ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は手に入れたい-17

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匿名ユーザー

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予想通りコルベールはルイズに教室の片づけを命じた。
ルイズが掃除をするということは必然的に私も掃除をすることになる。やはり巻き髪に制裁を加えておいてよかった。ああ、髪が燃えたからもはや巻き髪でもないか。
掃除は燃えた机の取替えや、煤の取り払い、火を消すため使われた『水』の魔法で水浸しになった床を拭くことだ。
勿論魔法なんか使わない。全部手作業だ。
別にコルベールは魔法を使ってはいけないとは言っていない。
だがルイズは魔法を使えないので意味は無い。
だから地道に手作業で掃除をしなければいけなかったわけだ。
ルイズが私だけに任せず必死に掃除していたのには地味に驚いたがな。
もうルイズがどんな奇行をしても驚かないと思っていたが、こんなのありえねえ、と思う行動には驚いてしまうものだ。
それでも掃除は夜まで続いたが。
歩くたび自分が疲労しているのがわかる。ルイズの顔にも隠しきれない疲労感が見えている。
部屋に帰る途中でふと『キラークイーン』のことを思い出し頭から消し去るように頭を振る。
結局私は『キラークイーン』について考えることを放棄したのだ。
思考を放棄したのは簡単な理由だ。考えてはいけない。不意にそう感じたからだ。それもいくらかの危機感を伴って。
『キラークイーン』について深く考えてはいけない。『キラークイーン』の考えれば考えるほどそう思ってしまうのだ。
私はその直感にしたがって思考を放棄したのだ。
『キラークイーン』は他人には見えない私のもう一つの右腕。それだけで十分だ。
何故こんな力が私に宿っているか、勿論推測はある。
おそらく生前の私の力なのだと思う。生前は超能力者だったのかもしれない。その程度の推測だ。
そしてそれ以上考えようとするとやはり、考えてはいけない、と感じてしまうのだ。
おそらく、おそらくだが生前のことをそれ以上考えることは、自身の存在を揺るがしかねないことなのかもしれない。
私はそれを無意識に知っているからこそ考えてはいけないなどという直感を感じるのだろうし、それに素直に従うのだろう。
私が私であるためには決して自分の存在が揺らいではいけないのだから。
生前の記憶がもし全て戻ったとしたらそれは私といえるのか?
昔そんなことを冗談交じりに考えていたことを、ふと思い出した。

部屋に戻るとルイズはベッドに座り込んだ。私は椅子に座る。
座りながらもうすぐ寝る時間だというのを思い出した。ルイズの着替えを取らなければいけない。
それを思い出し椅子から立ち上がり、クローゼットへ向かう。するとルイズがシーツを手に握り立ち上がる。なんだいったい?
その場で立ち止まり黙ってその光景を見守る。ルイズは手に握ったシーツを天井から吊り下げ始めた。シーツはまるでカーテンのようにベッドの上を遮る。
ルイズはそれが終わるとベッドから下りクローゼットへ向かった。
そして着替えを取り出すと再びベッドの上に戻りシーツのカーテンの中へ入っていった。
そのあとゴソゴソと着替える音が聞こえてきた。どうやらまた一つ仕事が減ったようだ。それを確認しながら再び椅子に座った。
しかし自分で着替えまで用意するようになるとはね。もしかしたらこっちが男だということを意識し始めたのかもしれない。
男に着替えさせられたりするのは恥ずかしいことだろう。
こっちは別にルイズの裸なんぞ見てもどうとも思いはしないがな。出るところも出てないし。キュルケなら大喜びだが。
まあ、問題はそこではない。今考えるべき問題は今夜もベッドで寝られるかどうかということだ。
二晩も続けてベッドで寝られるという保証は無い。昨日だけの気まぐれかもしれないのだから。
ルイズが着替え終わるまで椅子の上で待つ。
そしてシーツが外される。そこには着替え終わりネグリジェ姿になったルイズがいた。
シーツを外したルイズは髪の毛をブラシですきはじめる。そんなことしなきゃならないとは女は不便だな。
そういえば髪の毛が伸びたな。幽霊のときは伸びなかったのに。
やがてルイズは髪をすき終わったのかブラシを片付ける。
はてさて、ベッドか否か。
ルイズは、ベッドに横になった。杖を振り魔法のランプの明かりを消す。
どうやら今日はベッドで眠れないらしい。仕方ない、『女心と秋の空』とことわざもあるしな。『男心と秋の空』というのもあるらしいが。
さて私も寝るとするか。硬い床でな。
そう思いながら椅子から立ち上がる。そしていつも寝る床に向かおうとすると突然、
「パフォ!?」
何か柔らかいものが顔に当たった。何だいったい?
顔にあったものが床に落ちる前に腕で受け止める。私の顔に当たったそれは枕だった。何故枕が私の顔に?
「その枕持ってこっちに来なさい。ベッドで寝ていいって昨日言ったじゃない」
ルイズが突然そんなことを言い放った。これからは毎日ベッドで寝られるかもしれないな。
そんな希望を感じながらベッドの端にもぐりこみ毛布を被った。
「ねえ、ヨシカゲ」
寝ようとしたところをルイズが話しかけてくる。五月蠅いな、早く寝ろよ。
しかしそんなことを思っても口には出さない。機嫌を損ねてはベッドで寝られなくなる可能性が大だからだ。
「なんだ」
「ごめんね、勝手に召喚したりして」
「……」
「わたしが召喚しなければヨシカゲは死に掛けたりしなかったのに」
「生きているんだからそれで十分だ」
ルイズの言葉に適当に返す。
まあ、勝手に召喚したことを悪いと思っているというのには驚いたが。
「ヨシカゲ。あんたそのニホンとかいう故郷に戻りたい?」
「いや、別に暮らせれればどこだろうと構わない」
別の世界だからな。帰れる保証なんてない。帰りたいとも特に思わないしな。『幸福』になれるなら場所なんてどこでもいい。
惜しいのは音楽と本くらいだが、この世界でも代用は見つかるだろう。
「あんたたちの国って……、魔法使いがいないのよね」
「ああ」
ルイズがもぞもぞ動きながら聞いてくる。動くなよ、うっとおしい。
「荷車も船も『エンジン』とかいうあれで動いてるのよね」
「……ああ」
あれってのはコルベールが作った装置のことだろう。違うが間違ってはいない。
「ヘンなの」
「そうか」
「あんたってそこで何をしてたの?」
「……会社員だ」
これが一番無難なところだろう。
「会社員って、なに?」
「働いて、給与を貰う者の総称だな」
「ふぅん」
もう終わりか?答えるのも面倒くさいし早く寝たいんだが。
「よく、わかんないけど。あんたはそれで満足してたの?」
「満足?」
「あのね、わたしね、立派なメイジになりたいの。別に、そんな強力なメイジになれなくてもいい。ただ、呪文をきちんと使いこなせるようになりたい。
せめて、みんなができることを普通にできるようになりたいの。それだけでわたしは自分が好きになれるわ。それだけで満足した将来を死ぬまで過ごせる」
ルイズの顔は見えない。しかしそれがどれだけ真剣な願いか、どれだけ魔法が使えるようになりたいと思っているか。
それはその言葉を通して伝わってきた。
しかし私には別にルイズが何をどう思っていようが関係ない。
「ヨシカゲはその会社員っていうのになって満足だったの?自分が好きでいられたの?」
「……私は満足したいから働いていた。自分が好きかどうかなんて考えたことも無い」
「……そっか」
それからルイズから何も言葉は来なかった。
偽ったつもりはない。さっきのが正真正銘の本心だった。本心を言った理由は簡単だ。隠す必要が無い。それだけだ。
そう、私は『幸福』になれるかもしれないという希望を追って仕事をしていた。
それはルイズがいう『満足』に言い換えれば、満足するために仕事をしていたということだろう。
実は私とルイズは少し似ているかもしれない。そんなありえないことを頭に思い浮かべながら私は眠りに落ちた。


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