ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-11

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匿名ユーザー

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 予定の時間より少々時間をかけて、二人は城下町に辿り着いていた。
「ここが『ブルドンネ街』。トリステインで一番大きな通りよ」
「ふむ。なかなか活気があるのう」
 地図を片手に歩くルイズと、その後ろをついて歩くジョセフ。
「……何回目じゃろか、このやり取り」
「うっさいわね!」
 二人は豪快に道に迷っていた。
「大体武器屋なんて行った事ないんだもの! あっれおかしいなあ、この通りからこの裏通りに行けばあるはずじゃないの!?」
 地図と周囲の風景を見合わせたり、地図を傾けたり回したりして髪をわしゃわしゃと掻くルイズ。
 その様子を見ているジョセフは、ふむ、と顎を撫ぜて決断を下す。
 結局この前見せられなかった、「お見せしたいもの」を見せるチャンスだ。
 ハーミットパープルを見せようとした試みは、ルイズが癇癪起こして失敗した。
 どうしてそれで三ヶ月食事を抜かれたのか、どうにも納得いかないが。
「ええとじゃなルイズ、わしにいい方法がある。ちょっとこっちの空き地に来てくれんか」
 怪訝そうな顔をするものの、ルイズは素直についてきた。
 空き地は適当に砂地。ハーミットパープルを使うには申し分の無い立地だ。
「で、いい方法って何よ?」
 腕を組んで使い魔を見上げるルイズに、ジョセフはニヤニヤ笑って手を差し出した。
「ちょいと地図を貸してくれ。武器屋までの行き方を調べる」
 少々不審げな顔で見ているが、物は試しとばかりに地図を渡す。
「まず、ルイズに見せておきたいものを見せる。見えるかどうかは判らんが……ハーミットパープルッッ!」
 ジョセフが叫んだ瞬間、右手から三本の紫の茨が勢い良く出現した。
「きゃっ!? な、何よそれ!」
 思わず身構えたルイズに、ジョセフは「ほう見えるんじゃのう」と感心した。
「さっきも言ったが、これがわしに発現した『スタンド』、ハーミットパープル。
 言わばわしの魂の形を具現化したものと言ってもいい」
「は……魂? 具現化……?」
 予想外のものを見たルイズは、理解が全く追いついていないようだが、興味はあるのか指先で茨をつついたりしている。
「触れるわよこれ」
「わしのいた世界ではコイツはスタンド能力がある人間にしか見えんかった。
 こいつぁわしの仮説じゃが、ルイズが見えとるということはメイジにはコイツが見えると考えてもいいじゃろうな」
 後でシエスタに何気なく見せて確認しようと考えるジョセフに、ルイズは茨を摘んでまじまじと観察しながら聞いた。
「で……ハーミットパープルだっけ? これで何が出来るの?」
「おおそうそう。スタンドっつーのは魂の具現化したモンじゃから、人それぞれ違う形のスタンドになるし、同じスタンドはないと言ってもいい。
 で、それぞれのスタンドには固有の能力がある。
 わしのスタンド、ハーミットパープルの能力は念写に念視!
 こっちの世界じゃちぃと能力が制限されるがッ……『この街の地図』『この街の砂』そして『わしらの持っている金貨』があれば!」
 ジョセフは懐から金貨の入った袋を取り出し、一枚の金貨を地図の上に置く。

「ハーミットパープルッッッ!! 武器屋までの道筋を写し出せッ!!」
 ジョセフの叫びに応えた茨達は、地図の上を素早く走り回る。
 金貨が地図の上に置かれ、砂が地図に描かれた道に振り撒かれていく。
 最後に一つの小石がある区画に置かれると、茨達は巣穴に戻る蛇のようにジョセフの手へ戻った。
「よっしゃ、成功じゃ。この金貨があるところが今わしがいるところ。
 で、この砂の道を通っていって、小石のあるところに行けば武器屋に辿り着くって寸法じゃ!」
「本当にー?」
 まだ疑わしげな目で地図とジョセフをねめつけるルイズ。
「ま、百聞は一見にしかずってヤツじゃ。とりあえず行ってみてからのお楽しみじゃよ」
 金貨は袋に戻すが、地図に砂と石を乗せたまま、今度はジョセフが地図を持ってルイズを先導していく。
 果たしてルイズ主従御一行は、今度は迷わずに武器屋の前に辿り着いていた。
「へぇ……随分と便利な能力なのね」
 素直に感心するルイズに、ジョセフは軽く苦笑いしながら言った。
「本当は他にも色々出来るんじゃがな、こっちの世界には機械がないからけっこう使いどころが限られるんじゃな。
 ちゃんとした機械があれば、誰かが考えてることを読んだり、遠いところにおる誰かの姿を映し出したり出来るんじゃ」
 むぅ、と唇を尖らせたルイズは、何となくムカついてジョセフの脇腹をチョップで突く。
「おふっ。何するんじゃよルイズ!」
「別にー。なーんか年取ってるからって色々出来るのがなんかムカついただけだもの」
「このスタンドは、いきなり授かったモンじゃからなあ。そう言われても困るわい」
 苦笑しながらジョセフは武器屋の扉を開けて中へと入る。
「へいらっしゃい。……お貴族様ですかい。うちは上に目を付けられるような商売してませんぜ」
 ルイズの姿を見たと同時に嫌そうな顔を隠しもしない主人に、ルイズは憤然とした顔で返事をする。
「客よ。今日はコレに持たせる武器を買いに来たの」
「ああ、お客様でしたかい! それならそうと早く言って貰わないと!」
 すぐさま表情と口調を変えて揉み手する身代わりの速さに、ルイズは眉間の皺を更に強く刻み、ジョセフは軽く苦笑いをして見せた。
「で、どのような武器が御入用で! ちょうどそこの従者さんにピッタリのいい武器が入荷したところでさあ!」
 と、早速裏に引っ込んで一振りの剣を持ってくる。
 どこぞの何たらが鍛えた業物でなんたらかんたら、と口上を述べてくるが、ジョセフは一目見ただけで「いらんのう」と考えていた。
 そもそも主人の顔には「よーしパパ貴族からボリまくるぞー」という表情がバッチリ滲み出ている。例えいい武器でも買う気が失せる。
 ジョセフは様々な武器で戦うことも多かったが、そもそも使った武器がコーラやテキーラやクラッカーだったり、その場にあるものを駆使して戦うスタイルだった。
 強いて言えばロープやワイヤーなんかがあればいいのう、とか思いはしたが、見回した限りではジョセフのお気に召すような代物は存在しなかった。
 武器を使うにせよ、波紋を流す為には油を塗らなければならない。
 となると、あまりデリケートな武器だとすぐに錆びて使い物にならなくなる。
 となると、ハンマーやらの判り易くて手入れのし易い武器が便利だが、あまり重くても不便だ。
 ボウガンも考えたが、そもそも爆破攻撃の出来るルイズがいるのに遠距離攻撃してどうするのか。
(困ったのう。かと言って「いりません」で終わったらせっかくのルイズの気持ちが無駄になるし)
 主人の口上を半ば無視して、もう一度店内をぐるりと見回した時。ふと、声が聞こえた。
「うぉーいそこの爺さんや! ナマクラばっか薦められて困ってますって顔してんじゃねえか!
 なんなら俺っちを買いなよ、損はさせないぜ!」
「うるせえデル公! お貴族様に失礼な口叩いてんじゃねえぞ!?」
 猫なで声の口上から一変、声の主に怒鳴りつける主人。
 もはやルイズも不機嫌に主人の言葉を聞き流している状態だったので、ふと彼女も主人から視線を離して店内を見回した。
 しかし店内には、ルイズ、ジョセフ、店主の三人しかいない。
「おいおいここだぜここだぜ! へーい爺さん、このデルフリンガー様はこの店で売ってるようなナマクラとは大違いだぜ!
 ここはどーんと買っちまいな!」
(こいつぁ面白そうじゃな)と興味を引かれたジョセフは、主人がまた怒鳴りつけようとするのに背を向けて、声の出た場所へと歩いていった。
 そこには土産屋の店先で傘立てにまとめて差し込まれている木刀のような風情で、細長の籠にまとめて入れられている剣達の中から聞こえてきた。
「オッケエエエエ爺さん! ここだここだ!」
 籠の中で一振りだけ、自分の身をぶん回してけたたましく自己主張している剣を見た。
 ジョセフは手を伸ばすと、その剣を手に取り、鞘から抜いて刀身を見てみる。
 見ればこの店の中で一番みすぼらしく、剣には錆がびっしりと浮いている。
「ほう、剣が喋っとるわい」
 承太郎やポルナレフからアヌビス神の騒動は聞いていたが、(こういうところで主人に怒鳴りつけられるような剣が危なくはないじゃろ)という判断で、ジョセフはあっさりとその剣……デルフリンガーを手に取った。
 その瞬間、左手の手袋の中で、ルーンが眩く光った、が……ジョセフはそれに気付かない。
 しかし彼……デルフリンガーを持った瞬間、ジョセフの頭の中に様々な情報が入り込む。
「おでれーた! 爺さん使い手かよ!? こいつぁすげえ、長生きってーモンはしてみるモンだぜ。
 こりゃあ俺っちを買わなかったら人生の150%は損しちまうぜェ!?」
 傍目から見れば、デルフリンガーは何やら一人(一振り?)で随分と盛り上がっている。
「うるっさいインテリジェンスソードねぇ。こんなの買ったらうるさくてしょうがないわ。
 もっといいもの買ってあげるから別のにしなさいよ」
 わいやわいやと喚く剣を一瞥し、ルイズは面倒くさそうに言う。
 だがジョセフは、うむ、と頷いた。
「ではこいつにするかい。主人! こいつは幾らかの?」
「ちょっと! やめなさいよジョセフ! 私の言う事が聞けないの!?」
 デルフリンガーとルイズ、二人がわいやわいやと騒ぐのに内心嫌気が差しながらも、商売人として最低限の愛想笑いは崩さない。
「あー……本当はその大きさの剣なら新金貨でも200枚ってーところなんですがね。厄介払いも込みで100で結構でさ。
 あんまりうるさいようなら、鞘に収めたら喋れませんから」
(ま、高いのを売りつけちまえなかったのは残念だがデル公がいなくなるならちょうどいい)
 と、デカい老人と小娘貴族を見ながらほくそ笑む主人。
 ルイズはそれでもなお不満げにジョセフに怒鳴っていたが、彼が何やら彼女に耳打ちすると、ちょっとまだ不審げながらも金貨の袋から金貨を取り出してカウンターに並べていく。
 そして新金貨百枚を渡して売買が成立すると、ジョセフはにまりと笑みを浮かべた。
「ああ、主人。さっきの……ええとなんじゃったかな。ゲルマニアの錬金術師シュペー卿が鍛えし業物か。それを見せて欲しいんじゃが」
(やったッ!)と主人の内心に笑みが広がる。
 見た目こそは綺麗だが、あれはちょっと使えばすぐに折れてしまうようなナマクラだ。
 どうせほんの少ししたら怒鳴り込んでくるだろうが、「使い方が悪かった」でトボけ通せばいいだけのこと。
 実にボロい商売だ。これだから貴族相手はやめられない。
 今夜はとびっきりのワインとうまいツマミで祝杯を挙げようと期待しながら、再び奥から言われた剣を持ってきた。
「ほうこれこれ。ああ、さっき見せてもらった剣達もついでに見せてもらえるかの」
 主人は喜び勇んでカウンターに剣を並べていく。
「ほーほー、これはこれは。……で、主人。この業物は幾らじゃったかな」
「エキュー金貨で2000。新金貨なら3000ってところでさ(本当はエキューで1000、新金貨でも1500ってところだがなジジイ!)」
「本当はエキューで1000、新金貨でも2000ってところだがなジジイ!」
 突然聞こえた声に、店主はびくりと肩を震わせた。
 老人でもデルフリンガーでも当然小娘でもない、四人目の誰かの声が聞こえたのだ。
 それも、自分の考えたことを全て言い当てた言葉が!
 だが老人はただ飄々とニヤニヤしているだけだし、小娘は腕を組んだまま冷たい視線で自分を見ているだけだ。
(だとすればデル公の仕業か! つまんねえ悪戯しやがって!)と怒鳴ろうとした瞬間。
「だとすればデル公の仕業か! つまんねえ悪戯しやがって!」
 と、またも自分の考えてた言葉を全て一字一句間違えない言葉が吐かれた!
「次にお前は『なんだ、一体誰が俺の言う事を言ってるんだ』と言う」
「な、なんだ、一体誰が俺の言う事を言ってるんだ……ハッ!?」
 目の前の老人が、してやったりという顔で自分を指差しているのを目撃し……主人は、自分の心臓が氷の手で捕まれた様な錯覚を抱いた。
「そうそう。言い忘れてたが、わしゃ人の考えてる事が判るんじゃよ。で、こいつは幾らかの」
 主人は恐怖しながらも、(嘘だ! そんな事があるわけがない!)と、懸命に心で否定しようとしたが、すぐさま「嘘だ! そんな事があるわけがない!」と叫ぶ男の声が聞こえ。
 力の抜けた膝が床に崩れ落ちた。
 主人にとっては謎の男の声だが、ルイズやジョセフ達にはその声がどのようなものかは判っていた。
 それはデルフリンガーから発せられた声。
 正確に言えばジョセフの手から伸びたハーミットパープルが主人に絡み付き、他の茨が巻き付いたデルフリンガーから発せられた、『主人の心の声』だった。
 つまり主人の声がそのまま発せられているということだ。
 だが自分の発する声は、頭蓋骨で反響するために「自分が思う自分の声」と「周囲が聞く自分の声」はかなり異なったもので聞こえる。
 自分の声を客観的に聞いた経験もない主人にとっては、聞いた事のない声と認識するのは当然のことだった。
 だから店内では、主人が勝手に一人でつまらない事を言って自滅しているという滑稽な状況が展開されていた。
「へえ、平民が貴族を騙してたということなのね。これは無礼討ちという事で今買ったばかりの剣で斬り殺してあげるべきかしら」
 うふふ、と楽しそうな笑顔でジョセフの横に歩いてくるルイズ。
「全くですのう。わしのご主人様にこれだけのウソを吐いてたという事は今すぐ不敬罪でその首落とす以外にないのではないでしょうかのう」
 うふふ、と楽しそうな笑顔で主人を見下ろすジョセフ。
 主人は必死の覚悟で地面に這い蹲り、額を何度も床に打ち付けて許しを請う。
「御、御慈悲をっ……! 愚かな平民めに、是非とも寛大な御慈悲を……っ!!」
「そうねえ。どうしてあげようかしら。デルフリンガー……だっけ? この平民にアナタはどれだけバカにされてたのかしら。
 あまりいい扱いはされてなかったようだけれど」
「いやー、コイツは俺っちに向かってそりゃ毎日好き勝手に言ってくれてましたからねぇ。
 俺っちの切れ味確認ってコトで試し斬りしちまっても文句はありませんぜ」
 如何にも楽しそうなルイズの問いに、楽しそうに鞘口をカタカタ鳴らすデルフリンガー。
 もはや死を覚悟して、それでもなお僅かな希望に望みを託して額を床に摺り続ける主人。
 吹っかけられたお返しを十分にしたのを確認すると、ジョセフはルイズに目配せをする。ルイズはニヤリと笑って頷いた。
「よきに計らえ」というやつである。
「じゃがわしらも無意味な殺生はしたくないのでのう。
 これから心を入れ替えて真面目に商売するというなら、許してやるのも吝かではないぞ」
 その言葉に、弾かれたように顔を上げる主人。
 死にたくないという涙と、命が助かった、という喜びに塗れた顔はあまり見てて気持ちのいいものではなかった。
「あ、有難う御座います、寛大なお心に、深く感謝いたしますっ……!」
「まあしかしじゃ。これだけの大罪でただで命を救っては、わしらの気持ちも収まらん。
 ここはそうじゃな、これから心を入れ替えるという証を見せてもらわねばならん。わしが欲しいモノを用立ててもらうことにしようかの」
 とびっきりのワインとうまいツマミで祝杯、というささやかな贅沢は遠のいたが、今すぐ人生が終わる最悪の事態を避けられた主人が、一も二もなくその申し出に跳びついたのは言うまでもない。
 ただしジョセフの無理難題に、ルイズが許した出費は新金貨一枚。しばらくの間、晩酌を諦めることを余儀なくされた主人であった。
 さて。
「な……何よ、あのイバラ……。ダーリンって一体、何者なの……?」
 ルイズがジョセフを連れて城下町に行こうとするのを目撃したキュルケが、親友であるタバサに頼み込んでシルフィードに乗って街までやってきていたのを、ルイズ主従は気付いていなかった。
 そして道に迷った挙句、ハーミットパープルとか言う紫の茨で何かしてから武器屋に入ってからの一部始終を、キュルケとタバサの二人に目撃されていたことも。
「……何者かは判らないけれど、彼が私達に話す気になるまで知らない振りをしておくのが得策」
 図書館の彼女、青髪のタバサが、動揺を隠そうともしないキュルケを横目で見る。
「彼がやっとルイズに話した事を根掘り葉掘り聞くのは愚策」
 ヴェストリ広場決闘事件で、ほんの僅かだけジョセフが用いた紫の茨。
 それを知覚できたのは、タバサ一人だけだった。故に彼女は、ジョセフを称して「アメジスト」と呼んだのだが、その言葉の意味を理解しているのは彼女一人だけである。
 しばらくして意気揚々と奥から出てきたルイズとジョセフの姿を見つけた二人は、すぐさま建物の陰に隠れて二人の尾行を再開する。
 その後、一組の主従は服屋で服を買ってから帰途に着く。
 その日から、ルイズは赤い洗面器という単語だけで爆笑できる会の一員となった。


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