ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神・妖刀流舞-28

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匿名ユーザー

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 年の頃三十半ば、丸い球帽を被り、緑色のローブとマント姿の一見すれば聖職者に見える姿。
 高い鷲鼻に、理知的な色をたたえた碧眼。帽子の裾からは、カールした金髪が覗き揺れる。
 彼、オリヴァー・クロムウェルは、たった今のワルドの言動に激昂していた。
「子爵ッ!
 ワルド、貴様裏切ったか!」
 クロムウェルの眼前にて、その言葉に対しワルド子爵は、杖を抜き放った。
 杖は青白く輝く。
『エア・ニードル』
 ワルド得意の必殺の白兵戦魔法。
「ハハハ。僕はどちらの側に付いたのでも無い」
「では今更に、全てを己が手にしようと過剰な野心に獲り付かれたか」
「下らないな。実に下らない。
 何事も力に結びつける、その愛無き心。欲しか見ぬ心。
 僕が選んだのは、つまりは第三の選択さ。“愛”に生きる!
『ギーシュさん』の元で。王党派も貴族派も無い、ただ僕のこの目を覚ました純粋なる“愛”の側に立つ」
「寝言を!」
 クロムウェルには、その言葉、妄言にしか思えなかった。
「クロムウェル。今からでも遅くは無い。共に来ないか?
 かの人の愛は全てを許したもう。そう、王命にも勝る許しだ。
 ブリミルの名の元の誓いにも価する許しだ」
 突然の呼び捨ても気にならぬ程に、そのワルドの表情はクロムウェルが一度も見た事が無い程に、晴れ晴れとし、男として、人として、とても魅力的な物であった。
 湧き上がる興味。あのワルドを此処まで変えてしまう、その存在とは何か。
 風の噂に聞いた事はある。馬鹿馬鹿しいまでの、純粋な“愛”の人とやらの噂。

 しかしクロムウェルの眼前にぶら下る欲望。どんな戦況になろうとも、未だに『レコン・キスタ』が圧倒的優位な兵数を誇る事は変わらず。
 押し切れば、待つのは皇帝の地位。
 何より己の上に立つ者がある事は許せなかった。
 例え始祖ブリミルで有ろうとも、現実に生きる人として存在していれば許せなかっただろう。
 彼が抱く野心とは斯様な物である。現にブリミルの残せし遺産の一つ、アルビオン王家の血をこの世より消し去ろうとしている。

 クロムウェルは差し伸べられたその手を払った。
「哀しいな、クロムウェル。
 やはり『レコン・キスタ』には、我欲しか無かったか
『虚無』であるのは系統ではなく、その心か」
 ワルドは哀しげな瞳でクロムウェルを見た。
 その視線をも振り払い、クロムウェルは凄む。
「言いおって!
 いかにスクウェアメイジと言えども、命繋げるとは思わない事だ」
 その言葉と共に、怒りが消え去ったように何時もの物腰を取戻す。
 そう、この本陣にはワルド以外にも強力なメイジが多数存在する。
 既に緊急召集の合図は送っており、直ぐにでもこの場に集うだろう。
 この裏切り者を亡き者とし、他の従わなかった者達同様に自在に操るのみ。
 しかし、ワルドは余裕を崩さない。
「いや、僕は生きてルイズの元へ帰る。
 何故ならば!」

 胸を張り宣言する。

「僕と共に有るのは、彼女の使い魔!」
 畏怖堂々、余裕の笑みすら浮かべ始めたクロムウェルに向け、涼やかに笑って返した。

「『ガンダールヴ』の力を得、共に一体となって戦う、スクウェアメイジの恐ろしさ。味わって貰おう」
 クロムウェルはワルドの言葉が理解できなかった。
『ガンダールヴ』伝説の虚無の使い魔。それは判る、だがそれが一体となるとは?
「待たせたね。アヌビス神」
 理解に苦しむその目の前で、ワルドは腰から一振りの剣を抜き放った。
 余りに妖しいその刀身。それは答える。
「おせーよ。チンタラ話し過ぎだ」
「ははは、すまなかった。だが今回はきみのお望みが叶いそうだ」

 クロムウェルは目を見張った。アヌビス神と呼ばれたその柄に刻まれしは、伝説の『ガンダールヴ』。何故使い魔の印がインテリジェンスソード如きに有るのか。
 あまりに常識外、有り得ない事だ。

「オイ、俺も抜けってんだ!
 多数のメイジとやりあうには、杖より俺だぁね」
 ワルドの背よりも声が上がる。
 携えていたもう一振り。
 今や、アルビオン王党派の間では、妖刀と対を成す魔剣として認められし、もう一つのインテリジェンスソード、デルフリンガーである。
「折角『エア・ニードル』を使ったのだがね。
 ハハハ、焦らず少しだけ待ってくれたまえ」
 ワルドは背のデルフリンガーに笑いかけると、杖を振りかざし一気にクロムウェルへと飛び掛った。



 この辺でOP

 ふぁーすとKILLからはじまるーっ
 二本のバトルひすとりーっ
 この強烈なー 斬ーれ味にっ
 敵は ばっさーりー バラされたっ

 剣が二つ
 斬れない敵
 ありえないこーとーだーよねー

 初めてだよっ
 こんな斬れ味
 やけに殺し 心地よくなっていくー

 そういう話しなのかも知れない……。


 ゼロの奇妙な使い魔 アヌビス神・妖刀流舞 第三部 先人よりの遺産



 数刻前、『レコン・キスタ』によるニューカッスルへの一斉攻撃が始まったその頃。
 ワルド子爵が本陣へと帰還した。
 本陣上空にまで下がった『レキシントン』よりグリフォンで舞い降りてきた彼は、戦利品だという二振りの刀剣を背と腰に差し、ジェームズ一世とウェールズの暗殺に成功したと語った。
「子爵よ、王の首級をあげたとは言え、作戦中に旗艦を動かすのはどうかと思うが」
「はは、凱旋ぐらいさせて貰いたい」
 苦笑しながら出迎えるクロムウェルにワルドは笑って返した。
「それよりも人払いを。内密に話したい事があるのですが」
 クロムウェルは真剣なその表情に頷き、人払いをした。

 そしてワルドから発せられたのは、クロムウェルに取って思いもよらぬ一言。
「閣下。この戦、止める気はありませんか」
 今となっての停戦の進言。
 既にニューカッスルへの、一斉砲撃は始まっているのにである。
「何を言っておるのかね?
 例え敵に策が有ろうとも、力で押し切れば問題無い局面!」
 クロムウェルは、ワルドとの間にある、机上に広げられた地図を手でバンバンと叩いた。
「力で何もかもを奪うのは哀しい事だとは思いませんか?
 力で押さえ込んで、人々の心が得られるとでも思われますか?」
 ワルドは、両の手をその机に置き、優しい声で言葉を紡いだ。クロムウェルに取っては不自然な程に。
「子爵、突然に子供じみた綺麗事を並べて、如何したと言うのだ」
 それに不信感を覚えぬ筈もなく、クロムウェルは声を荒げる。
「閣下、変わったのですよ僕は。判ってしまったのですよ僕は。
 当然の事をそうやって片付けてしまうのは、己の未熟さへの言い訳でしか無いと思い知らされたのですよ。
 所詮、矮小な器の、小さき者が高望みする時の言い訳だと」

 怒りだ。
 今更のその言葉。
 我々は、このクロムウェルは、矮小で小さき未熟者であるという宣言。
 何よりも、ワルドの心が『レコン・キスタ』を離れ、己への恐れ敬いが失せて行く事が、言葉、口調から伝わってくる。
 それらはクロムウェルの怒りを刺激するには充分であった。

 高ぶった感情を乗せた声を、ワルドへと叩き付ける。


 ニューカッスル城には轟音が響き渡っていた。
 地上から、空から次々と放たれる砲撃。そして魔法。
 城は殆ど抵抗も出来ずにそれらに晒され煙を上げる。
 抵抗は殆ど無く、時折散発的に反撃の砲火があがる程度であり、只々砲撃を受け過剰なまでの爆発を上げ続ける。

 戦勝ムードに包まれ、又、洗脳下にある兵士達。
 それらの条件は、この状況を不自然に思うに至らせ無かった。
 『レコン・キスタ』の艦隊に紛れる『レキシントン』改め、『ロイヤル・ソヴリン』より、ジェームズ一世は口惜しげにそれを見ていた。
「判ってはいても。故意であっても、悔しい事には変わらぬものじゃ」
 城内に残るは、万全を期する為、撤収を察せられないよう行動を取る、隠し港よりの脱出経路を確保した少数の精鋭のみ。城の各所には膨大な火の秘薬が設置され、それらの一部が砲撃を受ける度に爆発を上げる。
 残りし精鋭たちも、そろそろ待避する頃合だろう。

 最低限の非戦闘員は『マリー・ガランド』号に鮨詰め状態で脱出をした。
 満載していた硫黄等の火の秘薬を下ろした倉庫には充分な余裕は有った。
 緊急時でなければ乗りたいとも思えぬ環境ではあったが。
 ともあれ昨晩の内に出航し、闇と雲に紛れてアルビオンを離れた。
 ウェールズ率いる『イーグル』号が途中まで護衛に付いたが、意外な程簡単に大陸を離れる事に成功した。
 現在『イーグル』号は雲海に紛れ再び帰還し、ニューカッスル下の隠し港より様子を伺っている。

 ルイズらは非戦闘員と共の待避を、ウェールズより言い渡された為、現在『イーグル』号にも『ロイヤル・ソヴリン』にも姿が無い。
 使い魔と、仮にも婚約者が残ると言うのに、自分だけ帰れないと愚図るルイズにウェールズは一つの手紙を手渡した。
「アルビオンの貴族では無い、きみたちがこの戦いに参加する事は許されない。
 アンリエッタに……、これを頼む。
 なぁに内容は、この戦いで命あれば再び会おう。といった物さ」
 微笑んで紡がれるその言葉に、納得できないながらも逆らう事が出来なかった。

 アヌビス神はやたらと陽気でノリノリな態度で、『んじゃ、また後でな。あ、そーそー、基本オール“許可”だよな?』とワルドと共に去って行った。
 ワルドとアヌビス神は、この策戦の要として外す事が出来ない。
 何より、『レコン・キスタ』であったワルドは、立場が違う。
「万が一、上手くいかなかった時は、僕は裏切ったと王女と枢機卿に伝えてくれ」
 腰に『ブッタ斬る斬るブッタ斬るー』と口ずさむアヌビス神を下げ、ワルドは言った。
 そしてルイズの手の甲を取って口付けをし、微笑むと、踵を返し意外な程あっさりと去って行った。
 その表情は晴れ晴れしく、武人ぜんとしたものであった。

 その場にはルイズ、キュルケ、タバサ、ギーシュが取り残された。

 ギーシュは手にした書簡を見詰めて複雑そうにしている。
 ジェームズ一世より手渡されたそれが酷く重たい。
『ロイヤル・ソヴリン』奪還と国王の窮地を救った功を称える、それが嬉しくも重たい。

「そう言えば、ミス・ロングビル、じゃなかったフーケは?」
 しんみりとした、その雰囲気の中、ふとキュルケはその場に一人足りない事に気付いた。
「今此処ではマチルダと呼ぶ方が適切」
 タバサは言葉を返しながらも、キョロキョロと周りの様子を伺った。
 この場を去るのならば、直ぐにでも港へ行かねばならないのだが、彼女の姿が何処にも見当らなかった。


 さて、時間を戻そう。

 ワルドの突き出した、『エア・ニードル』によって青白く輝く杖は、突然割って入った、『レコン・キスタ』のメイジによって阻まれた。
「成る程、僕の人払いの言葉は信用されてはいなかったか」
 机の上に立ち、杖と杖を絡めながら、ワルドは横目にクロムウェルを見た。
 クロムウェルの更なる合図によって、次々とメイジが集まってくる。アルビオンを始めとする、各国より集いしスクウェアやトライアングルの強者たち。

「こいつら全部潰さねえと任務は完了といかねえな」
 ワルドの左の手でアヌビス神がニヤニヤと笑うように声を上げた。
「そうなるね」
 己に向けて叩き付けられるゴーレムの腕を視界の端に捉え、絡めていた杖をぱんっと弾き、机を蹴って跳躍する。
 宙にて半身を捻りながらマントを翻し、飛来する業火の如くの火球をその表面を滑るようにして回避する。
 着地するや、再びマントを翻し、着地点を狙い襲いくる氷弾をマントに絡め無理矢理方向を捩じ曲げ落とす。
「クロムウェル入れて八人はいるぜ、できんのかね?」
 デルフリンガーの言葉に、ワルドは杖を振り上げルーンを唱えた後続けて言う。
「『風』はこの様な場に置いては最強さ!」
 捲き起こった突風が、取り巻くメイジらの手を脚を一瞬緩める。
「敵にも『風』メイジはいるだろうが」
「ハハハ、問題無い!
 この術に置いて、僕はハルケギニアの何者にも引けを取る事は無いと自負するッ!!
 ユビキタス・デル・ウィンデ……!!」
 その隙にワルドは一気にルーンを唱えると杖を振り上げる。

「後は任せよう!」
 ワルドは杖を懐に収め、右の手にアヌビス神を握りなおす。
「やっと、やっと出番だなッ!?
 斬る斬る斬る斬るッ斬ってもいいんだよなァー!
 斬る斬る斬る斬るゥーっ!
 へへへへへへェー!!ハッハァー!!」
 ワルドの右の手でアヌビス神が長らくの鬱憤の開放の時を悦ぶ。
 吹き荒れる烈風に翻弄されるクロムウェルらの視線の先のワルドが、何重にもぼやけ始める。
「おうおうおうおうおうーっ!こりゃー面白くなって来たッ!
 抜け兄弟!」
「応よ、行くぜ!」
 アヌビス神はワルドの身体を操り、すらりとデルフリンガーを抜き放つ。
 同時にアヌビス神の柄のルーンが燦々と輝きを放つ。

「アヌビス神!

  デルフリンガー!

   ワルド 遍 在 二 刀 流 !!」

 同時に四体の分け身が姿を現し。声が幾重にも重なり響き渡る。


「こりゃすげえ!」
 アヌビス神は初めての感覚に驚嘆した。
 得られたのは三の視界を五乗。二の刃を五乗。
 そしてこの肉体からは感じられる。かつて無い使い勝手の良さ。
 ウェールズも大した物だったが、格が違う。精鋭の中の精鋭。鍛えぬかれ、筋の一本一本、張り巡らされた神経一本一本に至るまで研ぎ澄まされているのが判る。
 ワルドに足りない物は実戦の経験と殺しの技術。しかしそれを補って余る、己とデルフリンガーの蓄積。
「行けるか兄弟?」
「ハハッ!五万人全部ばらせる気分だァー!」
 デルフリンガーの問いに、アヌビス神は興奮し高ぶった感情を隠しもせずに吼えた。




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