ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク-12

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匿名ユーザー

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12話



嵐のような夜は明けて、朝が来た。
「新しい朝が来た、希望の朝が・・・」などというフレーズもある朝だが、
残念ながらこの日の朝は希望もなければスガスガしくもなかった。
トリスティン魔法学院長のオスマンにとっては特に。

「……それで、ミス・ヴァリエールが不届き者に襲われとったのにも、
 土くれのフーケが宝物庫を襲って『破壊の杖』を盗んでいったのにも……。
 だーれも気づかんかったと、そういうわけじゃな?」

オスマンが眉間に皺を寄せながら目の前に並ぶ教師一同を見回す。
教師達は皆が一様に肩をすくめるだけで、何も言おうとしなかった。
その反応を見て、オスマンは深いため息をついた。

メイジには主に2種類のタイプがある。
一つは軍人のように、魔法を戦うことに使うことを得手とするタイプ。
もう一つは、戦いは得意とせず、あくまで魔法を研究することに長けるタイプ。
この魔法学院にいるのは当然後者ばかりで、
「魔法殺し」や「土くれ」のような名だたる殺し屋、盗賊と渡り合えるような猛者がいないことぐらい、
オスマンだって分かっていた。
分かっていたが…これほどの体たらくだとは思いもしなかった。
ルイズの部屋に侵入した不届き者と戦い、重傷を負ったキュルケとタバサの方が、
こいつらよりもよほど貴族らしいのには間違いあるまい、とオスマンは深く思った。

「ハァ~~……もうよい。君たち、ちょっとそこに立っとれ。
 ああ、それとミス・ヴァリエール。スマンの、ワシら教師がこんな有様で」
「い、いえ……」

オスマンの丁重な物言いにどぎまぎするルイズ。
オスマンはそれを見て目を細めると、その隣に立っているギーシュとモンモランシーに目を向けた。

「それとミスタ・グラモンにミス・モンモランシ。
 君らが不届き者の事と『土くれ』の件を伝えてくれておらねば、事態はもっと悪化しておったやもしれん。
 礼を言おうかの」
「い、いえ! そんな……」
「いえ、オールド・オスマン! レディを守る事は騎士の務め!
 ですのでこの程度のこと、礼には及びません」

モンモランシーが白い目でギーシュを睨む。
でもギーシュは気づいていないようで、調子よさそうにニコニコしていた。

「それは何よりじゃ。
 ……さて、ミス・ヴァリエール。
 昨日の事をもう一度、今度は簡単に話してもらえるかね?」
「はい。えっと、私が寝てたところでいきなりホワイトスネイクが大声出したからそれで目が覚めて、
 その後不届き者とホワイトスネイクが戦ってたらキュルケとタバサが入ってきて……」

余談だが、ルイズがタバサの名前を覚えてるのは先ほど事件の概要をルイズが説明した際、
タバサを「青髪の女の子」と呼んだのをオスマンに訂正されたからである。

「それでキュルケとタバサがいきなり浮き上がって、苦しそうにしてて……」
「……もうよい、ミス・ヴァリエール」

ルイズのあまりの説明下手にオスマンはたまらず待ったをかけた。
先ほどのルイズの説明も、オスマンをもってしてもまったく理解できなかったために
待ったがかかった次第だというのに……。
とは言ってもハルケギニアには無重力の概念すらないのだから、
結局のところルイズでなくともあの戦いを性格に説明する事は困難であろうが。

「……あ~、その、なんじゃ。
 さっき君は『ホワイトスネイクと不届き者は知り合いのようだった』と言ったのう?」
「ええ、そうですけど」
「ここは、ホワイトスネイク君に話してもらうのが分かりやすいかもしれんの」
「イヤです」

ルイズは間髪いれずに拒否した。

「わたしが話します。わたしが当事者ですから」
「でも君の言う事はちょっと分かりにくいんじゃよなあ……話を早く進めたいってのもあるしの。
 ホワイトスネイク君を……?」
「いいです。わたしがわかりやすく話します」

ルイズがホワイトスネイクに説明させたがらないのは、単に「使い魔より説明下手」と思われるのがイヤなだけで、
決してホワイトスネイクを邪険に扱おうとする意思があるわけではない。
ないのだが、誤解されても仕方の無い状況になってきている。

「……そうかね。じゃあ、もっと分かりやすく頼むよ」
「はい。
 まずホワイトスネイクが大きい声出したからそれで目が覚めて、ホワイトスネイクと不届き者が戦い始めて、
 その後にキュルケとタバサが助けに来てくれたんだけど不届き者にやられそうになっちゃって、
 それでわたしとホワイトスネイクがそれを助けに行って……ここまでしか覚えて無いです」

オスマンは椅子から滑り落ちそうになった。

(な、なんで一番肝心なとこを覚えとらんのじゃろうな?
 やっぱり使い魔の方に説明させるのが正解じゃったかの……?)

「あ~、ミス・ヴァリエール。わしが聞きたいのはその先なんじゃが……」
「……ホワイトスネイク」

ルイズがぼそっと自分の使い魔の名を呼んだ。
直後、ルイズのすぐ傍に屈強な体躯を持つ亜人――ホワイトスネイクが現れる。
あの戦いから半日を経たホワイトスネイクの体には今も無数の傷が残っており、
特にジャンピン・ジャック・フラッシュの拳に貫かれた腹部の傷は殆どそのままで残っていた。

「状況ハ理解シテイル。ルイズノ代ワリニ、昨日ノ一件ノ説明ヲスレバ……」

ドグシャアッ!

「ッ!! ナ、何ヲスル! イキナリスネヲ蹴ッ飛バスンジャアナイッ!」
「あんたが聞かなくてもいいところを聞いてるからよ!」
「ダッタラ口デ言エ口デ! 何デ一々私ニ当タロートスルンダ!」
「何よ、ご主人様の教育方針にケチつけようって言うの!?」
「コンナヤリ方ニケチツケナイ奴ガイルト思ッテンノカッ!」

出てきた直後からぎゃあぎゃあと口論を始めるルイズとホワイトスネイク。
目の前のオスマン、隣のギーシュとモンモランシーはもちろん、周りにいた教師一同も、思わず目を覆った。
ルイズとホワイトスネイクが、二人してあまりにも子供じみていることに。

「……もう、いいかの?」

オスマンはまたため息をつきながら二人に声をかける。
その声でルイズははっとした顔になると、すぐにホワイトスネイクの足を踏んづけて黙らせる。
ホワイトスネイクは苦悶と理不尽への怒りを滲ませた表情プラス不満たらたらの視線をルイズに向けたが、
ルイズは完全にスルーした。

「ではホワイトスネイク君。
 まず、ミス・ヴァリエールの話では、昨日の不届き者とは知り合いだったそうじゃが……本当かの?」
「本当ダ。奴ノ名ハラング・ラングラー。
 私ガ最期ニラングラーニ会ッタ時ハトアル場所ノ囚人ダッタ男ダ」
「囚人、か。
 ではこちらが不届き者について知っておることを言おうかの。
 彼奴の名はラング・ラングラー。君が知っておる名と同じじゃな。
 彼奴は囚人などではなく……殺し屋じゃった。
 それも『魔法殺し』などと呼ばれてメイジとの戦いを得手とする、何とも風変わりな殺し屋だったそうじゃ。
 最も『メイジ殺し』などと呼ばれる腕の立つ傭兵もいることにはいるが……彼奴の強さはそんなレベルではなかったと聞く」
「『魔法殺し』?」

ホワイトスネイクがおうむ返しに聞き返す。

「そうじゃ。
 これは彼奴に襲われながらもかろうじて逃げ延びた魔法衛士隊の青年の話じゃがな……。
 まず風と火の系統は魔法自体が完成せず、
 水と土の系統は魔法を完成させられても、完成させたものをコントロールすることが出来んそうじゃ」
「そ、それって、メイジの天敵みたいなものじゃないですか!」

オスマンの突拍子も無い話に、思わずルイズか声を上げる。

「風と火はダメ、か。
 どうりでキュルケたちが負けるわけね」
「水と土はコントロールできない……コントロールできないってことは、どういうことだ?」
「あんたのワルキューレとか私の水が思うように動かないってことでしょ」
「あ……なるほど」

そして同様に話を聞いていたギーシュとモンモランシーも、
「魔法殺し」の恐るべき能力を想像していた。
ギーシュは頭の弱さを露呈しただけだったが。

「しかし、何故そのようなことになるんでしょうな……?」

教師の一人であるコルベールが疑問の声を上げた。
彼の前頭部は今日も目映く輝いている。

「それがのう、一体彼奴が何をやったのかは青年にもちっとも分からんかったそうでの……全く恐ろしいことよ。
 ホワイトスネイク君は何か分かるかの?」
「『無重力』ダ」

ホワイトスネイクが即答する。

「『むじゅーりょく』? 一体何かの? それは」
「私ガイタ世界デノ概念ダ。
 話シテモ時間ガカカルカラナ……先ニ昨日ノ件ノ説明ヲ済マセタイ」
「そうかね。じゃあ頼むよ」
「ルイズニ2人ノ救出ヲ頼マレタ私ハソノヨウニシテ二人ヲ助ケ、ソノ後ラングラーニ止メヲ刺ソウトシタ。
 ダガソノ際、ラングラーガ部屋ノ壁ヲ壊シテ部屋カラ脱出シタノデ、私ハソレヲ追ッテラングラーニ止メヲ刺シタ。
 ソノ後フーケトヤラガ巨大ナゴーレムトトモニ現レテ宝物庫ニ侵入シ、何カヲ奪ウト去ッテイッタ」

三行で説明しきったホワイトスネイク。
流石である。

「ふ~む……なるほどな。
 君は見たところ傷だらけじゃが、それはラングラーと戦った時に負った物かね?
 随分痛そうじゃが……」
「問題無イ。モウ半日アレバ全快スル」
「……そんなに早く治ってしまうもんなのか。流石は亜人、といったとこじゃのう」

オスマンは一端そこで言葉を切ると、

「とりあえず、ラング・ラングラーのことはもういいじゃろ。
 あとでまたホワイトスネイク君から聞けばよいしな。
 と、なると……次は『土くれ』じゃな」

そう言って、またため息をついた。

正直な話、こちらのほうが重大な話だった。
いくらルイズが名家の出身だといっても極端な話をすれば、所詮は生徒一人の話。
であるのに対し、こちらは王家より預かった二つと無い宝物を盗人に汚されたという、
言うなればトリスティン魔法学院のコケンに関わる話だからだ。

「フーケガ逃ゲタ先ハ分カッテイルノカ?」
「今ミス・ロングビルが調べとるとこじゃ。
 書き置きにはもうそろそろ帰ってくる、とあったが……まだかの?」
「ソノロングビル一人デカ?」
「そうじゃ。それがどうかしたかの?」
「…………」

この時点で、ホワイトスネイクはロングビルがフーケなのではないか? という疑いを持った。
「書き置き」とオスマンが言ったからには、
恐らくオスマンが気づいた時点でスデにロングビルは学院内にいなかったのだろう。
そして土くれのフーケを探すために外に出ているのはロングビルただ一人。
これがどうかんがえてもおかしい。
あれだけのサイズとパワーを持ったゴーレムを使役する盗賊メイジに対し、
たった一人で調査を敢行したのか?
「貴族のプライド」だか何だかのためにも、
例え自分一人であったとしても土くれのフーケに挑まないわけには行かなかったのです! 
とか言ってしまえばそれまでだろうが、
合理主義者のホワイトスネイクからすれば、明らかにこの行動は不審そのものだった。

「オールド・オスマン、ただいま戻りました」

と、その時。
実にいいタイミングでロングビルが帰ってきた。

「おお、帰ってきたか。で、フーケの居場所は分かったかの?」
「はい。近在の農民に聞き込んだところ、
 近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。
 恐らく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと思います」
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」
「すぐに王宮に報告しましょう!」

コルベールが声を上げる。
だがオスマンはそれを制すると、

「いや……それでは時間がかかりすぎる。
 そんなことをしとる間に、フーケはもっと遠くへ逃げてしまうじゃろう。
 破壊の杖と一緒にな。そこで……一つ、わしから提案がある。
 この事件、我々魔法学院の者で解決してみようじゃないか」

教師たちがいっせいにどよめき始める。

「ではこれから捜索隊を編成する。我こそは、と思う者は杖を掲げよ」

オスマンが静かに言った。
しかし誰も杖を上げない。
教師たちは互いに顔を見合わせ、皆が皆「お前が行けよ」という顔をしていた。

「おらんのか? おや? どうした!
 フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」

オスマンがそう言って、今日何度目かの深いため息をつこうとしたその時だった。

杖が一つ、掲げられた。
それを見て、教師たちが水を打ったかのように静まる。
杖を掲げたのは教師の誰でもない。
他の生徒達から「ゼロ」と蔑まれ、しかし誰よりも貴族であろうとするルイズだった。

「ミス・ヴァリエール、あなたは生徒ではありませんか! 
 それに昨晩不届き者に襲われたばかりだというのに、おやめなさい!」

ミセス・シュヴルーズが声を上げるが、ルイズは動じずに言い返す。

「誰も掲げないじゃないですか」
「ルイズ、悪イ事ハ言ワナイカラ止メテオクベキ……」
「あんたはお呼びじゃないのよ」

ダメだ、こいつ。はやく何とかしないと……。
ホワイトスネイクがそう心中で呻いたその時、

「ミスタ・グラモン、君まで!」

ルイズの隣にいたギーシュまでもが、杖を掲げていた。

「グラモン家の家訓は『命を惜しむな、名を惜しめ』ですよ、コルベール先生。
 か弱いレディがフーケ討伐に名乗りを上げるのに、男の僕がどうしてそれを躊躇えましょうか」

そういって、キザに決めるギーシュ。
キザに決めてるのにどこか抜けてる気がしてならないのはご愛嬌。

「…も、もう! ギーシュじゃ心配だから、わたしも行くわ!」

そしてモンモランシーも杖を掲げた。

「正気ですか、オールド・オスマン! 悪名高いフーケの討伐に年端もいかない生徒を向かわせるなんて!」

コルベールがオスマンに強く抗議する。

「いや、そうは言ってものう、コルベール君。
 それにこの面々、中々期待できる面子では無いかね?
 ミスタ・グラモンは軍人の家系、グラモン家の人間、
 ミス・モンモランシは代々水の精霊との交信を任された、いわば水のエキスパート。
 ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の息女ときておるし、
 彼女の使い魔のホワイトスネイク君は『魔法殺し』を単身で仕留めたのじゃぞ?
 土くれ相手とは言え、不足はあるまい」
「そうは言ってもですね……」

コルベールはまだ煮え切らない様子だったが、
結局この場にいた教師は一人も名乗りを上げなかったため、
反対にフーケの犯行現場に居合わせた3人の生徒がフーケ討伐に向かう事となった。

しかしホワイトスネイクはその3人の面子を見回して、一言。

「全滅スルゾ」

メメタァッ!

「グオ、ォ……」
「縁起でもない事言うんじゃないわよ!」
「ワ、私ダッテマダ全快ジャアナインダ……本当ニ全滅シカネナイカラソウ言ッテイルノニ……」



To Be Continued...

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