ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-60

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匿名ユーザー

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ワルドの叫びを背景に、シエスタは幾分離れた場所で体勢を立て直し、ムクリと起きあがった。
見る者に清潔感を与えるはずのメイド服は、地面を盛大に転がったせいで、
目も当てられない様相を呈していた。
服の所々が擦り破れ、埃にまみれている。
しかし、シエスタは服を払うどころか、一瞥すらしなかった。
今は戦いの真っ最中。服を気にしている余裕はない。
シエスタの放つ空気が、そう物語っていた。

「ぐぬぬぬぬぅ……ギッッ!!」
己のひしゃげた右腕を庇いつつ、ワルドは低く唸った。
呼吸は荒く、顔面に滲み出た汗がボタボタと地面に滴り落ちる。
先程の一撃で体中が痺れているという事実に、ワルドは今更ながら戦慄した。

(バカなッ……! こんな非常識……死、死んでしまうぞッ……!
こんなの有り得るか!!)
彼女の腕力に予め気付いていれば、それなりの対処も出来ただろうが、
あの小柄な体格で、こんな非常識な馬力を出せるなど、誰が想像できようか。
正直な所、彼はシエスタを見くびっていた。
その代償は大きい。
幸いに杖は無事だったが、杖と腕、どちらを折られたとしても、
平民にやられたとあっては、大変な不名誉になることに変わりはない。

自然、彼を襲う身を裂くような痛みは、そっくりそのまま怒りに変わることになる。
視界がグニャグニャと歪み、赤のランプがチカチカ灯っているが、それらを気力で封じ込め、
ワルドは捻り曲がった右腕から杖をもぎ取り、左手に持ち替えた。
絶望的なまでの筋力差を見せつけられても尚、彼の心は勝利へと向けられている。
それどころか、腕を折られたことで、彼の中の凶暴な部分が目を覚ましたようでさえあった。
ワルドの目に一瞬狂気の色が浮かぶ。
ルイズがこの場にいることなど、頭から吹っ飛んでしまったようだ。

「うぉ……おのれ! この動きが見切れるかァ!!」
たった一撃が致命傷になりかねない相手に対して、ワルドは敢えて近づいた。
離れた距離を活かして魔法攻撃に専念するのが最善なのだが、
接近戦でシエスタを打ち負かさないことには、ワルドの気は収まらないのだ。
左に持ち替えた杖を複雑に動かしてフェイントをかけつつ、ワルドはシエスタ目掛けて疾駆した。
右腕が使えなくとも、彼の技巧は些かも衰えない。
予測し難い複雑な杖の動きは、さながら無数の毒蛇である。
それに対しシエスタが繰り出すのは、左右交互の連撃。
その悉くが夜の帳よりも冷たく、重い。

しかし、シエスタの拳がワルドを捉えることはなかった。
風が雨の間を潜り抜けるように、ワルドにかわされてしまう。
拳の合間を縫ったチクチクとした攻撃が、嘲笑うかのようにシエスタの全身に刻まれていった。


「ウリャアッッ!!」
痺れを切らしたのか、その動きを読み切れないまま、シエスタは空間ごと抉り取るかのようなアッパーカットを放った。
が、惑わされたままの闇雲な一撃が当たるはずもない。
大振りのアッパーカットの先にワルドの姿はなく、ワルドは素速くシエスタの側面に回り込んでいた。

「速さなら負けはしない。
 僕の二つ名は『閃光』だ」
「……!!」

がら空きになった脇腹に杖がめり込み、シエスタは再び地面を転がった。
威力・速度・タイミング、いずれも申し分ない、絵に描いたようなカウンター。
肋骨の二、三本も折れたかもしれない……折るつもりで、ワルドは攻撃した。
立てるはずがない。
立てるはずがないのだ、常人なら。
そう確信している上で、未だにワルドが杖を収めていないのは、
彼が既にシエスタを常人と見なしていないことの表れだろう。
鈍痛を放つ右腕に顔をしかめながらも、ワルドは余裕を取り戻した口調で話しかけた。

「まるでトロル鬼のような……パワー。
 ……マンティコアのような瞬発力。
 ぬぐ……。見てくれ、この腕を。
 直ぐに『水』のメイジに診てもらわなければならないよ。
 全く、驚いた。
 だが惜しむらくは、君は戦い方がズブの素人だということだ。身体能力を活かせてない。
 これ以上は無益だ。降参したまえ、メイド君。
 さもなくば、もっと痛い目を見ることになる」
『降参』の一言を耳にするや否やであった。
立てるはずのないシエスタが、瞬時に跳ね起きた。
どういうわけか、あれだけ動き回ったにも関わらず、彼女の呼吸は全く乱れていない。
未だ肩で呼吸をしているワルドの脳裏に不安がよぎったが、それは杞憂であった。
シエスタの脇腹に刻まれた打撃痕が、間違い無く彼女の動作の支障になっているのが見て取れた。
常人離れしている化け物とはいえ、ダメージの蓄積は人並みらしいことに、ワルドは少なからずほっとする。
その一方でシエスタは、唇から垂れる鮮血を片手でやや乱暴に拭い、訥々と同意を示した。

「…………そう、その通りですわ。
 取り立てて才能の無い一般人『だった』せいもあり、
 わたくしには戦いに必要な技術的要素が欠落しています」

「特にあなたのように技量のある貴族相手では、それが露見してしまうのは当然でしょう。
 今のわたくしでは、貴方に勝つのは難しい」
それは、シエスタなりに第三者的見地に立って考えてみた末の結論だった。
いかに生物的に人間を上回っていても、積み重なった人間の技術に敗れ去ることが有り得るという現実を、
シエスタは今実感していた。
最初こそワルドの油断につけ込めたが、もう彼には力任せな攻撃は通用しないだろう。
加えて、先ほどの流麗なな杖捌き。
がむしゃらに足掻いても、まさに柳に風だ。
シエスタは負けるわけにはいかない。
が、『今の』自分にはそうした粗雑な攻撃しかできないのはどうしようもない。
なら、どうするべきか。
シエスタは考える。自分の主の事を。
何故、主は敢えて自分をワルドと立ち会わせたのか。
その意味を。

「さぁ、参ったと言うんだ。
 これ以上女性を痛めつけるのは、僕としても心が痛む」
ワルドが急かす。
だが、シエスタはそれをまるっきり無視した。

(…………………………)
俯いたまま暫くの間無言で考えた後、シエスタは何かに気づいたのか、はっとした顔になった。

「…………わかりましたわ」

「降参、する気になったかね?」
シエスタの独り言を都合よく捉えて、ワルドはふっと肩の力を抜きかけた。

「いいえ、子爵様。
 申し訳御座いませんが、もう暫くお付き合い願います」
シエスタは再びゆっくりとファイティング・ポーズをとる。
自分の意に沿わぬ返答を受け、ワルドは不快感も露わに呪文を唱え始めた。

――――――――――――――
「で、そろそろ説明してくれるんでしょうね?」
ワルドの右腕がオシャカにされるのを見届けてから、ルイズは隣に佇む自分の使い魔に声を掛けた。
完全に蚊帳の外に置かれていたせいもあり、彼女の口調は若干キツいものになっていた。
シエスタとワルドを挟んで、ちょうど向かい側にいたはずのDIOは、
いつしかルイズの側に移動している。
彼は四六時中無駄にオーラを放っているので、ルイズは嫌でも近付いて来るのがわかった。
DIOの接近が分からなくなるのは、彼が意味不明な超能力を使ったときだけだ。

「今回、シエスタをあの子爵に焚き付けたのには、いくつかの意図があってのことだ」
すんなりと口を開いてきたことに、ルイズは正直ビックリした。
この使い魔は、そう簡単に自分の企みを話したりはしない。

散々っぱら弄ばれ、気がついたら完全に彼の掌の上――という方向に持っていくタイプなのだ。
それをこうも易々とひけらかすとは考えにくい。
ということは、むしろこの場合、
私も聞いておくべきだと思っているからこそ、話していることになるのだろう。
ルイズは心持ち身構えた。

「シエスタは私のメイドになってからまだ日が浅い。
 つまり、経験が不足しているのだ。圧倒的にな。
 だから、あの子爵と戦わせることでそれを補わせる」

「ふぅん。案外使用人思いね」

「幸いにもあの子爵は、メイジとしても、武人としても、それなりに道を修めているようだ。
 まさに打ってつけというわけだ」
それだけじゃないでしょう、と視線でコンタクトを取ると、DIOは頷いた。

「無論、私にとってもこの方が好都合なのだ。
 この世界の『魔法』には、色々系統があるそうじゃないか。
 私は極力それら全てを目で見て、知っておく必要がある。
 ……骨を折らずにな」

「意外ね。こういうのは、あんたは自分でやると思ったんだけど」


「私が療養中だと言ったのは、あながち嘘ではない。
 それにだ、私が本当に『人』と張り合うとでも思ったのか、ルイズ?」

ニヤリ……そうとしか形容しようのない笑みを浮かべて、DIOはルイズを見た。

「思うわ」
ルイズは頷いて答えた。即答であった。
DIOの言葉を真正面から斬って捨てて断言してくるルイズに、DIOの笑みが消える。
その代わりに、氷より冷たい無表情が浮かんだ。

「……ほう、何故だ?」
「だってあんたってヘンに子供っぽいところがあるもの。
 負けず嫌いと言い換えてもいいわ」

「……………………」

「私と一緒ね」
今度はルイズがニヤリと笑う番だった。

「……フン、何を血迷っている。
そもそも私と人間どもとでは、強さの次元が違う。
私と、私のスタンド『ザ・ワールド(世界)』は、あらゆる点に置いて別格なのだ」
自信たっぷりに言い切るDIOに、ルイズは今度は危険性を感じた。
負けず嫌いなのは大いに結構である。
自分もそうであると自覚している以上、ルイズにそれをどうこう言う資格はない。
だがこの使い魔は、負けず嫌いの性分がプライドと直結しているようである。
それが自らのとてつもない(?)力と相まって、しばしば他人の力を過小評価させてしまうようだ。
その点が、こいつの致命的な欠点と言えるかもしれない。

それを矯正してやることが、自分の役割であるようにルイズには思えて仕方がなかった。
何故かは知らないが、妙な目的意識に駆られてしまう。
ルイズは自然と口を開いていた。

「確かにあんたは強いかもしれないけど、あんたの場合はもう少し……
 ……ホントーに少しでいいから、謙虚な心構えを持った方がいいと思うの。
 もう足を掬われないためにも、ね。
 私の言ってる意味、分かるでしょう?」
DIOがジロリ、とルイズを見下ろした。

「このDIOがか?」

「どのDIOでもいいから、何とかしなさい。
 今後の課題!
 わかった?」

「…………フン」
釈然としない不満げな返事だったが、ルイズはそれ以上に念を押すつもりはなかった。
DIOはプライドが高くて自己中だが、決して愚かではない。
きっと自分の意志を酌んでくれると、ルイズは分かっていた。
――何故なら、DIOと自分は似ているから。
だから、分かる。
ルイズは頭ではなく、心で理解していた。

(私にも、力があれば……)

そうこうしているうちに、ワルドの風魔法が、シエスタを横殴りに吹き飛ばした。
エアハンマーの魔法。ワルドの本領発揮だ。

「あちゃあ、あれは痛いわ。
 …………ま、いい気味ね。せいぜいのたうち回るといいのよ」
地に伏せるシエスタを遠くに見て、ルイズはサディスティックな笑みを浮かべた。
普段からルイズは、シエスタを好ましく思っていなかった。
それに、この任務の出発の折り、シエスタはルイズに『主人としてふさわしくない』と言ってもいる。
お互いウマが合わないのだ。
だから、シエスタがワルドにやられようがどうでもいい。
どうせならこの際だ、滅茶苦茶にやられてしまったほうが気分も良くなるというものだ。

(やれ、ワルド。そこだ。いけ。一息にやってしまえ。
 引導を渡してやるのよ!)
ルイズのリクエストに応えるかのように、ワルドは杖を操り、シエスタを追い詰めていった。
三次元的に攻撃され、流石のシエスタも避けるだけで精一杯らしい。
DIOに聞こえるように、ワザと大きな声で、ルイズはシエスタを嘲った。

「ハン! いくら化け物でも、所詮はメイドだったってことね。
 防戦一方じゃない」

「いや、あれでいいのだ」

「へ? 何で?」
ルイズがきょとんとした顔を向けたが、DIOはそれに答えないまま、中庭の隅の方に視線を巡らせた。

暫くの間の後、DIOの視線はある一点で固定される。
DIOの笑みが更に深まったのを、ルイズは見た。

「席を外させてもらう。ほんの少しの間だけな」
「は? ち、ちょっと待ちなさ……
 ……もう、勝手なんだから!」
言い終わるか終わらないかのタイミングで、DIOはパンパンと二度両手を打った。
ルイズにとっては、もうそろそろ馴染み深いものとなりつつある合図である。
果たして、目の前にいたはずのDIOの姿が忽然と消えた。
そのこと自体はあまり問題では無かったのだが。

「……う、ぐ…なに、こ、れ?」
不意に、違和感。
今存在している空間から他のどこかへ、一瞬投げ込まれたような。
モノクロの世界を見た気がした。
自分の立ち位置が酷く覚束なくなってしまった不安感に吐き気を催しながら、
ルイズは慌てて顔を上げた。
その先では、シエスタとワルドが、杖と拳を凄まじい速度で繰り出していた。
ついさっきと全く変わらない光景であるのだが、ルイズは首をかしげた。
あの気持ち悪さを感じた時、一瞬…………本当に一瞬だったが……
二人の動きがピタリと停止したように見えたからだった。
まるで時でも止まったかのように。

自分でも要領を得ない感覚に、ルイズはDIOの行方を考える余裕を失ってしまった。

(…………気のせい、じゃない)
まさかシエスタとワルドが、二人して自分をからかうなどという事をするはずがない。
しかし奇妙なことに、ルイズは先ほどの感覚が気のせいであると決め付けることが、どうしても出来なかった。
ルイズは首を傾げ、自分の掌を何度も何度も、握ったり開いたりしていた。

(どこかで知ってるような気がする……)

そう、確かフーケ戦だ。
――――――――――――――
中庭でシエスタとワルドによる、しっちゃかめっちゃかな攻防が繰り広げられる中、
その戦いを、中庭から少し離れた柱の陰で静かに見つめる者の姿があった。
赤縁の無骨なメガネが、昇りきったばかりの朝日の光を跳ね返す。
その下には、冷たく感情を読み取れない暗い目、そしてその下に出来ている隈が、彼女の纏う暗鬱な雰囲気を増大させている。
名をタバサと言った。
彼女は昨晩ベッドに飛び込んでから、戦々恐々としたまま眠れぬ一夜を過ごしたのだった。
幸か不幸かタバサはそのお陰で、早朝中庭に向かう幾つかの人影を目撃する事が出来た。

最初は無視しようと思ったが、一行の中にDIOとシエスタの姿を認めるや否や、
タバサはまるで蜜に誘われる蝶のように、ふらふらと後を尾けて行ったのだった。
疲弊しきった見た目とは裏腹に、彼女の神経はアイスピックよりも尖っていた。
そしてその視線が捉えているのは、シエスタの一挙手一投足である。

「…………やっぱり」
魔法衛士隊隊長であり、そしてスクウェアクラスでもあるらしいワルドに対し、
身体能力的に大きな差を見せるシエスタの姿を見て、タバサ思わずそう呟いた。
あのメイドが、技術的にワルドに勝てないことは、タバサは何となく察知していた。
技術とは、年月を掛けた鍛錬を積んで初めて修得しうるものである。
ほんの少し前まで唯の少女だったシエスタに、それが備わっているのはおかしい。
タバサが注目していたのは、別の点である。
先程の独り言は、その点を改めて確認したことから生じた物であった。
この事実を、今日の内にあの男に問いただす必要が……
「何が『やっぱり』なのかな、お嬢さん?」



あるはずの無い返事が背後から確かに投げかけられ、男の手が両肩にしっかりと置かれる。


タバサの全身が硬直した。

to be continued……

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