ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク-13

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匿名ユーザー

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13話


ガラガラと音を立てて馬車が走る。
乗っているのはルイズ、ギーシュ、モンモランシーの3人。
ちなみにホワイトスネイクも発現状態でこの場にいたが、
浮いているので「乗っている」ことにはならない。

「それにしても……ミス・ロングビル。何で貴方が御者なんかやってるんです?
 学院に仕えてる平民の誰かにやらせればよかったじゃないですか」

モンモランシーが手綱を握るロングビルに声をかける。

「いえ……いいのです。私は貴族の名をなくした者ですから」
「え? でも、ミス・ロングビルはオールド・オスマンの秘書なんじゃ……」
「あの方は貴族と平民の区別に拘らない方なのです」
「トイウ事ハオ前ノ他ニモ下仕エ以外デ学院ニ勤務スル者ガイルノカ?」

突然ホワイトスネイクが会話に割って入った。

「いえ、そういうわけでは……」
「デハオ前ダケガオスマンニ取リ立テラレタ、トイウ事カ?」
「……私が知る限りでは」
「ト、ナルト平民トハソンナニ無能揃イナノカ?
 ソンナ筈ハアルマイ。
 有能デアル事ニ加エテオ前ハ恐ラクオスマンニ何カヲ持チカケタナ?」
「ちょっと、ホワイトスネイク! あんた失礼よ!」

ホワイトスネイクの追求にルイズが声を上げる。
この場で「ロングビル=フーケ」あるいは「ロングビルがフーケの配下」の可能性を疑うのが
ホワイトスネイクだけである以上、仕方の無いことではある。

「その通りだ使い魔君。ミス・ロングビルはレディーなんだからそういう態度はだね」

ギーシュもルイズに賛同して声を上げたが、

「「あんた(オ前)は黙ってなさい(黙ッテロ)」」

ルイズとホワイトスネイクのダブルパンチで黙らされた。

「ね、ねえモンモランシー。あの態度は、ちょっと無いんじゃないかな?」
「あんた、ミス・ロングビルに手を出したらただじゃおかないから」
「ひ、ひどい……」

そしてモンモランシーに出した助け舟も艦砲射撃一発で沈められ、目に涙を浮かべながらギーシュは黙り込んだ。

「持ちかけたとは……一体何を?
 根も葉もない疑いをかけられては、私も黙っていかねますが」
「ソウダナ、例エバ……」

「色仕掛ケ、トカ」

ぶすっ

「ッ!! ツ、杖デ目ヲッ! 一体ドーイウ教育ヲ受ケタラソーイウコトガ平気デ出来ルンダッ!?」
「それはこっちのセリフよこのバカ蛇ッ! 
 どーいう生活環境にいたらあんな失礼極まりないことがいえるのよ!!
 ああもう、本当にすみません! うちのバカがこんなので……」
「い、いえ……」

ルイズの剣幕に思わずたじろぐロングビル。
だが彼女がたじろいだ理由はもう一つあったのだが……それは今ここでは言うまい。

「まったく……それにしても、何であんたが志願したのよ、ルイズ。
 大体あんた、魔法使えないじゃない」
「魔法が使える使えないは関係ないわ。
 土くれのフーケを放っておくのは、貴族として恥ずべきことよ」
「……あんた、プライドだけは一流よね。
 そのプライドのおかげで、わたしまでついて行くことになっちゃったし」
「あんたがくっついてったのはギーシュでしょ」
「ち、違うわよ!
 わたしはただ、ギーシュが心配だから……」
「そーいうのが『くっついてく』って言うんじゃない」

きゃあきゃあと言い合いをするルイズとモンモランシー。
と、そこへ。

「モンモランシー! やっぱり君は僕のことが」
「「あんたは黙ってなさい」」
「しゅん……」

またも会話にしゃしゃり出たギーシュだったが、
ルイズとモンモランシーによる言葉のクロスボンバーであえなくダウンした。

そんなギーシュを見てホワイトスネイクが一言、

「修行ガ足ランナ」
「え? って言うか君、ちょっと前に召喚されたばっかりだろ!?」

そんなことをしているうちに、馬車が止まった。
まだ昼間だというのに、周囲は生い茂った木々のせいで光が届かず、薄暗い。

「ここから先は徒歩で行きましょう。
 そろそろフーケの隠れ家が近いので、馬車では音で気づかれます」

皆がロングビルの提案に従い(ホワイトスネイクも何も言わなかった)、歩いて森の中を進む。
歩いているうちに、やがて開けた場所に出た。
この場所だけは木も少なく、光が注いでいるかのように明るかった。
そして……古びた小屋が、一つあった。

「あれがフーケの隠れ家です……身を隠してください。
 フーケがまだ、中にいるかも……」

手ごろな位置にあった木に身を隠しながらロングビルが言う。
ルイズたちもそれに従い、慌てて近くの木に隠れた。

「……ホワイトスネイク。あの中、見てこれる?」
「距離ニシテ約30メイル。ルイズガ小屋カラ視認デキル位置マデ移動スル必要ガアルナ」
「つまりわたしも危険、ってことね……」
「ソノ通リダ。私ハアマリ推奨シナイ。ソレヨリ……」

そう言ってホワイトスネイクはあたりを見回すと、突然腕からDISCを「二枚」取り出した。
初めて見るロングビルが唖然としている中(ギーシュとモンモランシーは授業で一度見ている)、
ホワイトスネイクはそのうちの一枚をおもむろに上空へと投げた。

「……あんた、今何したの?」
「見テイレバ分カル」

ホワイトスネイクがルイズにつれない返事を返した直後のこと。
突然、一羽の鳥が上空からすいーっと小屋に近づいて窓の縁に着地すると中を覗き、
それからすぐに飛び立って真っ直ぐにホワイトスネイクの方へ飛び、その掌の上にちょんと乗った。

一同が呆気に取られてみている間、ホワイトスネイクは鳥の頭部に指を突き刺すと、
すぐにそこから一枚のDISCを取り出した。
そしてそのDISCを今度は自分の額に差しこみ、しばらくしてから、

「アノ小屋ニハ誰モイナイヨウダ」

そう言い切った。
ルイズがそれに対して何か言おうとしたが、

「ルイズモコレヲ見ルトイイ」

そう言ったホワイトスネイクから差し出されたDISCを
得体の知れないものに触るようにおずおずと受け取ると、
さっきホワイトスネイクがやったように、そろ~っと自分の額に差し込んだ。

その瞬間、ただ日の光を反射しているだけだったDISCに、映像が映り始める。
最初は空中の映像、それが一気に急降下して木で出来た何かに、いや、どこかの小屋に着地した。
それに連続して小屋の中の映像が始まる。
小屋の中には、誰もいなかった。
ルイズがそう感じた瞬間、映像の視点は180度反転して再び空中を飛んだ。
直後、映像にはルイズと、ギーシュ、モンモランシー、ロングビルが小さく映し出され、
それがどんどん大きくなったと思った瞬間、
視点が「何も無いように見える」場所に着地し、そこで映像は終わった。

「ホワイトスネイク、これって……」
「先程ノ鳥ノ記憶ダ」
「記憶って……ちょっと! それってやられた相手は死んじゃうんじゃないの!?」
「問題ナイ。生命活動ニ支障ガ出ナイ程度ノ、部分的ナ記憶ダ」
「……本当でしょうね?」
「本当ダ」
「ちょっとルイズ。それ、わたしにも見せてくれない?」

そういうモンモランシーにルイズがDISCを渡すと、
モンモランシーはルイズがやったように自分の額にDISCを差し込んだ。

そして、しばらくしてからDISCを抜き取ってルイズに返した。
その表情には驚きの色が強く現れていて、そして何も言わなかった。

「……私も拝見します」

その様子を見てロングビルもDISCを受け取ると、同様にDISCを差しこんだ。
この時、ホワイトスネイクは小屋のほうをじっと見つめていて、ロングビルには目もくれていなかった。
そしてDISCを抜き取ったロングビルはやはり同様に驚いた様子で、DISCをルイズに渡した。
だがその表情には恐怖を感じさせる、引きつった「何か」が感じられた。

ホワイトスネイクの目はロングビルの方には向けられていなかった。
だが彼が持つDISC――腕から抜き取りながらも、結局投げなかったもう一枚のDISCには、
ロングビルの表情が反射で映し出されていた。
そしてホワイトスネイクは……それを見ていた。

「僕にも見せて欲しいんだけど」
「「「あんたは(オ前ハ)見なくていいのよ(見ナクテイイ)」」」

ルイズ、ホワイトスネイク、モンモランシーからの集中砲火でギーシュは何も言えずにうずくまった。

「ミス・ヴァリエールの使い魔の……ホワイトスネイクさん、でしたか?
 貴方が、今やった事は……」
「最初ニヤッタノハ『命令』。
 生物ニ対シテ拒絶不可能ノ行動命令ヲ下ス事ダ。
 ソシテ鳥カラ抜キ取ッタノハ『記憶』。
 私ハドンナ記憶デモ、ドンナ後ロメタイ記憶デアッタトシテモ……
 ソレガ『ロングビルノ記憶』ダッタトシテモ……必ズ形ニシテ抜キ取レル」

ホワイトスネイクの言葉に、思わずロングビルは一歩下がった。

「い、一体……何がいいたいのですか?」

ごくり、と生唾を飲み込んでロングビルが言う。

「私ガ今一番見タイ記憶ハ……ロングビル、オ前ノ記憶ダ。
 アノ小屋ノ中ニハ誰モイナイ。
 ナラバフーケハドコニイル?
 獲物ヲ待ツ蛇ノヨーニ我々ヲドコカカラ見テイルノカ……アルイハ」
「あ、あの! さっきのホワイトスネイクさんが取った鳥の記憶の風景に、箱のような物が映っていました!
 もしかしたら、それが破壊の杖かも!」

唐突に話題を変えようと試みるロングビル。
しかし。

「ソウ思ウナラ自分デ取ッテ来ルベキダ。
 小屋ソノモノニ何カブービートラップガ仕掛ケラレテイタラ……
 ソレガルイズヲ傷ツケタリシタラ大変ダカラナ」

まるで人事のように言うホワイトスネイク。

言うまでもなく、小屋の中に「箱のようなもの」が映っていた事はホワイトスネイクも確認している。
だが……

「ソシテ逆ニ聞キタイ。
 ソモソモ、何故ソノ「箱のような物」ヲ破壊ノ杖ダト判断スル?」
「う………」
「名ノアル盗賊ガ折角手ニ入レタブツヲ置キ去リニスル事コソ考エ難イノニナ……何故ソンナ事ヲ言ウ?」
「それは……その……」

しどろもどろになるロングビル。

その様子を見て、さすがにルイズやモンモランシーもロングビルに一抹の疑いを持ち始めた。
ギーシュには、ホワイトスネイクが一方的にロングビルを言葉責めにして、
ロングビルがそれに困っているようにしか見えなかったが。

「ソレニ、ダ。ロングビル。
 オ前ノ言動ニハ一ツノ意思ヲ感ジル。
 ココマデ誘導シタノニモ……ソレ以前ニ、最初ニフーケノ居場所ガ分カッタト言ッタ時カラ」
「わ、分かりました! 私、今から小屋に向かいますので、後方支援をお願いします!」

ホワイトスネイクの言葉を途中で遮り、ロングビルは駆け足で小屋へと向かった。
一方、ホワイトスネイクは自分の言葉を遮られたことには意も介さない様子でその後姿を眺めながら、

「ギーシュ、モンモランシー。
 オ前達ニ何ガ出来ルカヲ把握シテオキタイ。
 ソレト使イ魔ノ情報モ、ダ」
「いいけど……何で今なの?」
「ロングビルガ小屋ニ入ッタ後……恐ラク直グニフーケノ攻撃ガ始マル。
 フーケハ罠ヲ張ッテイルハズダカラナ」
「……分かったわ」

モンモランシーが緊張した面持ちで答える。

「私は水のライン。
 20メイル先ぐらいまでなら水で攻撃できるわ」
「威力ハ?」
「まともに当たれば骨ぐらいは折れる威力よ」
「分カッタ。デハ使イ魔ハ?」
「カエルのロビンよ」

カエル、と聞いた瞬間、ホワイトスネイクの体が微妙に震えた。

「ロビン自体にはあんたみたいに戦闘力はないわ。
 せいぜい感覚の共有で私をサポートするぐらい……って、どうしたのよ?」
「…………何デモナイ」

猛毒のカエルが雨あられの如く頭上に降り注いだ記憶が一瞬フラッシュバックし、
すごくイヤな気分になったホワイトスネイクであった。

「……デハ次ハギーシュダ。
 オ前ノ魔法ハ既ニ見テイルカライイ。
 使イ魔ノ情報ヲモラオウカ」

使い魔、と聞いて精神的にやつれていたギーシュが輝かんばかりの笑顔になった。

「僕の使い魔の事を聞いてくれたのかい!?
 いやあ、嬉しいなあ!
 僕の愛しのヴェルダンデの事が気になるなんて、君もいい趣味してるじゃないか!」
「戦力ニナルカドウカガ知リタイダケダ。サッサト言エ」
「まあまあ、そんなに急かさないでくれたまえ。
 僕のヴェルダンデはジャイアントモール。
 地中を水の中の魚みたいにすいすい動けるんだ!」
「……ツマリモグラカ?」
「ちょっと待ちたまえ。僕のヴェルダンデはただのモグラなんかじゃあないんだ。
 モグラよりもずっと強くて、ずっと賢くて、ずっと愛おしい、それが僕のヴェルダンデさ!」
「トリアエズモグラノ類デアル事ハ分カッタカラモウイイ」

そう言ってホワイトスネイクが会話を切った瞬間だった。

みしり、と大地そのものが軋んだ。
瞬間、ホワイトスネイクは小屋に目を向ける。
目を向けた先にいたのは、全長30メイルはあろうかという巨大ゴーレム――フーケのゴーレムだった。

そのゴーレムは拳を大きく振り挙げると、
子供が砂の城を崩すより容易く、小屋を根こそぎ吹き飛ばした。
人型の何かが、小屋の残骸と共に森の中に吹き飛ばされるのがホワイトスネイクにも見えた。
そしてそれは、ルイズにも、モンモランシーにも、ギーシュにも見えた。

「い、今のって!」

モンモランシーが思わず声を上げ、ギーシュは口をぱくぱくさせる。
そして一方、ルイズは呆然として、声を上げる事すらできなかった。
自分もロングビルを疑っていた。
ホワイトスネイクがロングビルを責めるのにつられて、わたしも!
そのために、今、ミス・ロングビルが――

「落チ着ケ、ルイズ」

自責の念に駆られるルイズの前にホワイトスネイクが立つ。
ただしルイズにはその背が向けられており、ホワイトスネイクは真っ直ぐにゴーレムを見据えていた。

「今見エタノハ何ダ? 見エタノハ『人型の何か』ダ。
 アノ程度ナラギーシュダッテ作レル」
「………」

沸騰しそうになる頭をどうにか平静な状況に持っていき、やっとのことでルイズが口を開く。

「……その、根拠は?」

ホワイトスネイクは暫し考えた後、

「私ヲ信ジロ」

確かにそういった。

自分を、信じろですって?
ルイズは、自分の耳を疑いたくなった。
ここに来る前にあんだけのことをしといて、それでどの口がそんなことを言えるの?
こいつ、本当にそれでわたしが納得すると思ってるの?
そんな思いが脳裏を次々と掠める。

だが、自分の心を過ぎる感情の中に一つ、しかし決して見逃せない感情が、一つあった。



――自分が信じないで、誰がアイツを信じるの?――



その感情に咄嗟に反駁しようとした。
したが……できない。
自分が信じなければアイツはどうなるの?
誰もがアイツを危険視して、誰にも近寄られないで、それでも一人で、わたしを守ろうとするに決まってる。

そんなのは、絶対にダメだ。
あの夜――アイツと3つの約束をした夜、誰にも言わないで自分の心にだけ誓った事。
ホワイトスネイクを自分の使い魔にしてみせる、という誓い。
今ここでアイツを信じなかったなら、もう二度と自分はアイツを信じられなくなる。
そんなのは、絶対にダメだ。
だから――

「信じるわ」

自分でも驚くほど、その言葉はすらりと出てきた。
そしてその言葉は、ホワイトスネイクにも僅かながら衝撃を与えた。
それは、背中越しに、ルイズにも確かに伝わった。

「了解、ダ」

ホワイトスネイクはやはり背中越しに、ルイズにそう返した。
しかしその口端には、微かに笑みが浮かんでいた。


To Be Continued...


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