ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は天国への扉を静かに開く-3

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匿名ユーザー

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ルイズの案内で食堂に至り、何か食べるモノはないかと厨房を覗いたら、すぐそこにメイドがいたのだ。
彼女の姿を確認した露伴の行動は素早かった。
即座に詰め寄り、ただ一言。
「母乳を飲ませてくれ。必要なんだ、それだけ大きければ出るだろう?」
「えっ? えっ? えっ???」
「このっ、バカッ! ちゃんと赤ちゃんのためにって言いなさいよ! それに子供もいないのに出るわけ無いでしょうが!」
メイドに迫る露伴の背中をぽかぽかと叩きながらルイズは言うが、露伴はそれに全く取り合わずに言った。
「何を言っているんだ。母乳は体質的なモノもあるからね。もちろん子供が出来ればホルモンバランスの影響で出やすくなるが、そうでなくても出る人はいる。それで君はどうなんだい?」
この辺りでようやく露伴の言っている意味が理解できたメイドは、顔を真っ赤にして俯いて、ただ一言。
「す、すみません………その、わたし、出ないです」
明らかに悪いのは無理矢理詰め寄って問いつめる露伴なのだが、それでもメイドは謝った。


「まぁっ、それではロハンさんと一緒にこの赤ちゃんまで来てしまったと言うんですか?」
「Exactly」
「……はい?」
「いや、なんでもない」
その腕に静を抱いて、皿からシチューをすくって飲ませている。
名前はシエスタというらしい。
聞いたところに依ると、歳は17、学園に奉公に来ているとのことだ。
露伴の脈絡のない先制攻撃に、激しく動揺していた彼女だったが、ルイズの説明の甲斐あって落ち着いて、夕餉の残りを差し出してくれた。
「生後半年ほどでしたら。そろそろ離乳食を始める頃ですね。これくらいのシチューなら少しずつ飲ませられますよ」
鍋からシチューをよそい、煮沸消毒した皿とスプーンで静にシチューを飲ませるシエスタ。
具はとてもよく煮込まれていたが、それでも静が食べるには大きい。
それをシエスタはスプーンで入念に潰し、ドロドロにして静に与える。
「やっぱり離乳食飲み慣れてるみたいですね。凄い食欲……」
「んまっ………あっ、だー。あぶ、あー」
シエスタの言葉に、静はもっと欲しいと催促するかのように喋った。
「はいはーい、シズカちゃんごめんなさいねー。いまあげますからねー」
「手慣れたモノだね」
慣れた動作で静にシチューを与えるシエスタに、露伴はルイズと揃って見入っていた。
「えぇ、私の実家は家族が多くて。弟や妹の世話をしていたんですよ」
「そうか、いやぁ助かる。あいにくぼくには赤ん坊の世話をしたことが無くてね」
「だからといって『母乳を飲ませてくれ』は無いでしょ。『飲ませてくれ』はっ」
いけしゃあしゃあと言い放つ露伴にルイズが突っ込むと、シエスタはさっきのやり取りを思い出して頬を染めて俯いた。

「仕方ないじゃないか。万が一と言うこともある。やはり赤ん坊には人肌の母乳が一番だろう? それを考えると乳母をしてもらうのが一番じゃないか。それに出なくても『吸う』と言う行為だけでも気が紛れるらしいからな」
「『吸う』って…………」
「もちろん本当に出ることに越したことはない。それにもし出るようであればぜひぼくにも味見させて欲しかったんだがね。味がわかればよりいっそうリアルな書き方が出来るようになるからな」
味見、の意味する行為にシエスタどころかルイズの顔も真っ赤になる。
「こ、こ、こ、こ、この変………」
「変態? 貴様この岸辺 露伴を変態呼ばわりする気か!? この岸辺露伴が下心が理由でそんなことをするとでも思っているのかァーーーーーーッ!」
露伴の大声にビックリしたのはルイズだけではなかった。
当然の如く静がビックリして泣き出してしまった。
「あぁ、すまない、ついかっとなってしまった。ほんとにすまない」
「いえ……」
シエスタから静を受け取り、露伴があやす。
シエスタは立ち上がり、新しいスプーンを取りにいった。
露伴の大声でスプーンを落としてしまったからである、落としたスプーンは使えない。
「よーしよしよしよし。ビックリさせてしまったね。大丈夫。怖くないぞ。全く困ったお姉ちゃんだねぇ……」
「ちょっ、あんたがっ」
自分のせいにされてルイズがさすがに抗議しようと立ち上がるが。それを露伴に制される。
左腕で静を抱き、その右手の人差し指だけを立てて、己の唇に当てる。『静かに』というジェスチャーである。
見ると、その腕に抱かれた静のめがとろんとしていて、今にも閉じてしまいそうである。
「あぁ、もうお腹一杯みたいですね。後は背中を軽く何度か叩いて空気を吐き出させて上げてください」
新しいスプーンを持って帰ってきたシエスタの言葉に従い、露伴は静の背中をポンポンと叩いた。
「けぷっ」
可愛らしい声を上げて静が空気を吐き出した。

「はい、それで大丈夫ですね」
すこし湿らせた布でシエスタが静の口の周り、すこし零れたシチューを拭き取ってやる。
「御馳走様」
「御粗末様でした。今後赤ちゃんの分が必要でしたらいつでも申しつけてください。マルトーさんにも掛け合っておきますので」
「あぁ、本当に助かった。ぜひお願いするよ」
露伴はそうシエスタに例を言うと、腰を上げた。
そしてルイズもガタリと椅子を弾くように立ち上がる。
「食べ終わったら帰るわよ。いつまでもメイド捕まえてちゃ迷惑になるでしょ」
「迷惑だなんてそんな……私たちは貴族の方々のお世話をするためにこちらにいるのですから、どうかお気遣い無く」
シエスタの言葉を無視してルイズは厨房を出る。
「あの……何かわたし粗相をしてしまったのでしょうか……」
ルイズの些細な仕草からシエスタは何かを感じ取ったのか、不安げに露伴を見上げる。
「気にすることはないだろう。貴族とは言ってもやっぱり子供だって言うことさ」
「………貴族の方にそのようなそのような接し方が出来るんですね、ロハンさんは……私達はとても……」
「世界観の違いだろうから気にすることでもないと思うがね。けれどあまり卑屈になることもないと思うぞ」
露伴がそう言ったところで、ルイズが大声で呼ぶ声がする。
「おっと、ご主人様が怒髪天だ。それじゃまた、おやすみ、シエスタ」
「おやすみなさいませ。ロハンさん」


ルイズの部屋に戻ると、二つの月明かりが部屋を淡く照らしていた。
「さっきは気付かなかったが、ずいぶん明るいんだな」
「……いつもこんなもんよ」
相変わらず不機嫌なようだ。静が眠っているため怒鳴ったりするのは抑えているようだが。
「………何をしている」
マントやシャツ、スカートを脱いでネグリジェ一枚になるルイズを見下ろしながら露伴は訊いた。
「何って……もう寝るから着替えてるのよ」
「男の前で着替えて恥ずかしくないのか?」
「は? あんたは使い魔でしょ。使い魔に見られたってどって事無いわよ」
(なるほど、使用人扱いか? しかし使用人の前で肌を晒すのはアリなのか、興味深いな……)
「ところでぼくは何処で寝れば良いんだ? そのベッドを半分使っても良いのかな?」
「そんなわけっ………んっ、そんなわけないでしょ」
露伴の言葉に大声を出しそうになったが、静が眠っているのを思い出して思いとどまる。
(こいつつくづく人をおちょくるような発言するわね……後でビシッと躾ておくべきかしら……)
床にもっそりと積まれた藁束を指差して。「あんたは床」と言った。
(躾るにしても……食事は………無理ね。ご飯抜いても結局シズカのご飯のために厨房に行くし…………ふぁ)
一つ大きなあくびをして、ルイズはベッドに完璧に横になった。
「あぁ、そうそう。それ、明日洗濯しておきなさいよ……シズカのご飯も払うのは私な…ん…だか……ら……」
疲れていたのだろう、テーブルの上に乗せたシャツ、スカート、下着を指しながら徐々にフェードアウトしていく。
「ところでルイズ、君は寝相は良い方か?」
「様……を付け……貴族……たる……も……寝る…とき……優雅…………すー」
最後まで言うことなくルイズは静かな寝息を立て始めた。

藁で眠るのは、まだ良いとしよう。
けれど静のことも考えて欲しいものだな、赤ん坊だぞ?
やれやれと軽く溜息をつきながら、露伴はルイズのベッドの上に静を寝かせる。
「んむ……あ、ぁー……」
静の柔らかい頬をぷにぷにとつつくと、嫌そうに唸った。
「まったく……些細なことで癇癪を起こす。コレだから生意気なガキは嫌いなんだ」
そう言いながら露伴は窓枠に近づき、二つの月を見上げる。
「少しくらい康一くんを見習って欲しいくらいだ」
小さく呟きながら、露伴はすこし年下の『親友』を思い出す。
あの世界は、大丈夫だろうか……。
『吉良』の脅威はまだ消えていない。
『シンデレラ』の辻 彩を殺害し、他人の顔を奪ってまんまと逃げた『吉良』は今もまだ隠れ潜んでいるだろう。
「やはり………赤ん坊だけじゃなくてぼくも早く帰らないと行けないかな……」
マンガのネタとして最高の素材を得るチャンスなのはわかっている。
しかしそれでも吉良の脅威を忘れていられるほど露伴は非常ではない。
「帰る方法……か……」
幸せそうに眠っているルイズへ視線を向ける。
「なんとしても、探してもらうぞ。ルイズ・フランソワーズ……」


そしてゆっくりと夜は更ける。

翌朝、露伴はルイズの絶叫によって目を覚ました。


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