ギリ、と歯噛みをしながらも、ジョセフは自分に襲い来る無数の魔法を見……ハーミットパープルに絡め取ったワルド達に波紋を流すことさえ出来ず、掴んだ勝利をむざむざ手放す他無かった。
自分に飛来する魔法を吸収する事は出来る。だが、無数に飛んでくる魔法を吸収しつつ、ハーミットパープルでワルドの捕獲を継続するのは随分と難しい。
ハーミットパープルを解除し、デルフリンガーを構えたまま素早く魔法の嵐から身をかわし、飛びずさる。そのせいでワルドからかなり距離を離す事となってしまった。
「いい判断だ相棒! 俺っちもあんだけの数を全部吸い込めたかどうかはイマイチ記憶が無いんでな!」
「せっかく勝ったっつーのにッ……あんまり有能なのも考えモンじゃなッ!」
ニューカッスルのメイジ達に憎まれ口を叩きながらも、絶対的有利が圧倒的不利に変わったのは何ともし難い。
これが隠者の結界から解放された四体のワルド達だけでも厳しいのに、周囲から集まってくる三百のメイジ達を向こうに回して勝てるとは思えない。
幾らジョセフと言えども、目は前にしかついていない。横も後ろもカバーし切れない。
しかもワルドは、これで自分が直々に手を下さずとも、ニューカッスルのメイジ達に後始末を任せればよくなったのだ。例えジョセフかメイジ達のどちらが勝とうとも、レコン・キスタに利する結果になるのだから。
魔法に巻き込まれないように素早く距離をとるワルド達には、窮地を見事脱した会心の笑みが浮かんでいた。
対するジョセフは、この場での戦いを既に諦め、目は素早く逃走経路を探し――
自分に飛来する魔法を吸収する事は出来る。だが、無数に飛んでくる魔法を吸収しつつ、ハーミットパープルでワルドの捕獲を継続するのは随分と難しい。
ハーミットパープルを解除し、デルフリンガーを構えたまま素早く魔法の嵐から身をかわし、飛びずさる。そのせいでワルドからかなり距離を離す事となってしまった。
「いい判断だ相棒! 俺っちもあんだけの数を全部吸い込めたかどうかはイマイチ記憶が無いんでな!」
「せっかく勝ったっつーのにッ……あんまり有能なのも考えモンじゃなッ!」
ニューカッスルのメイジ達に憎まれ口を叩きながらも、絶対的有利が圧倒的不利に変わったのは何ともし難い。
これが隠者の結界から解放された四体のワルド達だけでも厳しいのに、周囲から集まってくる三百のメイジ達を向こうに回して勝てるとは思えない。
幾らジョセフと言えども、目は前にしかついていない。横も後ろもカバーし切れない。
しかもワルドは、これで自分が直々に手を下さずとも、ニューカッスルのメイジ達に後始末を任せればよくなったのだ。例えジョセフかメイジ達のどちらが勝とうとも、レコン・キスタに利する結果になるのだから。
魔法に巻き込まれないように素早く距離をとるワルド達には、窮地を見事脱した会心の笑みが浮かんでいた。
対するジョセフは、この場での戦いを既に諦め、目は素早く逃走経路を探し――
不意に、主人の姿を見つけた。
「騙されないでっ! そこの男……そのワルドこそが本当の裏切り者っ! レコン・キスタの暗殺者よッ!!」
「ルイズ!?」
「ルイズ……!」
驚きで名を呼んだジョセフと、忌々しげに名を呼んだワルドの声が重なった。
ルイズは「部屋で待っていろ」と言うジョセフの後を追いかけたくなる衝動にかられ、危険だと判っていても爆発音のした天守へと向かってしまった。
しかし今はそれが功を奏した。
矢継ぎ早に呪文を唱えていたメイジ達が突然現れた第三者の少女の言葉に詠唱を止めたのを見て、ルイズは必死に走り出し、両腕を大きく広げてメイジ達の前に立ちはだかった。
「私はトリステイン王国ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! あの老人は私の使い魔、ジョセフ・ジョースター! あのワルドこそがウェールズ皇太子の暗殺を謀った張本人! 賊の奸計に乗せられないで!」
息せき切って言い放つルイズの言葉が、メイジ達に戸惑いを走らせた。
「ど、どういう事だ?」
「ヴァリエール……あのヴァリエール公爵家か!?」
「私に聞かれても……!」
ルイズの言葉は効果覿面、メイジ達に動揺が巡る。
平民の言葉など斟酌する必要もないが、それがアルビオンでも知られたヴァリエール家令嬢の言葉となれば話が違う。
しかも彼女が言うには、信じ難いがあの老人が使い魔だと言う。駆けつけた中にはイーグル号に乗っていた船員もいる為、老人が使い魔だという事は真実と受け止める者も少なからずいる。
俄かに信じられる話でもないが、少女の言い分が正しいとすれば、メイジとして軽々とあの老人に手をかける訳には行かなくなった。
まして二人の貴族の言い分が真っ向から対立している今、どちらに味方すればいいか、と言う難題にすぐさま答えを出せる者がそうそういる訳でもない。「とりあえず両方殴ってそこから話を進めよう」などと思い切った大胆な思考が出るのも期待出来ない。
結果、メイジ達は如何様に動いていいか判らず、周囲の仲間達と顔を見合わせてどうするのか相談せざるを得なくなった。
ひとまずジョセフから危険が去ったのを見計らい、続けてルイズは自分に出せる精一杯の大声で叫んだ。
「ジョセフっ!! 今よ、ワルドをやっつけて!!」
言われずとも、ジョセフは既に動いていた。
同時に、ワルド達も。
だがジョセフの両眼と切っ先がワルドに向いていたのに対し、ワルドの杖は全てがジョセフに向いていなかった。一人の杖が向くその先には――ルイズ!
その意味が判らないジョセフではない。
「貴様――ッ!」
ワルドの魔法を止めるには、デルフリンガーは無論、ハーミットパープルですら遠い。先ほど飛び退いたせいで、彼我の距離が10メイル弱離れていたからだ。
完成したウインドブレイクがルイズに放たれれば、ただの少女でしかないルイズは避けることすら許されず、まるで羽毛のように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ、転がった。
「ルイズゥゥゥーーーーーーーーーッッッ」
轟く、としか形容できないジョセフの雄叫び。
義手に刻まれたルーンが太陽にも劣らない光を放ち、デルフリンガーもルーンに負けぬほどの眩い光を放った。
(き……切れた、相棒の中でなにかが切れた……決定的ななにかが……)
デルフリンガーでさえ戦慄を覚えるほどの心の高まり。
目の前で主人を傷付けられたジョセフの怒りは、並大抵のものではなかった。
ぞくり、とデルフリンガーに嫌な予感が走る。
「おい、ちょ、待て相棒! 俺は波紋やスタンドにゃ対応してな――」
それ以上デルフリンガーは言葉を続けられなかった。
一瞬でデルフリンガーを覆いつくしたハーミットパープルが、炎を吹き上げたからだ!
「うあっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
「我が友モハメド・アヴドゥルの技ッ!!」
剣が炎を吹き上げたのを目の当たりにし、四人のワルドが身構えようとし。臨戦態勢を整えられたのは、三人だけだった。
10メイルあるはずの距離から、ワルドの目を以ってしても反応できないほどの速度で伸ばされた炎の茨が、一人のワルドを燃やし尽くしていたからだ。
「何?」
予想だに出来ない事態に、ワルド達の口からは呆けたような声しか出なかった。
「魔術赤色の波紋疾走(マジシャンズレッド・オーバードライブ)!!」
燃え上がるワルドを一顧だにせず、デルフリンガーからハーミットパープルを切り離したジョセフは――ワルド達の視界から、消えた。
一瞬の間を置いて現れたジョセフは、一体のワルドの腹に深々と剣を突き刺していた。
だが、真に驚くべきことは別にあった。
腹を突き貫かれているはずなのに、その遍在は『既に全身を突き貫かれていた』のだ。
残りのワルド達は、ジョセフの煮えたぎる溶岩のような視線でねめつけられた。
「次にお前は『馬鹿な、一体いつの間にそれだけの攻撃をした』と言う」
「馬鹿な!? 一体いつの間にそれだけの攻撃をし……はっ!?」
「我が友、ジャン=ピエール・ポルナレフの技! 針串刺しの刑ッ!!」
剣を勢いよく振り上げた風圧が、遍在の名残を掻き散らす。
ここに至ってワルドは、目の前の男が怪物以外の何物でもない事をやっと悟った。
並の手段では到底勝つどころか、自分の命さえ拾うことが出来ない――!
「こ……この、バケモノがぁーーーーーーーーーーーーっっ!!」
それでも恐慌に陥らずなおも戦闘を続行しようとしたのは、ワルドにたった一片残された貴族の矜持であったかもしれない。
それでいて勝利の為に手段を選ぶなどという悠長な考えを打ち捨てる。
残り一体だけとなった遍在のワルドは、決死の覚悟で低い体勢でジョセフに急接近すると、杖での渾身の刺突をジョセフではなく、デルフリンガーへと向けた!
真の能力を開放しているデルフリンガーはエア・ニードルの風の渦さえ吸収するが、それに構わず打ち合わせた杖を内側から外側へ、絡め取るように押し上げる形で円を描き――ジョセフの手から力ずくで剣を弾き飛ばした!
「いくら人間離れしていようが肉体は人間のそれだな、ガンダールヴ!!」
人体の構造上、関節の稼動範囲には限界がある。右手首を掌を上向けるように回し、更に外側へ向かって捻ってしまえば自然と柄を握る指の力が緩み、そこにもう一押しすれば剣を弾き飛ばすのも容易い。
だがワルドはなおも次なる手を用意していた。
剣を弾き飛ばしたワルドは、渾身の突きで崩れた体勢を立て直して杖での必殺の一撃を加える為の僅かな隙さえ、ジョセフに渡すつもりはなかった。
この抜け目の無い使い魔は、一呼吸の間を与えればそこから勝利をもぎ取る男……故に、ワルドは手段を選ばなかった。選べなかった!
ワルドはそのままジョセフの腰へタックルを掛け、自らの身体そのものでジョセフの動きを封じにかかる!
「ぬうッ!?」
それを避けようとするジョセフを、ほんの、ほんの僅かな差で捕らえ……しがみ付く!
「私の勝ちだっ、ガンダールヴ!!」
後ろに飛びずさった本体のワルドは、既に魔法の詠唱を完成させようとしていた。
その魔法は、これまでのたびでジョセフに唯一にして多大なダメージを与えた、『ライトニング・クラウド』!
魔法を吸収するデルフリンガーを弾き飛ばし、再びジョセフが剣を手にするよりも早く必殺の魔法を叩き込む――ワルドがジョセフを倒す手段は、それしか存在しなかった。
その為に貴族として、スクウェアメイジとして恥ずべき泥臭い手段を用いなければならない所まで追い詰められた。
だがそれを悔い、躊躇える余裕など存在しない。
たった一体残った遍在を捨て石とし、見苦しく使い魔にしがみつく己の背も、今の彼には屈辱の具とすら成り得ない。
今のワルドにあるのは、圧倒的な怪物に全身全霊を懸けて立ち向かわねばならぬ、勝って生き延びろと生存本能に追い立てられる焦燥感、ただそれだけであった。
(――まだか! まだ完成しないのか!?)
唱え慣れたはずの魔法が、余りにも長く感じられる。
あと五節、四節、三節――!
焦りながらも、詠唱を間違える失態など犯さない。
腐り果てようとも、魔法衛士隊の隊長を務めた実力は健在だった。
使い魔は死力を尽くしてしがみ付く遍在を振り払うことも出来ず、一歩も動けないまま――
(勝った! 勝ったぞ、ガンダールヴ!!)
残り、二節!
「ライトニング――」
残り、一節!
その瞬間、ジョセフを押さえ付けている遍在が消し飛んだ。
だが、あの距離では踏み込もうとする速さより、瞬きすら出来ぬほんの僅かな差で、完成した電撃がジョセフを焼き尽くす!
「クラウ――」
「ルイズ!?」
「ルイズ……!」
驚きで名を呼んだジョセフと、忌々しげに名を呼んだワルドの声が重なった。
ルイズは「部屋で待っていろ」と言うジョセフの後を追いかけたくなる衝動にかられ、危険だと判っていても爆発音のした天守へと向かってしまった。
しかし今はそれが功を奏した。
矢継ぎ早に呪文を唱えていたメイジ達が突然現れた第三者の少女の言葉に詠唱を止めたのを見て、ルイズは必死に走り出し、両腕を大きく広げてメイジ達の前に立ちはだかった。
「私はトリステイン王国ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! あの老人は私の使い魔、ジョセフ・ジョースター! あのワルドこそがウェールズ皇太子の暗殺を謀った張本人! 賊の奸計に乗せられないで!」
息せき切って言い放つルイズの言葉が、メイジ達に戸惑いを走らせた。
「ど、どういう事だ?」
「ヴァリエール……あのヴァリエール公爵家か!?」
「私に聞かれても……!」
ルイズの言葉は効果覿面、メイジ達に動揺が巡る。
平民の言葉など斟酌する必要もないが、それがアルビオンでも知られたヴァリエール家令嬢の言葉となれば話が違う。
しかも彼女が言うには、信じ難いがあの老人が使い魔だと言う。駆けつけた中にはイーグル号に乗っていた船員もいる為、老人が使い魔だという事は真実と受け止める者も少なからずいる。
俄かに信じられる話でもないが、少女の言い分が正しいとすれば、メイジとして軽々とあの老人に手をかける訳には行かなくなった。
まして二人の貴族の言い分が真っ向から対立している今、どちらに味方すればいいか、と言う難題にすぐさま答えを出せる者がそうそういる訳でもない。「とりあえず両方殴ってそこから話を進めよう」などと思い切った大胆な思考が出るのも期待出来ない。
結果、メイジ達は如何様に動いていいか判らず、周囲の仲間達と顔を見合わせてどうするのか相談せざるを得なくなった。
ひとまずジョセフから危険が去ったのを見計らい、続けてルイズは自分に出せる精一杯の大声で叫んだ。
「ジョセフっ!! 今よ、ワルドをやっつけて!!」
言われずとも、ジョセフは既に動いていた。
同時に、ワルド達も。
だがジョセフの両眼と切っ先がワルドに向いていたのに対し、ワルドの杖は全てがジョセフに向いていなかった。一人の杖が向くその先には――ルイズ!
その意味が判らないジョセフではない。
「貴様――ッ!」
ワルドの魔法を止めるには、デルフリンガーは無論、ハーミットパープルですら遠い。先ほど飛び退いたせいで、彼我の距離が10メイル弱離れていたからだ。
完成したウインドブレイクがルイズに放たれれば、ただの少女でしかないルイズは避けることすら許されず、まるで羽毛のように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ、転がった。
「ルイズゥゥゥーーーーーーーーーッッッ」
轟く、としか形容できないジョセフの雄叫び。
義手に刻まれたルーンが太陽にも劣らない光を放ち、デルフリンガーもルーンに負けぬほどの眩い光を放った。
(き……切れた、相棒の中でなにかが切れた……決定的ななにかが……)
デルフリンガーでさえ戦慄を覚えるほどの心の高まり。
目の前で主人を傷付けられたジョセフの怒りは、並大抵のものではなかった。
ぞくり、とデルフリンガーに嫌な予感が走る。
「おい、ちょ、待て相棒! 俺は波紋やスタンドにゃ対応してな――」
それ以上デルフリンガーは言葉を続けられなかった。
一瞬でデルフリンガーを覆いつくしたハーミットパープルが、炎を吹き上げたからだ!
「うあっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
「我が友モハメド・アヴドゥルの技ッ!!」
剣が炎を吹き上げたのを目の当たりにし、四人のワルドが身構えようとし。臨戦態勢を整えられたのは、三人だけだった。
10メイルあるはずの距離から、ワルドの目を以ってしても反応できないほどの速度で伸ばされた炎の茨が、一人のワルドを燃やし尽くしていたからだ。
「何?」
予想だに出来ない事態に、ワルド達の口からは呆けたような声しか出なかった。
「魔術赤色の波紋疾走(マジシャンズレッド・オーバードライブ)!!」
燃え上がるワルドを一顧だにせず、デルフリンガーからハーミットパープルを切り離したジョセフは――ワルド達の視界から、消えた。
一瞬の間を置いて現れたジョセフは、一体のワルドの腹に深々と剣を突き刺していた。
だが、真に驚くべきことは別にあった。
腹を突き貫かれているはずなのに、その遍在は『既に全身を突き貫かれていた』のだ。
残りのワルド達は、ジョセフの煮えたぎる溶岩のような視線でねめつけられた。
「次にお前は『馬鹿な、一体いつの間にそれだけの攻撃をした』と言う」
「馬鹿な!? 一体いつの間にそれだけの攻撃をし……はっ!?」
「我が友、ジャン=ピエール・ポルナレフの技! 針串刺しの刑ッ!!」
剣を勢いよく振り上げた風圧が、遍在の名残を掻き散らす。
ここに至ってワルドは、目の前の男が怪物以外の何物でもない事をやっと悟った。
並の手段では到底勝つどころか、自分の命さえ拾うことが出来ない――!
「こ……この、バケモノがぁーーーーーーーーーーーーっっ!!」
それでも恐慌に陥らずなおも戦闘を続行しようとしたのは、ワルドにたった一片残された貴族の矜持であったかもしれない。
それでいて勝利の為に手段を選ぶなどという悠長な考えを打ち捨てる。
残り一体だけとなった遍在のワルドは、決死の覚悟で低い体勢でジョセフに急接近すると、杖での渾身の刺突をジョセフではなく、デルフリンガーへと向けた!
真の能力を開放しているデルフリンガーはエア・ニードルの風の渦さえ吸収するが、それに構わず打ち合わせた杖を内側から外側へ、絡め取るように押し上げる形で円を描き――ジョセフの手から力ずくで剣を弾き飛ばした!
「いくら人間離れしていようが肉体は人間のそれだな、ガンダールヴ!!」
人体の構造上、関節の稼動範囲には限界がある。右手首を掌を上向けるように回し、更に外側へ向かって捻ってしまえば自然と柄を握る指の力が緩み、そこにもう一押しすれば剣を弾き飛ばすのも容易い。
だがワルドはなおも次なる手を用意していた。
剣を弾き飛ばしたワルドは、渾身の突きで崩れた体勢を立て直して杖での必殺の一撃を加える為の僅かな隙さえ、ジョセフに渡すつもりはなかった。
この抜け目の無い使い魔は、一呼吸の間を与えればそこから勝利をもぎ取る男……故に、ワルドは手段を選ばなかった。選べなかった!
ワルドはそのままジョセフの腰へタックルを掛け、自らの身体そのものでジョセフの動きを封じにかかる!
「ぬうッ!?」
それを避けようとするジョセフを、ほんの、ほんの僅かな差で捕らえ……しがみ付く!
「私の勝ちだっ、ガンダールヴ!!」
後ろに飛びずさった本体のワルドは、既に魔法の詠唱を完成させようとしていた。
その魔法は、これまでのたびでジョセフに唯一にして多大なダメージを与えた、『ライトニング・クラウド』!
魔法を吸収するデルフリンガーを弾き飛ばし、再びジョセフが剣を手にするよりも早く必殺の魔法を叩き込む――ワルドがジョセフを倒す手段は、それしか存在しなかった。
その為に貴族として、スクウェアメイジとして恥ずべき泥臭い手段を用いなければならない所まで追い詰められた。
だがそれを悔い、躊躇える余裕など存在しない。
たった一体残った遍在を捨て石とし、見苦しく使い魔にしがみつく己の背も、今の彼には屈辱の具とすら成り得ない。
今のワルドにあるのは、圧倒的な怪物に全身全霊を懸けて立ち向かわねばならぬ、勝って生き延びろと生存本能に追い立てられる焦燥感、ただそれだけであった。
(――まだか! まだ完成しないのか!?)
唱え慣れたはずの魔法が、余りにも長く感じられる。
あと五節、四節、三節――!
焦りながらも、詠唱を間違える失態など犯さない。
腐り果てようとも、魔法衛士隊の隊長を務めた実力は健在だった。
使い魔は死力を尽くしてしがみ付く遍在を振り払うことも出来ず、一歩も動けないまま――
(勝った! 勝ったぞ、ガンダールヴ!!)
残り、二節!
「ライトニング――」
残り、一節!
その瞬間、ジョセフを押さえ付けている遍在が消し飛んだ。
だが、あの距離では踏み込もうとする速さより、瞬きすら出来ぬほんの僅かな差で、完成した電撃がジョセフを焼き尽くす!
「クラウ――」
ジョセフは、一歩も動かなかった。動けなかった。
ワルドは……魔法を完成させることが、出来なかった。
勝負が決したその時、向かい合う二人の男からは、奇しくも左腕部が失われていた。
だが、失った理由は大きく異なる。
ワルドは、ジョセフの手によって、左腕を肘の下から吹き飛ばされた。
ジョセフは。ガンダールヴの能力で非常に強化された波紋で、自らの義手をワルドへ向けて撃ったのだ。
貫手と呼ばれる手刀の形で放たれた義手には大量の波紋が流されており、音さえ超える速度で放たれた義手がワルドの腕を切り飛ばした瞬間、その傷口から奔った波紋が彼の詠唱を止めたのだった。
それに加えて必中を期する為に義手にはハーミットパープルが絡み付き、その片端はジョセフの腕と繋がっていた。
ワルドの遍在の名残を媒介としたそれは狙いなど付ける間もないあの刹那、標的を狙い違わず打ち抜くホーミングの役割を果たすと同時に、目的を果たした義手がはるかかなたに飛んで破壊してしまうことの無い様に留める命綱の役目も果たしていた。
空中で発射の速度を殺しながら、再び義手はハーミットパープルに導かれてジョセフの左腕へ戻っていく。
思い出したように、ワルドの傷口から血が垂れ、噴出す頃、ワルドの口から奔ったのは呪文などでは、ない。
「うおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!?」
野獣めいた、咆哮。
「腕が、腕が!? 私の、腕がああああぁぁぁぁああああ!!?」
この光景が現実でないことを確かめようと、血の迸る傷口を、左腕があるはずの場所を抑える。
しかし生まれてから共にあった左腕は、既に其処にない。
少し横を見れば、『かつて左腕であった肉体』が転がっている。
「ばっ……馬鹿な、馬鹿なあああああああ!!!!」
義手を戻し、五指が動くのを確かめたジョセフは、叫びを上げて蹲るワルドを見つつ、今頃になって額から噴出した冷や汗を右の袖で拭った。
「今のはマジで危なかったわいッ……タックルかけたのが遍在じゃなかったら、わしも死んどったぞ」
今一体何が起こったのか、改めて説明することにしよう。
剣を弾き飛ばされ、ワルドにタックルを掛けられたジョセフは、辛うじて足の裏に吸着する波紋を流し地面に足を吸い付けて転倒させられるのはこらえた。
だがもう一体のワルドが呪文を唱えているのが見え、ジョセフは息を呑んだ。忘れるはずが無い、あれこそ自分の右腕を焼いた『ライトニング・クラウド』。
今、ただデルフリンガーを自分の手から離す為だけに放たれた乾坤一擲の攻撃、形振り構わぬタックル。
その全てが、如何なる手を用いてでもジョセフを殺害する決意の表れだった。
自分にしがみ付くワルドと、飛び退いた場所から魔法を詠唱するワルド。
剣を弾き飛ばした理由を斟酌するまでも無い。攻撃手段を奪う為ではなく、防御手段を奪う為。
この状態を打破するには、手段はただ一つ。ワルドの魔法が完成する前に詠唱を妨害するしかない。
この状況で使える武器は、左右の腕に一つずつ。これだけあれば、どうにか出来る。
まずジョセフは両腕に波紋を流す。一つ目の武器、左腕の義手。これを波紋で射出してワルドに波紋を流せば魔法は止められる。狙いを付ける余裕が無いのは、ハーミットパープルで誘導をかければなんとでもなる。
そして、『右腕の武器』に波紋を流す。
右腕の武器とは……意外! それは包帯ッ!
(こっちが本当の我が師にして我が母エリザベス・ジョースターの技ッ! 蛇首包帯ッ(スネークバンテージ)!!)
ワルドに焼かれた右腕に巻かれた包帯、それは立派に波紋を流す武器となる。波紋で硬質化した包帯を操り、自分にしがみ付くワルドを突き刺して流した波紋で一気に遍在を吹き飛ばす!
そして自由になった左腕をワルドに向け――撃ち放つ。
シュトロハイムと共に漁船に救出されて館で療養していた時、シュトロハイムが用意した数々の義手の一つにあった機能を、まさか今になって波紋で代用する破目になるとは思わなかったが。
「……我が友、ルドル・フォン・シュトロハイムの技ッ。有線式波紋ロケットパンチッ! ナチスの技術は確かに世界一だったかもしれんなッ!」
あの時は超高速で義手を発射出来る能力などいらなかったので、とりあえず丁重に辞退(ただ何故かシュトロハイムと大喧嘩する切っ掛けになった)したが、そのアイディアがジョセフの命を救ったことのは確かな事実だった。
しかもほんのコンマ数秒でもワルドに到達するのが早まるよう、指先を伸ばすことにより、長さを伸ばすと共に空気抵抗を減らした事が功を奏した。
それと同時にワルドが一つ、致命的なミスを犯していたのも幸運だった。
もし剣を弾き飛ばし、タックルを仕掛けるのが遍在でなく本体であったなら、ワルドとジョセフは今頃ライトニングクラウドで焼かれて良くて瀕死、運が悪ければ即死の憂き目にあっていたことだろう。
しかしワルドは最後の最後で、自分の命を惜しんだ。戦いの場において自らの命を惜しむ行為に走って勝てるほど、戦闘の潮流は甘くは無かったという事だ。
もし肉体を持つワルドがしがみ付いていれば、蛇頭包帯でワルドを倒したとしても、左腕を自由にし切ることが出来ず、波紋ロケットパンチはワルドの魔法を妨害できなかっただろう。
風の遍在であり、波紋で吹き飛ぶ肉体しか持っていないワルドがしがみ付いたことにより、波紋で止めを刺した瞬間にジョセフの自由が取り戻されたのだから。
様々な要因と強運、そして戦いの年季の差で勝利をもぎ取ったジョセフは一歩、また一歩、とワルドへゆっくりと近付いていく。
ルイズが吹き飛ばされてから、客観的に見れば余りに短い時間。月は僅かにもその位置から動いておらず、この戦いを見守ったメイジ達にとっては、どのような攻防があったのかさえ理解している者はいない。
もはや意味を成さない呻きしか上げられないワルドを、なおも怒りの収まらない目で見下ろす位置に立ったジョセフは、静かに言葉を紡いだ。
「今のがルイズを侮辱されたわしの分だ、ワルド」
そしてワルドの長い髪を引き千切らんばかりに無理矢理引っつかんで立ち上がらせると、空いている右腕でワルドの左頬に鉄拳を叩き込んだ。
「うげぇえええええっ」
鼻血さえ噴き出すが、いつの間にかワルドの首に絡み付いていたハーミットパープルが、倒れることさえ許さない。
「これは貴様が裏切ったわしの友人、アンリエッタ王女殿下の分!」
続いて左腕が、ワルドの顔面を歪ませた。
「これが貴様が暗殺しようとしたウェールズ皇太子の分!」
「や、やめ――」
左腕を吹き飛ばされ、二発の鉄拳を叩き込まれたワルドは既に戦意さえ喪失しているのは明白だった。
「そして今からのは全部ッ!」
そんな些細な事には構いもせず、ジョセフは両手を固く握り締め――
「貴様に裏切られたルイズの分じゃあーーーーーーーッッッ」
ワルドは……魔法を完成させることが、出来なかった。
勝負が決したその時、向かい合う二人の男からは、奇しくも左腕部が失われていた。
だが、失った理由は大きく異なる。
ワルドは、ジョセフの手によって、左腕を肘の下から吹き飛ばされた。
ジョセフは。ガンダールヴの能力で非常に強化された波紋で、自らの義手をワルドへ向けて撃ったのだ。
貫手と呼ばれる手刀の形で放たれた義手には大量の波紋が流されており、音さえ超える速度で放たれた義手がワルドの腕を切り飛ばした瞬間、その傷口から奔った波紋が彼の詠唱を止めたのだった。
それに加えて必中を期する為に義手にはハーミットパープルが絡み付き、その片端はジョセフの腕と繋がっていた。
ワルドの遍在の名残を媒介としたそれは狙いなど付ける間もないあの刹那、標的を狙い違わず打ち抜くホーミングの役割を果たすと同時に、目的を果たした義手がはるかかなたに飛んで破壊してしまうことの無い様に留める命綱の役目も果たしていた。
空中で発射の速度を殺しながら、再び義手はハーミットパープルに導かれてジョセフの左腕へ戻っていく。
思い出したように、ワルドの傷口から血が垂れ、噴出す頃、ワルドの口から奔ったのは呪文などでは、ない。
「うおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!?」
野獣めいた、咆哮。
「腕が、腕が!? 私の、腕がああああぁぁぁぁああああ!!?」
この光景が現実でないことを確かめようと、血の迸る傷口を、左腕があるはずの場所を抑える。
しかし生まれてから共にあった左腕は、既に其処にない。
少し横を見れば、『かつて左腕であった肉体』が転がっている。
「ばっ……馬鹿な、馬鹿なあああああああ!!!!」
義手を戻し、五指が動くのを確かめたジョセフは、叫びを上げて蹲るワルドを見つつ、今頃になって額から噴出した冷や汗を右の袖で拭った。
「今のはマジで危なかったわいッ……タックルかけたのが遍在じゃなかったら、わしも死んどったぞ」
今一体何が起こったのか、改めて説明することにしよう。
剣を弾き飛ばされ、ワルドにタックルを掛けられたジョセフは、辛うじて足の裏に吸着する波紋を流し地面に足を吸い付けて転倒させられるのはこらえた。
だがもう一体のワルドが呪文を唱えているのが見え、ジョセフは息を呑んだ。忘れるはずが無い、あれこそ自分の右腕を焼いた『ライトニング・クラウド』。
今、ただデルフリンガーを自分の手から離す為だけに放たれた乾坤一擲の攻撃、形振り構わぬタックル。
その全てが、如何なる手を用いてでもジョセフを殺害する決意の表れだった。
自分にしがみ付くワルドと、飛び退いた場所から魔法を詠唱するワルド。
剣を弾き飛ばした理由を斟酌するまでも無い。攻撃手段を奪う為ではなく、防御手段を奪う為。
この状態を打破するには、手段はただ一つ。ワルドの魔法が完成する前に詠唱を妨害するしかない。
この状況で使える武器は、左右の腕に一つずつ。これだけあれば、どうにか出来る。
まずジョセフは両腕に波紋を流す。一つ目の武器、左腕の義手。これを波紋で射出してワルドに波紋を流せば魔法は止められる。狙いを付ける余裕が無いのは、ハーミットパープルで誘導をかければなんとでもなる。
そして、『右腕の武器』に波紋を流す。
右腕の武器とは……意外! それは包帯ッ!
(こっちが本当の我が師にして我が母エリザベス・ジョースターの技ッ! 蛇首包帯ッ(スネークバンテージ)!!)
ワルドに焼かれた右腕に巻かれた包帯、それは立派に波紋を流す武器となる。波紋で硬質化した包帯を操り、自分にしがみ付くワルドを突き刺して流した波紋で一気に遍在を吹き飛ばす!
そして自由になった左腕をワルドに向け――撃ち放つ。
シュトロハイムと共に漁船に救出されて館で療養していた時、シュトロハイムが用意した数々の義手の一つにあった機能を、まさか今になって波紋で代用する破目になるとは思わなかったが。
「……我が友、ルドル・フォン・シュトロハイムの技ッ。有線式波紋ロケットパンチッ! ナチスの技術は確かに世界一だったかもしれんなッ!」
あの時は超高速で義手を発射出来る能力などいらなかったので、とりあえず丁重に辞退(ただ何故かシュトロハイムと大喧嘩する切っ掛けになった)したが、そのアイディアがジョセフの命を救ったことのは確かな事実だった。
しかもほんのコンマ数秒でもワルドに到達するのが早まるよう、指先を伸ばすことにより、長さを伸ばすと共に空気抵抗を減らした事が功を奏した。
それと同時にワルドが一つ、致命的なミスを犯していたのも幸運だった。
もし剣を弾き飛ばし、タックルを仕掛けるのが遍在でなく本体であったなら、ワルドとジョセフは今頃ライトニングクラウドで焼かれて良くて瀕死、運が悪ければ即死の憂き目にあっていたことだろう。
しかしワルドは最後の最後で、自分の命を惜しんだ。戦いの場において自らの命を惜しむ行為に走って勝てるほど、戦闘の潮流は甘くは無かったという事だ。
もし肉体を持つワルドがしがみ付いていれば、蛇頭包帯でワルドを倒したとしても、左腕を自由にし切ることが出来ず、波紋ロケットパンチはワルドの魔法を妨害できなかっただろう。
風の遍在であり、波紋で吹き飛ぶ肉体しか持っていないワルドがしがみ付いたことにより、波紋で止めを刺した瞬間にジョセフの自由が取り戻されたのだから。
様々な要因と強運、そして戦いの年季の差で勝利をもぎ取ったジョセフは一歩、また一歩、とワルドへゆっくりと近付いていく。
ルイズが吹き飛ばされてから、客観的に見れば余りに短い時間。月は僅かにもその位置から動いておらず、この戦いを見守ったメイジ達にとっては、どのような攻防があったのかさえ理解している者はいない。
もはや意味を成さない呻きしか上げられないワルドを、なおも怒りの収まらない目で見下ろす位置に立ったジョセフは、静かに言葉を紡いだ。
「今のがルイズを侮辱されたわしの分だ、ワルド」
そしてワルドの長い髪を引き千切らんばかりに無理矢理引っつかんで立ち上がらせると、空いている右腕でワルドの左頬に鉄拳を叩き込んだ。
「うげぇえええええっ」
鼻血さえ噴き出すが、いつの間にかワルドの首に絡み付いていたハーミットパープルが、倒れることさえ許さない。
「これは貴様が裏切ったわしの友人、アンリエッタ王女殿下の分!」
続いて左腕が、ワルドの顔面を歪ませた。
「これが貴様が暗殺しようとしたウェールズ皇太子の分!」
「や、やめ――」
左腕を吹き飛ばされ、二発の鉄拳を叩き込まれたワルドは既に戦意さえ喪失しているのは明白だった。
「そして今からのは全部ッ!」
そんな些細な事には構いもせず、ジョセフは両手を固く握り締め――
「貴様に裏切られたルイズの分じゃあーーーーーーーッッッ」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
ジョセフの拳が目にも留まらぬ速さで連打され、その全てがワルドの身体に減り込む。
倒れることも許されない拳の嵐の中、朦朧とする事さえも許されぬ激痛の中、ワルドはガンダールヴだけではない人の姿を見た。
金髪を立てた、ゴーレムめいた容貌の軍服の男が。
奇抜なデザインの帽子を被った優男が。
艶やかな黒髪を靡かせる若い女が。
ガンダールヴに似た、黒髪黒目の青年が。
年老いたガンダールヴと共に拳を繰り出し、自分を叩きのめしているのが見えた。
奇抜なデザインの帽子を被った優男が。
艶やかな黒髪を靡かせる若い女が。
ガンダールヴに似た、黒髪黒目の青年が。
年老いたガンダールヴと共に拳を繰り出し、自分を叩きのめしているのが見えた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
見知らぬ人間の姿は更に増えていく。
褐色の肌をした亜人めいた風貌の奇妙な服装の男が。
見慣れぬコートらしき服を着た神経質そうな細身の青年が。
銀髪を立てた奇妙な髪型をした男が。
――生意気そうな子犬までもが。
コートにも似た奇妙な服を着、奇妙な飾りのついた帽子を被った男が。
見慣れぬコートらしき服を着た神経質そうな細身の青年が。
銀髪を立てた奇妙な髪型をした男が。
――生意気そうな子犬までもが。
コートにも似た奇妙な服を着、奇妙な飾りのついた帽子を被った男が。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――ッッッ」
幾人もの人間もの拳を受け、断ち切れる寸前の意識が最後に見たのは、やはり。
忌々しい使い魔の姿だけだった。
忌々しい使い魔の姿だけだった。
「オラーーーーーーッッッ」
ハーミットパープルの呪縛から解き放たれた瞬間、ワルドの顔に減り込んだ拳は、決して軽くは無いワルドを容易く吹き飛ばし――固定化の魔法が厳重に掛けられた城の壁に激突したワルドの体が、壁に小さくは無い亀裂を入れた。
ボロ雑巾、という形容が可愛らしく思えるほどの惨状を晒すワルドを静かに見下ろし、ジョセフはゆっくりと指差した。
ボロ雑巾、という形容が可愛らしく思えるほどの惨状を晒すワルドを静かに見下ろし、ジョセフはゆっくりと指差した。
「貴様の敗因はたった一つ」
帽子を被り直し、言った。
「貴様はわしを怒らせた。ただそれだけだ」
帽子を被り直し、言った。
「貴様はわしを怒らせた。ただそれだけだ」
ドーーーーーz_____ン