ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

~燃えあがれ、俺の波紋っ!~

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匿名ユーザー

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 第二陣のすすぎも完了し、汚れの少ない第三陣と落っことした第四陣の洗濯物へ取り掛かる。
あれから三十分近く正座で説教を受けさせようやく落ち着いたのか、シエスタも頑固な汚れの
取れた洗濯物を干せて上機嫌だ。
ちなみに正座で説教は経験がある(主にjojoの巻き添えで)ので癖になっていたようだ。
「…で進級したメイジが己の力量や系統を示すために使い魔を召喚する伝統行事、まぁ一人前だってことを示す儀式みたいなものね」
二つ並んでそびえる泡の山のそばで手頃なところに腰掛けたキュルケがシーザーに解説していく。
「成る程。俺にのしかかっていたのはその類か」

 かつてシーザーは貧民街で野宿の毎日を送っていたこともある。そのとき野良犬や猫、
たまに鳥などが彼を枕にして眠り、お陰でシーザーは二日に一回は脱水症状と酸欠の
ツープラトンで苦しみ最悪な目覚めを味わっていた。
 波紋の力で安眠枕に。嫌な体質である。
もっとも、童話でしか見たことのない生物に囲まれたのは初めてのことだが。

「で例年通り全員通り召喚できたんだけど一人だけ問題児がいたのよ。」
「問題児?」
「その娘ったら座学はできるのに肝心の実技が駄目駄目でね~。
『召喚』も何度やっても爆発して何十回とやってようやく成功したんだけど」
「だけど?」
オウム返しに尋ねるシーザー、話に耳を傾けながら干していくシエスタに焦らす様にためるキュルケ。
「今までにない大爆発を起こして出てきたのは、なんとただの平民だったのよ!
いや~、体中プルプルして先生に助けを求めて泣きそうで泣かないあの娘の顔は
額縁に収めたいくらいだったわ」
「(よく見てるな)」
シーザーはほくそ笑んだ。内容こそ悪口だがまるでつい先ほど起きたかのように事細かに
話す様子はその娘を気にかけている証拠。気の置けない友人まで推定あと三十八歩ぐらいだろう。
…意外と遠いな。

 とシーザーの中で何かが引っかかった。
召喚?遠くのものを呼び出す魔法。そして呼び出された平民=人間?ここは見知らぬ土地。

「しかもその娘ったら契約の時顔真っ赤にしてキスしようとしたら、逆に情熱的にキスで返されたもん
だから貴族の面目なんてどっかに吹っ飛ばして使い魔に蹴りいれてたのよ、多分あの娘初めてだったんじゃない?」
初キスで舌まで入れられるなんて黄金体験よね、とケラケラ笑うキュルケの声がシーザーには遠く聞こえた。
何か覚えがある、特に脇腹と鳩尾の辺りに。
「参考までに聞こう。その使い魔ってどんな奴なんだ?」
できればそうあって欲しくないと泡がついたままの手を額に当てるシーザーをキュルケが指差した。
お約束の如く後ろを振り返り、目が合ったシエスタが洗濯物握り締めたまま千切らんばかりに首を高速で横に振る。
それはそれで残念だと思いつつ念のためシーザーは自分を指差しキュルケに向き直ると、したり顔で
一回だけ頷いた。
「…やっぱ俺なのか」
なんとなく予想していただけショックはないが同時にどっから反省すべきかシーザーは悩んだ。
彼の心の奥から湧き上がる覚えのない恐怖はきっと悪夢の名残だろう。

「あきれた。女の子の初めて奪っといて覚えてないの?」
「シーザーさん、不潔です」
苦笑するキュルケとジト目で睨むシエスタにシーザーは慌てて弁解する。
「いやだって無意識だったからな」
「無意識で舌まで入れたのに覚えてないんですか?」
「いやだから」
「無意識だから女の子の初めて奪って舌入れて押し倒したんですか?」
「(ボディブローで)倒されたのは俺だ」
「無意識だから初めての女の子押し倒して舌入れてかき回して覚えていないんですか?」
 そんな妄想何処で覚えたんだシエスタ。というか誰かに聞かれたら誤解されるからヤメロ。
既にシエスタに完全に誤解されてることはさておき、このままだと小一時間問い詰められかねないシーザーは必死に考えた。

 ①:冷静なシーザーはいや無意識だったら覚えるの無理だろ?と知的に突っ込みをいれる
 ②:経験豊富なシーザーはベッドの上で奪ったんじゃないからいいだろと開き直る
 ③:現実は非情である。「フヒヒ、サーセン」と詫びつつ逆転の発想でシエスタを押し倒す。

「(③は死亡確認じゃねーかっ?!)」
心の中に浮かんだ選択肢に突っ込みをいれつつすぐさま行動に移る。
「すんませんこれ以上は勘弁してください」
恥も外聞も空気も知ったこっちゃなく土下座。暴走している女性はこれぐらいぶっ飛んだ行動をしなくては正気を取り戻してもらえない。
男のプライド?誇り?そんなものありませんよファンタジーやメルヘンじゃないんですから。
「格好悪」うるせぇぞキュルケ。
「…はぁ、まぁ悪気もなかったようですし、許してあげます」
究極的に情けない格好のシーザーを見て頭が冷えたのか、ため息まじりにようやく許した。
シーザー・A・ツェペリ、なんというかこの世界に来てからまったくいいところがない。

「で、俺を召喚したその女ってのはドコのどいつだ?」
遠くからナチスの科学力は世界一ーッ、って声が聞こえたが気のせいだろう。
せめてその女に文句の一つや二つは叩き込みたいと、シーザーはキュルケに尋ねた。
「ああ、それならあとで連れてってあげる。目的の半分を達成したしね」
「目的?」
「召喚された平民ってのがどんな奴なのか。もっとも洗濯が巧くて面白い奴だと思わなかったけど」
「洗濯は特技じゃねぇ…」
不平を漏らすシーザーの視界の先に、のっしのっしと歩いてくるやたらでかい蜥蜴が見えた。
その蜥蜴はキュルケの横に来ると嬉しそうに喉を鳴らす。

「この子があたしの使い魔”火蜥蜴”のフレイムよ。もう半分はこの子を呼び戻して早起きついでにあ
たしも散歩に出たって訳」
「こいつ、お前の使い魔だったのか」
 きらきらと鱗を輝かせるフレイムを愛しそうになでるキュルケに対しシーザーに嫌な記憶が蘇ってきた。

ボロ切れのようになったシーザーを枕にしてのしかかる奇妙な畜生たち、そのせいで三本くらい疲労
骨折したのだが中でも腹に寝そべる感触。
やけに体温が暑く、いや熱く腹部の大部分が低温やけどになってしまった。波紋で治すまで痒くてかゆくて、川の上で波紋を集中しながら練ってなんとか治せたのだ。
「何、この子なんかした?」
「いや、とても情熱的な抱擁をもらってね」
シーザーは若干皮肉をこめたが、ふーんと興味なさそうにキュルケに返された。
 …コノカユサ ハラサデオクベキカ。
心の中で復讐の炎を燃え上がらせるシーザーを尻目にフレイムが甘えたように鳴いた。
「どうしたのフレイム…あ、そっか」
その様子を不思議に思ったが、すぐに合点がいきシエスタに話しかける。
「ねぇそろそろ朝食の時間じゃない?この子がお腹すいたって催促しているんだけど」
「あ、そうですね。私も厨房の手伝いに戻らないと」
幾分か硬い表情のとれたメイドの態度を見てシーザーのおかげかな、とキュルケは思った。

「でも…」
困った表情を浮かべるシエスタに合点がいったシーザーが笑って言った。
「ああ、残りは僕がやっておくよ」
「有難うございます!残ってるのは貴族の方に頼まれたものだけですから気をつけてくださいね?」
了解、と返すシーザーに意味有り気な笑みをキュルケが浮かべた。
「何だ?」
「べっつにー。ねぇひょっとしてゼロの?」
シーザーの質問を無視してキュルケは尋ね、シエスタが困ったような笑みを浮かべた。
「何なんだよ一体…」
シーザーの当然の疑問に、二人は無言で眼を合わせ苦笑し蜥蜴は喉を鳴らした。

「それじゃあ先に失礼しますね」
シエスタは二人に礼をして駆け出し、ふと思い出したようにシーザーに尋ねた。
「シーザーさん、その不思議な力はなんていうんですか?」
桶に手を突っ込んで泡の塔を作り上げるシーザーはごく普通に、少しだけ格好つけて答えた。

「俺の力は”波紋”。あらゆる生命のもつ勇気が生みだす誇りさ」

「波紋ですか…とっても素敵な力ですね」
シエスタはそういい残し走り出した。

 シエスタは今日初めて出会った青年に不思議な魅力を感じていた。
水の上に立ち集中するその不思議な姿は朝日に照らされ神々しく、刃物のように鋭い空気を纏って。
けれどボロボロになって戻ってきた時は怖がる私を心配するように大きな体なのにオロオロしていて、
不思議な力で洗濯を手伝ってくれたり砕けた様子で話をしてくれる様子は面白くて、凄く怖い眼をして
貴族の人に喧嘩を売ったかと思えば土下座したりしょんぼりする様子はすごく可愛くて。
くるくると変わるその青年はシエスタには今まで見たこともない人間であった。

 そしてほんの少しだけ興味が沸いてきた。
(彼は何者なのだろう?)
貴族ではないと彼は言った。では私たちと同じ平民なのか?違うだろう。
彼は遠いところから来たといっていた。どんなところなんだろう?
そして…あの力。あれは何なのだろう? 
吸血鬼を倒して水に浮いて洗濯をして、そんな風に軽く言っていたけど多分それだけじゃない。
もっとすごい確かなもの。『波紋』と彼は言った。
(あらゆる生命の持つ、勇気が生み出す誇り)
きっと彼の全てがそこにあり、その強さもそこから生まれるのだろうとシエスタは感じた。
(私にもそんな力があるのかな)
きっととても遠いのだけど、追いついてみたい。彼のように振舞ってみたい。
厨房に駆けながらシエスタは心の中で頑張ろうと決意した。

一方そのころ。
(波紋…ですか…とっても素敵な力ですね)

特殊能力【波紋】:洗濯がとても快適に。水の上に立てます。

「(嫌過ぎる…)」
シエスタの中で間違いなく誇り高い力を誤解されているであろう事にシーザーは嘆いた。
こういう事は強引に修正しても印象深いことと混同してしまいかえって良くない。
が、せめて洗濯が巧くなるという誤解はどうにかして欲しい。
「(その辺に吸血鬼が二、三匹いねーかな…柱の男でもいいや)」
いたら困るのはお前だ、シーザー。というか波紋使いの誇りはどうした。

「じゃああたしも行くわね。終わったらあそこの建物を尋ねて。キュルケ様の部屋って尋ねたら誰か教え
てくれるから」
両手を地面について落ち込んでいるシーザーを特に慰めようと思わずキュルケも部屋に戻ろうとした。
彼女の指差した先には大きな建物が見えた。
「蜥蜴を連れた火炎のような女、だな。覚えたぞ」
キュルケの非難がましい視線を無視して気を取り直したシーザーは最後の洗濯に取り掛かる。
「まぁいいわ。そこであなたのご主人さまに引き合わせてあげる」
「自分が召喚した人間を地べたに放置するようなご主人様に仕える気はないがな」
ため息交じりのシーザーの皮肉にキュルケが苦笑しマントを翻した。


「ねぇ?」
ふと思い出したようにキュルケがシーザーに尋ねた。
「あの時あたしがそのまま杖を振るう人間だったらどうしてたの?」
「そうだな…信用はしてたし、万が一お前が暴力を振るう人間なら戦っていた」
「じゃああたしが弱そうなあの娘を狙っていたら?」
自分の中ではありえなかったが、他の貴族があの娘を虐げないとも限らない。
そう考えたキュルケにシーザーはごく当たり前のように答えた。

「決まってるだろ?あの娘を命に代えても守って、敵を打ち破るだけだ」
過剰な自信などではなく確かな意思を持ったまなざしでシーザーは宣言した。
「友人の命とあらゆる生命に対する侮辱は、俺が許さねぇ」
力強く、故に危険な意思を秘めたシーザーにキュルケがため息をついた。
「いずれ死ぬわよアナタ…?あんまり他の連中に喧嘩ふっかけないでね?」
あいつらもガキなんだから、と言い残してキュルケは去っていった。
「るせー」
遠ざかるキュルケの皮肉に悪態をついて洗濯に集中する。
先ほどの洗濯物より明らかに上質な生地を使っているのが判った。
「(連中のはやりたくねーが、シエスタが怒られるしな)」
石鹸が溶けきってしまうため水から取り出し、振動数を調整するため両手を突っ込んだ。
「(ん…?)」
両手から発せられる振動でたらいの中を暴れる洗濯物の一つがシーザーの手に絡まった。
「(軽い、小さいな…形状は…三角?ふちが…やわらかい…)」

 ぼふぉ!!

 石鹸は取り出したにもかかわらず泡山は大きく膨れ上がり、空に浮かぶ師はサングラスをかけメッシ
ーナとロギンズ師範代がそろって舌出してギィーッ!ってやっていた。

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