ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

風と虚無の使い魔-16

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匿名ユーザー

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女盗賊が投獄された地下の監獄。
杖もない、金属もない、身動きもとれないで脱出は不可能だと早々に決め付け、観念した女盗賊。
眠りにつこうと思っていた刹那、階段の上からコツコツと靴の音が聞こえてくる。
「『土くれ』だな」
男は低い声を出した。

「あんた、何者?」
フーケは男に問い掛ける。男は質問には答えずに
「再びアルビオンに仕える気はないか?」
「ふざけたことを言わないで、それ以上そんな話をするようなら助けに来てもらったところ悪いけど死んでもらうよ」
半透明で薄緑色のゴーレムのような物体が現れる。
「物騒だな、勘違いをするな。アルビオンの王家に仕えろと言っているのではない。あそこの王家はもうすぐ倒れる」
「バカどもがドンパチやってるらしいからね」
「その片方のバカの誘いだ。トリステイン貴族などという枠を越え、この世界を憂う貴族たちの連盟だ。目的はハルケギニアの
統一、そして最終的には『聖地』を奪還する。手始めにあそこの風石と造船技術を頂く。造船所のお上は掌握済みだ、
最後の詰めに、そしてこの先の夢をキャンバスに描くためにお前のような優秀なメイジが一人でも多く欲しい」
フーケは肩をすくめて笑う。
「バカ言わないで、夢は寝ながら描くものよ。私は貴族が嫌いだし、ハルケギニアの統一なんかには興味が無いわ」
男は更に低い声を出す。
「断っても構わん。牢獄に転がっている死体にまで頼むほど人材は足りていないわけではないからな」

フーケはため息をつく。
「なら最初からそう言いなさいよ」
「そうか、なら話は早い」
男はフーケに杖を投げつけ、衛兵から奪ったであろう鍵で扉を開け、拘束具を外す。
「好きに脱出するんだな、三日後にラ・ロシェールの『サンジェルマン』で待っている」

フーケは男に杖を向ける。
「あんた、私をバカにしてるんじゃないの?殺すなんて脅した後に杖を渡されてそのまま従うほど従順じゃないね。
『ジャッジメント』!」

フーケのスタンドが檻を破壊し、杖からは男に向かって石礫が飛ぶ。

しかし、そこに立っていた男はもう影も形もなく、今度は数人『その男』が階段から降りてくる。
「『土くれ』、なかなか頭の回転が速いが、相手の属性もクラスもわからないまま攻めるのは感心しないな」
数人の『男』が同時に同じ声を出し、エコーのように響く。男は重なり合い、一人になる。
「『偏在』かい、一瞬で消えたのは魔力温存のため当たる前に引っ込めたのかい?」
「『偏在』の部分はその通り」
「ずいぶんと余裕だね、偏在は偏在に重なれない、あんたが本体だってのはわかりきってるのにね!」

もう一度フーケは石礫を飛ばす。
今度こそ男の体を捉らえる。
そして、男の体は消える。
「なッ!これも『偏在』!?」

今度は一人増えた『男』が階段から降りてくる。
「どうだい、力の差というものがわかったかな?これで断るようでも、ここの裏に墓標くらいは立ててやる」
フーケは再度ため息をつく。
「わかったわよ、完全敗北ね。当面の間は大人しく従ってあげるわよ」
「そうか、ではラ・ロシェールでな」

男は重なり、今度こそ一人になり、そして、今度は一人も居なくなり、消えた。


 * * *


「で、ワムウ、わかってるの?ふざけたことしないで大人しくしてなさいよ?」
「ああ、大体わかった。この国の姫が学校の視察に来るのか、また騒がしくなりそうだ。俺は適当なところにいる」
「そうはいかないわよ、使い魔と主人は一心同体、あんたも出ないと失礼に当たるのよ」
「面倒だな」
「だから大人しくしてなさいって言ってるのよ」

ルイズはワムウに言い聞かす。
先ほどコルベールが珍妙な格好で授業に割り込み、姫殿下が行幸されると伝えて今日の授業は中止となった。

姫殿下が通過するというだけでその街道はさながらパレードで、近隣の一般人が多く集まっていた。
王室の紋章の入ったレリーフが街道に並べられ、ユニコーンの引く馬車の中からアンリエッタ姫が手を振る。

「トリステインバンザイ!」
「アンリエッタ姫殿下バンザイ!」
「マザリーニ枢機卿バンザーイ!」
「君に会えてよかった!」

脇の民衆から歓声が沸きあがる。

馬車は魔法学院の正門をくぐり、整列した生徒が一斉に杖を掲げる。
アンリエッタ姫が馬車を降りると、歓声があがる。姫は優雅に手を振る。

ワムウが呟く。
「あれがそのアンリエッタ、か」
いつもならば姫を呼び捨てにするなんてといってすごい剣幕でまくしたてるルイズだが、ルイズはその呟きには答えなかった。
視線の先には姫の近衛兵であろう羽帽子をかぶり、グリフォンにまたがっている貴族がいた。
ワムウは鼻を鳴らし、ルイズが見とれている隙に人ごみから抜け出していった。


 * * *


日も沈み、二つの月が部屋を照らす。
鍵をかけないことが暗黙の了解となっている窓が外から開き、ワムウがルイズの部屋に入ってくる。
てっきり、途中でいなくなったことについてなにか言われるとでも思っていたが、
ルイズは放心状態で入ってきたことにも気づかないようであった。
が、ワムウは気にも留めず、部屋に来る目的であった先日買った剣を拾い再度窓から出て行こうとした。
その時、ドアが規則正しくノックされる。
ルイズはハッとしたように立ち上がり、ドアを開ける。
そこには頭巾を被った少女が立っていた。

「静かに」
少女は呟き、杖を出す。
それを一振りすると光の粉が部屋に舞う。

「ディテクトマジック?」
魔法の正体にルイズが気づき、怪訝な顔をする。
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
と頭巾の少女は返事をし、頭巾を外す。

その少女は、昼間歓迎式典を行った相手である
「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」

アンリエッタ姫であった。
彼女は感極まったようにルイズを抱きしめる。
「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!私の友達のルイズ!」
「姫殿下、こんな下賎なところにお越しになられるなんて…」
「ルイズ、そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたにまでよそよそしい態度をとられたら、私死んでしまうわ!」
「ああ、そんな姫さま…」

二人は昔話に花を咲かせる。ワムウはそれをつまらなそうに眺める。

「……忘れるわけ無いじゃない、あの頃は毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんてなくって」
アンリエッタはため息をつく。

「姫さま?」
「あなたが羨ましいわ、王国に生まれた姫なんて、籠の鳥も同然…飼い主の機嫌次第であっちにいったりこっちにいったり…」
憂鬱げに外の月を眺め、呟く。
「ルイズ、私結婚するのよ」
「…おめでとうございます」
アンリエッタの陰のある言葉にルイズは手放しでは喜べなかった。

「…あら、そこに立っているのはどなた?」
アンリエッタはワムウに気づき、尋ねる。
「私の使い魔です、姫さま」
アンリエッタは感嘆の声を上げる。
「すごいじゃないルイズ、こんなすごい亜人を召還したなんて!あなたって昔から変わってると思ったけれど…
こんな使い魔みたことないわ!」
「そ、そんな…確かにすごいことはすごいですが私の命令に従うことなんて滅多に無くて…」
「そんな謙遜することないわよ」
「まだ数日しか立ってないのに決闘騒ぎに色々と言えない事まで…もし使い魔にするならイモリかこいつを選べと言われたら
迷わずイモリを選びますわ」
ルイズは憮然とする。それに合わせるようにアンリエッタはため息をつく。

「どうしたんですか姫さま」
先ほどからの過剰ともいえるおかしな様子にルイズが尋ねる。
「…いえ、なんでもないわ・・・ごめんなさい、あなたに相談できるようなことではないのに…」
「なんでもおっしゃってください、姫さま。そんな様子ではとんでもないお悩みを抱えているんでしょう?」
「いえ、話せません…悩みがあるなんてことは忘れてちょうだい、ルイズ」
「そんな、私を友達なんて呼んでいただいたのに、悩みを話せないのですか?」
ルイズは語勢を強める。
アンリエッタは嬉しそうに微笑む。
「嬉しいわ、ルイズ。今日初めて私を友達と呼んでくれて。わかりました、そこまで言うのなら話しましょう」

「外しても構わないか?」
ワムウは面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁だと思い、なおかつこの姫には大してよい印象を持っていなかった上での発言だったのだが
「あら、人語も介するのね!お気遣いは嬉しいけれども使い魔と主人は一心同体、外さなくて構いませんよ」
やんわりと一蹴される。

そして、静かに話し始める。
「これから、話すことは、他言無用ですよ…私はゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが…」
「ゲルマニアですって!あんな野蛮な成り上がりどもごときのうすっぺらな藁の家が深遠なる姫様の砦に踏み込んで来るのッ!」
ルイズが甲高い声をあげ、語を荒げる。
「ええ、でも仕方ないの…反乱を起こしたアルビオンの貴族がこのまま順当に王家を倒せば、トリステインに攻め込んで
くるでしょう……地理上は隣接しているようなものですし、ゲルマニアの軍事力は驚異的、ガリアとは政治的主張が
似通っています…あの反乱軍は腐敗した王家を倒すのが目的だといっていますが、その建前で同じような政治形態の
トリステインに攻めてくることはリンゴを幹から切ったら地面に落ちるくらい確実なの…
それで、軍事的庇護を受けるためにゲルマニアと同盟を結ぶのに私が嫁ぐことは致し方ないのです……」

アンリエッタは手で顔を抑え、下に向ける。

「そうだったんですか…」
ルイズは沈んだ声で言う。

「それで、礼儀知らずのアルビオンの貴族派どもは私の婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しているのです」
「…では、もしかして姫様の婚姻を妨げる材料があるのですね?」
ルイズはその意味を察し、尋ねる。
アンリエッタは悲しげに頷き、ひざまずき、顔を両手で覆う。
「おお、始祖ブリミルよ、この不幸な姫をお救いください…」

ルイズの顔は紅潮し、興奮した様子でまくしたてる。
「では姫さま!その婚姻を妨げる材料とはなんなのですか!」
アンリエッタは呻き声を出すように呟く。
「…私が以前したためた一通の手紙なのです…それがアルビオンの貴族派に渡れば、それをゲルマニアの皇帝に届けるでしょう」
「どんな内容なのですか?」
「それはいえません…ですが、それをゲルマニアの皇帝が読めば、この私を許さないでしょう。そうすれば婚姻は潰れ、
あのアルビオンの貴族派にトリステイン一国で立ち向かうことになります…それだけは避けなければなりません…」

ルイズはアンリエッタの手を取る。
「して、その手紙はどこにあるのですか?私、姫さまの御為とあれば鬼が島でもヒンタボ島でも夢見が島でも向かいますわ!」
「それが…現在火中にあるアルビオン王家のウェールズ皇太子が…」
「プリンス・オブ・ウェールズ?あの凛々しい皇太子様が…では、姫さま!この『土くれ』のフーケを捕らえた
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとその使い魔にその任務、お任せください!」
「ああ、そんな無理よルイズ!現在火中であるアルビオンに赴けなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」
「何をおっしゃいます! 姫さまとトリステインの危機とあらば、私見過ごすわけにはいけません!」
ルイズは強い意思を伝える。
「この私のためにそこまで言って下さるの!これが誠の忠誠と友情というものなのですね!ありがとうルイズ!」
アンリエッタは感涙したように眼を手で拭う。

ワムウが自分たちの言葉に酔っている2人の話に割り込む。
「俺も行くのか?」
「当たり前でしょ、連れて貰えないとでも思ったの?」
「断る。受身の対応者である悲劇の姫気取りの尻拭いなど俺がやるようなことではない」
ルイズは顔を紅潮させる。
「なななな、なに言ってんのよあんたは!すみません姫さま、私の教育が悪くて…」
「言った通りだ、若いとは言え姫なのだろう?心酔している者も多くいるようだしな。一国で事を構えられるだけの国力と軍事力を
整えるなり、アルビオンに介入して反乱の目を摘んでおくなり、開戦を察知して安全なうちに手紙を回収することもできた。
だが、それを怠ったのはお前の責任だ。結婚による同盟も一つの選択肢であることを割り切っているならともかく
敗戦が確実になるまで行動をおこさず、悲劇の姫を気取っているような奴にただで手を貸すほど暇でないんでな」
「ワムウッ!姫様になんたる失礼を!謝りなさい!」
「いえ、ルイズいいのです。彼の言うとおりです、これは私の責任です…ただで、とおっしゃいましたね?
ならば…母君からいただいたこの『水のルビー』を差し上げましょう。どうか、ルイズをお守りください」
アンリエッタは右手の薬指から指輪を引き抜き、ワムウに差し出した。
「そんな姫さま、畏れ多い…」
「ワムウッ!姫殿下になにをしたァーーッ!」

ギーシュが扉を開けて現れ、ワムウを怒鳴る。
すかさずワムウが殴り飛ばし、片方の手で指輪を受け取る。
「いいだろう、この依頼引き受けた。他言無用だったな?こいつは終了まで軟禁でもしておけ、なんなら証拠も残さず食うが」
ワムウの物騒な発言と拳を意に介さず、ギーシュはアンリエッタの前にひざまずく。
「姫殿下!その任務、どうかこのギーシュ・ド・グラモンにもお申し付けください!」
「あら、グラモンといえば…ワイルドキャット……じゃなくて…西部の投手でもなくて…」
「グラモン元帥の息子です、姫殿下!」
「知ってますわよぉおお!あなたも、私の力になってくれるとおっしゃるのですか!」
「ええ、もちろんです!加えて貰えるとしたらこれはもう望外の喜びに違いありません!」
「ではお願いしますわ、ギーシュさん」
ギーシュはひざまずいたまま深く礼をする。

「では、明日の朝に出発してください。貴方たちに始祖ブリミルのご加護かありますように」

 * * *

ラ・ロシェールの『サンジェルマン』。
一人の男と一人の女。

「…それで、お前には『女神の杵』亭を襲ってもらう。狙いはワルドとルイズ以外…たぶんあの使い魔だけだろう、その殺害だ」
「使い魔一人殺すのに私を使うのかい?自分を過信してるわけじゃないが、随分無駄な使い方だね」
「あの使い魔を舐めるな、『ゼロの使い魔』だ、なにが起こるかわからん。それにお前一人だけではない」
「やれやれ、あんたは敵の実力を過信しすぎじゃないか?まあ、軍人なんてのはそれがお似合いなのかもしれないけどね
せいぜい丘の向こうの見えない敵に怯えてな。それで、私以外に襲うのはどんな連中なんだい?」
「お前と同じ貴族くずれのメイジだ、『同じ』、な。報酬の先払い分だ」
女は報酬の袋を開け、中身の量をみて驚く。
「使い魔一人殺すのにこんなに金を積むなんて、軍人の貴族さんは違うわね」
「相方も同額だ、文句は無いだろう。それに、戦争と暗殺と人脈に金を惜しむほど馬鹿なことはない。
コストパフォーマンスを考えればお前たちの力量ではむしろ割安だ」

フーケは袋をしまい、話を再開する。
「で、その相方とはいつ落ち合えるんだい?」
「二日後の同じ時間で先ほど言った『女神の杵』亭で下見も兼ねてもらう」
「わかったわ、任務はワルドとルイズ以外の殺害ね、あんたの言うように好きなように暴れさせてもらうさ」
「暴れるだけなら相方の方が上だ、対象以外の尊き犠牲がどれくらいでるか…ああ、心が痛むな」
「心にもないことを、じゃあ私は行かせて貰うよ、ここの勘定も報酬に含めときな」
女は店を出、扉の鈴が鳴る。

残された男は呟く。
「ふむ、勘定か。やれやれ、自腹など払うのもな、俺への報酬とさせていただこうか」

男は、一瞬のうちに姿を消していた。


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