ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-59

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「……一体、これはどういう事だ?」
場所は『女神の杵』亭の中庭。
かつては貴族たちが集まり、トリステインの王が閲兵を行ったという練兵場跡で、ワルドはDIOと向かい合っていた。
しかし、ワルドが決闘に備えて緊張した趣であるのに対し、DIOはいつもと変わらない佇まいである。
何よりの違いは、DIOの放つ空気だった。
決闘などする気など全く感じられない、緩かな雰囲気。
その代わりに、DIOの隣に立つ一人の少女が、全身に闘気を纏わせているではないか。
これでは、まるで少女の方が決闘に臨むかのようである。

「ワルド、来いって言うから来てみれば、そのメイドとチャンバラする気なの?」
思ったことをそのまま述べたのは、ルイズであった。
彼女はこの決闘の介添え人として、ワルドに呼び出されたのであったが、
早い時間に起こされた彼女は、機嫌がよろしくなかった。
遊んでる場合じゃないでしょうが……と、じと目で呟くルイズに、ワルドは慌てて否定した。

「いや、ルイズ待ってくれ。これにはちょっとした事情が……!」

「うむ、子爵の言う通り。やむにやまれぬ事情があるのだ」
ワルドの台詞を横取りする形で、DIOが言った。

上手い言い訳が思いつかないワルドにとっては、ありがたい横槍と言えた。
しかし、DIOに出しゃばらせるのは癪と思うワルドは、即座に抗議の声を上げた。

「使い魔君……レディを代理に立てた挙げ句自分は高みの見物とは、紳士としてあるまじき振る舞いだぞ。
君には、男としての名誉を尊ぶ精神が無いのか?」
『名誉を尊ぶ』などという建て前が、ワルドの口から出た途端、ルイズは吹き出しそうになってしまった。
あのDIOが、そんな使い古された常套文句にいちいち反応するなんて有り得ないと、痛いほどに分かっていたからだった。
それを証明するかのように、DIOは薄く笑った。
猫がネズミをいたぶる時のような彼の笑みの意味を、ルイズはこれまたよく分かっていた。

「勿論これにはきちんとした理由がある。
私としても、子爵と剣を交えるのはやぶさかではないのだが、生憎と、今の私は療養中の身なのだ。
子爵が退室した後に思い出したのだが、過度に飛んだり跳ねたりする真似は絶対にするなと、
私は医者にキツく言われていたのだよ」
本当に悲しそうな顔をして、釈明を始めるDIO。
嘘八百とはこの事ね、とルイズがぼやいた。

しかし、その声は小さく、その場にいた者に聞かれることはなかった。
DIOの説明は続く。

「しかし、それでは折角私の部屋に出向いてまで決闘を申し込みに来てくれた子爵に対して、礼を失することになってしまう。
そこで、彼女を代理に立てるという形で、子爵の礼に最大限応えようという結論に達したわけだ。
断腸の思いだった。
私の腕前を子爵に披露することが出来ない無念を、『紳士的に』理解してくれると有り難いな、子爵。
だが、安心してくれ。
代理とはいえ、彼女の腕前は確かだ。私が保証する」

「しかし、う………むぅ…」
立て板に水を流したようなDIOの説明に、ワルドはすっかり閉口してしまった。
これでは、当初の計画における目的が、十分に達成できない。
今無理やり場の流れを変えようとしても、白々しく映ってしまい、ルイズの心証を悪くしてしまう。
最早ワルドに選択の余地はないのだが、それでもワルドは諦めきれなかった。
目の前に悠然と佇むあの男、どう見てもそんな重傷患者には思えない。
ワルドはそこを突いてみることにした。

「り、療養中といったね、使い魔君……。
ならば、今この場でその証拠を見せることは出来るかい?」

ワルドの最後の足掻きに対して、DIOは無言で己の首筋を見せつけた。
自然と、その場にいた人間の視線を集めることになる。
そこには、まるで一度切り落とした首を無理矢理肉体(ボディ)と繋ぎ合わせたような生々しい傷跡が、くっきりと刻まれていた。

「船の爆発事故に巻き込まれた時の傷だ。
似たような傷が、体中至る所にある」
やや忌々しげに傷の説明を加えるDIOに、ワルドはとうとう諦めた。
こうなった以上、自分にとって出来る限り最善の結末を迎えることを狙わうしかないと、ワルドは自分の心を切り替える。ルイズがいる手前、無様な姿だけは決して見せられない。

「うう、む…………仕方あるまい。
レディ相手に杖を振るというのも気の進まない話だが……」
内心の決心とは裏腹に、取り敢えずの躊躇いを見せるワルドに対して、シエスタは律儀に答えた。

「余計な心配でございます。
DIO様はわたくしに『一切を任せる』と仰いました。
従って、子爵様。大変畏れ多いことですが、わたくしをDIO様と思ってお相手をなさって結構でございます」
そう言いつつ、シエスタは懐から何やら取り出して、己の両拳に嵌めた。
今回は剣は使わないらしい。

金属で作られているのであろうソレは、昇りきった朝日の光を照り返し、ギラリと危険な輝きを放っている。
一見すると連なった四連の指輪のようにも思えるが、どうやらアレが彼女の武器のようだ。
魔法衛士隊隊長であるワルドですら、見たことの無い一品である。
拳で握り込む物であるらしいことだけは見て取れた。
だが彼に限らず、魔法を使うメイジ達には、ソレが何なのかを知る機会など皆無であっただろう。
ソレは魔法の使えない平民の武器であった。
ソレは、人々から煙たがられるゴロツキ達にとって、また、拳で語る漢達にとっての心強い味方。

その名をメリケンサックといった。
一度それを手に嵌めれば、使い手のパンチ力を反則的なまでに引き上げてくれる素敵アイテムである。
ましてやシエスタは、『固定化』の魔法をかけられた壁を素手で破壊する腕力の持ち主(ワルドは知らないが)。
そんな彼女がメリケンサックを嵌めたとなれば、その威力たるや、五臓六腑に響き渡るだろうことは想像に難くない。
運悪く脳天を直撃でもすれば、彼の頭蓋は地面に落としたワイングラスにも負けないくらい粉々に砕け散るだろう。

だが、彼女の怪力を今一つ実感することが出来ないワルドは、
どこか現実感の無い視線をシエスタに投げ掛けるだけである。
そんなワルドをよそに、シエスタは何度かメリケンサックの微妙な位置調整をした後、
両の拳を胸の前でガツンガツンと叩き合わせた。
見るからに闘志全開、意気揚々、殺る気満々という風情であった。
それもそのはず、彼女は自分の主の敵になる者は、例えお遊びであっても微塵の容赦もしないのである。
軽やかなステップと共にファイティング・ポーズを取ったシエスタは、視殺戦をワルドに仕掛けた。
真っ向から殺気を向けられて、相手が本気だとわかると、ワルドの顔が徐々に厳しいものになっていく。

「……なるほど、言うだけの事はあるな。
気迫だけはなかなかのものだ」
それは魔法衛士隊隊長としての、そして歴戦の戦士としての顔であった。
腰に下げてあった愛用の杖をやおら引き抜き、フェンシングの構えのように前方に突き出す。

「いざ、尋常に勝負といこう!!」

ワルドの掛け声を合図に、シエスタが地面を蹴り、流星のようにワルドに接近した。

(早い! ……が、直線的だな。
昨日の剣の使い方といい、やはりド素人か!)

凡そ華奢な少女の肉体では出せないほどのスピードにワルドは内心驚愕したものの、
長年の経験を生かし、顔色一つ変えずに迎え撃った。
―――そう、迎え撃ってしまったのである。
得意げな顔をして杖を構え、衝撃に備えるワルドの姿を見て、ルイズは思わず叫んでいた。

「ワルド! 避けなさぁあああぁあい!!!」
だが、一足遅かった。
金属と金属がぶつかる鈍い音が響き渡り、火花が散った。

初合の勢いを殺しきれなかったのか、シエスタはバランスを崩して転倒してしまった。
ズザザーッ! と激しい砂埃をあげながら地面を滑るシエスタを、ワルドは油断無く見やる。
初撃をスマートに受け流す事が出来たとばかり思い込み、口端を吊り上げずにはいられなかった。
だが、転倒したシエスタに追撃を加えるために杖を振ろうとした時、彼は自分の右腕に起きた変化に気がついた。
ピクリとも動かない上に、右肩から先の感覚が全くないのだ。
恐る恐る自分の右腕を見る。

「おや?」
あらぬ方向にねじ曲がった右腕が、杖を握ったまま風もないのにぶらぶら揺れていた。
余りに想定外な出来事に、ワルドはどこか他人事のような顔をした。

しかし、徐々に右腕から走り出してくる激痛に、ワルドの意識は容赦なく現実に引き戻された。

「うおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおお!?!?」
すれ違いざまのシエスタの一撃は、杖による防御を無視して、ワルドの右腕を破壊していたのであった。
見慣れたはずの自分の腕が、目も当てられない醜い姿に変わり果ててしまえば、誰だって叫び声をあげるだろう。
それは、王宮ではいつも冷静沈着で通っているワルドですら例外ではなかった。

「あのバカ……どういう技なのか見切れないのかしら」
技も何も、実際の所シエスタは、ただ力任せにぶん殴っただけである。
別にワルドがとんでもなく浅慮だったというわけではない。
むしろ、右腕粉砕という程度で済んだワルドの肉体のタフネスを誉めてやるべきだった。
常人なら腕を吹っ飛ばされていたに違いないのだが、そんな言い訳はルイズには通用しない。
喉よ裂けろとばかりに叫ぶワルドに冷たい視線を送りながら、ルイズは呆れ半分、怒り半分と感じで呟いたのだった。

to be continued……

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