ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク 改訂版-07

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
7話

「……それで、生徒たちはどうじゃね?」
「既に眠りの鐘の効果は解けています。ただ……」
「ただ?」
「ギーシュ・ド・グラモンが昏睡状態です」
「……そうかね」

ロングビルの報告を受けたオスマンはそれだけ言って、深いため息をついた。
その横にいるコルベールもいつになくこわばった表情をしている。

『間違っていたと分かった時には全てが手遅れでしょう』
コルベールが言っていた言葉だ。
まさにその通りだった。
ギーシュはあの亜人の手にかかり、未だ意識不明の状態。
幸い怪我などはないようだが、あったとしてもこの状態の前では全てが小事だったろう。

「それとオールド・オスマン。『眠りの鐘』を使用したのは誰か、と教師たちが騒いでおりますが……」
「いたずらネズミが宝物庫の中で鐘をひっくり返しでもしたんじゃろ。
 気にせんように言っておきなさい」
「かしこまりました」
「ああ、それとミス・ロングビル」
「何でしょう?」
「ミス・ヴァリエールを呼んできてくれるかね?」
「かしこまりました」

ロングビルが学院長室を出ていくのを見届けて、オスマンは再度口を開いた。

「コルベール君。あの亜人は……『ガンダールヴ』だと思うかね?」
「どうでしょう。まだ力を隠しているようですし」
「と、言うと?」
「私から言い出しておいてこんな事を言うのもなんですが、『あれ』は武器を使っていません。
 ガンダールヴはあらゆる武器を駆使して戦い、1000人の軍隊を一人で壊滅させたそうですが、
 『あれ』は自分の肉体と技術だけで、7体のゴーレムを制圧しました。
 とはいえ技術だけでは到底1000人を相手にするのは不可能です。ゆえに……」
「自分が満足する程度のレベルで戦ったと、そういうことかね?」

オスマンがコルベールの言葉を引き継いだ。

「恐らくは」

それにコルベールは短く答える。

「ふうむ……」

オスマンは指を組んでため息をつく。

「コルベール君。軍隊が『壊滅する』とはどういうことを言うのかね?」
「軍隊の戦力としての無力化、および組織としての無力化がそれに当たりますが……まさか!」
「そうじゃ、コルベール君」

オスマンが重々しい口調で言う。

「軍隊は武力だけで壊滅するとは限らん。欺き、騙し、脅すことでも壊滅するのじゃよ」

そして、そのルイズの部屋では。

「ねえ、ホワイトスネイク……」

ベッドに腰掛けたルイズが遠慮のかかった声でホワイトスネイクに声をかける。
だがホワイトスネイクは返事をしない。
椅子に座ってギーシュから奪ったDISCを頭に差し、さっきからずっとその中身を見ているのだ。

「……あんた、一体何したの?」

再度ルイズが問いかける。
しかしホワイトスネイクは答えない。

「……へ、返事ぐらいしたって」
「スゴク『イイ』」
「……は?」
「私ガ全ク知ラナイ世界ノ記憶……スゴク『イイ』ナ。
 タッタ一人ノ記憶ナノニ、ソコカラ多クノコトガ読ミ取レル……多クノコトヲ学ベル……スゴク『イイ』感ジダ」
「あんた……何言って……」
「コレマデ私ガ見テキタ記憶ハ必ズシモ何処カデ他ノ世界ト明確ナ繋ガリガアッタ。
 シカシコノ記憶ニハソレガナイ。……ソレガスゴク『イイ』ンダ」

熱に浮かされたような口調で淡々と言うホワイトスネイク。
ルイズの言葉が届いているとは、どうにも考えにくかった。

「……オット、ココデ終ワリカ。100万倍速ダッタガ見タコトニハ変ワリハナイ……コレデヒトマズハ安心デキルナ」

ホワイトスネイクはそう言って頭からDISCを抜き取り、またそれを腕に差し込んで収納した。

「……あんた、ギーシュに何したの?」

またルイズが聞く。

「『記憶』ヲ奪ッタノダ」

心底面倒臭そうにホワイトスネイクが答える。

「『記憶』を奪う……って……」

ルイズの脳裏にある言葉が思い出される。

『オ前ガソノ半年ノ間ニ私ニ認メサセルダケノ者ニナッタナラ、オ前ノ勝チダ。
 ダガナレナカッタナラ……オ前ノ記憶ヲ貰ッテイクゾ』

『オ前ノ記憶ヲ貰ッテイクゾ』

『記憶』

「……ああっ!!」

思わず立ち上がるルイズ。

「思イ出シタヨーダナ」
「あんた、わたしにあんなことをする気で……」
「ソウナッタノハタッタ一ツノシンプルナ理由ノタメダ」
「何よ!?」
「オ前ハ私ヲ怒ラセタ」

あまりにもシンプルで、しかし重い言葉だった。
ルイズが何か言い返すには、重すぎた。

「……わたし、あんたが怖いわ」

ぽつりとルイズが呟いた。

「ギーシュがね、まだ目を覚まさないみたいなの。
 確かにギーシュはやり過ぎたわよ。ワルキューレを全部出して、その上あんなに武装させて……。
 でも、別にここまでしなくたって」
「ソンナノジャアナイ」
「どういうこと?」
「私ハ決闘スルト決マッタ時カラ、アノ小僧ノ記憶ヲ奪ウツモリダッタ」
「じゃ、じゃあ最初にギーシュにいちゃもんつけられたときから怒ってたってこと?」
「ソレモ違ウ。決闘ハタダノキッカケダ。
 決闘ガ起キナカッタトシテモ……私ハ他ノ誰カカラ記憶ヲ奪ッテイタサ」
「な、なによそれ……。っていうか、あんた、知ってるんじゃないの?
 記憶を奪ったら、どうなるかって!」
「記憶ヲ奪ワレタ者ハ生キル目的ヲ失ウ。
 ソレト並行シテ全身ノ筋肉ハアットイウ間ニ衰エ……ソシテ死ニ至ル」

こともなげにホワイトスネイクは言ってのけた。

「そ、そんな……じゃあギーシュは!」
「ソノウチ死ヌ。コノ世界ゴ自慢ノ魔法ガイツマデ持タセラレルカハ分カランガ、1週間持テバイイ方ダローナ」

そう語るホワイトスネイクの口調には、何の深刻さもなかった。
「明日は雨が降るだろうな」とか言うのと同じぐらいに軽かった。
そのことに、ルイズはゾッとした。

「あ、あんた、一体何やってるのよ……早く、返さなきゃ!
 ギーシュの記憶、まだあんたが持ってるんでしょ!」
「……」
「なにボケっとしてんのよ! 早く行くのよ! 行かないと……」
「ドーモ、オ前ハ勘違イシテルラシイナ……」
「……え?」
「オ前……私ノコトヲ『実はいいやつだ』トカ思ッテナイカ?
 アルイハ『本当は話の分かるやつだ』 トカ思ッテナイカ?」
「ど、どういうことよ!」
「オ前ハ甘ッチョロインダヨ、ルイズ」
「なっ……」

うろたえるルイズを前にホワイトスネイクは立ち上がり、さらに言う。

「私ガ何ヲシタト思ッテイル? 『記憶』ヲ奪ッタノダ。
 奪エバドーナルノカ、全部承知ノ上デヤッタンダ。
 ツイデニ魔法ノ才能ダッテ奪ッテヤッタ」
「さ、才能!? それって、あんたが今朝言ってた……」
「ソウダ、アノ小僧ノ魔法ノ才能ダ。
 コレハオ前ノ頭ニ差シ込メバ、今日カラオ前モ『立派なメイジ』ダナ。
 アンナチンケナ人形ヲ7ツ作レルダケデモ、『ゼロ』ニ比ベレバズット立派ダローナ」
「あんた、何てことを……」

ルイズは絶句した。

「『何てこと』? 今『何てこと』ト言ッタカ?
 甘イナ、ルイズ。ヤハリ甘スギル。
 『この程度』ノコトデ『何てこと』ダト?
 私ガコレヲ何回ヤッテキタト思ッテイル?
 私ガコレヲ何年続ケテキタト思ッテイル?
 私ガ一体、何人殺シテキタト思ッテイル?
 言ッテミロ、ルイズ!」
「あ、あんたは……あんたは……」
「……ヤハリ、コノ程度カ。ナラバ……」

ホワイトスネイクはそう言うと、おもむろに自分の腕から一枚のDISCを抜き取った。
そして――

「オ前ガ、自分デ見テクルンダナ」

それを、ルイズの額に差し込んだ。
その瞬間ルイズの視界は真っ暗になり、そして――光に包まれた。

目を開けたルイズが見たのは、見たことも無い光景だった。

どうやらどこかの室内らしい。
壁は石造りのようで、滑らかで灰色。
天井にはルイズが見たことも無いような、光を放つランプに似た道具。
でもその輝きはランプの火とは違う。
ランプよりもっと強い輝きを放っていて、それでいて無機質な光だ。
そして壁には――血まみれになった男が一人、荒い息で壁に背を預けて床に座っていた。
深い傷を負っているらしくぐったりとしている。
男の数メイル先には、なにやら金属で出来ているような、黒光りする道具が転がっている。
そのあまりにも奇妙な光景にルイズは言葉を失い、ただ目を見開いてそれを見るばかりだった。

そうしてこの光景に目を奪われていると、男が何かを喋り始めた。
誰かに話しかけているようだ。
だがどこかノイズがかかっているようで、何を言っているのかはよく聞こえない。

「やっ……たな……。……を止め……るスタ…………いに! 手に入れ……。
 そして………は死んだ。弾が………ブチ込んで……よ」

しかしそれに答える声は、あまりにも鮮明で、あまりにも聞き覚えがありすぎた。
そしてその声がするほうを見て、ルイズは絶句した。

「アア……目的ハ全テ手ニ入レタ」

声の主は、ホワイトスネイクだった。

(え……? ちょ、これって……ど、どういうこと?
 何でホワイトスネイクが?
 それにそもそもこの場所は一体何なの?
 この血まみれの男は一体何なの?)

そう自問して、ルイズはあることに気づく。

(あいつ……『別の世界から来た』って言ってた……。
 だとしたらこれは、あいつが前にいた世界……ってことなの……?)

夢の映像はルイズの疑問に答えるかのように淡々と続いていく。

「君ノオカゲダ、ジョンガリ・A! 我々ハ本当ニイイコンビダ」
「フフ……頼む………に連れて行ってくれ………しちまった」

血まみれの男がホワイトスネイクに何か頼み事をしている。
どうやらこの男とホワイトスネイクは仲間らしい。
だがよく聞こえない。
やはり途切れ途切れになって聞こえるだけだ。
そしてホワイトスネイクはそれを意にも介さず――床に転がる、黒光りする道具を手に取った。
それを、男に向かって構える。

(ち、ちょっと、ホワイトスネイク!
 あんた一体何する気よ!?
 あの血まみれの男の人をさっさと助けなさいよ!
 仲間なんじゃないの!?)

ルイズは必死に声を張り上げる。
だがその声は、二人には全く聞こえていないらしい。
いや、違う。
声さえ、出せていなかった。
恐怖のせいなのか、あるいは別の何かのためなのか。
ルイズが心で思ったことは、言葉として出てこなかった。

「なあ……俺の銃………ないか?」

男がキョロキョロしている。
さっきの道具を探しているらしい。
だが次の瞬間――

「ココダ」

ドシュッ!

ホワイトスネイクの手に握られた道具から放たれた弾丸が、男の喉を貫いた。
男は、声も上げずに死んだ。

(こ……殺し、たの?
 ホワイトスネイク……あいつ、今!
 仲間なのに……っていうか、さっきの会話! あいつ、もしかして……)

混乱するルイズを尻目に、夢の映像はやはり淡々と続く。

男を殺したホワイトスネイクは、ゆっくりと男の死体に近づき、そして男の手に、先ほどの道具を握らせた。
そして薄ら笑いを浮かべながら、言った。

「ケネディヲ暗殺シタ犯人モ……コウヤッテ人生ヲ終エタ。
 ……リー・ハーベイ・オズワルド……ダッケ? 確カ……。
 『死人ニ口ナシ』。ダカラ歴史ハ丸ク治マッタ……。
 私ノ正体ヲ知ル者ハオマエダケダシ、『看守殺シ』ノ罪モ、オマエ一人ノ仕業ダ……」

(もしかして、仲間のフリして利用して、それで殺したの……?)

そこで映像は暗転した。

そして次々と、いくつもの場面を映していく。
心に闇を抱えるものにつけ込み、利用するホワイトスネイクを。
他人の欲望を利用するホワイトスネイクを。
そしてホワイトスネイクが付き従う、浅黒い肌をした黒服の男を。
エンリコ・プッチを。

エンリコ・プッチは、まさしくそれまでに映されたホワイトスネイクの人間版であった。
相手の心の闇を利用し、欲望を利用し、そして使い捨てる。
そしてそればかりではなかった。
敵と戦えばどんな姑息で卑怯な手段も平気で取った。
相手にとって何よりも、命よりも大切なものをエサにして逃走し、
追い詰められれば醜く命乞いをし、スキあらば一瞬で命乞いをした相手を殺す。
ホワイトスネイクは、そんな男に付き従っていたのだ。
そして、それらの行動をその身をもって支えていた。
そのことが、ルイズの心に一つの感情を灯していった。

そして、また一つの映像に行き着いた。
そこでエンリコ・プッチは、再び醜く命乞いをしていた。
神だの大いなる意思だの、わけのわからない大義を持ち出して、
相手がさも無知であるかのように高説を振るっていた。

しかし相手の少年は命乞いを聞き入れなかった。
男はこれまでに重ねた邪悪な行いの全ての報いを受けるかのように頭を潰され、全身を砕かれ……そして死んだ。

その映像を最後に、また視界が真っ暗になった。

「ドウダ? 何カ分カッタカ?」

ルイズの額から抜き取ったDISCを収納しながら、ホワイトスネイクが言う。

「……ええ、分かったわ。すごく……よく分かった」
「ソウカ、ソレハ何ヨリダ」

ルイズは心の奥底からふつふつと湧き上がる感情に驚いていた。
たとえ魔法が全然成功しなくても、たとえゼロとバカにされても、こんな気持ちにはならなかった。

「ソウ言エバ……ソーダナ。モウ一ツ試シタイコトガアッタ」

ホワイトスネイクはそう言ってまたDISCを一枚取り出すと、それをルイズに投げた。
ギーシュの魔法の才能のDISCだ。

ズギュン!

そしてそのDISCは音を立ててルイスの額に差し込まれた。

「一人ノ人間カラ取リ出シタ魔法ノ才能ハ果タシテ別ノ人間ニ扱エルノカ、ッテコトダ。
 イクラ才能トシテ取リ出セテモ、実際ニ使エナケレバ意味ガ……」

そう言うホワイトスネイクの言葉をまるで聞いていないかのように、ルイズは短くルーンを唱えて杖を振る。
するとルイズの目の前の床から、床から一体のワルキューレが一瞬で出てきた。
植物の成長を超高速で早回ししたような感じだった。

「オット、上手クイッタヨーダナ」

ホワイトスネイクが口端に笑みを浮かべて、椅子に腰掛ける。
だがそれを無視して、ルイズはまた杖を振った。
さらに床から二振りの剣が伸びる。
ワルキューレはそれをおもむろに手に取った。

「ホーウ……中々上手クヤルモノダ。
 魔法ガ成功スルノハ、コレガ初メテダッテノニ」
「もう何も言わなくていいわ」
「何ダト?」

聞き返すホワイトスネイクに、ルイズは噛み締めるように言った。

「もう、何も、言わなくっていいって、言ったのよ」

その直後だった。
ルイズの前にいたワルキューレが素早く二刀を振り上げ、そして――

ドピュウゥッ!

ホワイトスネイクに斬りかかったッ!

「ヌゥッ!」

ホワイトスネイクは座っていた椅子を素早く持ち上げて盾にする。
ワルキューレの攻撃は椅子をバラバラにしたが、しかしそのためにホワイトスネイクには届かなかった。
そしてホワイトスネイクは素早くワルキューレから間合いを取る。
しかし、ホワイトスネイクに焦りは見られない。

「フフフ……ソレデイイ。ソレガ満点ノ回答ダ、ルイズ」

むしろ、これこそがホワイトスネイクが望んでいたことだったのだ。

「さっきまでは……あんたへの怒りより、あんたへの恐怖の方が強かった。
 わたしもギーシュみたいになるんじゃないかって。そのことばっかりが怖かった。
 でも……今は違う!
 心の底から! あんたを許せないって思いが湧き上がってくるッ!」
「ソレデ……ドースル気ダ? 私ヲ殺スノカ?」
「違うわ。殺すんじゃあない、勝つのよ」

ホワイトスネイクは何も言わなかった。
何も言わずに笑みを浮かべ、構えを取った。
ルイズも何も言わずにワルキューレを構えさせ、さらに二体のワルキューレを作る。
ニ体とも剣と盾で武装した、オーソドックスなタイプだ。

そしてニ刀のワルキューレとホワイトスネイクが、同時に動いた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー