ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-2

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匿名ユーザー

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 不可思議な鏡に飲み込まれた時、ジョセフは死すら覚悟していた。
 だが鏡が消えた瞬間、まばゆい光の中に存在していたのは自分のみ。
 孫の承太郎もDIOの死骸も、自分の周りには存在しない。それだけでも自分のやるべきことを為せた、という安堵感が自分を包んでいた。せめて願わくば、自分が遺して来てしまった愛する者達が悲しまないでくれればいい……今のジョセフが願うのは、ただそれだけだった。
 そして更に光が眩しくなって行く中、ジョセフは満ち足りた気持ちに包まれながら目を閉じ――た次の瞬間。

 空中に投げ出された浮遊感が唐突に全身を包み、続いて地面に叩きつけられる衝撃がジョセフを襲う。
「ぐふぁっ!?」
 衝撃はさほどではなかったが、まだ治し切っていない傷にはやや響く。
「アイチチチチ……な、なんじゃ、ここは?」
 余りの状況の変化に、ジョセフは思わずキョロキョロと周囲を見渡す。
 気が付いたら、鮮やかな青空と美しい草原が広がっていた。
 そして自分を取り囲むように立っている、学生服の上に黒いマントを羽織った少年少女達。……と、見たことあるような動物達と、見たことないような動物……と言うか、明らかな怪物達。
 数歩離れた場所には、真ッピンクのロングヘアのチンチクリンな少女(好みにうるさいジョセフの目からしても、十分に美少女と言える類の美少女だ。凹凸がないのもそれはそれでいい――ジョセフはそう思った)が憮然とした顔で自分を見つめ……いや。睨み付けていた。

 ジョセフはかつて、ヒマを持て余してぶらりと入った映画館で、ポップコーン片手に見ていたファンタジー映画のワンシーンをふと思い出した。
 鼻をくすぐる草の匂い、春を思わせる柔らかな風と日差し。
 砂と猛暑のエジプトに慣れていた肉体には唐突過ぎる状況の変化。ジョセフは即座に片膝立ちとなり、左手に持っていた帽子を被る。視線は周囲を注意深く見渡し、どのような攻撃が来ても対処できる体勢を整えるのは、もはや条件反射とすら言っても良かった。
(これは……なんじゃ! スタンド攻撃か!? じゃが……これほどまでに大掛かりな効果を与えるとは考えづらいッ。だとすると、わしは『瞬間移動を食らった』と考えるのが一番無難じゃろうな……)
 だが瞬間移動だとすると、蘇生したばかりの自分一人ではあまりに分が悪すぎる。
 手負いの状態で果たして何処までやれるのか。と、そこまで瞬間的に思考を走らせて、ふと気付いた。
 目の前に立っているピンク少女も含めて、少年少女達には殺気が無い。
 ピンク少女は怒りがヒートアップしているのが手に取るようにわかる。が、少年少女達は何やら笑いあっている雰囲気こそはあれど、襲い掛かってくる様子など微塵も無い。
 聞こえてくるのは「おいおい、サモン・サーヴァントで人間呼び出したぜ?」「しかも平民の爺さんだ」「やったッ! さすが『ゼロ』、俺達には出来ない事をやってのけるッ! そこにシビれる憧れないッ」などとはやし立てる声と、笑い声。
 だがジョセフは万が一の場合に備え、どうにでも動ける体勢を続けたまま目の前の少女を見やり。口を開こうとしたジョセフより僅かに早く、少女が口を開いた。
「あんた、名前は?」
「……わしか」コンマ数秒躊躇してから、ゆっくりと名を名乗った。「ジョセフ・ジョースターじゃ。あんたは?」

 不本意、という言葉を顔全体でこれ以上ないほど表現しきった憮然とした面持ちで、少女は名乗られた名前を聞き。緩やかに腕組みをした。
「あんた、どこの平民?」
 人に名前を聞かれても当然のようにスルー。質問を質問で返される無礼にカチンと来たが、その程度でキレないくらいには年齢を重ねてきたジョセフである。
 それにしても『平民』とは。イギリスに住んでいた子供の頃に聞いて以来、やっと聞いたような死語ではないか。
「今はニューヨークに住んでおる」
「ニューヨーク? 聞いたことないわね。どこの田舎よ?」
 ジョセフはそう答える少女の表情を見て、彼女は嫌味や皮肉でニューヨークを田舎だと称したのではない、と判じた。

 彼女はニューヨークを“知らない”のだ。

「じゃあここはどこじゃ?」
「あんた、貴族に平民がそんな口叩いていいと思ってんの? そもそもあんたみたいな平民がこうやって貴族に口を利いてもらえるだけでも有り得ないことなのよ」
 尊大な態度で、膝立ちのジョセフを見下ろす少女。どうやら自分に貴族の威厳とやらを見せ付けて威張っているつもり、らしい。
 しかしジョセフは貴族の威厳とやらを非常に大胆にスルーし、現段階で判断できることを頭の中でまとめていた。
(……これは。DIOとは関係がない可能性があるかもしれん……ヤツの手の者なら、このようなまどろっこしい小芝居などする前にわしを殺しておる。手負いのワシなぞ幾らでも殺せるんじゃからな。
 そもそも吸血鬼とか柱の男とかスタンドとかあるんじゃ。またわしの知らん『何か』があるとしたって今更驚きゃせんわいッ)
 そうとなれば、後は情報を収集し、現状を把握せねばなるまい。ジョセフは、しばらく様子を見ることに決めた。

ピンク少女はほんの少しの間、ジョセフを睨み付けていたが勢い良く背を向けると、U字ハゲの黒マントへと駆け寄っていった。
 そこで何やら「もう一度召喚を」「春の使い魔召喚は神聖な儀式なので一度きり」などという会話が漏れ聞こえてくる。
(もしかしてアレか)
 ジョセフはイヤァな予感がした。
(わしは召喚されちまったということか。それも使い魔として! じゃあ誰の! 誰の使い魔じゃというんじゃ!)
 答えはとっくの昔に出ている。
 しかしそれは認めたくない。出来れば何かの間違いであってくれとすら思う。

1 ハンサムなジョセフは突如としてこの危機を脱するアイディアを思いつく
2 仲間が来て助けてくれる
3 現実は非情である。ピンク少女の使い魔になろう!

(1! 1を思いつくんじゃジョセフ・ジョースター!!)
 ハゲ親父との会話が終わって、ピンク少女がジョセフを振り向く。だがジョセフ自慢の脳細胞は危機を脱するアイディアを思いついてはくれない!
(じゃ……じゃったら2! 2でいいッ!)
 ピンク少女が渋々といった様子でこちらに歩いてくる。現実逃避気味に仲間が来ることを願うが、仲間が来る事がないのは誰ならぬジョセフが一番知っている。
(さ…3かッ! 3しかないというのかッ!)
 呆然と跪いたままのジョセフの前に立った少女は、それでもしばらく躊躇ったり視線をそらして再び視線を戻したり、また躊躇ったり。
 そして意を決したか、真っ赤になった顔と手に持った杖をジョセフに向け、早口で言い切った。
「……か、感謝しなさいよね! 平民が貴族にこんなことされるなんて、普通はありえないんだから!  あんたをわたしの使い魔にしなきゃならないから、仕方なく……そう、仕方なくよ! 仕方ないんだからね!!」
 へ? と頭にクエスチョンマークを浮かべたジョセフは、僅かな隙を突かれた。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 ピンク少女が杖を自分の額に当てたかと思うと――


 自分の唇は、少女の唇で塞がれていた。


 驚きに見開いたジョセフの視界には、固く固く目を閉じた少女の顔。
 その瞬間、ジョセフは

(や……役得というやつかッ! これなら別に使い魔になってもいいかもしれんッ!)

 と、これまでの自問自答を捨てて「3 現実は非情である。ピンク少女の使い魔になろう!」を選んでいた。

 だがその幸福感も、ほんの数秒だけだった。
 少女が唇を離した瞬間ッ!


 『左腕に感じる焼き鏝を押されたかのような痛み』ッッッッ!!


「うおおおおおおッッッッ!!!?」
 理解不能理解不能理解不能ッッッ!!
 五十年前に失ったはずの箇所から! 明らかに! 焼き鏝を押されたかのような痛みを感じている!!
 ついぞしばらくしたことのない『左腕を押さえて蹲る』ジョセフを見下ろした少女が、あきれたような声を投げかける。
「大袈裟ねー。大丈夫よ、『使い魔のルーン』が刻まれてるだけだから」
(そりゃお前さんは焼き鏝なんぞ押されたことはないじゃろうからなッ!)
 という言葉も、左腕から未だ感じてしまう痛みが飲み込ませる。
 既に熱は引いたが、義手から感じる痛覚、という奇妙な感覚がジョセフに新たな疑問を生じさせる。本当に何が起こったのか、何か起こっているのか、詳細な情報収集が必要だ。

 蹲るジョセフとそれを見下ろす少女をよそに、他の連中はそれぞれホウキやドラゴン空を飛んで去っていってしまった。少女に対して、「お前はレビテーションもフライトも使えないんだから歩いて来いよ!」「じゃあね『ゼロ』のルイズ!」と囃し立てながら。
 ジョセフは唖然としてその光景を見上げながら、しみじみとこう思った。

(とんでもないところに来てしまったのォ~~~……)







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