ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-49

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匿名ユーザー

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ベッドの上で、ルイズ・フランソワーズは夢を見ていた。
舞台は、生まれ故郷であるラ・ヴァリエールの領地にある屋敷。
夢の中の幼い自分は、屋敷の庭を逃げ回っていた。
それは二つの月の片一方、赤の月の満ちる夜のことだった。
真っ赤な真っ赤な……
血のように真っ赤なお月様が見下ろす夜。

「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの!?
まだお説教は終わっていませんよ!!」
出来のイイ姉たちと比べて落ちこぼれな自分を、
母は、いつも叱ってきた。
母だけではない。
自分の世話をする召使い達も、影で自分のことを哀れんでいることを、
ルイズは知っていた。
その事が、ますますルイズの自尊心に傷を付ける。
その日もまた母親に叱られた。
それが悔しくて、悲しくて、
思わずルイズは屋敷を飛び出したのだ。
使用人達の目を掻いくぐり、いつもそうしていたように、
中庭の池にある『秘密の場所』へと向かう。
そこは、幼い頃の自分が唯一安心できる場所だった。
あまり人の寄りつかない中庭の池には、小舟が一艘浮かべられている。
昔は家族で舟遊びをして楽しんだものだったが、
時とともに皆離れていった。

この場所に気を留めるものは、もはやルイズしかいないのだった。
夢の中の幼い自分は小舟の中に忍び込み、
用意してあった毛布を纏って、息を潜める。
しばらくそんな風にしていると……霧の中から、
マントを羽織った1人の立派な貴族が現れた

「ルイズ、泣いているのかい?」
つばの広い帽子をかぶっていたので顔はよく見えなかったが、
ルイズはその貴族が誰だかすぐにわかった。
最近、近所の領地を相続したという子爵。

「可哀想に。
また怒られたんだね……」
幼いルイズにとって、憧れの人だった。
近所だったから晩餐会を共にしたこともあったし、
また、父と彼が交わしたある約束も相まって、
ルイズとその子爵は、会う度によく話をしたものだ。

「僕の可愛いルイズ。
ほら、僕の手をお取り。
もうじき晩餐会が始まるよ。
……安心して。
お父上には、僕からとりなしてあげる」

夢の中の幼い自分は、恥ずかしそうに頷いて立ち上がり、
子爵の手を握ろうとした。
……が、ルイズがその瞬間、子爵の手がすうっと引っ込められた。
意外な対応に、幼いルイズは当惑する。
それは、夢の中の出来事をぼんやり俯瞰していた現実のルイズも同様だった。

―――あれ、何だか変だな?
この後確か、子爵と共に晩餐会に向かった筈なのに……。
夢と現と、両方のルイズが混乱する中、顔の隠れた子爵が語り掛ける。

「そうだ、ルイズ。
君に見せたいものがあるんだ」
現のルイズが未だに当惑する一方で、
夢のルイズは、子爵を信頼しきった表情で答える。

「まぁ、子爵様。
一体何を見せて下さるの?
楽しみだわ」
子爵は大仰に一礼して、マントを翻した。

「ルイズ、僕のルイズ!
とても素晴らしい物だよ。
きっと、我を忘れてしまうほどに!
だから、7秒だけ待っててくれるかな?」

は?7秒?
ますますもって分からない。
直ぐに持って来たいのは分かるが……
どうしてわざわざ正確な所要時間を言う必要があるのか。
しかもやけに短い。
2人を俯瞰していた現ルイズは、途方もなくいやな予感がし始めた。
そんな現ルイズの不安をよそに、子爵の姿が一瞬で掻き消えた。
『見せたい物』とやらを取りに行ったのだろうか。
そりゃあ、7秒しかないのだ。
急ぐのは尤もだが……素早すぎやしないか?

~1秒経過!~
「子爵様ったら。
私のために、あんなに一生懸命になられて……」
しかし、夢ルイズは全く疑ってすらいないようだ。
~2秒経過!~
……マズい。
これはマズい!
何だかとてもマズい気がする!
と、現ルイズ。
~3秒経過!~
「子爵様が見せたい物って、一体何かしら?」
と、夢ルイズ。
~4秒経過!~
逃げろ。
逃げるのよ、私!!
何やってるの、早く逃げるのよ!
と、また現ルイズ。
~5秒経過!~
「子爵様のことだから、
本当に我を忘れてしまうほどの物なのだわ……」
~6秒経過!~
緩みきってるわね、夢の中の私。
しかし待て夢ルイズッ!
何かただならぬ事がッ!
起こっているのよォオオッ!
~7秒経過!~
「待たせたね。
上を見てごらん、可愛いルイズ」
夢の中のルイズは、弾かれたように空を仰いだ。

果たして空中には、夢ルイズが乗っている小舟なんかとは比べ物にならないほど大きな物が浮いていた。
馬車のようにも見えるが、
見る者に威圧感を与える凶悪なフォルムをしている。
黄色を基調とした車体の前後には、
ぶっとい石の円柱のようなものが付いていた。
馬車にしてはやけに重そうだ。
馬数頭ぐらいでは、ビクともしなさそうなほど。
その上には子爵が乗っかって、夢の中のルイズを見下ろしている。
その馬車の異様な巨体に、夢と現と、
ルイズは揃って我を忘れた。
無論感動したからではない。
絶望したからだ。
今あれは宙に浮いているが、
やがて重力の法則に従って墜落してくるだろう。
そうなったらどうなるか……。
答えはもうすぐ分かる。
だって、今まさに、あの巨大な馬車が、
夢の中のルイズを乗せた小舟めがけて、落下を始めたからだ。
ふと、落下による風に吹かれて、
子爵の帽子が飛んだ。

「あ」
ルイズは短い声を上げる。
いつの間にか夢と現とが重なり合い
舞台にいるルイズは、6歳から16歳の今の姿になっていた。

そして、帽子の下から現れた顔は憧れの子爵などではなく、
使い魔の……ちょっと髪型だとか、唇の色だとか雰囲気だとか色々変わってるけど……
DIOであった。
ふと目が合う。
DIOは見たこともないほど興奮した笑みを浮かべた。
突如夢の中に乱入してきたDIOは、
奇妙で巨大な馬車に乗って落下しながら、
現実世界ではルイズすら聞いたこともないほどハイテンションな声を上げた。

「ロードローラーだッ!!!」
なんじゃそら、と突っ込む暇など、
もちろん無かった。
DIOが乗っかった馬車が、小舟を直撃したからだ。
ドッバァアアン!という、凄まじい水しぶきと共に、
小舟がバラバラになる。
その小舟ごとペッシャンコになったかと思われたルイズだか、
意外なことに生きていた。
馬車の円柱に、無様な格好でしがみつく。
うまく難を逃れたかに見えたルイズだが、
今度は馬車もろとも、どんどん水中へと沈んでいってしまった。
何とか身を捩って脱出しようとするが、
DIOがそれを許さない。
ガンガンガンガンガンと
車体を殴り付けて沈没を助長する。
……器用なことに、右は肘、
左はグーと使い分けていた。

「もう遅い!
脱出不可能よッ!」
夢の中なので、水中でも何故か叫び声を上げてくるDIO。
まさしくDIOの言う通りなのだが、
せめてささやかな抵抗くらいさせて欲しい。
だが、
「無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
「無理無理無理無理無理
無理無理無理無理無理ィッ!!」
現実は……夢か?どうでもいいけど……
やはり非情だった。
抵抗むなしく、グングンと湖底が近づいてくる。
このままではペッチャンコだ。
それにしても、夢の中の使い魔はとんでもなくハイだ。
ひょっとしたらこれがアイツの本性なのだろうか。
そう思う間に水圧が体の自由を奪い、ついに身動きすら取れなくなってしまった。
万事休す。
湖底は目と鼻の先だ。
そのことはDIOも承知なのか、
ダメ押しとばかりに渾身の一撃を打ち込んでくる。

「8秒経過!
ウリィイイイヤァアアッー!
ぶっ潰れよォォッ!!」
今更ながらのタイムカウント。
しかし凄い。
たった1秒の間なのに、こんなたくさんの描写があるなんて。
さすが夢だ、突拍子もない。
なんて考えていたら、ドグシャァア!と着地の音が聞こえて、
砂利が水中に舞い上がる。

こうして夢の中のルイズは、
地面とロードローラーとに挟まれて、哀れにもサンドイッチになってしまった。

「9秒経過……!!」
DIOのタイムカウントを餞に、私は夢から逃走して目を覚ました。
――――――――――
巨大な何かに押しつぶされる夢を見て、
ルイズ・フランソワーズは目を開いた。
あまりにも夢見が悪くかったので気晴らしに伸びをしようとしたが、
何故か体が動かない。
ベッドに横たわったまま、一体どういう事かと、寝ぼけ眼を擦って己の体に目をやるルイズ。
なにやら布団の下に、ゴツゴツした感触がいくつもある。
布団をめくってみると、いかにも重そうな魔法関係の本が、
所狭しとルイズを圧迫していた。
先程の夢はこれのせいか。
それを見て、昨日勉強をしていてそのまま寝入ってしまったことを、ルイズは思い出した。
しかし、ルイズには布団をかぶった記憶などなかった。
なら、この布団は一体誰が掛けてくれたのだろうか……?
取り敢えず布団をのけて、身を起こす。
分厚い本が、バサバサと床に落ちていった。

ルイズは嫌な予感と共に、
ゆっくりとソファーの方を向いた。

そこにはDIOがいた。
ルイズより先に起きて、本を読んでいる。
ルイズが起きたことに気づき、DIOは顔を上げた。

「起きたか。
今日は随分と早いな」
確かにまだ部屋は薄暗い。
とは言っても、DIOを召喚してからというものの、
ルイズの部屋はいつも薄暗かった。
どんなに爽やかな朝だろうと、
蝶々がチューリップにキスをするようなきらめく昼下がりだろうと、
日が出ている間はルイズの部屋は、
窓もカーテンもピッチリと閉められている。
ルイズは太陽が大嫌いになっていた。
何というか、慎みの感じられない、ハナにつく明るさなのだ。
今のルイズは、月明かりの方が断然お好みだった。
それはさておき、ルイズはベッドから立ち上がり、
布団を掴んでDIOに見せた。

「ねぇ。
これ、ひょっとして、ひょっとするんだけど……」
認めたくない現実に果敢に立ち向かうルイズに、
DIOはさも当然と頷いた。

「私が掛けた」
ルイズは思わず布団を取り落とした。
布団がパサッと床の本の上に落ちたが、そんな事全然気にならなかった。
感動で震える両手を、自分の頬に添える。
手のひらから伝わる、若干火照った頬の感触。

不覚にもルイズの胸はきゅんとなっていたのだった。
……ウソ。
なんて事。
いやあね冗談に決まってるわなんでコイツったらいきなりそんな使い魔の鏡みたいな真似を白々しいったらありゃしないわ
そういえば近頃私ったら魔力上がってるしもしかしてとうとうコイツ私の軍門に下ったというわけかしら
でもでもでもイキナリこんな甲斐甲斐しく接してくるなんておかしいわ不自然よひょっとしてコイツってば
あああダメよいくら私が前途有望でプリティな女の子だからってつつ使い魔と御主人様なんだからそんなのダメよ!!
…………でもコイツ、本はどけてくれなかったわ。
散々1人でヒートアップしたルイズだったが、
そう考えると今までの興奮が一気に冷めてしまうのだった。
途端に口をへの字に曲げ、白い目でDIOを見る。

「あのね。
布団を掛けてくれたのはスゴ~く有り難かったんだけど……
それならまず最初に本をどけなさいよ」

「てっきり本に埋もれて眠るのが好みなのだと思って、
そのままにした」
ルイズは怒鳴った。

「本まみれで寝るのが好きな奴なんているわけないじゃない!!
……1人心当たりがあるけど。
っとにかく!
潰れちゃうかと思ったわよ、ほんとに!」
ほんとにふんとに。
ギャースカ喚いてみせても、DIOは笑って受け流してしまう。
結局からかわれていただけだったのだ。
一瞬でも胸きゅんしてしまった自分が恥ずかしくて、
ルイズは悶えた。
どうにも近頃、自分の使い魔は陽気だ。
それはおそらく、ようやっとコイツが服を着るようになった頃からだ。
私がせっかく選んでやったレディーメイドは気に食わなかったようで、
勝手に注文していたのいやがったのだ。
コッテリ叱りつけたのだが、馬耳東風、DIOに説教。
素知らぬ顔をされてしまった。
ちぇ、服を着たぐらいでテンション上がるなんて、
まるで子供じゃない。
そう思って、ルイズは先ほどの夢を思い出していた。
あの、異様にハイだったDIOの顔を。
ちらっと奴の顔を見る。
そういえばコイツ、フリッグの舞踏会で私と踊った時も、
いやに紳士然としてたわね。
……なるほど、そういうことか。

ウシシ……と下品な笑みを浮かべて、
ルイズはDIOの肩を叩いた。
「ねぇ、DIO」

「……?」

「あんたって、実は結構ノりやすいタイプでしょ」
藪から棒なルイズの指摘に、
DIOは驚いたような、困ったような、複雑な顔をした。

【DIOが使い魔!?】
第二部
『ファントム・アルビオン』

to be continued……


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