
「・・・使い魔? 人にしか見えませんが・・・」
アンリエッタは小首をかしげた。
「人です でも使い魔です」
自分をルイズの恋人と勘違いしたアンリエッタをギアッチョは「大丈夫かこのガキ」
といった眼で観察していたが、ルイズにとっては幸いなことにそんなギアッチョの心がアンリエッタに気付かれることはなかった。
「そうよね ルイズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど・・・相変わらずね」
アンリエッタはそう言って物憂げに笑う。
ルイズはギアッチョの凄さをそりゃもう徹夜で語ってやりたい気分だったが、王宮に彼の力を知られるのは流石に不味いかと思い、多少の罪悪感はあるもののそ知らぬ顔で通すことにした。
「――それよりも 姫様、どうなさったんですか?」
この部屋に入ってきた時から、アンリエッタに元気がないことにルイズは気付いていた。
ルイズのその言葉に、アンリエッタは話そうか話すまいか悩む素振りを見せたが、やがてぽつぽつと語りだした。
アルビオンの貴族達が反乱を起こし、今にも王室を打倒しそうであること。
アルビオンを制圧すれば、彼らは次にこの小国トリステインに攻め入ってくるであろうということ。
それらに対抗する為に、トリステイン王女アンリエッタの嫁入りという形でゲルマニアと同盟を結ぶことになったということ。
それらをいちいち大げさな身振りで説明するものだからギアッチョはいい加減うんざりしてきたが、ルイズが真剣に聞いているので仕方なく黙って耳を傾けていた。
この分だと何かの任務を任されるかもしれない。
アンリエッタの話は続く。ゲルマニアとの同盟を阻止する為に、貴族達は婚姻を阻止する為の材料を血眼で捜していること。
そして、ある時自分のしたためた一通の手紙が、その材料であるということ。


「・・・そ、その手紙はどこにあるのですか?」
ルイズの眼は真剣だった。ギアッチョは呆れた顔で彼女を見ているが、特に何も言いはしなかった。
手紙のありかはアルビオン。正に戦の渦中の人、アルビオン王家のウェールズ皇太子が所持しているという。
「ああ・・・破滅です!ウェールズ皇太子は遅かれ早かれ反乱勢に囚われてしまうでしょう そうしたらあの手紙も明るみに出てしまうわ!」
アンリエッタはそう言って泣き崩れる。そんな彼女を見て、ルイズは一も二も無く立ち上がった。
「ギアッチョ・・・わたし達を助けてくれる?」
懇願するようなルイズの言葉にギアッチョは何度目かの溜息と共にやれやれという言葉を吐き出すが、
「・・・ま、オレは使い魔だからよォォ~~ 面倒だがついて行ってやるとするぜ」
実にあっさりと承諾した。
知ってか知らずかルイズの良心につけこむ話し方をするアンリエッタは正直胸糞悪かったが、万一この国が戦争になりでもしたら面倒になりそうだということと、他の国も一度ぐらいは見てみたいという好奇心が合わさった結果そういう結論に達したのだった。その言葉を聞いて、ルイズの顔がぱぁっと輝く。
「姫殿下!わたし達にお任せください!わたしの使い魔がいれば、どんな任務でもきっと達成して御覧にいれますわ!」
そう言ってルイズは凹凸に乏しい胸を誇らしげに張る。デルフリンガーはそんなルイズを見て、
「えらく信頼されてんねダンナ」
と笑ったが、ギアッチョは不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。もっとも彼が不機嫌そうに見えるのは全くいつものことだったが。
話が纏まると多忙なアンリエッタはすぐに部屋を辞し、ギアッチョとルイズは明日に備えて早々に寝床に就き。彼らの多忙な一日は、こうして終わりを告げた。

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