ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-56

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匿名ユーザー

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 日蝕まで残り三日の昼下がり。
 シエスタやマルトー、そしてクラスメイト達に別れの挨拶を告げて回ったジョセフは、授業を自主休講したギーシュやキュルケ達と共にウェールズの居室でチェスやティータイムを楽しみ、世間話に興じていた。
 内容としてはさして意味のあるものではない。ジョセフがルイズに召喚されてからの様々な思い出話や、ジョセフの来た世界、地球の話やハルケギニアの話。
 ギーシュやキュルケはそんな他愛ない話を絶え間なく続けることで、不意に訪れるしんみりした沈黙を出来る限り排除しようとしていた。
「いやそれにしてもジョジョ、聞けば聞くほど君の話は荒唐無稽だな。いくら大国とは言え、一つの国に何億人もいたり、しかもそれだけの国を統べる王を入れ札で決めるだなんて考えられない。
 そんなにころころ王が代わっていたら、代わる度に大事になるんじゃあないか?」
「うむ、こっちほど王……というか、大統領や首相の権力ってのは大きくないがそれなりにデカいし変わるとなりゃ大事だからな。上の頭がすげ変わる間も国の運営が成り立つようにしとるんじゃ。わしの住んどる国なんか四年ごとにやる入れ札はマジお祭り騒ぎだ」
「へええ! 聞けば聞くほどとんでもない世界だなあ、君の世界は!」
「こっちじゃあまーだやらん方がいいな。やるとしたら、平民の半分以上が読み書きできるくらいになって、選ぶ人間の良し悪しを判断できるよーになったらやっていいかもしらんが……まぁ、無理にやらんでもいいんじゃね?
 六千年も同じシステムが続いてるならそれでもいいと思うしな」
 好奇心と口の回るギーシュが聞き役になり、ジョセフにインタビューしている今の話題は「それぞれの世界の政治形態について」だった。
 ジョセフはこれと言った政治思想がある訳でもない。強いて言えば資本主義支持者で、世界有数の大富豪なスピードワゴン財団くらい稼がなくていいから、食うに困らない生活が維持できればそれでいいと思っているくらいである。
 具体的に言えば屋敷の使用人達に払う給料が滞らず、夏や冬のバカンスに専用ジェットで向かう家族旅行や社用旅行で金に糸目をつけず遊び呆けたり……そんなささやかなものでいいと考えていた。
 だから魔法を使える貴族が王権の元に政治を司るハルケギニアの治世自体に文句をつける気はない。
「それで上手く回ってるなら別に口出す必要もない。わしゃアカでもなんでもないし」という理由もあるし、この世界に永住する訳でもない通りすがりの異邦人でしかないのも、大きなウェイトを占めている。
 ましてや三日後には元の世界に帰るのだから、自分から進んでやりたくもない瑣事に関わる必要などこれっぽっちもないのだった。
 そんなことをしている暇があるなら、キュルケにケーキをあーんしてもらったり、タバサにチェスでコテンパンにされている方がよっぽど有意義というものである。
 さて、タバサに三戦三惨敗という華々しい戦歴を打ち立て、実力の差を十分に自覚したところでジョセフは椅子から立ち上がりつつ、大きく伸びをした。
「んん……ちっと外の空気吸ってくる」
「行ってらっしゃい」
 気ままに読書やお茶の時間を楽しんでいる友人達にひらりと手を振り部屋を出たジョセフは、小さく欠伸などしつつ風の塔から降りた。
 これから日蝕までの間、別れの挨拶を告げる友人達のリストを頭に浮かべて芝生を歩き出したジョセフの名を大声で呼ぶ者がいた。
「おぉい、ミスタ・ジョースター! 出来た! 出来たぞ! 調合が出来た!」
 茶色の液体が詰まったワインボトルを手に持ち、息せき切って走ってくるのはコルベールだった。
「マジか! もう出来たのか!」
「もうも何も、昼前には錬金出来たんだが学院中を探し回ってもミスタ・ジョースターが見つからなかったのだ。一体どこに行っていたんだね?」
 不思議そうに尋ねるコルベールに、ジョセフはニカリと笑みを浮かべた。
「すまんな、ちょっと外に出とった。どれ、ちょっと確認させてくれ」
 ワインボトルの栓を開け、飲み口から漂ってくる臭いを手で鼻元に仰ぎ寄せて嗅ぐ。
 ゼロ戦の燃料タンクに残っていたそれと同じ刺激臭に、おお、と感嘆の声を上げた。
「やるなぁセンセ! まさかこんなに早く出来るとは正直思っとらんかった!」
「なに、原料と完成品の二つが揃っていたのでね。これが『燃える水』を手に入れてなかったらもう少し時間がかかったかもしれないが、これであの『ゼロ戦』は飛ぶという事だ!」
「うむ! で、ワイン樽五本分のガソリンは何日くらいで錬金出来る?」
「そうだな……私の精神力なら、他に魔法を使わなければ二日以内に五本は可能だ」
「グッド! じゃあ、樽一本くらい余分に作れるか? せっかくだから試験飛行しよう。わしが乗って帰ったらもう二度と乗れんからな、コルベールセンセには一度経験してもらいたい。『技術で作り出したモノで空を飛ぶ』という経験をな!」
 ジョセフの提案に、コルベールの顔には見る見るうちに『誕生日にお前の欲しがっていた玩具を買ってあげる』と親に言われた子供のような笑みが広がった。
「そうだ忘れていた、ミスタ・ジョースターが地球に帰ってしまえば『ゼロ戦』に乗れる機会はなくなってしまうんだ! ならば明日の朝までに一本用意しておこう!」
 今すぐにでも研究室に戻って錬金を再開すべく走り出そうとしたコルベールの手をつかんで留めた。
「待て待てセンセ、せっかくガソリンの試作品があるんだから作動実験もしてみよう。作っては見たが動きませんでしたじゃどーにもならんだろ」
「それもそうだな! では早速実験してみよう!」
 二人でアウストリの広場に向かい、燃料コックにガソリンを注ぎ込む。
「よしよし。さてプロペラを動かさにゃならんなー……」
 そう呟くと、ちら、と横で目を輝かせているコルベールを見た。
「まァいっか」
 構わずに左手からハーミットパープルを発現させる。杖も詠唱もなく突然現れた紫の茨は、メイジであるコルベールの目には明らかな実像となって映っていた。
「ミ、ミスタ・ジョースター!? それは一体……」
 当然、未知の現象を突然目撃することになったコルベールは驚きの声を上げた。
「どうせ三日後に帰るからコレもバラすことにしよう。これは『スタンド』、わしの住む世界では稀にこの能力を持つ人間や動物が現れることがある。これがわしのスタンド、ハーミットパープル。
 わしのいた世界ではスタンドはスタンド使いにしか見えんかったが、こっちの世界ではメイジには例外なく見えるらしい。多分魔力とかそんなのが関係しとるんじゃろうが、まぁ今はそんなこたァどーだっていい」
 眼鏡の奥の目を大きく見開いたままのコルベールからゼロ戦に視線を移すと、静電気が走るような破裂音を放ちながら、ハーミットパープルを機体に入り込ませていく。
「何をしてるんだミスタ・ジョースター! そんなことをしたら、『ゼロ戦』が……!?」
 壊れる、と続くはずだった言葉は驚きと共に飲み込まれてしまった。茨が入り込んだように見えた箇所は穴の一つも開いておらず、まるで機体から茨の彫刻が生えているようにも見えた。
「な……なんだねこれは。『スタンド』……とか言ったか? 先住魔法……ではないのか」
 持ち前の強い好奇心を発揮し、恐る恐るながらもまじまじとハーミットパープルの観察を開始するコルベール。
「これはわし自身の生命エネルギーが作り出す像でな。基本的に人それぞれの性格やらなんやらで持つ能力や姿形が変わる。つまり同じスタンドは存在しないと言ってもいいだろう。わしのハーミットパープルの能力は念写に念聴、そして機械操作。
 プロペラを動かす為には中のクランクを動かさなきゃならんのだが、それを動かす道具がないんでハーミットパープルで代用する」
「あ、ああ」
 いきなり理解を越えた単語が連ねられるが、それでもコルベールはおおよその意味は掴んでいた。
「さあセンセ、ちとコクピットは狭いんでな。上からわしが操作してるトコを見てくれ」
 コクピットの風防から中に入ったジョセフの頭上に、レビテーションの魔法をかけたコルベールが浮き上がった。
 左手が欠損している為にパイロットにはなれなかったものの、セスナを始めとしたプロペラ機の操縦は普通に出来るジョセフである。それに加えてゼロ戦を兵器と認識したガンダールヴの能力が、初めて乗るゼロ戦の起動手順を逐一頭の中に浮かばせる。
 一つ一つの手順の意味をコルベールに教え、コルベールはジョセフから聞いた言葉を興味深げに聞く。
 ゆるゆると回っていたプロペラは始動したエンジンの力を借りて大きく回り、スクウェアメイジが起こす風にも匹敵するだけの風力を発生させた。
 大日本帝国の名機であるゼロ戦は現役である事を確認したのを満足げに見届けたジョセフは、しばらくエンジンを動かした後で点火スイッチを切ると、もう今にも歓喜を爆発させそうなコルベールに向かって満面の笑みとウィンクと、当然親指も立てて見せた。
 コルベールも、立てられた親指が何を示すか一瞬考えた後、ちょっとぎこちない手付きで親指を立て返し、嬉しそうな笑顔を返した。
「やったぞセンセ、バッチリじゃッ! お次は飛行実験だ、ちぃとギュウギュウ詰めだがセンセに空の旅をプレゼントしようッ!」
「おおおお! すごい、すごいぞミスタ・ジョースター! この炎蛇のコルベール、今まで生きてきた人生の中でこんなに胸を高鳴らせたことは無いッ! 今のこの感情の昂ぶりなら、一晩で樽五本分のガソリンすら錬金出来てしまいそうだッ!」
「まあまあセンセ、それで精神力を使い切ってはつまらんだろ。今夜は程々にガソリンを錬金して、ベストコンディションで飛行実験に挑もうじゃないか」
「ああ、そうだな! では私は早速錬金に取り掛かる、それではまた明日会おう!」
「おー、じゃあ朝メシ食った後にここ集合なー」
 居ても立ってもいられないとばかりに走り出したコルベールの背に手をひらひらと振ってから、やっとジョセフは茜色に変わり行く空に気付いた。
「いかんいかん、もうこんな時間か。あいつらも飛行実験誘ってみようか」
 今日の晩メシなんじゃろなァ~、と即席の節をつけながら友人達を待たせている部屋へと戻っていった。
 そして次の日の朝。
 ゼロ戦が鎮座するアウストリの広場には、ルイズとウェールズを除く宝探しメンバー、そしてコルベールが集まっていた。
 魔法で浮かせた樽からガソリンをタンクに移し変え終わったのを確認してから、ジョセフはもったいぶった動作で友人達に向き直り、帽子を取って恭しく一礼した。
「やあやあ、お集まりの善男善女の皆様方。本日はお日柄も良く、これよりゼロ戦の飛行実験を粛々と執り行いたいと存じます」
 雲一つ無い、という訳でもないが特に大きな雲があるわけでもない。十分に晴れた青い空がトリステインの上にあった。
「確かに今日はいい天気だね。で、このぜろせん、とやらは本当に飛ぶのかね? 僕は今でもコレが飛ぶだなんて少しも信じられないんだが。なあヴェルダンデ」
「タルブの村のおじいさんおばあさんは、何人かこのぜろせん、が飛んでいるところを見たって言ってましたけど……」
 この期に及んで何回言ったか判らない疑問を口にするギーシュに、シエスタがおずおずと意見を述べた。
「まあまあ、一見は百聞に如かずって言うじゃろ。なんなら賭けてもいいぞ、また金貨二百枚と一年執事の権利を賭けてな」
 ニシシ、と笑うジョセフに、ギーシュの顔は渋すぎる茶を無理矢理飲まさされたみたいになった。
「君はもう故郷に帰るんだろ? なんてことだ、賭け金も渡せないうちに帰られるだなんてグラモン家の四男としてこれほど屈辱的なことはないというのに」
「そうそう、忘れてたけど私も二百エキュー貰えるんだったわね。なんならダーリンの分も合わせて私が預かっておこうかしら」
 思わず口を滑らせた事に気づいた時にはもう遅い。猫の様なニンマリとした笑みを浮かべるキュルケに、ギーシュはしかめていた顔を更に大きくしかめた。
「……ジョジョ本人に手ずから渡すことにするよ、僕は」
「あらそれは残念」
 そもそもゼロ戦が飛ぶということ自体を信じていないギーシュとキュルケは、ゼロ戦にかかりきりのジョセフとコルベールをさておいてそんな軽口で盛り上がっていた。
「さて、んじゃいっちょ行くとするか。センセ、何とか詰めてくれ」
 腰に下げていたデルフリンガーを足元の隙間に入れ、コルベールが乗れるスペースを何とか確保する。
 そもそもゼロ戦は一人乗りである。座席背部にあった通信機を取り除いたことで二人が乗れないことはない、くらいの広さは辛うじて確保できていたが、そもそも身長195cm、体重97kgもあるジョセフが乗ればそれだけでコクピットのスペースを大きく取ってしまっていた。
 コルベールも細いとは言え立派な成人男性の体格を持っている。乗ることが不可能ではないのだが、ぎゅうぎゅう詰めになるのは致し方のないことだった。
「ああ、いや確かに狭いが何とか……というか、ミスタ・ジョースターがこんなに大柄なのが問題ではないのかね?」
「そもそもコレ一人乗りだもんよ。メッサーシュミットなら三人乗れるんじゃが贅沢は言っとれんだろ」
 コクピットに乗り込むだけでいい年したジジイとハゲ上がった大人が言い争いしながらも、何とか乗り込むことは出来た。
「よし、んじゃ行くとするか」
 クラッチにハーミットパープルを這わせてエンジンを始動させると、プロペラが音を立てて回り始める。計器が示す数値も異常が無いことを教えてくれる。
 ブレーキを放すと、ゼロ戦がゆっくりと動き出す。おおよそ目星をつけていた離陸点に辿り着くが、ガンダールヴのルーンとジョセフ本人の経験がゼロ戦が飛び立てる滑空距離に少々足らない、と見えてしまった。
 アウストリの広場が狭いわけではないが、それでも飛行機一機が飛び立つ為に必要な距離は並大抵のものではないと言う事だった。
 ジョセフは閉じた片目の上に手を翳し、学院の敷地を取り囲む高い塀に舌打ちした。あれがもう少し低ければこの距離でも十分離陸は出来ただろう。
「ううむ。ちと距離が足らんな……あそこの高い壁を吹き飛ばせば何とか行けるかもしらんが」
 しょっぱなから物騒な提案に思考が進んだジョセフをたしなめたのは、足元に転がっているデルフリンガーだった。
「相棒、そんな短絡的な方法取んなくても外にいる貴族の娘っ子達に風を起こしてもらえればいけるぜ」
「ああ、それなら行けるか」
「あのちまいのは風のトライアングルだろ? なら大丈夫だ」
 風防から腕を出してハーミットパープルをタバサに伸ばす。骨伝導で「広場のあっこらへんに立って思い切り向かい風を吹かせてくれ」と頼むと、タバサはこくりと頷いて指定された場所まで歩いていった。
 さして時間を掛からず轟風が巻き起こったのを見届けると、シエスタから受け取ったゴーグルを身に付ける。
「おっしゃ、行くぞセンセ」
「ああ……よろしく頼む!」
 踏み込んでいたブレーキペダルから足を離し、スロットルレバーを開く。
 加速するエネルギーを解放されたゼロ戦は勢い良く加速を開始する。
 操縦桿を軽く前方に押し、尾輪を地面から離れさせ滑走に入る。
 段々と壁が近づいてくる中、十分にスピードが乗ったのを確認すると操縦桿を引き、タバサの起こした風に機体を乗せた。
 ゼロ戦が浮き上がり、大きなGがコクピット内の二人に圧し掛かる。
 そして脚を収納したゼロ戦は魔法学院の壁を飛び越え、更に上昇を続けていく。
「おおお、飛んでいる! 飛んでいるぞ! こんなに早く!」
 風防の外で猛スピードで流れていく景色を見、興奮を隠さず叫んだ。
「おい俺にも見せろよ相棒!」
 鞘口をカタカタ鳴らして催促するデルフリンガーをハーミットパープルで引き上げれば、デルフリンガーもまた金具をけたたましく鳴らして騒ぎ出した。
「うわー! すげえ! すげえ! なんだこれ、フネとか竜とか比べ物になんねーぞ!」
「そりゃそうよ、こいつぁ最高速度が500km以上出る。ハルケギニアでそんだけの速度を出せる魔法や生物なんてそうはないじゃろ?」
 狭いコクピットの中、自慢げに言うジョセフの言葉も、コルベールとデルフリンガーには届いていなかった。
 矢のように過ぎる雲の流れと外の景色に釘付けになっていたからだ。
 これから同乗者の気が済むまで遊覧飛行したり、雲を突き抜けた上空まで一気に飛んでやりたくもあったが、如何せん肝心要の燃料がタンクの20%しかない。
 安全を考慮し、比較的低空飛行で、且つ学院の周辺を飛び回るだけしか出来なかったが、それでもコルベールやデルフリンガーには十分過ぎる驚きと興奮を与えていた。
 それは無論、地上で見守っていたギーシュ達や、突然聞こえてきた爆音に何事かと教室の窓から顔を出した学院の生徒や教師達、地面から見上げる使用人達、そして塔の窓から一部始終を見守っていたウェールズも例外ではない。
「ほらほら見てくださいミス・ツェルプストー、ミスタ・グラモン! 飛んでます、竜の羽衣が飛んでますよ!」
 お伽噺だった『竜の羽衣』が本当に空を飛んでいるのを見ることが出来たシエスタのはしゃぎ様にも、キュルケもギーシュも構うことが出来なかった。
「……まるで夢でも見ているようだ。まさか、あんなカヌーみたいなオモチャが、あんなに早く飛ぶだなんて……」
「……本当に。何から何まで私達の常識ってものが通用しない世界なのね、ダーリンの世界って」
 学院にいる大勢の人間の中で、事情が飲み込めている者はほとんどいない。それでも、ハルケギニアの空を翔けるゼロ戦に視線を奪われていた。
 それから二十分後、再びアウストリの広場にゼロ戦が着陸し、そこからジョセフとコルベールが降りてきたのが確認された後、物見高い生徒達が教師の制止を振り切って教室の窓からフライで広場に殺到してくる。
 ルイズに召喚されてからこの方、学院の注目を一手に集めてきたジョセフである。
怒涛のように押しかけてくる野次馬達を丁重にあしらい、無遠慮にゼロ戦を触ろうとする不貞な連中にはトライアングルの三人と使い魔が睨みを効かせていた。
 今日も今日とて注目を一手に集めるジョセフを羨ましげに見ていたギーシュは、自分を慰めるように鼻先を摺り寄せてくるヴェルダンデにしかと抱き付いていた。
「ああヴェルダンデ、僕の愛くるしいヴェルダンデ、傷心の僕を癒してくれるのは君だけだ」
 もぐもぐ、と喉を鳴らして目を細めるヴェルダンデは、しょうがないなあと言いたげなつぶらな瞳で主人を見つめていたのだった。

 ちょうどその頃、トリステイン王城のルイズは客間のベッドで頭から毛布を被っていた。
 眠っている訳ではない。目ならとっくに覚めている。
 しかし、ベッドから起き上がる気分にはなれなかったのだ。
 使い魔とも別れて一人、今の自分が唯一頼れる友人であるアンリエッタの所へ転がり込んだはいいものの、今になってその行動が間違いだったことに気付いてしまった。
 スタンド使いで様々な悪知恵が働くジョセフがいなければ、自分はただのゼロのルイズでしかない。何も出来ない、魔法も使えないゼロのルイズ。
 しかも使い魔が帰還するのを素直に喜んでやれる訳でもなく、さよならも言わずに帰れと置手紙を残しただけ。使い魔を手放す辛さに耐えかねたとは言え、そんな無責任な別れは許されるはずが無い。
 自分の都合で呼び出した使い魔を帰すのに、呼び出した張本人はこうして迎えの来ないベッドの上で毛布を被って時が過ぎるのをただ待っているだけだなんて、果たして貴族の振る舞いとして恥ずかしくないのか。答えは既に出ている。
 サイドテーブルに置いている帽子に視線が行き、そしてまたすぐ離された。
(……私、バカだわ。こんなことしてたってしょうがないじゃない……)
 頭では判っている。ジョセフが帰るその時まで側にいて、謝るところは謝って、最後にさようならと直接言って、きちんと別れを告げるべきなのだと。

まだ日蝕まで二日ある。今から馬を飛ばして帰れば、十分に間に合う。学院に帰って、何もなかったような顔しててもジョセフはちょっとだけ苦笑して、あの大きな手で頭を撫でてくれるだろう。
 正直になって、別れたくない帰したくないって駄々をこねられるだけこねて、思い切り泣いて叫んで――自分の中に溜まっているわだかまりを全部吐き出してぶつければいい。
 本当はそうしなければならないのだ。
 そんな事をしても、ジョセフの意思が変わらないのは判り切っている。
 ただ、伝えなければならない。

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにとって、ジョセフ・ジョースターがとても大切な存在だって言う事を。

 人の言う事を先読みできる有り得ない洞察力と推理力を持つジョセフだって、あんな走り書きの文章一つで自分の中で渦巻いている色んな気持ちを察することなんて出来はしない。
 ……いや、ハーミットパープルを使えば出来るかもしれないが、多分そんなことはしない。
 だからちゃんと自分の口で、自分の気持ちを伝えなければならないのに。
 今から部屋を飛び出して、馬に乗って帰るだけでいいのに。
 しかし、ルイズはベッドから起き上がる事が出来なかった。
 由緒正しいトリステイン名門のヴァリエール公爵家の三女たる者が、よりにもよって使い魔から逃げ出して毛布を被っているだけだなんて。
 どんな顔をして帰ればいいのか、果たしてジョセフが本当に自分の思うような行動を取ってくれるのか。もし取ってくれなかったらどうしよう――。
 そんな思いばかりが渦巻いて、立ち上がることが出来なかった。
 誰にも頼ることが出来ず、誰にも悩みを打ち明けられず、一人きりになった今、16歳の少女に似つかわしい臆病さが前面に押し出されていた。
 頭では取るべき行動が判っていても、心が動き出す決意を立てられない。
 結局ルイズは、毛布で全身を包みきゅっと目を閉じて、眠気が来るのをひたすら待ってしまった。



日蝕の前日。
 ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世と、トリステイン王女アンリエッタの結婚式を三日後に控えたその日の朝。
 トリステイン王宮は、式が行われるゲルマニア首府のヴィンドボナへのアンリエッタの出発の準備を控え、上から下まで慌しく駆け巡っていた。
 トリスタニアからヴィンドボナまでは、馬車で行けば半日弱しか掛からない。
 しかし政略結婚と言えども、一国の皇帝と王女の婚礼の儀は建前上目出度い代物であり、祭儀として華々しく、且つ恭しく執り行われるべき代物である。
 トリステイン首都のトリスタニアからヴィンドボナまでの旅路そのものが盛大なセレモニーであり、足早に急ぐような野暮な真似が出来るわけも無い。
 半日弱の旅路をたっぷり時間をかけ、式前日の夕方にやっと到着することになっていた。
 千の御伴を連れて立ち並ぶ行列の主賓たるアンリエッタ自身は、まるで病に冒されたような白い面持ちのまま、今朝本縫いが終わったばかりのウェディングドレスに身を包んでいた。
 上質の絹で織られた美しいドレスを着ているというのに、ドレスの色を黒く染めれば葬儀の場に立っていてもなんら違和感を感じさせない佇まいであった。
 出発の時間まで四半刻となった頃、王宮に突然の報がもたらされた。
 国賓歓迎の為、ラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊全滅の知らせ。
 それと時を同じくし、神聖アルビオン共和国からの宣戦布告文が急使に拠り届けられた。
 ラ・ロシェールに配備されていたトリステイン艦隊が突如不可侵条約を無視して親善艦隊に理由なく攻撃を開始し、一隻の戦艦が撃沈された為、アルビオン共和国政府は『自衛の為』『やむなく』トリステイン王国政府に対して宣戦を布告する旨が綴られていた。
 トリステイン王宮はこの知らせに騒然となり、急遽将軍や大臣達を招集した。
 しかし名誉ある貴族が雁首揃えてやることと言えば、豪奢な大会議室でただ言葉を踊らせるばかり。
 やれこれは互いの誤解から発生した不幸な行き違いだ、アルビオン政府に対し真摯な対応をすべきだ。いや今すぐゲルマニアに急使を飛ばし、同盟に従い軍を差し向けるべきだ。
 誰も椅子から腰を上げようともせず、下の者を動かそうともせず、ただひたすらに終着点が考えられていない互いの意見ばかりが飛び交い、なんら実のある結果に繋がる気配は見えなかった。
会議室の上座には、ウェディングドレスを纏ったアンリエッタが座っていた。きらめくような白絹に身を包んだ姿は衆目を引き付ける美しさを醸し出しているが、居並ぶ貴族達は誰一人としてその清楚な美しさに目を留めようとしない。まして意見を求めようともしない。
 国を揺るがす一大事の中でも、うら若き王女はただ座っているだけ。
 ただ顔を俯かせ、膝の上に置いて握り締めた手をじっと見つめているだけだった。
「――これは偶然の事故――」
「――今なら話し合えば誤解が解けるかも――」
「――この双方の誤解が生んだ遺憾なる交戦が全面戦争へと発展しないうちに――」
 会議室での言葉は何一つアンリエッタに届かず、ただ頭の上を通り抜けていくだけ。
 誰も王女に言葉を届けようともしないし、届ける意味を見出してもいなかった。
「急報です! アルビオン艦隊は降下して占領行動に移りました!」
 伝書フクロウがもたらした書簡を手にした伝令が、息せき切って会議室に飛び込んできた。
「場所は何処だ!」
「ラ・ロシェールの近郊! タルブの草原のようです!」
 伝令の言葉に、会議室はより重い空気を漂わせる。
 自分達が考えている以上に、事態は重大であることに気付き始めざるを得なくなっていた。
 昼を過ぎ、王宮の会議室には次々と報告が飛び込んでくる。
 それらはどれも例外なく、頭を抱え耳を塞ぎたくなるような悪い知らせばかりであった。
 タルブの領主が討ち死にし、偵察の竜騎士隊は一騎たりとも帰還せず、アルビオンからの返答もない。
 敵意を持って杖を向けている敵に対し、未だに自分達がどうするのかも決めあぐねて会議室から出ようともしない貴族達。
 それをただ黙って見ているアンリエッタの心の中では、これまで懸命に押し殺してきた感情がゆっくりと、しかし着実に膨れ上がっていたのだった。
(……これが。伝統あるトリステイン王室)
 前王は子に恵まれなかった。生まれた子供はマリアンヌとの間に生まれた娘、アンリエッタ一人。側室も設けなかった為、トリステインの王位継承権を持つ者は大后マリアンヌと王女アンリエッタの二人だけ。



王が崩御した後、マリアンヌは王位継承権を放棄し、第一王位継承権を持つようになったアンリエッタは当時7歳。まだドットメイジですらない少女を王座に座らせる訳にも行かず、それから十年間トリステインの玉座は主を失ったまま現在に至っている。
 しかし17歳となり、水のトライアングルメイジとなった彼女は、ハルケギニア統一の野望を持つアルビオンに対抗する同盟を結ぶ為の貢物として、四十過ぎの男との政略結婚を組まれていた。そこに彼女の意思は介在していない。アンリエッタの恋心を斟酌されるはずもない。
 トリステイン王宮に仕えている貴族達は、王家に傅く素振りをしているだけ。国家存亡の危機に瀕している今、王女に意見を求めることも無く、ただ自分達だけで言葉を踊らせている。
 自分に求められている役割は国を統治する王女ではなく、王宮を飾る美しい花。
 花瓶に生けられた花に、王の言葉を求める者は居ない。
(そうね。私はずっと彼らから取り上げられてきたのだわ。トリステインという国を。王女としての誇りを)
 今にも滅亡しようとするアルビオンで孤軍奮闘するウェールズから、昔送った恋文を返して貰う。そんな困難な任務を頼める相手が、幼い頃の遊び相手しかいなかった。
 数少ない友人であるルイズにすら、最初は悲劇の主人公ぶった言葉でしか頼むことが出来なかった。王女としての立ち居振る舞いすら忘れていたのだ。
 それを思い出させてくれたのは、皮肉にも平民であり、使い魔である老人、ジョセフ・ジョースターの言葉。
『王族の誇りを捨て、自らに仕える貴族にへつらった! そんな腐れた魂の何が王女か、何がルイズの友達かッ!』
 あの夜、自分は王族としての誇りを取り戻したはずではなかったのか。
 愛するウェールズは最後の時までアルビオン王家に連なる者として、誇り高く死のうとした。それを無理矢理トリステインに連れて帰らせたのは自分だ。
 アンリエッタ・ド・トリステインは、こんな無様な姿を見せる為に愛する人の意思を捻じ曲げたのか?
 今の自分は胸を張って、自分の愛する人達の前に顔を出せるだろうか?
(……出せないわ。出せるはずが無い)
 今の自分は、王女である資格がない。恋人である資格がない。友人である資格がない。
(――どうせ、このまま生き長らえても意にそぐわぬ婚姻をするだけ)
 弾む鼓動を抑えるように、ゆっくりと、けれど大きく、息を吸う。
(これから数十年ずっと悔いて生きるのと、今日、死ぬことと。どれだけの違いがあるのかしら)
 肺腑に行き渡らせた息を、静かに吐き出していく。
(せめて、トリステインの王女として誇れるように生きてみよう)
 俯いていた顔をゆっくりと上げる。意味のない言葉が舞う貴族達を一瞥し、悠然と立ち上がる王女に、貴族達の目が向けられた。
「――トリステインの貴族は誰も彼も臆病者のようですわね」
 アンリエッタの唇が紡いだ言葉は、意図せず氷柱のような冷たさと鋭さを纏っていた。
「姫殿下?」
「今正に国土を侵されていると言うのに、下らぬ言葉遊びに興じる様の見物はもう飽きました。それで? 貴方がたは一体どうするというのですか。そのお腰の杖は飾りなのですか? 貴方がたが今唱えなければならないのはつまらぬ御託ではなく、敵を討つ為の呪文のはずです」
 呼吸も乱れず言葉に震えもない。言うべき言葉が勝手に流れているような錯覚さえ、アンリエッタは抱いていた。
「しかし、姫殿下……誤解から発生した小競り合いですぞ」
「誤解? 何をどうもって誤解と言うのですか? トリステイン王国の艦隊は祝砲に実弾を込める愚か者が揃っております、とお認めになるつもり? そんな馬鹿な話があってたまりますか。どれだけ下らない道化芝居とて、こんな無様な筋書きは存在しません」
「いや、我々は不可侵条約を結んでおったのです。事故以外に有り得ません」
「事故以外の可能性を貴方が認めたくないだけでしょう。今我々が直面している現実は、アルビオンがトリステインの国土を侵している。条約は紙より容易く破られたのです。どうせ守るつもりなどなかったのでしょう、あの卑怯者達の集まりは」

「しかし……」
 なおも言い募ろうとする一人の将軍に一瞥をくれる。
 ただのお飾りであるはずの王女は、臣下の勝手な発言を視線一つで遮った。
「貴方がたは御存知? アルビオンを簒奪したレコン・キスタは我がトリステイン王国のグリフォン隊隊長を裏切らせ、名誉ある戦いに赴こうとしたウェールズ皇太子を暗殺しようとしたのです」
 突如発せられた言葉に、会議室がどよめく。
 王宮近衛である魔法衛士隊隊長の裏切りは、緘口令が引かれていた。この緊急時に会議室に召集された貴族の中でも、その事実を知らない者は少なくなかった。
「アルビオン王家は滅亡寸前であったのに、彼らは最期の名誉ある死すら皇太子から奪おうとしたのです。いみじくもトリステインがレコン・キスタに加担したも等しい忌まわしい出来事を知ってなお、まだ愚にも付かぬ議論を続けるつもりですか」
 静かに紡がれる王女の言葉に、貴族達は口を噤む。つい先程まで貴族達の声が溢れていた会議室には、王女の声だけが響いていた。
「この様な繰言を並べている間も、国が踏み荒らされ、民の血が流れているのです。王族や貴族は、この様な時こそ杖を掲げ戦いに出向く存在だったのではありませぬか? そんな最低限の義務すら果たせないのなら、杖など折ってしまいなさい!」
 声を張り上げてテーブルを叩くアンリエッタ。
 誰も言葉を発さず、杖に手を掛ける者もいない。
「黙って聞いていれば、如何に逃げ口上を美しく整えるかという事ばかり。確かにトリステインは小国、頭上から見下ろすアルビオンに反撃したところで討ち死には必至。敗戦後、責任を取らされるのは真っ平御免と言う所でしょうか。
 それならば侵略者に尻尾を振って腹でも見せていれば命が永らえる。そうそう、私の聞き及んだ話ですと王党派は降伏してもギロチンなる処刑道具で首を刎ねられたそうですわ」
「姫殿下、言葉が過ぎますぞ」
 マザリーニがたしなめる。しかしアンリエッタは一瞬だけ視線を彼に向けただけだった。
「わたくしは誇り高きトリステイン王国が王女、アンリエッタです。わたくしは王族としての義務を果たしに行きます。卑怯者どもの犬として首を刎ねられたいのならば、自由になさい」
 アンリエッタは貴族達にそれ以上構うこともなく、ドレスの裾を捲り上げて会議室を飛び出していく。
「お待ち下さい! お輿入れ前の大事なお体ですぞ!」
 マザリーニのみならず何人もの貴族がそれを押し留めようとするが、彼女は躊躇いなく彼らを一喝した。
「軽々しく王女に触れようとするとは何事ですか、立場を弁えなさい!」
 アンリエッタに伸ばされようとしていた手が、威厳ある言葉によって動きを失った。そして行き場を無くした手達が彷徨う中、捲り上げた裾を強引に引き千切ると、破き取った裾をマザリーニの顔目掛けて投げ付けた。
「もううんざりだわ、私の意思は私のもの! 貴方がたに左右される云われはないわ!」
 見るも無残に敗れた裾を翻し、足音も高く廊下を進んでいく。
 会議室を守っていた魔法衛士達は、王女殿下の後ろを自然と付き従っていった。
 宮廷の中庭に現れたアンリエッタは、涼やかな声で高らかに叫んだ。
「わたしの馬車を! 近衛! 参りなさい!」
 中庭にいた衛士達がアンリエッタの元に集まり、ユニコーンの繋がれた馬車が衛士の手によって引かれて来る。
 アンリエッタは馬車からユニコーンを一頭外し、傲慢なほど堂々と背に跨った。
「これより全軍の指揮をわたくしが執ります! 各連隊をここへ!」
 前王が崩御してから十年余の時間を経、トリステイン王宮に王の声が響き渡る。
 魔法衛士隊の面々は一斉に王女に敬礼し、アンリエッタはユニコーンの腹を蹴りつける。
 甲高いいななきを上げて前足を高く掲げる中でも、彼女は悠然とした態度を崩さなかった。
 アンリエッタの頭に載ったティアラが日の光を受け、黄金色に輝いたのを臣下に見せた後、ユニコーンは誇らしげに走り出す。
 それに続き、幻獣に搭乗した衛士達がそれぞれ叫びを上げて続く。
「戦だ! 姫殿下に続け!」
「続け! 後れを取っては家名の恥だ!」
 雪崩を打つように貴族達は各々の乗機に跨り、アンリエッタの後を追いかけていく。
 王女出陣の知らせは城下に構える連隊へ届き、後れを取ってはならぬと次々とタルブへ向かって進んでいく。
 投げ付けられた裾を手にしたまま、その様子を見ていたマザリーニは呆然と天を見上げた。
 アンリエッタが貴族達に放った言葉は、自分も考えていたことだった。
 伝え聞く情報は、レコン・キスタとは誇りや名誉という単語から程遠い場所に存在する連中だという事は知っていた。
 だが現実問題として、今のトリステインでは彼らに太刀打ちできないことを一番知っているのは、国の政務を一手に引き受けてきたマザリーニである。
 今ここで戦いに出たところで、無駄に被害を広げる結果にしかならないと考えている。今更命が惜しい訳ではない。現実的に考えれば考えるほど、国の為、民の為には事を荒立ててはいけなかった。小を切り捨て、大を生かす為にはそうせざるを得なかった。
 だが、今この時、条約は破られ、戦争が始まっているのだ。外交のプロセスは既に終わっている。今は互いの国力をぶつけ合う実力行使の時間になっている。それを認めたくない、という気持ちがなかったとは言えなかった。
 一人の高級貴族が、アルビオンに派遣する特使の件で耳打ちをする。
 マザリーニは頭に被っていた球帽をそいつの顔面に思い切り投げ付けようとして、気が変わる。球帽を掴んだ拳ごと彼の鼻っ面に叩き込んだ。
 そしてアンリエッタが投げ付けた裾を頭に巻き付け、叫んだ。
「各々方! 馬へ! 遅れてはならぬ、栄えある姫殿下の元に集え!」



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