ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

砕けない使い魔-5

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匿名ユーザー

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渡り廊下のほど近くに倒れた男へ向かい
コルベールが寄ってくる
そしておもむろに杖を振り上げた
あわてるのはキュルケだった

「ちょっと、何をなさるおつもりッ!?」
「決まっているでしょう、殺すのですよ
 彼…『この存在』は危険すぎる」
「バカなことをッ!!
 これなら充分、生け捕りにできるじゃありませんのッ」

生徒にあるまじき態度でくってかかるキュルケ
一応、敬語を使ってはいるが
ガンバりを無駄にされて笑っている趣味はないッ
だがコルベールも引き下がらなかった

「タダの使い魔であればそれも良いでしょう
 しかし、これはあまりに得体が知れないッ
 おまけに出てくるなり危害を加えたならば
 皆を監督する者として、こうする以外にありませんッ」

スジは通っていた
出てくるなりいきなり殴りかかってくる使い魔など前代未聞だった
危険な生物を召喚してそのまま放っておき続ければ
あるいはそんなに不思議なことでもないかもしれないが
それでもキュルケは食い下がる

「ですが、あれは平民ですわ、ミスタ・コルベール」
「それこそバカなことではないのかな?
 本気で言っているのかね?」
「………」

黙るしかなかった
あんな平民がどこにいる?
だが、それでも
今、目の前で折れた足をかばっている男は理性ある「人間」だ
最後の方、攻撃を明らかにためらったことに気づいていたキュルケである
そこに火球を浴びせかけて反撃せざるをえないように追い込んだのだ
そうしなければ、男は戦いをやめ、どこかに逃げるなりしていただろう
最初に暴れたワケは不明なままだが
とにかくキュルケは確信していた
それを言おうと口を開くがコルベールに先手を打たれた

「それに、だとしたらますます存在を許すわけにはいかない
 貴族を殴り、使い魔を山ほど傷つけた
 そんな平民が生きていられると思うのかね?」

もっともだ
もっともすぎる
これほどハデにことが起これば隠蔽など不可能
人間と認めたら認めたで、かばいようがないッ
               ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「つまり、『これ』には死刑判決以外ありえない」

コルベールは厳粛だった
そして振り向く
この真なる当事者に

「良いですね、ミス・ヴァリエール」

ビクッ

ぐずりながら見守っていたルイズは肩を震わせる
何を言われたか そのくらいは理解していた

「気に病むことはありませんよ
 これは事故なのです
 あなたには何の責任もない
 これを始末した後で、また儀式をやり直しましょう
 そのくらいの時間はとってあげられます」
「……」

(…そうだわ
 これは事故なのよ
 私には何も責任ない
 こんなところに出てきた平民がおかしいのよ)

くじけた心はまたたく間にルイズに『弱い考え』を植え付けた

(私は「ゼロ」じゃない
 だから、あんなの私が呼ぶわけがない
 これは何かの間違いなのよ
 そうに決まってるのよ…)

ルイズは、コルベールに向かってうなずいてしまった
死刑の執行許可書にサインしてしまった

(…見ッ下げ果てた奴ッ
 アンタ、やっぱり「ゼロ」だわ、ルイズ)

キュルケが苦虫を噛み潰す横で
コルベールが呪文の詠唱を始める
足を折られた元・鳥の巣は、なんとなく置かれた状況を理解した
ナニゴトか唱えた後で炎が飛んできたり地面が固まったりしてきたのだ
どうやらこのハゲは自分を殺す気らしいぞ
そう思ったらしい
最後の抵抗を試みたようだ

「DORA!!」

ボコァ

見えない手が掘り返した土くれがコルベールに投てきされる

ボグォム

「―― ぐはッ!?」

至近距離からのレーザービーム送球ッ!!
単なる土くれだったがスピードがシャレにならない
下腹部に直撃されたコルベールは呪文を中断して咳き込むことになる
そして彼は男が闘志をあらわに睨み付けていることに気づくのだ

「…恐れることはない、私にも情けはあるさ
 苦しませはしないよ…『炎蛇』の二つ名にかけてなッ」

『火×1』
正面からが駄目ならカラメ手だった
男の前後左右から迫り来る、文字通り炎の蛇ッ

ススス
ドヒャ! ドヒャ!

のけぞって逃れようとする男の顔へ容赦なく飛びかかり
口をふさいで巻き付いたッ

ゴゴゴォ
チリ…チリ…

「Go…aa!!」

振り払おうと身体を激しく振るう男
見えない手もさかんに振り回されているようだ
だが蛇は炎の塊でしかない つかめるものが何もない
白目をむくッ!!
炎を呼吸して肺を焦がすか
顔を焼かれたまま長い窒息の苦しみの果てに死ぬか
非情な二者択一をコルベールは迫ろうというわけだ

「早く受け入れたまえ…そっちの方が、楽だぞッ」
「Gaooa…DORAa!!」

バコォ

ようやく「自分の顔を殴って脱出」という方法に思い至った男だったが
その力は予想を越えて貧弱だった
炎の蛇が振り切れないッ

「なるほど、君自身の生命力に依存する力かね…
 死にそうになればなるほど弱っていくわけだ
 正直、興味深いよ
 だがね、生徒達の安全には変えられないんだ
 わかってくれるね」

這って渡り廊下までついた男だったが
そうしたところでどうにもならない
どうにかなりそうなモノも見当たらない
「王手の詰み」(チェックメイト)にハマッたのだ

「では、死…」

ゴッバォオーz_ ン

その爆発は、トドメに刺された一撃ではなかった
コルベールに使える魔法では、無いッ!!

なにっ!?

たったひとつの心当たりを見てみれば、
やはり、だがなぜ…ゼロのルイズが魔法の杖を掲げ、振り下ろしていた

「…これは一体、何のマネだね
 ミス・ヴァリエール」

今ので吹き飛ばされた男は全身、服がミジメなことになりはしたが
まとわりついた炎の蛇もまた、どこかに消え失せてしまっていた
肩で息をして返事をしないルイズに、コルベールは再び問う

「…何のつもりだねッ!!」

ゼェ…ハァ…

ルイズは少し呼吸を整え、答えた
    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「儀式は途中です、まだ終わっていません」
「どういう意味だね、言っていることが少し、わからないのだが…」
「契約を続けるんですッ!!
 そこの、私の使い魔とッ」


ルイズは実家の家族達を思い出していた
キビシイ父、キビシイ母、それにキッツイ長女ッ
魔法がマトモに使えていないことでだけでも
自分の頭をカチ割りたくなるような追及を受けまくっているのに
そこへ今回の話がいったらどうなる?
予想どころではないし考えたくもない
だが

(ちい姉さま…)

次女カトレアはルイズに優しいのだ
怒られてばかりのルイズをなぐさめ励ましてくれたのはいつも「ちい姉(ねえ)」だった
今この瞬間だって絶対にそうだろう
父と母と長女の態度がつらくても、ちい姉さまがいるから頑張れる
もちろん、今回のこれを聞かせることになると思うと泣けてくる
しかしッ

(呼び出した使い魔を見捨てて…
 そんな私に、ちい姉さまは笑ってくれるの…?)

答えはNOだッ
ルイズの中のちい姉さまは許さないッ

(ちい姉さまに会いに行くのに、イチイチおびえなくちゃいけないようになるなんて…
 顔を見るたび、オドオドしなきゃいけないようになるなんて…
 私はイヤよ、絶対にッ!!)

だが考えてもみる
あの使い魔はイキナリ暴れて大変なことをしでかした
今は死刑宣告をくらって執行されようとしている
そんなものと一生寄り添って、どうするつもりなのだ?
新しく使い魔を呼んだ方が…

(使いこなしてみせるわよ)

そんな弱音は握りつぶしてみせるッ

(ちい姉さまがたくさんの動物を手なずけるようにッ
 そうすれば…私は「ゼロ」じゃ、ないッ!!)

ルイズは男の前に立ち、両腕を広げた
今まさに攻撃を再開しようとしているコルベールから、男を守るようにッ


「…セ・シ・ボン(結構だわね)、ルイズ」

一時は自分が彼の身柄を買い取ってしまおうかとまで考えていたキュルケだったが
進み出たルイズの姿にヒュウッと軽く口笛を鳴らした

「言いたいことはわかりましたよ、ミス・ヴァリエール」

杖は下ろさないまま、コルベールは言う

「あなたは全部、責任が取れるというのですね?
 使い魔や衛兵の治療代に、貴族子弟を危険にさらした賠償金、全てをッ」
「……」
「使い魔が噛みついた責めは、全てその主にあるッ
 わかっているというのですねッ?」
「…わかっていますッ!!」
「安請け負いをす…」

コルベールはその先を続けることができなかった
渡り廊下が突然、崩れ始めた
原因は明白ッ ルイズの起こした爆発以外にあるものかッ

グラァ ドドガァ

男はもとより
前に立ったルイズももろともに下敷きだッ!!

ガラ ドォォ ズズン

砂煙が収まった後が見えてくる
男は無事だった
あの正体不明の見えない力で防ぎきったものだろう
だが、もう一人は
かばったために一緒に巻き込まれたルイズはッ

「ル、ルイッ…」

キュルケをはじめとした、クラスメートの何人かが顔を真っ青にした
ルイズは横倒しに、瓦礫の下敷きになっていた
肩から上は外に出ているが
その下から赤い水溜まりが見え隠れ…大きくなっていた

「ガレキを全部、上に…魔法、使いすぎてるッ
 魔力足りないのよッ……
 タバサァァーッ 何ぼさっと見てんのォォーッ!!」
「……」

タバサは片手で杖を振り上げ『風×2』を器用に行使する
突風で瓦礫のみを取り除く、おそるべき精密性であった
しかし、そうやって重みから解放されたはずのルイズは

「………」

どこからどう見ても、手遅れだった
血溜まりの直径が1メイル近かった
まもなく死ぬだろう
誰もがそう思った
だから
そんな彼女に膝を引きずって近寄っていく男が何をする気なのか
誰も大して気にしていなかった
…そして

ズギュウウゥゥゥン

「え…」
「あ、あれ?」

逆再生のビデオそのものという、
この世界の誰もが見たことのない光景に、
全員、息を呑む…どころか反応できなかった
崩れ落ちた渡り廊下が全て元通りになってゆき…
横たわるルイズの下には、血溜まりなど、どこにも無かった

「…何、が?」

コルベールが二回、目をこすったとき、
男…元・鳥の巣はその場にグッタリ倒れ伏した
結局のところ、残されたのは謎だけだった
男が再び目覚める、そのときまでは…


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