ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-13

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匿名ユーザー

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翌日。いつものようにフレイムをギアッチョの監視に行かせたキュルケは、彼らが馬に乗ってどこかへ出掛けた事を知った。ここ数日でギアッチョを危険だと感じた事はなかったし、もうぶっちゃけ監視とかしなくてよくね?時間の無駄じゃね?と思いつつあったキュルケだが、学院外に出るという今までに無いパターンだったので念の為もう一日だけ監視を続行することにする。
キュルケが急いで支度を済ませて廊下に出ると、ルイズの部屋の前で棒立ちしていた男と眼が合った。松葉杖をつき、服の下からは包帯が見えている。ギーシュ・ド・グラモンその人であった。
「・・・あなた何してるの?」
キュルケはいぶかしげに尋ねる。
「・・・や、やあキュルケ ちょっとルイズに用があるんだが・・・まだ寝てるのかここを開けてくれなくてね・・・」
ギーシュはばつの悪そうな顔をしながら答えた。
「用?あなたがルイズに?またあの子に何かしようとしてるんじゃないでしょうねぇ」
「そ、それは違う!僕はただルイズに謝ろうと・・・」
聞けばギーシュは二股をかけており、そいつがバレた上にビンタでフられてムカムカしていたところにルイズとぶつかってモンモランシーの為の香水がブチ割れて、彼は怒りで周りが見えなくなってしまったのだという。
「・・・呆れた 完全に逆恨みじゃない あなた貴族としてのプライドってものがないの?」
二股のくだりだけはキュルケに文句を言われる筋合いはないはずだが、概ね正論だったのでギーシュは黙って耐えた。

「それで、謝りたくてやって来たんだが・・・」
「ルイズならもういないわよ」
「な、なんだってーーー!?」
物凄い顔で驚くギーシュにキュルケは溜息を一つついてから、
「ルイズと一緒にギアッチョもいるんだからどっちか一人は気付くでしょ 常識的に考えて・・・」
とのたまった。その「ギアッチョ」という言葉に、ギーシュの体がビクリと反応する。
「・・・そ、そそそういや彼もいるんだったねぇ・・・ハハハ・・・ハ・・・」
ギーシュにとってギアッチョは相当トラウマになっているようだった。ヒザが滑稽なぐらいガクガク笑っている。
あんな目に遭っておいてトラウマになるなというほうが無理な話ではあるが。
「私はこれからタバサに頼んでシルフィードでルイズ達を追いかけるつもりだけど・・・あなたはどうする?」
キュルケの助け舟に、「是非とも一緒に・・・」と叫びかけたギーシュだったが、
「・・・ちょ、ちょっと待ってくれたまえ ルイズ『達』ということは・・・」
「勿論ギアッチョもいるわよ」
ビシッ!と心臓が凍った音が聞えた。ギーシュは「・・・あ・・・あう・・・」とまるで懲罰用キムチでも食らったかのように呻いている。
そんなギーシュを見てキュルケは更に溜息を重ねると、
「どの道ギアッチョはルイズの使い魔なんだから、いつでもあの子と一緒にいるでしょうよ ルイズが一人になる隙をうかがうよりは今特攻したほうがスッキリすると思うけど?」
生きていればね、と小さな声で付け加えてギーシュを見る。
「き、聞えてるぞキュルケ!やっぱりダメだ・・・ここ、こっそりルイズに手紙を渡して人気の無いところへ呼び出して・・・」
常軌を逸した怯え方である。殺されかけたという事に加えて、自分の魔法をことごとく破られ跳ね返されたという事実が彼の恐怖を加速させていた。

キュルケは呆れを通り越して哀れになってきたが、いい加減出発しないとシルフィードでもルイズ達を見失うかもしれない。
これを最後にするつもりでキュルケはギーシュに発破をかけた。
「あなた少しは男らしいところ見せなさいよ こんなところをあの使い魔が見たらまた『覚悟』が無いとか言われるんじゃあないの?」

「――!」

その言葉に、ギーシュは動きを止めた。彼は何かを考え込むようにわずか沈黙し、真剣な眼でキュルケを見る。
「・・・ねぇ君 『覚悟』って一体何なんだろう」
先ほどまでのヘタレ具合とは一転、彼の眼には苦悩の色が浮かんでいた。
「あの男――ギアッチョに言われたことがずっと耳から離れないんだ 『覚悟』って何なんだ?彼と僕と、一体何が違うんだ? ギアッチョと僕を隔てる、絶対的な何かがあるのは解る だけど一体それが何なのか、いくら考えても答えが出ない」
ギーシュの懊悩は、キュルケには解らない。あの男の真の凄み、そして恐ろしさは、対峙してみなければ理解は出来ない。ギーシュはそう知りつつも、誰かに疑問をぶつけずにはいられなかった。例えギアッチョと同等の能力を持っていたとしても、
自分は永遠に彼に勝つことは出来ない。そうさせる何かが、あの使い魔にはある。
自分にはそれがない。その事実がただ悔しかった。
「あの決闘で――自分がどれほど自惚れていたのかを思い知らされたよ」
ギーシュはうつむいて言葉を吐き出す。
「・・・そして どれほど愚かだったのかも」


なまじっか顔と成績がいいばっかりに、高く伸びていたギーシュの鼻をヘシ折れる生徒は存在しなかった。そのギーシュを完膚なきまでに叩きのめしたのは、タバサでもキュルケでも、マリコルヌでもモンモランシーでもなかった。
ゼロと蔑まれていた少女、その人間の、しかも平民の――加えて言うならば顔もよくはない――使い魔だったのである。
ギーシュのプライドは粉々にブチ割れた。そして同時に、自分がどれほど他人を見下していたかを理解した。
「こんな屈辱に――ルイズはずっと耐えてきたんだ ・・・僕は 僕はどうしようもなく馬鹿だった」
彼女に謝罪しなければならないと言うギーシュの眼は、紛れもなく本気だった。

タバサはキュルケ達の頼みを快諾した。他でもない唯一の親友キュルケの頼みだという事もあるが、あのギーシュがそりゃもうジャンピング土下座でもしそうな勢いで頼み込んで来たのである。
それも己の利益の為ではなく、純粋に少女への謝罪の為とくれば、いくら虚無の曜日とはいえタバサも力を貸すにやぶさかではなかった。
そういうわけで彼女達は今タバサの使い魔である風竜、シルフィードに乗ってルイズ達を追っている。竜の背中でタバサは中断していた読書を再開し、キュルケはしきりとシルフィードを褒め称え、ギーシュは勢いで飛び出してきたもののやっぱりギアッチョが怖いらしく、時折キュルケの口からギアッチョの名が出る度にビクビクと震えていた。
「ギーシュ あなたいい加減腹をくくったら?」
ちょっと男らしい事を言ったかと思えばこれである。キュルケはまたも呆れていた。
「そ、そんなこと言ったって怖いものはしょうがないじゃないか!自分の魔法で全身蜂の巣にされる恐怖が君に分かるかい!?」
ギーシュがまくし立てると、
「自業自得」
タバサが活字に眼を落としながら呟く。それを聞いたキュルケが思わず噴き出し、ギーシュはもういいよとばかりにがっくりと肩を落とした。

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