ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神-5

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匿名ユーザー

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 テーブルに突っ込み派手に料理を頭から被ったギーシュが怒りの声を上げる。
「誰だこんな所にこんな物を置いたのは!!」
 スープ皿を頭に被ったままギーシュは、転がるアヌビス神を拾い上げ、ぶんぶんと頭上で振り回す。
『こりゃまたいい按配に、斬り味よさげな男だな』とアヌビス神は考えた。

「これはゼロのルイズの召喚した使い魔だな」
 とマリコルヌがアヌビス神をじぃーっと見ながら言う。
「おっとこれはご主人さまに、なじって欲しい性癖のマルコメヌ。流石ご主人さまの事は良く知ってるな!」
「うん正解!
 な訳有るかーーーーっ」
 マリコルヌは赤面して、泣きながら逃げ出した。
「あ、後僕はマルコメヌじゃなくてマリコルヌだからなー」
 と言い残して。
「図星だったか……」
 呟くアヌビス神にギーシュが答える。
「うーん、あいつにそんな趣味が有ったとわ……
 ってそんな話しじゃあない!
 あんな所に転がって何のつもりなんだい!危ないじゃないか。って言うか実際に危ない目に有ったじゃないか!」
「知るか。おれを蹴り飛ばした連中が悪い。わざとするなら、躓かせずに斬ってる」
「さらっと物騒な事を言わないでくれたまえ!
 まったく使い魔の躾は、いったいどうなっているのかね……」
 とギーシュがルイズを探そうときょろきょろした所で、
「やれやれ、まだ食事中だったのに……ってこんな物あったっけ?」
「ん?この香水はモンモランシーの香水じゃないか?」
「そうだ、この鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
 ギーシュがテーブルに突っ込んだ辺りから声があがる。
「それがギーシュが転んだ場所に転がってるって事は……」
「ギーシュは今モンモランシーと付き合っている。そう言うことだな?」
 ギーシュは慌てて、アヌビス神を相手にするのを止めて弁明する。
「違う。いいかい?彼女の名誉の為に言っておくが……」
 アヌビス神を持ったまま、慌てて腕を上でバタバタさせながら。
 すっ転んだ時にド派手な音を立つわ、泣きながら走り去る男が居るわ、大声で刀を振り回して騒ぐわで、食堂中の注目はギーシュへと注がれていた。
「ギーシュ様……やはりミス・モンモランシーと……」
 何時の間にかギーシュの後に立っていた、一年生指定色のマントを付けた少女がボロボロと涙をこぼして泣き出す。
「なァー、誤解だケティ。僕の心の中に住んでいるのはキミだけ――――」
 言いかけた所で、大声で自分の名前を連呼された金髪縦ロールの少女、モンモランシーが駆けつける。
「一体何の用かし……って」
 その状況を見るなり表情を一変させ怒りをあらわにする。
「へぇー誤解なのね」
「違ーう、誤解だモンモランシー。彼女とはただ一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけで」
「そんな、ただ一緒にだなんてっ」
「やっぱりこの一年子に手を出していたのね?」
 ギーシュは少女二人に板挟みにされてしまう。
「二股かギーシュ!」
「二股とは中々やるじゃないか」
「流石女泣かせのギーシュだァッ」
食堂の彼方此方から囃し立てる声があがる。


 シエスタはアヌビス神を探していた。先程たまたま拾った、きらきら綺麗なこの金属片を届ける為に。
 朝、教室までアヌビス神を運んであげた時に、彼が言っていた野晒しに乗っている彼の一部ではないかと思って。
 そして人込みの中、ぶんぶんと振り回されるアヌビス神の姿が僅かに見えた。
「すみません、失礼します。ここを通してください」
 ペコペコと頭を下げながら、人込みをかき分けアヌビス神の元へと向う。
「アヌビスさん、今朝言っていた物はこれでは無いですか?」
 ギーシュの後ろからアヌビスに話しかける。

遠巻きに見ている者達には、何か綺麗な物を持ったメイドが、ギーシュにそれを届けようとしているように見えた。女二人と二股騒動の真最中にだ。
「げェーッ第三の女現るッ!」
「SUGEEEEEEE三股目ですか!」
「もう呼び捨てはできねえ、今後ギーシュさんと呼ばせていただきます」

 誤解の言葉は飛び火し、一気にギーシュ周囲の連中をも飲み込む。

「何ィィィィィ!!」
 流石に心当たりが全く無いギーシュは、素っ頓狂な声を上げる。
 ギーシュは、このゼロのルイズの使い魔が原因かと考え、筋肉痛を堪え、ゆっくりゆっくりと食事をしているルイズに向って大声で声をかけた。
「ルゥゥゥイズゥゥッ!!キミの使い魔がァ――――――」
 だがその行為が熱狂状態になったこの食堂で、更なる誤解を連鎖し生み出す。
「マジか、
 四股目ェーッ」
「落ち着け、四股目だ!」
「流石俺等の『ギーシュさん』だ。ゼロのルイズまでェー!」
「流石ギーシュさん!俺達にできないことを平然とやってのけるっ!そこに痺れる!憧れるうぅっ!」
「「「ギーシュさん!ギーシュさん!ギーシュさん!」」」
 良く判らない『ギーシュさん』コールまで、巻き起こりギーシュ四面楚歌である。

 パニックに陥っていたモンモランシーとケティはその流れを其の侭鵜呑みにする。
「ま、まさか平民のメイドやゼロのルイズまでっ!」
「ギーシュさま、そんな嘘っ」
 ケティに至っては涙を流し今にも崩れそうだ。

 ルイズは筋肉痛に耐え必死に食事をしていた為、この熱狂を完全にスルーしていた。
「や、やっぱ一度に運ぶ分量を増やした方が負担は少ないわね……
 あ、あぁぁぁ~ん」
 痺れる腕をゆっくりと動かし、あんぐり開けた口へと、スプーンになみなみとすくったスープを運んでいたルイズは、呼ばれた声に反応しゆっくりとその主の方を向く。
 首も痛い。首を動かすだけで、ギギィーと音が鳴る気がする。
 そして振り向いたら物凄い注目を受けていた。
 まさかこのマヌケな食事模様が、食堂中から注目を受けるとはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、思ってもいなかった。
しかも何故か連呼される『ギーシュさん』コールと『四股』コール。
 ルイズは『ギーシュって男連中からこんなに人望有ったかしら?しかも全学年問わずに』と真剣に考えた。それ程のビッグコールであった。
「「「ギーシュさん!ギーシュさん!ギーシュさん!」」」
 ルイズが熱狂に巻き込まれぽかーんとしている間も『ギーシュさん』コールは収まるところを知らない。

 ルイズは冷静に思考を廻らせ声に耳を傾け辺りを見渡す。
 判った事を羅列するとこうだ。
  • ギーシュは四股をかけている。
  • ギーシュは貴族平民問わずに女に手を出す種馬。
  • ギーシュが今四股をかけている相手は、モンモランシー、ケティ、平民のメイド、わたし。
  • 今ギーシュの側でパニックを起こしてキョロキョロしているメイドが多分その該当者。
  • このパニックの中核人物のギーシュはアヌビス神を手にしている。

 少し遠間からギーシュの様子を見るルイズには、アヌビス神を頭上で弧を描くように振り回し、この熱狂を煽るっている姿として映った。
『アァァァヌビィィィスーッ、あんたそいつ操ってパニック起こしたわねェー!!この犬殺す!』といった念を込めてギーシュが振り回す剣を睨み付ける。
『シエスタちゃん本当に良い子。
 ご主人さまが放置してたおれの一部を、自分から拾って持ってきてくれるとか。おれこんな優しくされたのはじめて』とか空気を読まずに、巻き込まれオロオロしているシエスタに話しかけていた。アヌビス神は、突然恐ろしく冷たい何かを感じそちらを見た。
 ルイズが、凄まじい殺意を持って睨み付けてくる。『誤解だ!』と必死に念を送ってみる。尚、声はこの熱狂の『ギーシュさん』コールで全く届かない。
 ルイズは何となく、操ってないという主張は感じたが、とても小馬鹿にされたような念を勝手に受信した。多分筋肉痛の怒りが作りだした、幻聴の類だろう。

 今怒りが筋肉の痛みを越える。痛みで萎縮した筋肉が、大量に分泌された怒りの脳内麻薬で開放される。
「だぁぁぁぁれぇぇぇぇがぁぁぁぁぁっ、そんなボンクラ悪趣味変態ヤサ男の四番目の女と言うのかしらァーッ!!」
「ぼ、ぼぼぼぼ、僕は何も言って無い、言って無いよ、誤解だルイズっ」
 もの凄い勢いで、人込みを割って突っかかってきたルイズに驚いたギーシュは、半泣きで言い訳をする。
「じゃあこの騒ぎは何なのかしら!」
「ちがーうっ、僕じゃない僕じゃっ、キミのこの使い魔が悪いんだっ!」
 熱しきった観衆はこのやり取りすら『ギーシュさん』の四股武勇伝最終楽章として結び付け盛り上がる。
「だーっ、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいーっ!!」
 ルイズ吼える、テーブルの上に上がり吼える。だが盛り上がりは止まらない。ダメだと思ったルイズは、悲劇のヒロインに浸っているモンモランシーに振る事にした。
「この洪水お漏らし女、あんたの色恋沙汰に何でわたしが巻き込まれてんのよ!」
「何でゼロのルイズがギーシュとーっ!!」
 ダメだ、熱しきっていて通じない。そしてその僅かなやり取りすら。
「『ギーシュさん』の一号と四号の直接対決きたー」
「「「ギーシュさん!ギーシュさん!ギーシュさん!」」」
 と大騒ぎである。集団心理恐るべし。

 ルイズは決意したッ!
「アヌビス、わたしはあんたに『許可』するわ!!」
 腕を組み、鼻をふんっ鳴らすようにして宣言する。
「ここに居る連中全部ずばァーっとやっても――――」
「それはダメ」

 突然ギーシュの動きが止まった。熱狂の渦の観衆にはそう見えた。
「それじゃ黙らせなさい。口でよ?」
 ルイズの命にギーシュが口を開く。
「諸君ーっ!!
 静粛にしてくれたまえっ!!」
 そしてまた不自然な体勢で硬直する。
 ギーシュをカリスマに見立て盛り上がっていた観衆は、その言葉に静まり返る。
 そして響き渡るルイズの怒号。
「だ・れ・がっ!この大ボケの女よ、誰がっ!!」
 スパーんと観衆の眼前で、ルイズはギーシュの頭を引っ叩く。
 杖を取り出し、振りかざしながらルイズは大声を上げる。
「いい事を教えて上げるわ。
 あ、そこ黙って聞かないと吹っ飛ばすわよ?
 わたしのこの使い魔には面白い能力があるのよ」
『ゲェーッ!ご、ご主人さまこんな大勢の前でバラすとか流石に“無”いよね?』とアヌビス神は思った。
「このインテリジェンスソード『アヌビス神』は手にした物の身体と意思を意のままに操るわ!!」
 “有”った。
 疑いの声が上がったが、ギーシュに不自然な恥ずかしい踊りや言動を実行させ、黙らせた。
 そして……一言。
「この場で服を着たまま小の用をたしなさい」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「どうかしら?」
 食堂に居る人全てがその“ショー”を恐怖と驚きと共に、固唾を飲んで静かに見守る。
「この騒動の原因になったこのギーシュの女癖の悪さ。これを今からその思考を嘘偽りなく吐かせ、そしてわたしは関係ない事を『証明』するわッ!!」
「その前にっ」
「その前に?」
「あんた達にギーシュの秘密に対する質問を『許可』するわ」
 ルイズは怒っていた。この程度の低い糞ッタレ騒ぎに巻き込まれた事に。そしてくだらない浮気騒動に巻き込まれた事に。

「ギーシュはおもらしを何時までしていたか」
「11歳」
「ギーシュの女性経験は?」
「チェリー」
「じゃあキスは?」
「身内のキッス以外はしたことない」
 食堂がどよめいた。
 ヴァリエール容赦ねえ、人生と心を殺す気かと。
「ゼロのルイズの事はどう思う?」
「あんな洗濯板興味も無い」
 ルイズはギーシュの腹に、鮮やかな膝蹴りを叩き込んだ。その質問をした男子生徒はルイズの“フライ”の魔法で吹っ飛ばされた。
「どう?わたしは関係ない事が判ったでしょう」
 そして続けろと、ルイズが顎で促すと次々と質問が始まった。
 今のは、殆どギーシュの痴態暴露では……。と皆思ったが質問は続いた。
「あの香水はどうした?」
「モンモランシーに貰った」
「コルベールの事はどう思う?」
「U字ハゲ、コッパゲ」
「あのメイドの事はどう思ってる?」
「すごい身体を隠してるのは判るけど興味無い」
「何故わかる」
「服の上から判るのは常識さ」「うん、そうだよね(アヌビス神談)」
「尊敬している人は?」
「父上兄上」
「特技は?」
「彫金」

「どう?
 どうかしら?
 わたしの使い魔の、この力はどうかしらぁ~!!」
「えらい?おれえらい?」
 ルイズとアヌビス神はかつて無い程調子に乗り盛り上がる。後日アヌビス神は『心を斬るのもイイね!』と語った。
「さて、いよいよ今回のトラブルの発端を掘り下げていくわよ。
 あんた達しっかり気の効いた質問しなさいよ?」

 何時の間にやら、テーブルの上に立つルイズと、アヌビス神が操るギーシュを正面に、観衆は演劇を見に着た客のように、整然と並んで座り熱心に聞き、そして順番に質問をした。
「1番好きな女の子は?」
「モンモランシー」
「じゃあ2番目に好きな女の子は?」
「モンモランシー」
「愛してるのは?」
「モンモランシー」
「キスしてみたい相手は?」
「モンモランシー」
「押し倒してしまいたい相手は?」
「モンモランシー」
「浮気した事は?」
「実はモンモランシー以外眼中に無い」
「将来はどうしたい?」
「モンモランシーと結婚したい」
「モンモランシーの事は?」
「1番愛しい人」
「ケティの事は?」
「可愛いけれどそれ以上はない」
「モンモランシーがピンチ。どうする?」
「命に代えてでも助け出す」
「ケティの場合は?」
「コッパゲ先生を呼ぶ」
「モンモランシーと自分の命の2択。どうする?」
「二人共に助かる道を探す。ダメなら迷わず自分の命を差し出す」
「薔薇の花は?」
「モンモランシーに捧げる為に」
「初体験は誰としたい?」
「モンモランシー」
 ひたすら繰り返される告白も同然の暴露大会に、モンモランシーは羞恥心で顔を真っ赤にしショートし、質問の途中でその場に倒れた。

「ご主人さまご主人さま、
 こいつ頭の中、モンモランシーだらけですぜェー」
 質問に答えるのが面倒になったアヌビス神の言葉に、ケティは大泣きしながら走り去った。

 色恋沙汰に関して何を聞いても誰が問ってもギーシュの答えは『モンモランシー』だ。
「あんた適当やらかして、引っ掻き回してるんじゃぁないでしょうね?」
「いんや違うね。このお坊ちゃんの頭の中は、モンモランシー一色だ。完全に参ってやがる」


「紳士だ。ふざけて見えても、心の中は間違いなく紳士だ」
「ここまで心を決めることが出来るなんて、やはり『ギーシュさん』だ」
「素敵ッ!一人の女性に、ここまで愛を心の底から捧げる事ができるなんてッー!」
「俺もうギーシュさんに捧げても良い!」
「貴族の旦那ァー。あんた最高だ!」
「ギーシュさん!」
「ギーシュさん!」
「ギーシュさん!」
 再び巻き起こる『ギーシュさん』コール。
 そして余りにも男らしい?その決意に、今度は女生徒も共に大きく声を上げ、手を叩くッ!!
 食堂近辺に居た、平民の使用人達も一緒になって大騒ぎだ。
 感激の涙を流している者すらいる。
 熱狂の集団心理も相まって、皆思考がおかしい事になっているらしい。

 ルイズは馬鹿らしくなり、ギーシュの手からアヌビス神をもぎ取ると食堂を後にした。その後を、アヌビス神の“先っぽ”を持ったシエスタが追いかけた。

 正気を取戻したギーシュはお漏らし後に気付かず、一瞬混乱するもののそのコールに素早く答える。
 この辺の切り替えの早さだけは流石だ。ちなみにスープ皿はまだ被ったままである。

「二股は二股」
 そして食堂を出る前に、熱狂を無視して黙々と食事を続ける一人の少女が、ぼそっとそう言ったのを聞いた気がした。




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