ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-27

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匿名ユーザー

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 ルイズは元々勤勉な学生だった。
 やんごとなき大貴族ヴァリエール家の三女。期待もされた。期待に答えたいとも思った。
 だからルイズは基本的に努力家である。
 そんなルイズの努力は、決して実ることがなかった。
 一度は絶望し、諦めかけたこともあった。
 しかし今、ルイズは再び燃えている。焦りではない。まるで小さな頃、初めて自分の杖を手にしたときのような、希望と情熱が彼女の胸に灯っている。
 すっかり夜も更けてしまった学院外の草原で、一向に成功する気配をも見せないコモンルーンに挑戦している。
 だから、彼女がこの夜、あの場所で起こったことを見つけたのは決して偶然ではなく、小さなご主人様の隣に、同じくらい小さな使い魔の少年がランタンを持って立っていたのも、また偶然ではない。

「ふわあああぁぁぁ・・・」
 暗闇の中、地面に座り込んだ少年が大きなあくびをした。
「ねぇ・・・もうそろそろ寝ようよぉ」
 康一は試しにご主人様にお願いしてみた。
「だめよ。まだ今日のぶんが済んでないもの。」
 ルイズは使い魔の懇願を振り向きもせずに却下した。
 小石が真鍮になるイメージを浮かべる。ゆっくりと呪文を唱える。母親が子どもに絵本を読み聞かせるように。正確に。確実に。そして、数歩先の小石に向けて杖を振った。

 ボンッ!

 一瞬白い光を放ち、小石が爆発した。
 爆風に巻き上げられた砂がぱらぱらと落ちる。
 魔力を抑えているので、大した被害にはならないのだが。
「し、失敗ね。それじゃあ今度は抑揚を変えてやってみるわ。」
 まだまだやる気のルイズに、哀れな使い魔は溜息をついた。
 連日この調子である。
『100回失敗したら10000回練習するわ。10000回失敗したら100万回練習すればいいわ!』
 ルイズはもう一度自分を信じることにしたのだ。この努力は無駄ではない。
 きっといつか私にもコーイチに起こったような「運命」がやってくる。わたしがみんなに認められるようになる。そのときのために。
 しかし、その結果残されたのはおびただしい数の爆発と爆音とクレーターである。
 真夜中だろうとボンボン爆発させているので、ついに教師から学院の外で練習するようにと言われて追い出された。
 それでもルイズはあきらめない。このくらいで諦めたらいつか「運命」がやってきたときに申し訳が立たないわ。なんて、よく分からないことを言っている。
 そして康一は泣き言をいいながらも、なんだかんだで毎夜ルイズの練習に付き合っているのだった。
 特にやることもないので、ぼーっとルイズを見ている。
 よく意外に思われるが、康一はコツコツ努力を積み重ねていくタイプでもない。剣の練習もあれからそんなにしていなかった。
 デルフリンガーは、自分の大きさに比べて相棒が小さすぎることに危機感を覚えたのか、最近は「食べろ!食べてでっかくなれ!」と事あるごとに言っている。
 それがうるさいので、今は剣を持ってきていない。
「食べて横に大きくなってもしょうがないだろーに。」と思う。


 ふと何か違和感を感じた。
 妙な音がするわけでもない。ルイズは疲れてへろへろだが特に変わった様子もない。
 そして気づいた。ここから遠目に見える学院の、中央塔のあたりで何かがうごめいている。
 しかし縮尺がおかしい。中央本塔は相当な高さのはずだ。それと比べるなら、『それ』は10m以上の高さがある。
「ね、ねぇ。あれ、何?」
 康一が指を指すと、ルイズが肩で息をしながら不審げに振り向いた。
「なによ・・・。今いっぱいいっぱいなんだから話しかけないで・・・って、なにあれ。」
 ようやくルイズも気づいたらしい。
「ゴーレム・・・かしら。でもなんでこんな時間に、あんなところで?」
 そこでハッと気がついた。
「まさか、賊!?」
「賊って、泥棒ってこと?」
「きっとそうよ!最近このあたりを、『土くれ』のフーケっていう土のメイジがが荒らして回ってるって聞いたわ!」
 きた!と思った。
 あれがわたしの「運命」だわ!
 あれに気づいているのはまだきっと自分達だけ。フーケをわたしが見つけたんだわ!
 フーケを捕らえれば、大手柄だ。千載一遇のチャンスが転がり込んできた!
 思わす走り出したが、ちょうどルイズは消耗しきってふらふらのところだった。
 足が絡まり、躓いて危うく倒れそうなところを康一が支える。
「急に走ったら危ないよ!肩を貸してあげるから捕まって!」
 思いがけず胸に飛び込んでしまったルイズは慌てて康一を突き放そうとした。
「あ、汗かいてるから・・・」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
 康一はルイズの腋に肩を入れ、腰に手を回してルイズを支えた。
 もうルイズは康一に体を預けるしかない。
 康一はあわあわと動揺するルイズを連れて、学院に向かった。



 見上げるほどの巨大なゴーレムがゆっくりと拳を振り上げ、全体重をかけて壁に打ち付ける。
 ゴン!
 と小さな音がする。普通なら爆音といっていいほどの衝撃音がするはずだが、それがほとんどしない。
 フーケがゴーレムの操作と平行して、『サイレント』をかけているのだ。
 盗賊として経験を積んでいるフーケにしてみれば、そう難しいことではない。
「それにしても、硬いッたらないね!」
 フーケは先ほど殴りつけた壁に顔を寄せると舌打ちした。
 もう自慢のゴーレムで10回は殴りつけているというのに、傷がつく様子すらほとんどない。
 巡回はないはずだ。ここのメイジ共は平和ボケしていて当番をサボるのが当然になっているのは事前に調べがついている。
 だからそうそう気づかれない自信はあるが、あまり時間をかけたくはない。
「せめて、ヒビでも入ってくれればそこから崩せるんだけどねぇ。」
 後5分は挑戦してみよう。フーケは殴りつけるのを再開するため、ゴーレムの肩口に飛んだ。
 ちょうどそのタイミング。
 フーケが先ほどまでいた場所が突然爆発した。
「何っ!?」
 もう見つかったというのだろうか。慌ててあたりを見回すと、ゴーレムの足元に誰かがいる。
 あれは・・・ルイズ・フランソワーズと、彼女に捕まった平民の使い魔、コーイチだ。
「何でこんなところにあいつらがいるんだい!」
 壁はやぶれそうにない。しかも人に見つかってしまった。
 目撃者を消せば多少の時間は稼げる。しかし、落ちこぼれのルイズはともかく、コーイチの実力は未知数だ。できるだけ相手をしたくはない。
 それに、コーイチは貴族に使役されているだけの気のいい少年だった。彼を殺したくはない。
「コーイチ・・・。なんでよりによってあんたなんだい!」
 逃げたいところだが、一度失敗すれば警備は強化されるだろう。多分こんなチャンスはもうめぐってこない。
 今まで掃ってきた労力と自分の身の安全を天秤にかける。
 天秤は、自分の身の安全に傾いた。
 口惜しいが逃げるしかない。
 だがしかし、そこでフーケは気づいた。
 先ほど爆発(恐らくルイズの失敗魔法だろう)が起こった場所から放射状にヒビが入っている。
 どういう理屈だかはわからない。しかしこれぞまさしく天の助け!
 フーケは覚悟を決めた。

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