ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-20

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夕方になり、ワルドとギーシュが女神の杵に戻ってきた。
ギーシュは、あっちを見てこいこっちを見てこい等と、一日中こき使われたらしい。
「魔法衛士隊は、ばけものだ…」
酒場のテーブルでへばっていたギーシュが、そう呟いた。
「馬鹿ねえ、朝は『魔法衛士隊隊長のお供が出来るなんて幸せだ!』とか言ってたクセに」
「ううう…」
キュルケに言われても何の反論も出来ない、それを見たタバサは相変わらずパジャマ姿のまま読書していた。

しばらくしてから、ワルド、ロングビル、ルイズも酒場へ集まり、明日の予定が話し合われた。
今日ギーシュとワルドが交渉したおかげで、朝一番に出航する輸送船でアルビオンに行けることになった。
明日は朝が早いので、遅れたら置いていくと語るワルドに、ギーシュは今日何度目か分からない冷や汗を流した。

そろそろ部屋に戻ろうと、ワルドが立ち上がった時に、酒場の外からガヤガヤと声が聞こえてきた。
ラ・ロシェールの町は宿場町でもあるので、夜中でも人通りはある、しかし何か雰囲気がおかしい。
ワルドに続き、キュルケとタバサもそれに気づいた。

次の瞬間、扉が吹き飛ばされ、軽装鎧を着込んだ男がルイズ達に弓矢を向けた。

突然の事に驚いたのはルイズ達だけではない、この酒場には他の客もいるのだ。
慌てて逃げようとした客達は、弓矢におびえてカウンターの下に隠れている。
ラ・ロシェール中の傭兵が集まっているのではないかと思えるほどの傭兵を前にしては、キュルケ達でも分が悪かった。

テーブルを盾にして矢をしのぎ、魔法で応戦していたが、どうにも勝手が悪い。
傭兵たちは魔法の有効な範囲になかなか入ってこない。
メイジとの戦いに慣れているのか、キュルケ達が応戦しているうちに射程を見極められているようだった。
他の客たちはカウンターの下で震えているのが見える。

「参ったわね…」
ロングビルの言葉に皆がうなずく。
「いいか諸君、このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ成功とされる」
非常事態にもかかわらず本を読んでいたタバサは、ワルドの言葉を聞いて本を閉じた。
そして、ワルドとルイズとロングビルを指さした。
「桟橋」
そしてキュルケと自分とギーシュを指さし
「囮」
と呟く。
ワルドがタバサにタイミングを尋ねると、タバサは今すぐと答えた。
「聞いてのとおりだ。裏口に回る、行くぞ!」
ルイズははキュルケ達を見ると、キュルケはご自慢の赤髪をかきあげ、つまらなそうに唇を尖らせていた。
「危なくなったら逃げなさいよ!」
「何言ってんのよ、もう十分危ない目に遭ってるじゃない」
ルイズがキュルケを心配するが、キュルケは余裕の表情を崩さない。
タバサがルイズを見つめた。
「行って」
ギーシュも薔薇の形をした杖を手に持ちつつ、ルイズを見た。
「こ、これも姫様のため、そして友人のためさ!」
緊張か恐怖のあまり、微妙にろれつが回っていなかったが、そんな虚勢がルイズの心を解きほぐした。
「ねえ、ルイズ。勘違いしないでね?あんたのために囮になるんじゃないんだからね」
「わ、わかってるわよ、か帰ってきたら決着を付けるんだからね!」
ルイズはそう言ってから、キュルケたちにぺこりと頭を下げた。
そんなちぐはぐな態度がおかしくて、震えていたギーシュにも少し余裕が戻る。

ロングビは転がっていた椅子をバリケード状の金属板に練金し、ワルドとルイズを連れて裏口へ急いだ。
通用口から出る頃には、酒場から爆発音が聞こえてきた、陽動が始まったのだろう。
「……始まったみたいね」
先行するワルド、しんがりのロングビルに挟まれて、ルイズが言った。

裏口の方へルイズ達が向かったのを確かめると、キュルケはギーシュに厨房の油をもってくるように命令した。
「じゃあおっぱじめますわよ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ」
「揚げ物の鍋のことかい?」
「そうよ。それをあなたのゴーレムで取ってきてちょうだい」
「お安い御用だ」
ギーシュはテーブルの陰で杖を振りワルキューレを出す。
ワルキューレは矢を体にめり込ませながら厨房に走り、油の入った鍋を運び出した。
「ギーシュ、それを入り口に向かって投げて」
そう言いながらもキュルケは化粧を直している。
「こんなときに化粧するのか。きみは」
呆れ気味のギーシュがワルキューレを操り、油を酒場の入り口に向かって投げる。
「だって歌劇の始まりよ? 主演女優がすっぴんじゃ、しまらないじゃないの!」
まき散らされた油に向かって、キュルケは杖を振る、油は一気に引火して、酒場の入り口とその周辺に炎を振りまいた。
「花びら」
タバサが短く言うと、風の呪文を詠唱して床に風を起こす。
ギーシュは言われるままに、薔薇の形をした杖から花びらを放ち、風に舞わせた。
「練金」
タバサの指示にハッと気づいたギーシュは、花びらを油に練金する。
色気たっぷりの仕草で呪文を詠唱するキュルケが、再び杖を振るう。
タバサの風が花びらを巻き込み、花びらは油となる、そこにキュルケの放った火球が混ざり、地面を炎が覆い尽くした。
炎は酒場の外にいるる傭兵達にまでからみつき、つい先ほどまで統制のとれていた傭兵達は、一瞬で混乱状態に陥った。

ギーシュは驚いていた、キュルケとタバサの使った魔法はごく基本的な魔法だ。
しかし、火、油、風の三つが、酒場の外を覆う傭兵達を混乱させ、何割かを戦闘不能に陥いらせている。
ルイズは自分の失敗魔法をコントロールすることで、ギーシュとの決闘に勝った。
ギーシュは使い方次第で驚くべき効果を発揮する魔法と、それを効果的に操るキュルケとタバサに尊敬のまなざしを向けた。
そして、自分の無知を恥じつつ、ルイズの無事を案じていた。

その頃ルイズ達は桟橋へ向けて走っていた。
とある建物の間にある長い階段へと駆け込み、脇目もふらず駆け上る。
長い階段を上りきって丘の上に出ると、そこに生えた巨大な樹が四方八方に枝を伸ばしていた。
山ほどもある樹の枝に、船が吊されているのを見て、ロングビルは「急ぎましょう」とルイズに言う。
この樹は内側が空洞になっており、いくつかの階段があった。
ワルドが階段にかけられているプレートから目当てのものを探し、そこを駆け上がる。

途中の踊り場で、ルイズは後ろから近づいてくる何者かの気配に気づいた。
後ろを見ると、ロングビルの後ろに黒い影が近づいている。
ばっ、とロングビルとルイズの頭上を飛び越して、その影はルイズの前に立った。
「ヴァリエール嬢!」
ロングビルの声に反応したルイズが、後ろに飛ぶ。
男はルイズを捕まえようとしたが、ルイズが予想外の反応速度で跳んだのでからぶってしまう。
その隙にロングビルが仮面を付けた男の足下を練金し、足を鉄で拘束する。
「行きなさい!」
ロングビルが叫ぶ、ルイズは無言で頷き、仮面を付けた男の脇を走り抜けようとした。
男は杖を振り呪文を唱えたが、それより一瞬早くルイズの周囲に金属のドームが作られた。
仮面の男が持つ杖から電撃が放たれたが、ドーム状の金属に吸収されて、あっけなく霧散してしまった。

仮面の男は、ロングビルを見た、いや、仮面に隠されてはいるが、その目は明らかにロングビルを睨んでいるのだと分かる。
「土くれのフーケ…貴様、裏切ったか…やはり盗賊は盗賊だな」
「ふん、あんたが何者なのか知らないけどね、あたしは一匹狼が似合ってるのよ」
そう言いながらロングビルは男の周囲を練金し、男を土で包み込んだ。
「貴様!後悔することになるぞ」
「おあいにく様、狙われるのは慣れっこよ」
男は、ベキベキベキベキと嫌な音を立てながら、土の中に消えた。


「ふう…あたし、何やってんだろ」
そう呟くロングビル…いや、土くれのフーケの表情は、貴族をからかっていた時の笑顔とはまるで違う、和やかなものだった。

「まったくだな」
「!?」
ロングビルは、背後から突然聞こえた声に驚いた。
慌てて後ろを振り向くと、そこには今死んだはずの、男が杖を向けていた。
呪文を詠唱する間も無いと悟ったロングビルは、踊り場の窓を突き破って外に飛び出す。
フライの呪文で体勢を立て直そうとするが、仮面の男はそれよりも早く外に飛び出て、ロングビルに杖を向ける。
「『ライトニング・クラウド』!」
バチン、と男の周囲で空気が弾ける音が鳴り、次の瞬間、ロングビルの体を電撃が走っていた。
「ッあああァァあァアアあッ!」

電撃による衝撃で意識を失い、ロングビルは地面に落ちるかと思われたが、仮面の男はロングビルをゆっくりと地面に着地させた。
そして、ふと『女神の杵』の方を見る。
既に傭兵達を倒したであろう三人が、ロングビルの後を追ってくるのは想像に難くない。
仮面の男は、懐から掌に収まる程度の箱を取り出すと、うつぶせに倒れたロングビルと地面の間に挟み、短く練金の呪文を唱えた。

小さな箱から、カチリ、と不吉な音が鳴った。

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