ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの茨 5本目

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匿名ユーザー

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ある日の夜、キュルケはいつもの通りに髪の毛を整え、下着姿のようなラフな格好で隣の部屋へ向かった。
隣の部屋は内側から堅く施錠されているが、部屋の主は魔法による施錠が苦手なので魔法に対する抵抗力がない。
あっけなく、キュルケの『アンロック』で鍵は開かれてしまった。

「ヴァリエール…? 起・き・て・る・?」
「……」
部屋に入り込んだキュルケを無視しているのか、本当に寝ているのか、ルイズはベッドに寝たまま返事をしない。

ルイズに近づいたその時、ガタ、と別の音がして扉が開く。
「キュルケ!今日こそは僕と夜のアバンチュールを」
「フレイム」
キュルケは振り向かずに、使い魔のフレイムを呼んだ。フレイムはキュルケを追ってきた男子生徒の裾を引っ張って転ばせると、火を噴いた。
「あっづあ゛あああああああ~~~!!」
哀れ男子生徒は、丸見えになった尻を押さえながら慌てて逃げ出した。

「ンフフ♪」
フレイムは、舌なめずりをしてベッドに近づく主人を見ながら、器用に尻尾で扉を閉めていた。


■■■


「どーしろって言うのよ」
ルイズはベッドの角に座り込んで、満足そうな表情で眠るキュルケを見た。
いつの間にか部屋にキュルケが居て、いつの間にか自分に覆い被さり、妙に艶っぽい唇で『お願い…』とか言われて何が何だか解らなかった。
なんだコイツついに気が狂ったか、と思ったがそもそもの原因は自分の使い魔である『ハーミット・パープル』にあるのはわかりきっている。
とりあえず追い出そうとしたが、ルイズは両手を掴まれてベッドに押さえつけられてしまった。
これはやばい、と感じたルイズは思わず『ハーミット・パープル』を発動。
棘のついた茨と言うには、ちょっと太くて棘も柔らかい気がするそれは、人を傷つけない程度の刺激を与えるのか、とろけるような感覚(マッサージです)を感じるらしい。
優しいイソギンチャクに全身をくまなくマッサージされ、愉悦の声を上げたキュルケに、ルイズは冷や汗をかいた。

それだけならまだしも、ほんのちょっと、ほんの少し優越感を感じてしまった。
ルイズは「もしかしてこれが私の本心?」と考えて、ああ嫌だ嫌だと頭を振るばかり。
ハーミット・パープルは文字通りルイズと一心同体。使い魔が勝手にやったことだと言い逃れはできない。
ルイズは悩み疲れたのか、それとも考えることを止めたのか、寝ることにした。

満足そうに眠るキュルケの隣に倒れ込み、そのまま寝てしまった。

『…そんなんだから誤解されるんじゃねーの?』
デルフの呟きに返事はなかった。

■■■


「…………」
「…!」
翌朝、朝食を終えたところで廊下ですれ違ったミス・ロングビルに、熱っぽい視線を送られたルイズ。
冷や汗を流しつつ教室へと逃げ込んだが、さも当然とキュルケが隣に座り、更にその隣にタバサが座る。
タバサはルイズの近くに座ることで周囲の喧噪から離れようとしているのだが、事情を知らない第三者が見れば、キュルケを巡ってタバサとルイズが争っているようにも見えるし、タバサ→キュルケ→ルイズの三角関係にしか見えない。


ちらりと周囲を見ると、興味深そうに三人を見ていた他の生徒は目をそらしてしまう。
「はぁー…」
お手本のようなため息をついて、机に突っ伏した。


しばらくして、教室の扉がガラッと開き、ミスタ・ギトーが現れた。

生徒達が席に着くと、ギトーはわざとらしく咳払いをした。
「では授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」
教室を見て、ギトーはつまらなそうにしている一人の生徒を見つけた。
「最強の系統は知っているかね? ミス・ツェルプストー」
「『虚無』じゃないんですか?」
「伝説の話をしているのではない。私は現実的な答えを聞いてるんだ」
キュルケはこの教室唯一の『火』のトライアングルであり、いろいろな意味で目立つ生徒だ、ギトーが挑発している野田すぐに解った。キュルケは不敵な笑みを浮かべて答える。
「「火』に決まっていますわ。すべてを燃やし尽くせるのは火と、じょ・う・ね・つ ですもの」
ちらりとルイズに流し目を送る、ルイズは気まずそうに目をそらした。

「ふむ。残念ながらそうではない。試しに、この私にきみの得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
杖を引き抜きつつ、ギトーがとんでもないことを言い出した。
キュルケが火のトライアングルだと知る生徒も、キュルケ自身もこの言葉にはぎょっとした、いくら何でも危険すぎるのだ。
「どうしたね? 君は確か、『火』系統が得意なのではなかったかな?」
「…火傷だけでは済みませんわよ」
他人を小馬鹿にするような、キュルケの笑みが消えた。ゆっくりと胸の谷間から杖を抜き、キュルケが。
「かまわんよ。本気でやりたまえ。有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないのならね」

キュルケの髪の毛がふわりと浮いた、怒髪天を突くということわざがハルキゲニアにあるか解らないが、キュルケが起こっているのは誰の目にも明らかだった。
杖を掲げて呪文を詠唱すると、小さな火の玉が現れ、更に詠唱を続けると直系メイルほどの火の玉となった。
生徒達が驚き、慌てて机の下に隠れたその時、火の玉がギトーに向かって放たれる。
ぼおおおっ、とうなりを上げて襲い来る火の玉を、風系統の魔法でいとも簡単に消し飛ばした。
その瞬間烈風が舞い上がり、火の玉の向こうにいたキュルケはたまらず吹き飛ばされた。
「あ」

尻餅をつくかと思われたその瞬間、キュルケの体がふわりと抱き留められた。
キュルケはきょとんとした顔で、タバサを見た。違う、とタバサが首を横に振る。
ルイズを見ると、やってしまった…と言わんばかりの表情でキュルケを見ている。

いくら何でも吹き飛ばされるのはなー、と思ったときにはもう遅い、ハーミット・パープルはクッションのようにキュルケを抱き留めていた。。

「……べ、べつにあんたなんかを助けようとしたわけじゃないんだからね!」

(ぽっ)

逆効果だった。

■■■


■■■


さて、その後ギトーに睨まれもしながら授業は進み、ギトーが風系統の真髄を見せようとしたその時、教室の扉がガラッと開かれた。

「あややや、ミスタ・ギトー。授業中ですが失礼しますぞ」
「ミスタ・コルベール?」
教室に入ってきたコルベールは、礼服と言うには飾りすぎた格好をしていた。
ロールした金髪のカツラや、レースや刺繍の飾りがついたローブは、儀式的なものであって礼服にしては飾りすぎている、普段使われる物ではない。

「おっほん。今日の授業はすべて中止であります!」
コルベールは重々しい調子で告げる、すると教室中から歓声があがった、その歓声を押さえるよう両手を振りつつ、コルベールが言葉を続ける。
「えー、皆さんにお知らせですぞ。恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見。
我がトリステインがハルケギニアに誇る、可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされると、お使者からの通達がありました」

その言葉に、どよ…と教室に声が上がった。
「おほん! えー、皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります。
よろしいですかな、粗相があってはなりません、急なことですが今から全力を挙げて歓迎式典の準備を行うのです。
授業は中止となりますが、今日は皆さんの授業の成果、貴族としての姿をお見せする大事な日となります!生徒諸君は正装し門に整列、姫殿下をお出迎えする栄誉に預かります!」
生徒たちは、緊張した面持ちで一斉に頷く。コルベールは重々しげに頷き、目を見張って怒鳴った。
「諸君らが立派な貴族にしたことを、殿下にお見せするこの機会! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい。よろしいですかな!」

「「「「はい!」」」」
生徒達は一斉に返事をした。
満足したコルベールは、勢いよく向きを変えて教室を出ようとしたが、カツラのサイズが合ってないのかそのまま滑り落ちてしまう。

「…よく磨いてる」
タバサの呟きが、静まった教室にはよく通った。
ぷっ、と笑いをこらえる音が教室中から聞こえてくる。
「くくく…」
意外にも一番ウケたのはギトーらしく、口元をひくつかせながら目をそらしている。
「ミスタ・ギトー!」
「い、いや失礼、生徒諸君。小さなミスもないよう気をつけること! ぷっ」


■■■


それから間もなく準備は整い、魔法学院の正門にアンリエッタ姫殿下の一行が現れた。
整列した生徒達が一斉に杖を掲げ、その間を馬車、グリフォンに乗った魔法衛士隊、従騎士達が通り抜けていく。


「…あれがトリステインのお姫様ねえ。私の方がずっといい女だと思わない?ルイズ…って、ルイズは?」
後ろの列にいたキュルケは、近くに並ぶはずのルイズを探したが、どこにもルイズの姿はなかった。



「うぐぐぐ…この馬鹿触手!駄目ったら駄目よ!不敬だから!恐れ多いんだから!」

部屋に戻って着替えていたルイズは、半裸のままハーミット・パープルを踏みつけ、縛り、なんとかお仕置きをしようとしていた。
ルイズはトリステインの王女、アンリエッタの遊び相手を務めたことがある。幼かった王女の姿を思い出し…次に自分より大きな胸に育った数年前の姿を思い出して、今はもっと大きくなっているのかと思い、ハァとため息をついた。
すると、ハーミット・パープルが突然動きだした。
その動きは、ド○ゴン○エストに登場するスライムを2匹、ぐるぐる巻きにして捕まえるような形で、これはヤバイ!と感じたルイズは「大変な腹痛で整列できません!」と言い訳をしてお出迎えをサボり、使い魔にお仕置きをしていた。

しかし踏みつけたり、投げたり、乗馬鞭で叩いたりと思いつく限りのことをしても、全く効果がない。


「このっ!この…こいつ!」
使い魔とは一心同体、ハーミット・パープルはルイズの動きを読みひょいひょいと躱していく。その上物質をすり抜ける能力があるので、ダメージはゼロであった。
それを見たデルフリンガーは、カタカタと鍔を鳴らして言った。
『やめとけって、無駄だからよー』
「あんたは黙ってなさいバカ剣!」
怒り心頭のルイズにはとりつく島もない。
『俺を握ればコントロールできるのになー』
「知らないわよ!  って、え?」

本当かしら?と疑問に思ったルイズだが、デルフリンガーの言うとおりにしてみると、左手のルーンが輝き、ハーミット・パープルの動きがルイズのコントロール下に入った。
「なるほど…武器を使えるのがガンダールヴのルーンだけど、私とハーミット・パープルはルーンを共有しているだけじゃなくて、ハーミット・パープル自身が武器扱いになるのね」
『そーいうこった。その代わりそいつの利点も一つ殺してることになるぜ』
「どういう事よ」
『俺は人間みたいに目で物を見ちゃいねー。そいつも同じだ。嬢ちゃんがそいつの力を全部操ろうとすると、二人分の体を一人の頭でこなすって事になんだ。
例えば突然後ろから殴られるとすんだろ、そいつが自動的に反撃したり、襲撃をあらかじめ教えてくれる。だけど嬢ちゃんが操っているうちはその力が鈍くなんだ』
「…それは。確かに便利だけど、勝手な動きをされちゃ困るときがあるの!それに、ずーっとデルフを握ってるのは大変よ、それじゃ教室にも入れないわ」
『そういうのは…まあ、小さな隠し武器でも持ってるしかないなあ』
「それじゃ暗殺者だと思われるわよ! あっ……それじゃ、もしかして私、一生貴族のパーティーにも出られないんじゃ…」
『あー、その、何だ。なんとかなるって。多分』


「…寝るわ」
ルイズは着替え途中のまま。拗ねたようにベッドに潜り込んだ。
「うう…姫様申し訳ありません…ルイズはもう姫様に近づけません。 お友達と呼んでくれた姫様だからこそ近づけません……」


「でも…私のことを覚えていて下さるなら、お話したかったわ…」


■■■■


その夜。

「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」

ルイズの部屋に現れたアンリエッタ王女は、感極まった表情を浮かべて、この世の終わりのような顔をしたルイズを抱きしめた。
「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」
「姫殿下、いけません。こんな色魔のような触手の餌食にもといこんな下賤な場所へ、お越しになられるなんてホント……」


ルイズの苦労はまだまだ続くらしい。




■■■■■■■■■■■■■■

続かない。



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