ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

みんなだいすきツェペリ魂

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 深い朝靄の中、彼は思い出していた。
荒れた少年時代。残酷な運命。一族の使命。
捨て鉢だった少年に宿った、ただ一つの誇りを。

 水のせせらぎだけが聞こえる中、彼はある光景を思い浮かべた。
敬愛する師との日々。瓦礫の中で立ちはだかる仇敵。そして戦友へ託した未来。

 さらさらと流れる小川の上を歩きながら彼は考えていた。かつての使命と――、これからを。

 かつて彼は仲間たちと共に戦っていた。
名誉や地位、褒賞に賛美…そのどれも求めず、ただ人類の脅威に戦いを挑んだ。
彼らは特別な力も持たず、『生命の限り』を尽くして強大な敵に立ち向かった。
多くは命を失い彼もなるべくしてそうなったが彼らは運命に引き込まれたのではない、
勇気と意思を持って立ち向かった『使命』それこそが彼らの誇りであった。

 体は覚えていた。命の限りを尽くした死闘の結末を。
心は覚えていた。燃やし尽くした魂の絶叫を。
誇りには刻まれていた。――完全な敗北を。
彼の全てが、終わったのだと自覚していた。
 ―――ではこれからは?
友と師、生と使命、それらを失った自分は、どうすればいい?
あの時を続けるために彼らを元へ戻る、どうやって?
何もかも終わってしまったのではないか?戦いも、命も。
そもそもここは『どこ』なのだろう?夢?異時空?異世界?死後の世界?
喪失感と無力感、焦燥感の中で精神がぐるぐると回りだす。

 ―――しかし。
一つだけ確かなことがある。
それは「ここが『どこ』であろうと今自分が命あること」。今はそれだけが彼の顔を前に向かせる。
命ある限り未来に向かうこと。それこそが生命の使命なのだから。
後の者に意志を繋げることこそ「命」の意味なんだと彼は考える。

 何にせよ情報が足らない。先立つものも人脈も足らない。
まずはこの不可解な場所で活動できるようにしなければならない。
これからどうするか決めるのは、それからでも遅くはない。
山吹色の光が決意に満ちた彼と水面を一層まぶしく照らし影に光が差し込み――、

 黒髪のメイドと目が合った。洗濯物を落としたまま固まっている。

 メイドと水の上に立つ男がアホな顔して見つめあう。
悠久の理に従い、日はまぶしく照らし、風はさわやかに吹き、川は浮かぶ男ともに流れる。
男が下流へと沈み始めると共に『時』は動きだす。

 シーザーは初っ端から死にたくなってきた。

第一章 波紋の意味

 ~みんなだいすきツェペリ魂~

「申し訳ありません…」
「いや…こっちも、驚かせてすまない…」
それっきり二人は黙り込んでしまった。

 あのあと――正気に戻ったメイドが慌てて下流へ走り橋を三個越えたところで見失うも
やけに泡立っている柵に引っかかったバンダナを見つけて引っ張るが予想外に引き絞られた
シーザーの肉体の重さに細腕では引き上げることは叶わず辛うじて頭部を何度も引き上げ沈めを繰り返し
それを見た小太りの貴族がメイドが私刑執行しているさまに奇声をあげ慌てたメイドが手を離してしまい
半端に勢いがついたので引っかかりが外れ完全に沈んで流れていったところを
誰かの使い魔のサーペントが食事にせんと全身に絡み付いて締め上げ空腹な使い魔の灰色熊が
沈んだシーザーをメメタァして餌をとられると思ったサーペントと灰色熊が一大決戦をおっぱじめ
締め技を解かれた隙に流れて浅瀬にたどり着いたところで――
ようやく正気を取り戻したシーザーがほうほうの体で洗い場へと戻ってきた。
 胸部打撲。鎖骨下静脈から内出血。左第五六、右第六七肋骨骨折。右上腕骨折。右遠位手根骨(小菱形骨ならびに有頭骨)粉砕骨折。重傷である。

 幸い折れたての骨は波紋で治療できたが、根本である体力は何故か大きく減少し
未だ回復せず肩で息をする瀕死のシーザーと、怯え気味のメイドはそうして黙りっきりであった。
「(まぁ川に浮かんで立つ男を見て、それが沈んで瀕死の状態で戻ってきたら俺でも嫌だがな)」
むしろそのまま沈んで藻屑へと化した方がトラウマにならないだろう。
チラチラ様子を窺いながら怯えている幼い顔を見てシーザーはそう思った。
「(というか何してたんですか?と聞かれたらどう答えればいいんだ)」

 昔を思い出しつつ敬愛する師より学んだ訓練を行っておりました、川を浮かび歩きつつ。

 間違いなく隔離病棟行き、何とか誤魔化しても情報を得られる機会は得られはしまい。
せっかく右も左もわからぬ地で活動しようと決意したのだ、シーザにとってそれだけは
勘弁してほしいところだ。
「(しかし…だからいってこちらがカードを切るわけには)」
ここどこですかなんて聞いた日にゃ今の彼女では間違いなく不審に思い余計
怯える可能性がある。混乱させたまま尋問するのも一つの手だが友好関係を
築きたいシーザーにとってそれは選択肢にもならなかった。
「(じゃあ世間話か?)」
できる状況ではない。加えてこちらの常識も把握していないのにそんな行動を
とったら失敗を招き余計に混乱させかねいし、年下らしき相手にイニチアシブ
を取られるという状況はシーザーにとって慣れていない状況だ。
そもそも異世界なんてすっ飛んだ状況がありえないのだが。

「(まずいぞ…手詰まりじゃねぇか)」
 シーザーは切羽詰った思考を整理し、できる行動を判断していく。
「(向こうが立場上圧倒的有利、しかし相手が萎縮しているので
  向こうから攻め込まれる確率が限りなく低い。この場で友好関係は築けない、
  ならば今回はここがどこなのかそれだけを答えさせて撤退ってところだな)」
シーザーに最も望ましいことは、異邦者で敵意がなく友好的である、ということを
わかってくれればいいのだがその可能性は低いので排除していた。
「(もう少し余裕がある状況なら気のきいた台詞で突破して雰囲気を和ませるんだけどな)」
イタ公らしからぬ冷静な思考で玉砕覚悟のシーザーが口を開こうとした瞬間。

「あ、あの…」
予想だにしないメイドの奇襲。
爪先にナイフが刺さったようにシーザーはつんのめってしまった、内面だけだが。
なけなしの勇気を振り絞ったであろう少女を安心させる為微笑みを返し、
帰ってきたのはヒッという小さな悲鳴。
微笑みに対し悲鳴という反応にショックを受けたが、顔に出さず彼女からの返答を待った。
怯えきった少女が数秒ためらっていたが、意を決したように口を開いた。
「あ…貴方様は、貴族様であ、あらせられますか…?」

「あ?」
「す、すみません!!とんだご無礼をっ、お許しくださいお許しください!!」
何いってんだこのメスは、と思ったが慌てて平伏する少女を見てシーザーはようやく状況をつかんだ。
「(つまり彼女は自分の生み出した幻影に怯えている、というわけか)」
それは偏見だって常識だって妄想だって構わない。
人は未知のものに触れたときに恐怖または混乱し自分の中の知識を総動員して
それに対し予測して立ち向かう。
といっても冷静に分析できる人間なんて滅多にいるものではないのだが。
 ――戦いの思考その一。相手の立場を理解せよ。――

 同時にシーザーは自分も恐怖していたのではないかと考えた。
相手から情報を得ることを優先していたことで見失っていた会話の大前提を
ようやく取り戻した気がした。
 ――戦いの思考その二。恐怖を我が物とせよ。そのとき呼吸は乱れない――

 どんな形であれ会話し、信頼を得なければ未来へは続かない。
そのための一歩は失敗してでも踏み出さねばならない。
女性との会話に慣れているシーザーだからこそ失敗を恐れていたのだ。
「(なら、することは一つだな)」
ようやく自分を取り戻したシーザーは今の状況を打開するため腕を上げ、
「てりゃ」
軽いチョップを少女の脳天に叩き込んだ。
「ふみゃっ?!」
恐怖の表情から一転困惑へと変わった少女が顔を恐る恐るあげ、直後に畳み掛ける。
「君が何に恐れているのかもわからないし、君が誰なのかもわからない。
 それにここは何処なんだ、僕はなにもかも理解していないのに君が恐れる必要はないじゃないか、大体――」
ハト鉄砲くらったように呆けている少女にやさしく微笑みかけ自らを指差した。
「これが君がいうところの――、貴族に見えるかい?」
少女は目をぱちくりとさせたあと、我に返って深くお辞儀した。
「申し訳ありませんでした。わたし、シエスタと申します」
ようやく会話が始まる、シーザーはため息をついた。心の中でだが。


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