ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は今すぐ逃げ出したい-33

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「……あ……う…………!」
声が聞こえる。微かに、だが確かに聞こえる。
「相…………………ぼ……!しっか…し……………!……え……の………!」
これほど小さい声なのにどうしてこうまで五月蠅く聞こえるのか?
「立て………よ!……たい……!何とか…………!……こ……まだ生き………!」
もう話しかけないでくれるか?体がだるくてさ、眠たいんだよ……
             「死んじまってもいいのかよ相棒っ!」
死ぬ?その言葉だけはやけにはっきり聞こえた。
死ぬとはどういうことだろう?考えてみる。死とは生命活動が不可逆的に止まる事ことだ。それ以上でもそれ以下でもない。
今の言葉を思い出してみろ、それが誰に当てはまる?
(死んじまってもいいのかよ相棒っ!)
相棒……、そうか、この声はデルフだったのか。私の中で相棒という言葉が当てはまるのはデルフだけだ。
デルフは私のしてきたことを知っている。私の考えを全てではないが知っている。私は社会的に見ても個人的に見ても悪だ。
自分の欲望を達成するためには殺人すらいとわないという考え方はどんな文明社会だろうと悪だろう。
私自身はそれを悪いと自覚していても躊躇いや後悔などは一度もしたことがない。罪悪感を抱いたことすらない。
当たりまえだ、自分のことにしか興味がないのだから、他人がどうなろうと知ったことではない。幽霊だったときは勿論のこと、生き返った今でもそうだ。
そんな私の考えを知ったものがいたらそいつは私のことを軽蔑するだろう。非難するだろう。避けるだろう。それが当たり前だ。
しかしデルフはなんと言った?私の本性の一端を知ってもなお何と言った!?
(俺はいつだって相棒の味方さね。なんたって俺の相棒だからな!)
私はこの言葉をどう受け止めただろうか?答えは出ている。

デルフリンガーをデルフと呼び始めたあのときから答えは出ていた。私はデルフを信じている。俺はデルフを相棒だと認めている!
「『幸福』になりてえんだろ!こんなところで死んだら『幸福』も何もねえじゃねえか!答えろよ相棒!」
デルフは俺に向かって死んじまってもいいのかといった、つまり俺は死に掛けてるってことだ!
ふざけんな!俺は死なねー!死んでたまるかよ!この『吉良吉影』は生き抜いてみせるぞッ!絶対『幸福』たどり着いてみせる!
認識した瞬間意識が急速に浮上する。しかし何かがそれを阻害しようとする。何だこれは!?
それは無数の手だった。その手に恐怖する。何故かはわからない。だがその手が今何よりも恐ろしかった。
その手の力は凄まじく浮上した意識がまた落ちていく、そして体に罅が入っていく。
やめろ!やめてくれ!俺を何処に連れて行く気なんだ!?死にたくない!死にたくないんだよ!
「まだ『幸福』じゃねえんだろーがよおおお!」
デルフのその声が、その叫びが、その咆哮が自分を動かす!
死にたくないという意思が、生きるという執念が、幸福になるという妄執が阻害する手を振りほどく!
「う お お ぉ ぉ ぉ お あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ ぁ ぁ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーツ」
…………そして私は立ち上がっていた。
「相棒ッ!」
デルフの声が聞こえる。早くそちら向きたい!感謝を伝えたい!ここまで素直なのは初めてのことだが今はそんな気分なのだ!
しかし体が動かない。それどころか体全身が激痛に苛まれている!気絶したくても痛みで気絶できない!気絶したくないので気絶できないのは利点だが……
何だこれは!?何がどうなっている!?何故こんなにも体が痛いんだ!
「ヴェ…ルゥフ……」
声もまともに出ない!それどころか喋ろうとすれば咽喉が焼け付くように痛い!せっかく死なずに済んだというのに!このままではまた死んでしまう!
「相棒こっちだ!俺をとるんだよぉ!」
床のほうからデルフの声が聞こえる。お前を握ればいいんだな。わかった!お前に従おう!
痛みを意思の力で捻じ伏せ動かない体を無理やり動かす。しかしそれは更なる痛みを生み出す。しかしそれを無視し動かす。

死ぬよりも痛みの方がマシだ!痛みは生きている証なのだから!
ようやく床を見ることが出来た。何か剣のようなものが見える。おそらくそれがデルフなのだろう。
そして認識する。目が霞んでいるのだと。
しかしデルフが認識できれば問題ない。さらに体を動かしデルフへ手を伸ばそうとする。
「頑張れ相棒!」
頑張るさ相棒。しかし体が動きを止めてしまう。これ以上動かなかった。
しかしこれでいい!この距離まで手を伸ばせればいいのだ!
「…………………ッ!」
もう一つの腕を発現させる。腕には罅が無数に入っていたが何とか動かせる。
あれ?今私は何と言った?腕を出すときなんと言ったんだ?ダメだ。頭に霞が掛かったかのように思い出せない。しかし今はそんなことを追求している場合じゃない。
腕を伸ばすとデルフを掴みそのまま手繰り寄せる。そして自分の掌に持ってこさせる。そして満身の力を込めデルフを握った!
その瞬間、体中の痛みが消えた。視界が鮮明になる。そして体が何時にも増して軽い。デルフが自分の体の一部のようだ。
デルフを見るとその刀身はまさに今研いだかのように光り輝いている!
「起きるのが遅いぜ相棒。あんまり起きるのが遅いんで生まれ変わっちまったよ」
デルフはさっきとは打って変わっていつものように喋りかけてくる。
「どうしたんだその姿?」
そしていつものごとくそれを無視してたずねる。ああ、やっぱり感謝なんて私には似合わない。これが一番いい。
「よくぞ聞いてくれました!」
デルフが喜びの声をあげる。
「これが俺の本当の姿さ!相棒!いやぁ、てんで忘れてた!そういや、飽き飽きしてたときに、テメエの体を変えてたんだった!なんせ、面白いことはありゃあしねえし、
つまらん連中ばっかりだったからな!」
デルフが叫ぶ。刀身の輝きを誇るがごとく。
「俺はちゃちな魔法は全部吸い込める!だからもう相棒にあんな魔法はくらわせねえ!この『ガンダールヴ』の左腕、デルフリンガーさまがな!」
その言葉には言い表しようがない覚悟が見えた。
私はデルフの言葉に喜びを覚え、それと同時に不快感を感じるという矛盾した自分に戸惑うしか出来なかった。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー