ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

伝説! 神の左手ガンダールヴ

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伝説! 神の左手ガンダールヴ

承太郎は言った。ミス・ロングビルこそ土くれのフーケだと。
承太郎は言った。証拠もあると。
タバサも肯定した。承太郎が正しいと。
タバコの紫煙がその場に漂う。ルイズは思わず顔をしかめた。
「ジョータロー。その、本当に証拠はあるの?」
「ああ……。あるぜ、間違いなくな。今確信した。
 自白するなら今だぜ、土くれのフーケ」
嫌味ったらしく彼女の顔にタバコの煙を吹きかけながら承太郎は言い、ミス・ロングビルは何の事だかさっぱり解らないという風に首を振った。
承太郎はタバコを指で掴み、ビッとミス・ロングビルに突きつけた。
「これはタバコと言って、パイプの一種ではあるが……俺の故郷の魔法探知機だ。
 破壊の杖も俺の故郷にあるマジックアイテムで、危険物として厳重に管理されている。
 だから無断で触れた者を探し出し罰するため、特殊な条件である目印が現れるよう……呪いがかけられている」
「何ですって!?」
今まさに破壊の杖を持っているルイズは自分の身体に異常が無いか慌てて見回した。
そしてキュルケはゆっくりと三人の人間を順々に見る。
「破壊の杖に直接触ったのは……ルイズと、ジョータローと……フーケだけ……」
ミス・ロングビルの頬を汗が伝う。そして尻餅をついたままわずかに後ずさりをした。
「そ、その目印とは……いったい……?」
動揺して震えているミス・ロングビルに対し、承太郎は自信と確信にあふれた口調で言った。
「破壊の杖を触った奴はタバコの煙を少しでも吸うと……鼻の頭に、血管が浮き出る」
鼻の頭を指で撫でつつ承太郎は言い、フーケの鼻を凝視した。
「えっ!?」
ルイズは思わず鼻の頭を指で触った。
「嘘でしょジョータロー!?」
キュルケは改めてジョータロー、ルイズ、ミス・ロングビルの鼻を確認した。
ミス・ロングビルも自分の鼻を指で触って、というより隠すように手で包んでいる。
それを見て承太郎は眼光を鋭くした。


「ああ嘘だぜ……だがマヌケは見つかったようだな」
『あっ!!』
ルイズ、キュルケ、ミス・ロングビルが声を上げる。
そして一同の視線はミス・ロングビルに集中された。
「破壊の杖を触ってなければ、鼻に手は当てない。触った人の鼻を見るだけ」
補足するようにタバサが言う。
「そして触った人は本当か嘘か確認するため自分の鼻を触る。
 ……証拠が無ければ作ればいい……。鮮やか」
褒めながらタバサは杖をミス・ロングビル――いや、土くれのフーケに向けた。
フーケの顔つきが見る見る変わっていく。
そこにもはや怯えや困惑の色はなく、明確な敵意が表れていた。
「ジョータロー。どうしてミス・ロングビルが土くれのフーケって思ったの?」
鼻から指を放しつつルイズが訊ねた。
「フン、最初からだぜ。学院で少しだけフーケを見たが、男には見えなかったんでな」
「……なるほど……。農民のデマ情報なんて、最初から信じてなかった訳ね」
「最後にひとつだけ訊くぜ。わざわざ学院から追っ手を連れてこようとしたのは、この『破壊の杖』の使い方が解らなかったから……そうだな?」
「ご名答。平民の使い魔って聞いてたけど、やるじゃない。
 あなたは知っているのかしら? 破壊の杖の使い方……」
「ああ。だがそれをてめーに教える必要はねーな……」
「なら……『次』の追っ手に期待しましょうか!」
ミス・ロングビルは地面についていた左手を突然振った。
わずかばかりの土が承太郎の目にかかる。

「ぬううっ!」
「どう! この土の目潰しはッ! 勝ったッ! 死になさいッ!」

ミス・ロングビル、いや、土くれのフーケは折れた杖を拾い、
その鋭い先端を承太郎ののど目掛けて突き出した。


「オラァッ!」
だが高速で出現したスタープラチナがフーケの腕を払い、脇腹に拳を叩き込む。
「ゴヴァッ!?」
肋骨を折られて吹っ飛ばされ背後の木の幹に激突したフーケは気絶する。

「てめーにはギーシュをやられた借りがある……。
 女だろうが、借りは返させてもらったぜ。せいぜい苦しむんだな」
こうして土くれのフーケを無事捕まえる事に成功し、破壊の杖を回収した一行は、意気揚々と帰路につくのだった。
ロープで折れた肋骨が痛むような縛り方をされたフーケは馬車の中で目を覚まし、ヒイヒイと悲鳴を上げるはめになってたりする。
「読書の邪魔」
の一言でタバサにサイレンスをかけられ、誰も彼女の悲鳴を全然ちっとも耳にしなかった。

「ところでダーリン。そのタバコが探知魔法のマジックアイテムっていうのも嘘なの?」
道中、ふと思い出したようにキュルケが訊ねてきた。
「まあな。今回はタバコの事をここの連中が知らねーって事が逆に幸いしたぜ。
 しっかりと嘘っぱちの効果を説明して信じさせる事ができたからな……。
 品評会での失敗の面目躍如ってところか」
「そんな自慢げに言ってもアレが大失敗なのは変わらないわよ」
ルイズの冷たい発言に、承太郎は深い溜め息をつくのだった。


学院長室で、オスマンは戻った四人の報告を聞いて苦い顔をした。
聞けば街の居酒屋で給仕をしていた彼女のお尻を触って、怒らなかったから秘書にならないかと誘ってしまったらしい。
それを聞いたコルベールとルイズ達は呆れ返ってしまう。
誤魔化すようにオスマンはルイズ達を褒め出した。
フーケは城の衛士に引き渡し、破壊の杖は無事に宝物庫に収まり一件落着である。
そこでオスマンは、ルイズ達に『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出した事を告げる。
「本当ですか?」
キュルケは喜びの声を上げたが、ルイズの表情は固い。
「……オールド・オスマン。ジョータローには、何もないんですか?」
「残念ながら、彼は貴族ではない」
「ケッ。見返りが欲しくてやった訳じゃねーぜ」
どうでもよさげに承太郎はタバコを取り出し火を点けた。
オスマンはタバコに視線を一瞬だけ向けた後、ぽんぽんと手を打つ。
「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。
 この通り『破壊の杖』も戻ってきたし、予定通り執り行う。
 今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」
三人は礼をするとドアに向かった。だがジョータローは部屋から出て行こうとしない。
「ジョータロー?」
「先に行ってな。俺はこいつ等に野暮用がある」
ルイズは心配そうな表情を見せたが、うなずいて部屋を出て行った。
「何か、私に聞きたい事がおありのようじゃな。
 言ってごらんなさい。できるだけ力になろう。
 君に爵位を授けることはできんが、せめてものお礼じゃ」
「破壊の杖……あれをいったいどこで手に入れた? あれは俺の故郷の武器だ。
 正式名称は『M72ロケットランチャー』……」
「何と。しかし……君の故郷とはいったい?」
承太郎はしばし黙考し、口を開いた。
「俺は……この世界の人間じゃあない。ルイズの『召喚』で別の世界から来た」
「本当かね? なるほど、そうじゃったか……なるほど、それなら『納得』できる」


オスマンは溜め息をつき、遠い目をして語り出した。
「あれを私にくれたのは、命の恩人じゃ。しかし死んでしまった……今から数十年前の話じゃ。
 数十年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。
 そこを救ってくれたのが、あの『破壊の杖』の持ち主じゃ。
 彼は、もう一本の『破壊の杖』で、ワイバーンを吹き飛ばすと、ばったりと倒れおった。
 怪我をしていたのじゃ。私は彼を学院に運び込み、手厚く看護した。しかし……」
「死んじまったのか」
オスマンはうなずいた。
「私は、彼が使った一本を彼の墓に生め、もう一本を『破壊の杖』と名づけ、宝物庫にしまい込んだ。恩人の形見としてな……。
 彼はベッドの上で、死ぬまでうわごとのように繰り返しておった。
 『ここはどこだ。元の世界に帰りたい』とな。
 きっと、彼は君と同じ世界から来たんじゃろうな……」
「誰がそいつをこの世界に呼んだか……それは解らないのか?」
「どんな方法で彼がこっちの世界にやってきたのか、最後まで解らんかったよ」
「やれやれ……ようやく手がかりを掴んだと思ったってのにな」
オスマンも承太郎も黙り込んでしまう。
そこでずーっと黙って聞いていたコルベールが、プハァと息を吐いた。
「まさか『破壊の杖』にそんな曰くがあったとは……」
彼が呟くと、承太郎の視線が向けられた。
「あんたにも訊きたい事がある。フーケの捜索に向かう前、俺を何と呼ぼうとした?」
「いや、それは……」
コルベールがオスマンに視線を向けると、オスマンは承太郎の左手を取り再び語り出した。
「おぬしのこのルーン……」
「……使い魔のルーンと聞いたが、他に何かあるのか?」
「これはガンダールヴの印じゃ。伝説の使い魔の印じゃよ」
「伝説の……使い魔?」
「そうじゃ。その伝説の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ。
 曰く『神の盾』……もしくは……『神の左手ガンダールヴ』という」
「…………」
承太郎は破壊の杖に触れた瞬間、正式名称から使い方まで瞬時に理解できた理由を理解した。


「しかし……なぜ俺がその伝説の使い魔に? 俺を召喚したのは『ゼロ』のルイズだ」
「解らん。ただの偶然か、もしくは何らかの必然か……。
 すまんの。ただ、もしかしたらお主がこっちの世界にやって来た事と、そのガンダールヴの印は、何か関係しているのかもしれん。
 ……力になれんですまんの。ただ、これだけは言っておく。
 私も、ここにいるミスタ・コルベールも、お主の味方じゃ。ガンダールヴよ」
そう言うとオスマンは両手で承太郎の左手を強く、強く握りしめた。
「……恩人の杖を取り戻してくれて……ありがとう……! 改めて礼を言うぞ」
「…………」
「お主がどういう理屈で、こっちの世界にやって来たのか、私なりに調べるつもりじゃ。でも……」
「でも、何だ?」
「何も解らなくても、恨まんでくれよ。なあに、こっちの世界も住めば都じゃ。
 嫁さんだって探してやる。どーゆータイプが好みじゃ? ムチムチプリンなのがええかの」
「……やれやれだぜ」
空条承太郎十七歳。好みの女性のタイプ、日本人的な女性。すなわち大和撫子。
ヨーロッパっぽい世界観のトリステインに、そんな女性がいるとは思えなかった。
「ところで……お主の吸っているそれ、確かタバコといったのう?
 品評会で見とったぞ。パイプの一種らしいな。一本だけでいいから私にも吸わせてくれんか?」
媚びるような口調でオスマンが頼んできて、かなり気色悪く感じながらも、一応ここの学院長だし貴重な情報ももらえたお礼として承太郎は一本差し出した。
「……数に限りがあるんだがな」
「ほっ。しかし作りはシンプルなようじゃの。これならミスタ・コルベールが作れるかもしれん。
 彼は変わり者でな、魔法を利用して様々な研究をしておるのじゃよ。のう?」
「は、はぁ……。これなら、多分作れると思いますが、やってみます。承りました」
こうしてコルベールが紙タバコの製作に成功し、ツェルプストー家がバックアップについて、トリステインとゲルマニアに紙タバコブームを巻き起こし、
コルベールが『煙草王』として歴史に名を残す事になるとは、誰も予想できなかった。

そして、アルヴィーズの食堂の上の階の大きなホールで『フリッグの舞踏会』が開催された。

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