ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

タバサの安心・キュルケの不安-1

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匿名ユーザー

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本の質を保護するために、日の光があまり入らないように設計されているトリステイン学院の図書室のさらに奥の、人目に付かぬ一角で、タバサは1人DIOと机を挟んで向かい合っていた。
ハルケギニアの文字を習得するために、しばしば図書室に出入りしていたDIOと、何度か会ったことのあるタバサだったが、人とつきあうのが嫌いな彼女はそのたびに一言二言言葉を交わすくらいだった。
今日もたまたま、図書室で本を読んでいるDIOと鉢合わせをしたタバサだったが、今日に限ってDIOの方から話があると持ちかけられたのだ。
アルビオンでの一件以来、ルイズの使い魔のルーンに御せられたDIOは、人に危害を加えることが出来なくなっていた。
故に、その点についてはタバサは安心していた。
それに自分もこの使い魔には興味があったので、話を聞くことにしたのだった。

「話って、何?」

若干の恐怖と湧き上がる期待を抑えつつ、タバサは素っ気なく聞いた。
DIOはそれに答えずに、懐から小さな水晶玉を取り出し、机の上に置いた。
「……?」

DIOの意図が読めず、困惑するタバサ。

"ズズズ……"

すると、DIOの左手から、シダ植物のような茨が浮き出てきた。

とっさに身構えたタバサだったが、そんな彼女を置き去りにして、DIOはゆっくりと茨を纏った左手を水晶玉にかざした。
"バシィイーン!"

すると、それまで透明だった水晶玉に、黒い乱雲のような靄がかかった。やがて靄が晴れてゆき、水晶玉の中に一人の人影がほんやりと映り始めた。
身を固くしていたタバサは、自分に危害を加えようとしているのではないことに気づき肩の力を抜きながらその様子を眺めていたが、水晶玉に映るがハッキリするにつれて、驚愕で目を見開いた。
はたしてそこに映っていたのは虚ろな目をして人形を胸に抱き、イスに座っている女性であった。
「……母様!」

見まがおうはずがない。それはまさしく、ガリアにいるはずのタバサの母親であった。

食い入るように水晶玉の中の母親を眺めていると、闇の向こうでDIOが説明した。

「幻想像(ヴィジョン)だ……。私のではない……。君…自身の心の中を、私の『能力』を通じて念射させているのだ……」
なにせ、相手は目からビームをだすような人物だ。
こんなことも出来るのだろうと、タバサは妙に納得した。
それとともに怒りが沸いてきた。
自分が傷を抱える所に土足で踏み込まれた気分だった。
鋭い視線をDIOに向けるタバサ。

こんなものを見せ付けて、自分の心を抉ってどうしようというのだ。
話次第ではただでは置かない。
目でそう非難する。
闇に隠れて顔は見えなかったが、DIOはいかにも同情たっぷりといった悲しそうな声色でタバサに語り掛けた。

「タバサ君。
君は悩みを抱えている……苦しみを抱いている…。
私は君のような優秀な人が苦しむのを見るのは忍びないんだ……。
今の水晶の像が、君の『苦しみ』なんだね?
力を貸そうじゃないか……。
私にも苦しみがあって、私の可愛いマスターのせいで自由に動けない体なのだ……。
だから、私にも力を貸しておくれ。
君の母親を治す術を探してやるよ…。
私と付き合えばきっと君の心から『苦しみ』を取り除けると思うんだ。」
タバサはDIOからの思わぬ提案に怒りを忘れた。
そして、不思議な…実に不思議なことに、タバサはDIOの言葉がすうっと心に染み込んでゆくのを感じた。
目の前の男は、本当に自分の力になってくれるつもりだ……なんとなくそんな気分になった。

「どうだねひとつ…私と友だちにならないかい……?」

タバサの心は揺れに揺れた。
目の前の男は、不老不死の吸血鬼だ。
気分次第で人間を死に追いやる。
いかにさっきのような能力を持っているからと言って、信用に足る相手ではないことは、タバサは十分理解していた。

---しかし。

(………母様…)
タバサの脳裏に浮かんだのは、自らの身代わりとなって心を壊された母の姿だった。
タバサは、どんな手段を使おうとも母を治す決意をしていた。
母を治すために、そして母をあのような目にあわせたジョゼフ王に復讐をするために、タバサはこれまで知識と実力を蓄え続け、若くしてシュバリエの称号をも手に入れた。
しかし、いつまでたっても解決の糸口さえ見つからぬ毎日。
焦りを感じ始めていたのは確かだ。
そんなときに現れたのがDIOだった。
これも何かの縁なのかもしれない……。
彼と関われば道が開けるかもしれない。
それに、誓ったではないか。
母を治すためなら…復讐のためなら悪魔にだって身を捧げると。

タバサは迷いを振り切った。

「………わかった」
承諾の意を伝える。
タバサは踏み出してはならぬ一歩を自ら踏み出した。
心の中の闇がDIOによって掬い取られ、先ほど目にした茨のように自らの体が縛り付けられる感覚。
闇の向こうで、DIOがニヤリと笑った気がしたが、タバサには最早どうでもよかった。

「うれしいよ…タバサ。
この友情はきっと、お互いの為になるよ」

DIOは甘ったるい口調でそういった。
しかし内心DIOは黒い微笑みを押さえられなかった。
相手の承諾さえ得れば、そこから先はルイズの縛りの範囲外だ。
DIOは自分の計画の起点がうまくいったことに喜んだ。
後は……

「タバサ。
友人である君の顔を改めて見たい……。
私の側に来て、顔をよく見せてくれないか…?」

その言葉に、タバサは何かに操られたようにゆっくり椅子から立ち上がり、机をまわってDIOの横まで歩み寄った。

「…………」

タバサの心にもはや恐怖はなかった。
あるのはこれから自分にされるのだろう『何か』への期待だけだった。

DIOがそっとタバサの頬に手を添える。
タバサは抵抗しなかった。

「美しいよ、タバサ。
君はやはり私の友人にふさわしい……」

甘い言葉を囁きながら自分の頬を優しく撫でるDIOに、タバサは目を瞑って身を委ねた。
ふいにその手がピタリと止まった。
タバサは目を瞑ったままだ。

「可愛いタバサ。これから少しおまじないをするよ………。些か難しいものだから、しばらくじっとしていておくれ」

タバサはコクンと頷いた。


"ズギャルン……!!!!!!"

---この瞬間、タバサは確かに悪魔にその身を捧げた。


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