ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-58

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匿名ユーザー

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所変わってこちらはルイズの部屋。
貴族相手の『女神の杵』亭でも、上等な部類に入る部屋(最上級の部屋は何故か先約を取られていた)を取ったワルドは、
テーブルに座ると、ワインの栓を抜き、二つあるグラスにそれぞれ注いだ。

「君も一杯やるといい」
テーブルについたルイズは、差し出されたグラスをチラリと見たが、片手でそれを押しやった。
ワルドはすこぶる寂しそうな顔をして、グラスを飲み干した。

「使い魔君のグラスは取るのに、僕のグラスは受け取ってもらえないんだね」

「やめてよ、子供みたいなこと……。
私は貴方のことを信頼しているわ。それで十分じゃないの?」

「まさか……十分とは言えないよ」
ワルドはルイズの小さな顎をくいと持ち上げた。
視線が絡まる。

「君を振り向かせてみせる。そう約束したじゃないか」
ワルドの瞳を真っ向から見返し、ルイズは静かにワルドから離れた。

「私は、大事な話があるっていうからここにいるのだけれど……?」
あくまでつれない態度を崩さないルイズのセリフに、ワルドは途端に真面目な顔つきになり、ルイズから数歩離れた。

「君の使い魔……彼はただものじゃあない。僕には分かる」

またDIOの話かと、ルイズは思った。
この頃は、どいつもこいつも口を開けばDIOの事ばかり話しているように思え、ルイズは複雑だった。
実際にはそんなに会話には上ってはいないのだが、朝のモンモランシーの様子が強烈な印象となって脳裏に焼き付けられていたせいもあり、ルイズは過敏になっていた。
それを表に出すのは……貴族らしくないことは重々承知してはいたが。

「そんなこと、嫌ってほど分かってるわ。
アイツ人間じゃないもの」
ついつい返答がぶっきらぼうなものになってしまわずにはいられなかった。
内心後悔しているルイズに、ワルドは首を横に振って見せた。

「違う、そういう意味じゃない。彼の左手に刻まれているルーンだ。
まだよく見ていないから断言は出来ないが……あれはひょっとすると、『ガンダールヴ』のルーンかもしれないんだ」

「ガン…ダールヴ……?」
「そう、『ガンダールヴ』。
かつて始祖ブリミルが使役したと伝えられる使い魔さ」
突然の話に、ルイズは間の抜けた返事をすることしかできなかった。
しかし、呆気にとられたルイズとは対照的に、ワルドは何故か興奮した様子で語る。

そんなワルドの瞳は、鋭いナイフにも似た危険な光を放っていた。

「使い魔は主人と似た性質を持った者が現れる、というのが通説だ。
……もし彼がそうだとしたら、君はそれだけの力を秘めたメイジということになるんだ」
真面目な顔をして伝説の話をするワルドに、ルイズは段々ついていけなくなった。
ブリミルが使役したとワルドは言うが、例え事実であっても、それは六千年も前の話なのだ。
遡ること六十世紀である。
そんなものが現代に甦りましたと言われてすぐに信じ込むほど、ルイズは信心深くはなかった。
あるいはガリアの神官だったら、泣いて喜ぶくらいのことはしたかもしれなかったが。

「眉唾物ね。
はいそうですかと鵜呑みにできない話なのは、あなたもわかってると思うけど」

「僕は至って真面目だ。以前王立図書館の文献で見たんだ。

間断無く断言してきたワルドに、ルイズは言葉に窮する形となった。
気圧された、と言ってもよいだろう。
それくらい、今のワルドは野心に満ちた目をしていた。

「昔の君も、どこか他のメイジ達とは違う空気を纏っていたが、今の君はそれ以上だ。
底知れないオーラが放たれ始めている……。凄まじい力の迸りだ」

「僕とて並みのメイジではない。だからそれがわかる」
興奮を隠しもせずにまくし立てワルドは再びルイズに迫った。

「た、確かにあいつが凄いのは認めるわ。
でも、それはただ単にあいつが凄いのであって、あいつが『ガンダールヴ』だから、ってわけじゃあないんじゃないの?」
焦ったルイズは、方々に視線を彷徨わせながら、その場しのぎをすることしか出来なかった。
だが、そのルイズの言葉に、ワルドは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。

「そうかい?
なら、僕はそれを確かめたい。この目でね」

――――――――――――
翌日、まだ日がようやく登ったばかりという時に、ワルドは一人廊下を歩いていた。
何事かを秘めたその瞳は深く鋭い色を放ち、道を行く足取りは、目的地に近づいてゆくにつれ重くなっていくばかりだった。
しかし、彼は彼の望むものを手に入れるためにも、その足を止めるわけにはいかなかった。
やがて、一つの部屋の前でワルドは歩を止めた。
それは、『女神の杵』亭で最も上等な部屋であり、昨晩ワルドが借りようとしたが、既に先約を取られていた部屋であった。

その部屋に泊まっている人物の名前をロビーで聞いたとき、ワルドは我が耳を疑うと同時に、やり場のない怒りを感じたものだった。
しかし、幸いにもその怒りが、部屋の中から放たれてくる異様な空気に耐える力をワルドに与えていた。
ワルドは決心するように深呼吸をすると、扉をノックした。
幾ばくかの沈黙の後、やけにゆっくりと扉が開かれ、いつものメイド服に身を包んだ少女が姿を現した。
その少女の姿を見るや、ワルドは心持ち体を仰け反らせてしまう。
昨晩、顔色一つ変えずに盗賊を何人も惨殺した人物……シエスタに、ワルドは苦手意識を感じていたのだ。

「どのようなご用件でしょうか、ミスタ・ワルド」
まさかこんな朝早くからメイドが出てくるとは露とも思っておらず、出鼻を挫かれた形となったワルドだったが、すぐに気持ちを立て直すと、率直に用件を伝えることにした。

「あぁ、朝早くからすまないとは思うが、君の主人に会わせてはもらえないか?
まだお休みであるというなら、時間を改めてからまた来るが……」
貴族と平民という関係であるにも関わらず変に下手な口調なのは、自分に自信を持っている証拠か、それとも苦手意識の表れか。

いずれにせよ、貴族特有の傲慢な態度を出さなかったことが功を湊したのか、案外すんなりと取り次いでもらえることが出来た。
入室を許可され、シエスタに続いて部屋に入ったワルドだったが、一歩部屋に足を踏み入れた途端、彼は自分の背中に氷柱を差し込まれたような寒気を感じて硬直した。
部屋に入る前から、その異様な雰囲気に鳥肌を立てていたが、扉の中と外ではその雰囲気の濃さは段違いだった。
重苦しく、絶望的で、息が詰まりそうな圧迫感が全身を包んだ。
思わずそのまま回れ右をして立ち去りたい衝動に駆られるが、雀の涙ほどのプライドで何とか持ちこたえる。
改めて一歩一歩ゆっくりと奥へと進むその足取りは、断頭台への階段を上る囚人のように沈痛だった。
やがて部屋の最奥に至ったワルドを、部屋の主であるDIOが薄い微笑みを顔に浮かべて迎えた。

「これはこれは、子爵。小鳥も目覚めぬ早朝に、一体何のようかな?」
急な訪問に対して、嫌な顔をするどころか、まるで待ちかねていたような口振りである。

「いや、こんな朝でしか話せないこともあるのだよ、使い魔君」
敢えてDIOを単なる使い魔としか認識していない振りをするワルド。

ワルドよりも頭一・五個分は背の高いDIOの視線が、自然と見下ろしたような形であり、
それが段々ワルドの自尊心を刺激し始めたからだった。
再びこの息の詰まるような部屋の空気に飲まれてしまう前に、ワルドは勢いに乗せて話を進めることにした。

「君は伝説の使い魔、『ガンダールヴ』なのだろう?」
「…………?」

単純明快なワルドの問いかけだったが、しかし、DIOは心当たりがないと言わんばかりに眉をひそめただけである。
それらしい反応を返してこないことに、ワルドは焦ったような素振りを見せた。

「『ガンダールヴ』! 君の左手に刻まれているルーンのことだ!
学院長のオスマン氏などから聞かされていないのか?」
あのオスマンなら十分ありうるという事実に、ワルドは言い切ってから気がついた。
本当に知らないのかもしれないと、不安になったワルドだったが、
オスマンの名前を聞いて、DIOはようやく何かを思い出したような顔をした。

「あぁ、『ガンダールヴ』か。
確かにオスマンとやらがそんな単語を口走っていたな。忘れていたよ」
ホッとするとともに、ワルドは少し落胆した。

ルイズも、この使い魔も、伝説の『ガンダールヴ』に対して全く興味を示していないからだった。
自分一人だけが舞い上がっているような錯覚に陥り、非常に気まずい。

「う、うむ。思い出してくれて何よりだ。
……とにかく君はその腕前を以て、あの『土くれ』のフーケを撃退した。
これは事実だ」

「撃退ときたか、フフフフフ………いや失礼、ハハハ……」
『撃退』という部分を聞いた途端、DIOは何とも面白そうに笑い出した。
その理由が分からないワルドは、おかしそうに笑うDIOに首をかしげるだけだった。
DIOのひとしきりの笑いに区切りを見た後、ワルドは咳払いをした。

「……ゴホンッ。
そこでだ。あの『土くれ』を追い払ったほどの君の腕前に興味が出てね。
実力を知りたいのだ。手合わせ願いたい」
その一言で、笑みを浮かべていたDIOの顔が、見る見るうちに冷たくなっていった。
同時に、ともすればこの場で即座に襲いかかってきそうなほどの敵意が、背後からワルドに突き刺さった。
確認するまでもない、シエスタだろう。
反射で背後を向いてしまわぬように、ワルドは全力を傾けた。
前門のDIO、後門のシエスタである。逃げ場など無い。

「何かと思えば決闘の真似事か……このDIOに対して」

「……その、通り」
血のように赤く、液体窒素のように冷たい瞳がワルドを射抜く。
いつのまにか固く握りしめていた拳が、汗でじっとりと濡れていくのを感じつつ、ワルドはDIOを見返した。
DIOは暫くワルドを睨んでいたが、ふと何かを思いついたような顔をして考え込み始めた。
ワルドにとっては胃に悪い沈黙が続いたが、やがてDIOは顔を上げ、了承の意をワルドに示したのだった。

「うむ、いいだろう。
この決闘は、お互いを深く知る良い機会になるだろうからな」
その時のDIOは、先程の渋い顔とは打って変わった、清々しいものであり、かえって不気味ですらあった。
しかし、何か嫌な予感を感じても、これは自分が選んだ事である。
そうそう容易く裏をかかれるような事態には陥らないだろうと踏んでいた。
DIOの了承を受けて、ワルドは決闘の段取りを伝えた。

「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦でもあったんだ。
中庭に練兵場がある。私はそこで待っているから、準備が整い次第、いつでも来たまえ」
そう言い残して、ワルドはDIOの部屋を後にした。

シエスタの刺すような視線のせいで、部屋を出るまでのわずかな距離がやけに長く感じられた。
やっとの思いで部屋を出て扉を閉めた後、ワルドは知らず知らずのうちに深い溜息をついていた。
DIOの部屋の中での圧迫感のせいで締め出されていた酸素を、
必死で取り戻すかのようでもあった。
ワルドは呼吸を落ち着かせた後、ひとまずは自分の思い通りに事が運んだことを喜んだ。
DIOと立ち合い、『ガンダールヴ』の力を引き出し、その上でDIOの力の限界をルイズに見せつけるという筋書きである。

だが、彼の画策した決闘劇が、思いも寄らぬ方向へ逸れていくことになるとは、思いも寄らなかった。

二十分後、約束の場所である『女神の杵』亭中庭の練兵場。
そこでワルドの前に立ち塞がることになったのは、メイド服に身を包み、無表情ながらも焦げ付くような闘志を身に纏う、シエスタという少女であった。

「これは……一体どういうつもりだ?」

to be continued……

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