ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

Shine On You Crazy Diamond-12

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わたしとヨシカゲ、そしてツェルプストーとその友人は宝物庫いた。その場にはオールド・オスマンを含め、多くの教師が集まっている。
理由は宝物庫に開いている大きな穴が原因だった。この穴は昨日のゴーレムが開けたものだ。
壁には文字が刻まれていた。
『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
刻まれている文字は明らかに犯人の犯行声明だった。そして犯行声明の通り、犯人『土くれのフーケ』は確かに学院の秘宝『破壊の杖』を盗んでいた。
『土くれ』のフーケと言えば武器屋の店主が言っていた最近巷を騒がしているメイジの賊だ。
貴族の宝を盗みまくっているとは聞いたけど、まさかこの魔法学院に盗みに入るなんて誰も思いもよらなかっただろう。
と、いうわけで教師陣はみな絶賛大騒ぎ中というわけなのだ。
わたしたちが呼ばれたのはフーケの犯行の一部始終、というより最初から最後までばっちり見たからである。呼ばれて当然だ。
むしろこの状況で呼ばなかったらバカじゃないの?
「衛兵はいったい何をしていたんだね?」
「衛兵などあてにならん!所詮平民ではないか!それより当直の貴族は誰だったんだね!?」
「ミセス・シュヴルーズ!当直はあなたなのではありませんか!」
「も、申し訳ありません……」
「泣いたって、お宝は戻ってこないのですぞ!それともあなた、『破壊の杖』を弁償できるのですかな!?」
「わたくし、家を建てたばかりで……」
周りに責められミセス・シュヴルーズが泣きながらその場に崩れ落ちる。これだけきつく大勢に責められれば当然かもしれない。
周りがミセス・シュヴルーズを責め立てる中、オールド・オスマンがミセス・シュヴルーズに近寄りながら擁護する。女性はいじめるものではないと。
その言葉にミスタ・ギトーが興奮したように口を開く。曰く、ミセス・シュヴルーズは当直なのに部屋で寝ていたらしいのだ。
確かにそれはいただけない。自分の職務を怠っていたのだから責任を問われるのは当然のことだろう。
しかし、オールド・オスマンのこの言葉でわたしは驚愕した。
「さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるのかな?」
その場にいた教師陣の殆んどはお互い顔を見合わせ、恥ずかしそうに顔を伏せた。自分は真面目にしたという教師は一人もいなかった。
それならなぜ、ミセス・シュヴルーズを責められるのだろうか?自分も真面目にしていなかったのに他の人間を責められる権利があるだろうか?
「さて、これが現実じゃ。責任があるとするなら、我々全員じゃ。この中の誰もが……、もちろん私も含めてじゃが……、まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、
夢にも思っていなかった。何せ、ここにいるのは、ほとんどがメイジじゃからな。誰が好き好んで、虎穴に入るかっちゅうわけじゃ。しかし、それは間違いじゃった。
このとおり、賊は大胆にも忍び込み、『破壊の杖』を奪っていきおった。つまり、我々は油断していたのじゃ。責任があるとするなら、我ら全員にあるといわねばなるまい」
それは誰が聞いても自分たちが油断していたのが悪い、一人の責任ではない、というのを心から感じさせた。
わたしの持つオールド・オスマンのイメージというのは入学式のとき、格好をつけて2階の柵から飛び降りテーブルに激突したあのオールド・オスマンしかなかった。
しかし、今目の前にいるオールド・オスマンは過ちを犯した者を寛大な心で許し、自分たちの非を素直に認めるという素晴らしく人ができた行動をしている。
そう、私はそこに学院に入学する前に聞いていた高名な大メイジ、オールド・オスマンの片鱗を見た気がした。
ミセス・シュヴルーズも感激したのかオールド・オスマンに抱きついて感謝の言葉を並べ立てる。
「ええのじゃ。ええのよ。ミセス……、あ~ミセス……」
オールド・オスマンは抱きついてきたミセス・シュヴルーズを宥めながらお尻を撫で回してた。ついでに名前を忘れているかもしれない。いや、絶対に忘れている。
前言撤回、オールド・オスマンはやっぱり入学式のときのダメさ全開のままだった。高名な大メイジに見えたのもきっと幻覚だわ。
「こほん!……で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」
オールド・オスマンは咳払いをして場を仕切りなおすと、威厳に満ちているかのような声で尋ねる。

「この三人です」
わたしたちの前にいたミスタ・コルベールが前に進み出てわたしたちを指し示す。ヨシカゲは使い魔なので当然数には入らない。
「ふむ……、君たちか。詳しく説明したまえ」
わたしは前に進み出ると、あの夜目撃したことを話した。
巨大なゴーレムが現われたこと。そのゴーレムがここの壁を破壊したこと。肩に黒いメイジが乗っていたこと。そのメイジが『破壊の杖』を盗み出したこと。
そして再びゴーレムの肩に乗り城壁を越えて歩き出したこと。最後には崩れて土になったこと。跡にはなにもなかったこと。
「ふむ……、追おうにも、手掛かりナシというわけか……」
オールド・オスマンがヒゲを撫でながらそう呟く。そして何かに気がついたようにわたしたちを見てくる。
「そういえば、なぜ夜遅くにあんなところにいたのかね?」
「え!あ、そ、その……」
そうだった!すっかり忘れたけどわたしたちあのとき決闘してたんだったわ!でもここで答えなかったらなんだかあやしまれそうだし……
というよりわたしたち別に悪いことしてないじゃない!いや、確かに決闘は禁止されてるけど自分の面子を守るためには必要なことよ!必要なことは悪いことじゃないわ!
「……ツェルプストーと決闘してました」
「そうか。まあ、普段なら罰でも与えるが今は事態が事態じゃ。むしろ何もなくてよかったと言わざるを得ぬじゃろう」
よかった。どうやらお咎めはないらしい。あったらしっかり受け入れる覚悟はできてはいたけどね。
「事態が事態で思い出したんじゃが、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその……、朝から姿が見えませんで」
オールド・オスマンとミスタ・コルベールがそんな会話をしているところに誰かが部屋から入ってきた。それは今話題に上がっているミス・ロングビルだった。
遅れてきたわけは、どうやらこの事件のことを調べていたかららしい。なんて仕事熱心な人だろう。
「で、結果は?」
「はい。フーケの居場所がわかりました」
「な、なんですと!?」
ミス・ロングビルの報告にミスタ・コルベールが大声を上げる。周りにいる教師陣もミスタ・コルベールほどではないがざわめきたてている。
かく言うわたしもこれにはびっくりだ。動じていないのはオールド・オスマンとヨシカゲとツェルプストーの友人くらいだ。三人とも顔色一つ変えていない。
その胸中で一体何を考えているのだろう?
「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル」
ミス・ロングビルの話しでは、近くの農民に話を聞いたところ、近くの森の廃屋に黒ずくめのローブの男が入っていったのを目撃したそうだ。
「黒ずくめのローブ?」
わたしはピーンときた。あのときフーケは黒い格好をしていた。そして見かけられたのは黒ずくめのローブの男!間違いない!
「それはフーケです!間違いありません!」
わたしはオールド・オスマンに自信満々にそう言い切った。

今考えれば自分はとんでもなく浅はかだった。何故ならフーケの罠にまんまと嵌ってしまったのだから。

フーケがいるというその森は徒歩半日、馬で4時間の場所であるらしい。
ミスタ・コルベールが王宮に連絡しようと提案したがその提案はオールド・オスマンに却下された。

「王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ!その上……、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた!
これは魔法学院の問題じゃ!当然我らで解決する!」
その迫力は高齢であるということをまったく感じさせないほど力強いものだった。そしてその言葉はわたしの中の貴族を刺激した。
そうだ!貴族とは敵に後ろを見せない者、困難に正面から立ち向かう者をいうんだ!
オールド・オスマンがなぜ学院長をしているかわかった気がする。普段はダメさ全開だがやるときはやる人なのだ!貴族としての心構えができている人なのだ!
「では、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」
わたしは、きっと大勢の教師が杖を掲げるのだと思っていた。オールド・オスマンのあの言葉に刺激されないものなどいないと思っていた。
しかし、わたしの予想に反して誰も杖を掲げるものはいなかった。みんながみんな、困ったように顔を見合すだけだったのだ。
どうしてだれも杖を掲げないのだろうか?貴族なら、どんなに恐ろしくても立ち向かわなければいけないんじゃないのだろうか!?
「おらんのか?おや?どうした!フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!?」
名……。もし、わたしがフーケを捕らえたらどうなるだろう?きっとみんなわたしを見返すに違いない。
わたしをバカにしていた連中はもちろん、姉や両親もわたしをたくさん褒めてくれるに違いない。みんなわたしを認めてくれるに違いない!
だれもわたしを『ゼロ』と呼ばなくなるに違いない!
「ミス・ヴァリエール!?」
そう思ったとき、わたしは既に杖を掲げていた。ミセス・シュヴルーズが驚きの声をわたしにかけてくる。
「何をしているのです!?あなたは生徒ではありませんか!ここは教師に任せて「誰も掲げないじゃないですか」……」
その一言でミセス・シュヴルーズは黙ってしまった。
「ツェルプストー!君は生徒じゃないか!」
突然、ミスタ・コルベールがわたしに向かって……、違う。わたしの後ろに向かって驚いたような声をあげた。
後ろに目を向けるとツェルプストーがしぶしぶといった感じで杖を掲げていた!なんとぉ!?
「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」
ツェルプストーに刺激されたのか、ツェルプストーの友人も杖を掲げた。
「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」
ツェルプストーの驚天動地でブリミルも真っ青でありえないほど意外な人に対する気遣いを受けた少女は一言、
「心配」
とだけ呟いた。
どうやらツェルプストーはいい友人を持っているらしい。見た目も性格も全く違うこの二人はとても固い絆で結ばれているようだ。
フーケの捜索は危険だ。あれだけ巨大なゴーレムを作れるのだからトライアングルクラスであることは間違いない。
わたしも一人では正直不安だったが、味方がいるのは心強いものがある。
ツェルプストーの友人、タバサはツェルプストーが心配だからついて来るのだろうが、それは結果的にわたしの助けにもなる。非常にありがたい。
「ありがとう……。タバサ……」
だからわたしはそれを言葉にして表した。自分を助けてくれるものは素直に感謝するのは当然のことだ。
ただし、ツェルプストーは例外だ。感謝なんかするもんか。


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