ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク-10 後編

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10話 後編


勢いを盛り返したキュルケとタバサがラングラーを追い詰める。

「いくわよ、タバサ!」

キュルケの声とともに、複数のファイア・ボールがラングラーに殺到するッ!
それと同時にラングラーは鉄クズの弾丸を二人に向けて放つが、
タバサのウィンド・ブレイクがそれらを全て元の軌道からそらす。
二人を貫くはずだった鉄クズはギリギリのところで二人には当たらず、
その後ろの壁に突き刺さる。
そしてラングラーも、自分に向かってきたファイア・ボールは
全て唾を吐きかけた掌で消滅させる。
互いの技術と能力が、互いの攻撃を無力化する。

このままでは、押し込まれかねない。
ラングラーはそう思った。
相手の小娘メイジは二対一で戦うことで精神力の磨り減りを遅くしている。
しかしさっきから鉄クズを撃ちまくっている自分は、残弾にあまり余裕がない。
チョロい仕事だと思って補給二回分の鉄クズしか持ってこなかったのが、
この状況ではかなり痛い。
一回目の補給は既にしてしまったので、次の補給が最後になる。
今までのようにハイペースで撃ちまくることは出来ない。

しかし――手数を減らす事はできない
あの青髪の小娘。
あれがいる限り、こちらの攻撃が直撃する事は望めない。
加えて今はこっちの攻撃を防御するのに徹してるからいいが、
こっちの攻撃の度合いが弱まればすぐ攻撃に参加してくるだろう。
接近戦に持ち込む、というのも考えたがすぐに止めた。
そんなことをしたら確実にホワイトスネイクが動く。
赤髪の小娘の炎を消しつつ、
JJFの射撃をほぼ凌ぎきったホワイトスネイクと接近戦で立ち回れるほど
JJFは器用じゃないし、自分もそうじゃない。

このままでは、詰まれる。
その焦りが、ラングラーに一つの決断をさせた。
この二人の小娘を、カラカラのミイラにしてやると。
こんな小娘相手に「これ」をやるのは腹立たしいが、
やらずに負けて死ぬよりはずっとマシだ。

そしてキュルケのファイア・ボールの弾幕が一瞬途切れた瞬間、
ラングラーはJJFの両腕のリングを開いた。
鉄クズの弾幕が途切れる。
それと同時にタバサが素早くルーンを唱え、身の丈より長い杖を軽く振る。
ラングラーがJJFの腕のリングに唾を素早く吐き入れたのは、
それのコンマ一秒、二秒ほど後。

直後、タバサのエア・ハンマーがラングラーに襲い掛かる。

ゴォアッ!

唸りを上げて自分に迫る風圧の塊をラングラーはモロに食らい、
壁に叩きつけられる。

ドグシャァッ!

「があッ!」

自分の体に走った衝撃と鈍痛にラングラーが呻いた。
だが顔を苦悶に歪めながらも、ラングラーの口は笑みの形に歪んでいた。
JJFの腕のリングは既に閉じ、高速で回転していた。
そのリングの中で、先ほど吐き入れられた唾は拡散、分散し、
リングの中の全ての鉄クズに付着した。

無重力の世界を生み、さらに真空の世界を作り出すラングラーの唾。
それが、弾丸として発射される鉄クズをコーティングした。
この世界でラングラーが編み出した、
JJFの究極にして最悪の戦術が始まった。

「ようやく・・・追い詰めたってとこかしら?」

タバサのエア・ハンマーで確実なダメージを受けて膝を突くラングラーを見て、
キュルケはそう呟いた。

「まだ油断できない」

タバサはそれを制するように言い、杖をラングラーに向ける。
キュルケはそれに頷くと、タバサと同様に杖を構える。
二人とも残りの精神力にはあまり余裕が無い。
決着をつけるなら、次しかなかった。
そのときだ。

「しかし・・・お前らは・・・よく頑張ったよ」

ラングラーが二人に声をかけた。
エア・ハンマーをまともに食らった割には、その声に張りがあった。

「・・・どういう意味よ?」

警戒しつつ、キュルケが答える。

「まだハタチにもならねえってのに・・・トライアングルで・・・
 オレとここまで・・・やりあえるとはな・・・恐れ入ったよ」
「だから何が言いたいのよ!?」

明らかに追い詰められた状況でありながらも余裕を崩さないラングラーに、
キュルケは得体の知れない恐怖を感じた。
タバサも口こそ開かなかったが、キュルケと同様にそれを感じていた。

「だがな・・・お前らは・・・これから詰まれるんだぜッ!」

瞬間、JJFがリングに残る全ての鉄クズを、部屋中に無差別に撃ち放った。

ドドドドドドドドドドドッ!

放たれた鉄クズは、あるものはキュルケ、タバサ、そしてルイズへと向かい、
またあるものは壁に突き刺さり、またあるものは壁を跳ねた。
タバサは自分たちの方向へ飛んでくるものを正確に見極め、
ウィンド・ブレイクで射線をずらす。
ルイズへと向かうものは、ホワイトスネイクがルイズのベッドをひっくり返し、
それを盾にしてガードした。

タバサはこの防御で、これでラングラーの攻撃が終わったと思った。
自分の方に向かってきた鉄クズ全てに対処しきったからだ。

だが――ラングラーの攻撃はまだ終わっていなかった。
ホワイトスネイクにはそれが分かっていた。
部屋全体にばら撒くような射撃。
ホワイトスネイクもこれでダメージを受けた。
この攻撃における、ラングラーの狙いは――

「ソイツハ『跳弾』ダ! 警戒シロ!」

ホワイトスネイクが二人に向かって叫ぶ。
だが、それは遅すぎた。
いや、仮に遅くなかったとしてもこの世界には「跳弾」などという言葉は無い。
故にタバサがその言葉の意味を理解し、正確な防御に移る事は不可能だった。

ドシュシュシュシュシュシュッ!

直後、キュルケとタバサは全身に鉄クズの銃撃を受けた。
同時に二人の体から鮮血が飛び散る。

「がはっ・・・・・・」
「っ・・・く・・・・・・」

呻き声を上げながら崩れ落ちる二人。

「キュルケ! タバサ!」

ルイズが悲鳴を上げる。

「そんな・・・・・・なんで・・・・・・」
「『跳弾』ダ。鉄クズヲ撃ツ角度ヲ調節シ、
 壁ヤ天井デ鉄クズノ弾丸ガ軌道ヲ変エルヨウニシタノダ」
「な、なによそれ・・・弾丸が壁とか天井とかで跳ね返って、
 それがキュルケたちを攻撃したの?
 そんなの、ありえないわよ!」
「ダガ現実トシテ二人ハ銃撃ヲ食ラッタ。
 ソシテ私モ、先程ソレデダメージヲ受ケテイル」
「そんな・・・・・・」

ホワイトスネイクの言葉に、打ちひしがれるルイズ。

「その通り・・・・・・だ。
 そして今の弾丸・・・ただ身体に・・・穴が開くだけじゃあ・・・ない。
 もっと・・・・・・面白く・・・なる」
「面白クナル・・・ダト?」
「そうだ・・・・・・見ていろ・・・・・・。
 奴らの血で、この床と天井に真っ赤な水彩画を描いてやるぞ・・・」


場所は変わってまたトリステイン魔法学院の校庭。
ある者は命がけで戦い、ある者は盗みを働こうとするこの日の夜。
そんな夜に、二人の男女が校庭を歩いていた。
少女の方の名前はモンモランシー。
二つ名は「香水」。
そして一週間前に、恋人のギーシュに二股かけられた本人だ。
そして男の方は――

「ああ、モンモランシー! 君は本当に美しいよ!
 天高く輝くあの双月も、君の前ではその美しさが霞んでしまうほどに!
 いや・・・きっと彼らもわかっているんだ。
 どれだけ輝こうとも君の美しさには敵わないってね。
 だからああして輝きを弱めて、君の美しさを引き立てているのさ! 
 きっとそうだよ! 僕の愛しいモンモランシー!」

…一週間前、モンモランシーがいながら二股をかけた、ギーシュその人であった。

そもそも何故最悪な関係に陥っていたはずの二人がこうして一緒に歩いているのか、それを説明せねばなるまい。
事の発端はギーシュがモンモランシーを夜の散歩の誘ったことであった。
ギーシュは二股かけてたことがバレて傍に女の子がいなくなった状態が一週間も続いていた。
それで寂しくなったからモンモランシーに泣きついたのだ。
だが実際に傍に女の子がいなくなる、という状況に陥って、真っ先にモンモランシーのところに来る辺り、
ギーシュとしての本命はモンモランシーなのだろう。多分。
浮気ばっかりしてるけど、多分そうに違いない。多分。
そしてモンモランシーの方も、それまではホワイトスネイクとの決闘で死に掛けたギーシュを心配はしたものの、
二股をかけられたことが思い出されて、あまりギーシュとは一緒にいたくない気分だった。
だが「一週間経ったから許してあげようか」という気持ちと、
やはりギーシュに対するまだ捨てきれない気持ちがあって、夜の散歩を了承した。

そしてさっきからもう10分もの間、ギーシュの歯が浮くようなお世辞をノンストップで聞き続けているのだ。
普通の女の子なら耳が痛くなってくるようなお世辞の数々だが、
モンモランシーには、むしろそれが気分がよく感じられた。
モンモランシーはおだてに弱いタイプだった。
だからこそ、ギーシュが他の女の子にフラフラと近づいて
そのままお近づきになってしまうのをその時こそは怒っても、
そのうちすぐに許してしまうのだった。

二股駆けるギーシュがダメダメなのは言うまでも無いことだが、
モンモランシーも何だかんだでダメだった。
でもそうだからこそ、似合いのカップルなのかもしれないが。

ひたすらモンモランシーに愛の言葉を重ねるギーシュ。
それを頬を紅潮させながら聞くモンモランシー。
二人はまだ知らない。
今この瞬間も、この学院の中で死闘が続いていることを。


「くぅっ・・・・・・タバサ・・・大丈夫?」
「・・・大丈夫。まだ、やれる」
「ウソ・・・でしょ、それ・・・。
 ギリギリのところで使えた魔法を、殆どあたしを守るために・・・・・・」
「・・・・・・大丈夫、だから・・・・・・」

そう言うタバサの顔は青ざめている。
無理も無い。
タバサが先ほどの攻撃で受けた傷は、鉄クズの直撃が右足に3つ、右腕に2つ。
鉄クズのかすり傷が、脇腹に1つ、肩に1つ。
また、キュルケは鉄クズの直撃が左足に1つ、左腕に1つ。
それのかすり傷が左大腿に一つ、頭に一つ傷が出来ている。

ラングラーの射撃が二人を襲う直前、タバサはウィンド・ブレイクを使っていた。
しかしそれは、魔力を殆ど込める間もなかった弱弱しいものだった。
にもかかわらず、タバサはそれの殆どをキュルケを守るために使った。
そのため彼女が受けたダメージはキュルケのそれよりも、
ずっと多く、そして深いものになったのだ。

傷の激痛で奪われそうになる意識を必死に留めながら、
タバサは思考を回転させる。
このままではまずい。
あの男・・・こちらが思っていたよりも遥かに強かった。
まさか、天井や壁で撃った鉄クズを反射させて、
想定外の方向からこちらを狙うなんて。
さっきのエア・ハンマーでダメージを受けたように見えたのは演技だったのか、
それともダメージを押してあの攻撃を仕掛けてきたか。
いずれにしても、今度は完全にこちらが追い詰められてしまった。
もう一度あの射撃を仕掛けられでも、今の自分ではそれを防御出来ない。

そう考えていると、ふと自分の体に奇妙な違和感を感じた。
体が、軽い。
まるで風に巻き上げられた落ち葉のように、まるで自分の体に重みを感じない。
さっきまで、あの男から受けた傷の激痛で体が鉛のように重かったのに・・・。

いや、違う!
「軽く感じている」などという程度ではない。
自分の体が浮いている!
風も無いのに、何かの力が働いているでも無いのに、
自分の体が宙に浮き上がっている!
いや、そればかりではない。
手や足を動かすたびに体がグルグルと回転し、重心が定まらない!
これは、一体。

「タ、タバサ・・・こ、これ!」

声がした方を見ると、キュルケの身体も宙に浮き上がり、空中で二転三転している。
一体何が起きた?
さっきの弾丸に、何か特別な魔法でも仕掛けたのか?
でもこんなことができる魔法は、系統魔法の中には無い。
ならば、こいつが使っているのは――。

「エルフの先住魔法・・・か?」

突然タバサに、ラングラーから声がかかった。

「オレと戦ったものは・・・皆・・・そう言う。
 先住の魔法・・・エルフの魔法・・・とな。
 当然だ・・・火の魔法・・・風の魔法は・・・使うことすら出来ず・・・
 土の魔法・・・水の魔法は・・・まともなコントロールさえ・・・出来ない。
 このオレが・・・・・・『魔法殺し』と・・・呼ばれるのは、そのためだ。
 だが・・・オレが使うのは・・・そんなものではない。
 それらより強力で・・・それらより凶悪なものだ・・・。
 その力で殺されることを・・・誇りに思うがいい・・・・・・」

先住の魔法ではない?
だとしたら、一体何がこれを引き起こしている?
考えても考えても、自分に起こったこの現象が説明できない。
とにかく自分の体を固定しなければ。
そう思い、杖を振ってレビテーションを唱え始める。
一体どういう原理で浮き上がっているのかは不明だが、
レビテーションなら身体を魔法で浮かせ、身体を空中に固定できるはずだ。
そう判断してのことだった。

そして、状況が変化したのはその瞬間だった。

傷口から流れ出ていた血の勢いが、突然強くなった。
まるで傷口から血が噴出すように、溢れ出るように流血し始めた。
そして次第にそれすらも通り越し、瞬く間に流血の勢いは強くなり、
まるで噴水のように傷口から出血しているッ!

「こ・・・これは・・・・・・」
「・・・・・・」

自分の身に起こった現象に呆然とするキュルケ。
そして自分の体から血が吹き出るという現実に驚愕したのはタバサも同じだったが、
風のメイジであった彼女にはそれ以上のことが理解できた。

自分の周りから、極端に空気が少なくなっている。
それに呼吸もしにくくなっている。
このままでは窒息してしまう。
それ以前に全身の血液がなくなって、干からびてしまう!
どうすれば、どうすればこの状況から抜け出せる!
自分はまだ、死ぬわけにはいかないのに・・・・・・。

そしてその様子を、ルイズも見ていた。
ルイズは、自分を責めていた。
何も出来ないばっかりに守られて、
それで守ってくれる人が死にかけているのに、それでも何も出来ない自分を。
守られていながら、助けることさえ出来ない自分を。
自分が水のメイジだったなら、二人を治療できた。
火や風のメイジだったなら、アイツと戦えた。
土のメイジだったなら、ゴーレムの一つでも錬金して時間稼ぎが出来た。

なのに自分はそのどれでもない。
自分は「ゼロ」だ。
何の魔法も使えない、役立たずの「ゼロ」。

一週間前のギーシュとの決闘は、自分に何か光が見えたように思えた。
爆発しか起きない「ゼロ」の自分でも、
役立たずの「ゼロ」じゃないんだと思えた。
だが現実は違った。
結局自分は何も出来ない、役立たずの「ゼロ」だった。
自分を助けてくれた人が窮地に陥っても、
それに何の助けも出せない「ゼロ」だった。
ルイズにはそれがどうにも許せなくて、そして悔しかった。
悔しさで涙がこぼれそうになった、その時。

「マスター」

自分の前に立っているホワイトスネイクから声がかけられた。
顔はこちらには向いていない。

「・・・なによ。ホワイトスネイク」

こぼれそうになった涙を拭って、ルイズは不機嫌に聞こえるように答える。

「アノ二人ノタメニ命ヲ賭ケラレルカ?」
「・・・当たり前よ。何でそんなこと聞くのよ」
「今アノ現象ハ、アノ二人ヲ中心ニ起コッテイル。
 ソシテ二人ヲ助ケルニハ、マスターモアノ近クヘ行カネバナラナイ。
 マスターガラング・ラングラーニ殺サレタナラ、二人ノ努力ガ無駄ニナル。
 デアル以上、マスターハ私トトモニ行動シ、私ガ護衛シナケレバナラナイ。
 故ニマスターモアノ症状ガ出ル空間マデ行カネバナラナイ。
 ・・・ソレデモ助ケルノカ?」
「それでも、よ」

ルイズの言葉に、迷いは無かった。

「・・・キュルケトカイウ女ハマスタートハ不仲ダ。
 ソシテタバサトカイウ小娘ハ今日初メテ会ッタバカリ。
 命ヲ賭ケルニハ、アマリニモ安イ間柄ダ。
 ナノニ、何故ソノ二人ノタメニ命ヲ投ゲ出セル? 
 親友デモ、血族デモナイ相手ニ何故ソコマデデキル?」

それは、ホワイトスネイクにとって率直な疑問だった。
以前ホワイトスネイクがいた世界
――かつての自身の本体、プッチ神父とともにあった世界でのこと。
あの世界で戦った男――空条承太郎は、
娘を守るために千載一遇の勝機を捨てた。
そしてその空条承太郎の娘、空条徐倫もまた、
父親の記憶のためにプッチ神父を仕留めるための最大の好機を逃した。
何故そのようなことが出来るのか。
それは親子だからだ。
互いに血を分けた存在だからだ、とホワイトスネイクは考えていた。

また、スタンドを探して世界中を巡った旅の中で、
プッチ神父を友の仇、親友の仇として襲うスタンド使いもいた。
そうしなれば、プッチ神父にスタンドを奪われることも、
その後にドロドロにされて死ぬことも無かったのに。
なのに彼らはプッチ神父に挑まざるを得なかった。
挑まなければ、自分の心に決着を付けられなかった。
何故そのようなことが出来るのか。
それは親友だからだ。
互いが互い無くしては生きては行けない存在だからだ、
とまたホワイトスネイクは考えていた。

だが、この状況は違う。
今自分の主人の前で死に掛けている二人の小娘は、
主人の血族でもなければ主人の親友でもない。
なのにこの小さな主人は、そんな二人のために命を賭けると言っている。
何故そんなことが出来る? 何故自分の命をそこまで簡単に扱える?
それが、ホワイトスネイクには理解できなかったのだ。

「ソシテ助ケタイ、トイウノハ自己満足カ? ソレトモ偽善カ?」

さらにホワイトスネイクは厳しい問いをぶつける。

「・・・そうかもしれない。
 役立たずになりたくないって気持ちが、わたしの中にあるもの。
 でもそれは二人を助けない理由には絶対にならない。
 だから、助けるのよ。
 わたしが助けたいから、助けるの」

それが、ルイズの真摯な思いだった。
確かにキュルケには気に入らないところもある。
タバサって女の子に至っては、助ける義理も何も無い。
それでも、見殺しには出来ない。
だから、助ける。
自分が助けたいから、助ける。
それが、ルイズの答えだった。

「ソウカ」

ホワイトスネイクはそう短く言うと、ルイズに向き直る。
そしてルイズを片手で抱え上げる。

「覚悟ハイイナ?」
「いつでも」

ホワイトスネイクの問いに、ルイズが短く答える。

「承知ッ!」

その答えにホワイトスネイクが力強く応えるッ!
そして床を強く蹴り、二人の少女の下へと疾走するッ!

「なッ、なにしてやがるッ!!」

それに驚いたのはラングラーである。
無傷で確保しなければならない相手が自分が作り出した死の空間へと、
何のためらいも無くホワイトスネイクとともに突っ込もうとしているのだ。
このままでは「無傷での確保」は不可能。ならば、阻止するしかないッ!
ラングラーは最後の補給を終えたばかりのJJFに腕を構えさせる。

ドンドンドンドンドンドンッ!

そしてホワイトスネイクの動きを追うように、
JJFにありったけの鉄クズを撃ち放たせるッ!
計画性のカケラもない行動だった。
だが任務を完遂することの方が、ラングラーには重要だった。

しかしホワイトスネイクは速い。
放たれた鉄クズの半数はホワイトスネイクが通り過ぎた直後の空間を貫き、
ホワイトスネイクにはかすりもせず、
しかし残り半分はホワイトスネイクへと殺到する。
だがホワイトスネイクはそれらを拳で弾き飛ばそうとはしない。
逆にルイズを庇うようにガードを固める。

ドシュシュシュッ!

そのホワイトスネイクに、いくつもの鉄クズが突き刺さるッ!
その数、4発。
足に、脇腹、腕に、そして頭に着弾し、頭部に命中したものはその一部を吹き飛ばしたッ!
しかしホワイトスネイクは止まらないッ!
苦しみもがきながら空中を漂うキュルケとタバサの元へと一直線に駆けるッ!

そして、キュルケとタバサを苦しめる症状
――真空の魔の手が、ルイズにも襲い掛かる。
ルイズの鼻から、突然鼻血が噴出す。
同時に、ルイズの呼吸も苦しくなってくる。
ホワイトスネイクが自身の腕からDISCを抜き取ったのはその瞬間だった。
そして抜き取ったDISCを間髪いれずにルイズの頭部に差し込むッ!

「命令スル。『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』」

ホワイトスネイクが、静かにそう命令する。
と同時に、ルイズの鼻血が止まった。
外気圧と体内気圧の差のために体内から血液が押し出されるのを、
この命令によって防いだのだ。
しかし、ルイズの呼吸が苦しいのは変わらない。
ルイズの周囲に殆ど酸素が存在しない状況を変えることは、
ホワイトスネイクのDISCの命令ではできないからだ。
しかし、血液が全て体外に押し出されてミイラになるよりは、
まだ死ぬのが遅い。
その僅かなタイムラグに、ホワイトスネイクは全てを賭けたのだ。

やがて、酸欠でルイズが意識を手放す。
ルイズは自分の意識が真っ白になっていくのを感じながら、
ホワイトスネイクが、二人を救ってくれることを祈った。

そしてホワイトスネイクは、キュルケとタバサの元へ到達した。
スデに意識を失っていた二人に、ルイズにしたものと同じ命令を差し込む。
後数秒でも遅れていたならば二人の命は無かっただろう。
しかしこれで二人の命はもう1、2分は稼いだ。
あとは・・・ラング・ラングラーを倒すのみ。
そう決意してキュルケとタバサを背負うと、ラングラーのほうへ振り向く。

そして振り向いた先には、驚愕に顔を歪めるラングラーがいた。

「バカな・・・真空の中で・・・何故・・・血を吹き出さねえ・・・。
 ホワイトスネイク・・・テメー一体・・・何を、しやがった・・・」
「何ヲシタカ・・・カ。ソレヲ貴様ガ知ル必要ハナイナ。
 何故ナラ貴様ハココデ死ヌカラダ・・・ラング・ラングラー。
 貴様ノ無重力ノ能力ガ作リ出シタ真空デナ・・・・・・。」

そう言い終わるや否や、ラングラーに向けて突進するホワイトスネイク。
真空の発生源であるキュルケとタバサはホワイトスネイクに担がれているッ!
つまり、この状況は――

「テメーッ! オレが作った真空で、オレを攻撃する気かッ!」

ホワイトスネイクの目論見を理解したラングラーは、すかさず後方に下がる。
だがすぐに壁に背がぶつかる。
もう後ろには下がれない。
正面から迫るホワイトスネイクは、
自分を真空の範囲に捉えるまであと数歩の位置。
ならば――

「ジャンピン・ジャック・フラァァァッシュッ!!」

咆哮とともにJJFがラングラーの正面に回りこむ。
そしてコンマ数秒単位で腕を構え、ホワイトスネイクへと向けるッ!

「くらえッ!!」

ドンドン!

そして、その腕から鉄クズを撃ち放つ。
だが狙いは甘かった。
大半はホワイトスネイクに当たらず、その周囲へと逸れていった。
ラングラーが一瞬抱いた真空への恐怖が、
その照準を正確なものにしなかったのだ。

だが、3つ。
それだけの数の鉄クズは、ホワイトスネイクへと向かった。
しかもその全てが、ホワイトスネイクへの直撃コース。
だがホワイトスネイクは避けようともしない。
自分を敵の弾丸が貫くのを承知で、
真正面からラングラーのいる方向へと突っ込むッ!

ドシュシュッ!

そしてホワイトスネイクの胴体を、3つの鉄クズが撃ち貫く。
ホワイトスネイクの、膝が落ちる。
勝った、とラングラーは感じた。

だが、ホワイトスネイクは止まらなかった。
落ちかけた膝を無理やり引き上げ、床を蹴り、
レスラーがタックルをかけるようにラングラーへと襲い掛かるッ!
ホワイトスネイクはスタンドである。
そして今のホワイトスネイクは、
本体の状態に一切左右されないスタンドであるッ!
そのため人間ならば致命傷の攻撃でも、まだ十分に活動可能ッ!

「バカなッ! こいつ、何故止まらないッ!?」

それを知らないラングラーは驚愕のままにタックルをモロに食らい、
壁にたたきつけられる。
JJFで防御する余裕すらなかった。
そして、真空の範囲にラングラーが入った。
真空が、ラングラーに襲い掛かるッ!

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

時間の経過のために、より強力になった真空がラングラーを襲う。
そして、ラングラーの体の組織を次々と破壊してゆくッ!

(マ・・・マズイ・・・ぞ・・・・・。このままじゃあ・・・オレが・・・ヤバイッ!
 壁に押さえつけられた・・・この体勢じゃあ・・・逃げられねえッ! くッ・・・こうなったらッ!!)

完全に追い詰められた状況ッ!
そしてラングラーが、そこから脱出を図るッ!

「ジャンピン・ジャック・フラッシューーーーーーーーッ!」

ラングラーの絶叫とともに、JJFが部屋の壁に拳のラッシュを叩き込むッ!
追い詰められ、生へとしがみつこうとする精神によって昂ぶり強化された拳は、
壁を一瞬にしてベコベコに破壊し、そしてひび割れさせていくッ!

そしてラッシュが始まってから一秒経ったか経たないか、それだけの時間で、壁に大穴が空いた。
そしてラングラーの体が、その後ろから押さえつけるホワイトスネイクのパワーに押され、ルイズの部屋から空中に放り出された。
その瞬間。

「ジャンピン・ジャック・フラッシュ解除ォーーーーーーーーーーーーーッ!!」

ラングラーの絶叫とともに真空が解除されるッ!
そして周囲の気圧は突然正常に戻り、ホワイトスネイクとラングラーの身体は、
二人を取り囲んでいた真空地帯へ吹き込んだ突風に、
木の葉のように吹き飛ばされるッ!
ラングラーの身体は上空へ吹き飛ばされ、
ホワイトスネイクの身体は地上へと、一気に叩き落されるッ!
しかしホワイトスネイクは抱きかかえる3人の身体を手放しはしないッ!
手放す前に、やらねばならないことがあるからだ。

(解除・・・ダトッ!? マズイゾッ! コノママデハ、
 外気圧ニマスタータチノ体ガ潰サレルッ! ソノ前ニッ!)

ホワイトスネイクは素早くルイズの頭部から命令のDISCを抜き取る。
そしてキュルケ、タバサの頭部からも命令のDISCを抜き取り、3人の体内気圧を正常に戻す。

だがまだ油断は出来ない。
地上が、眼前に迫っている。
今の加速した状態で地面に叩きつけられれば、並の人間はただではすまない。
ましてや今の状況では重傷を負った人間が二人もいるのだ。
ホワイトスネイクが手を離し、勢いのままに地面に激突したならば、間違いなく死ぬ。

ホワイトスネイクは何も持たない状態なら自由に空中を移動できる。
そして軽いものならば抱えたままで空中を移動できる。
だが今ホワイトスネイクが抱え、背負うのは三人の人間。
抱えたまま空中に留まるのは不可能だ。

そうである以上、着地はホワイトスネイクがやらねばならない。
しかしホワイトスネイクの両足はJJFの射撃でダメージを受けている。
着地の衝撃に耐えられるかどうかは怪しい。
出来るか。
ホワイトスネイクは現在の自分の状況に相談し、そして覚悟を決めた。

その直後、ホワイトスネイクは3人を抱えたまま、地面に着地した。
そして着地の衝撃がホワイトスネイクの両足を襲う。
無重力解除による風圧、そして人間3人分の重力が生んだ衝撃が、ホワイトスネイクの足をズタズタに破壊してゆく。
だがホワイトスネイクは膝を突かない。
膝を突かず、衝撃に耐え、着地したままの状態を保ち続ける。

そして、耐え切った。
そのことを実感すると、
ホワイトスネイクは3人の身体をそっと地面に横たえた。

ホワイトスネイクの身体に新たな衝撃が走ったのは、その瞬間だった。

衝撃の発生源は腹部。
そこに目を向ける。
自分の腹部から、握り拳が突き出ているのが見えた。
そして、やられた、と思った。

JJFの拳が、背後からホワイトスネイクの身体を貫いていた。

空中に飛ばされたラングラーは、手足の吸盤で校舎の壁に張り付き、
風圧に耐えていた。
そして耐え切ると、間髪いれずに空中からホワイトスネイクの背後に迫った。
落下の音、衝撃は吸盤で吸収し、ホワイトスネイクに気づかれることは無かった。
そして、あの一撃をホワイトスネイクに叩き込んだ。

ホワイトスネイクの膝が、がくりと落ちる。
もはや両足で立つこともできない。
そしてボロボロの両手では、手刀を使うことも出来ない。
ホワイトスネイクの身体は、もう戦える身体ではなかった。

「これで・・・テメーは・・・もう・・・戦えねえ。
 あとは・・・ガキを・・・頂いていく・・・だけだ。
 だが・・・・・・その前に・・・テメーは破壊する。
 オレを散々ナメてくれたテメーを・・・生かしておくつもりはねえッ!」

そう言いつつ、JJFの拳をホワイトスネイクの腹から引き抜くラングラー。
それと同時にホワイトスネイクの体が崩れ落ちる。
ダメージは、あまりにも大きかった。
これ以上戦えぬほどに、これ以上立つこともできぬほどに。

そして床に倒れこむホワイトスネイクの頭部に、ラングラーはJJFの拳の狙いを定める。

「これで終わりだッ! 今度こそ、ここで死ねッ!!」

そして、JJFの拳が、ホワイトスネイクの頭部へ振り下ろされる。

「勝ったッ!!」

ラングラーが今度こそ勝利を確信し、叫んだ。

ドグシャアッ!

ドシュンッ!

直後、二つの音が交錯する。
JJFの拳がホワイトスネイクを破壊する音、
そしてそれとは別の音が校庭に響いた。
そして視界が真っ暗になる。
何だ? とラングラーは一瞬首を捻りかける。
捻りかけて、理解した。
自分の額に、あの忌々しいDISCが突き刺さっている。
そのDISCに目隠しされているのだ、と。

そしてそうだ。
「これ」はさっき見ていた。
これはホワイトスネイクが、あの三人のガキの頭から抜き取ったものだ。
ホワイトスネイクはこのDISCで、自分の真空から三人を守っていた。
しかし、だとしたらその効果は一体・・・。

「ソノDISCノ効果・・・教エテヤロウ」
「!!??」

バカな!?
何故ホワイトスネイクが生きている!?
ヤツの頭部は、自分のJJFで完全に破壊したハズ。
手ごたえも十分にあった!

…いや、本当にそうだったのか?
本当に、自分が破壊したのはヤツの頭部だったのか?
インパクトの瞬間、オレはヤツのDISCで目隠しされたんだ。
だとしたら、そのときに・・・まさか・・・・・・。

「『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・ダ。
 ソレデ何ガ起コルカ・・・・・・貴様ニハ・・・スグ分カル」

暗闇の中で、ホワイトスネイクがこちらの意思とは関係ナシに喋り続ける。
『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・だと?
…何だとッ!?
じゃあまさか、これからオレはッ!?

「感ヅイタヨウダナ・・・。貴様ノ体ハコレカラ・・・外気圧ニ潰サレテ、
 ペシャンコニナル。
 セイゼイソレマデノ間、残サレタ命ヲ楽シメ・・・・・・」

その言葉の直後、ラングラーの体に異変が起こる。
まず、息が出来なくなった。
正確には、肺から空気が一気に押し出されたッ!
そして破壊はさらに進行するッ!
ラングラーの体はあっという間に圧縮されていき、
ラングラーの全身の穴という穴から血が噴出すッ!

「ガッ・・・ゴボ・・・・・・ガボ、ゴッ・・・・・・」

声にならない声を上げ、ラングラーが呻く。
呻きながらも、JJFに指示を出す。
自分をこんな目に合わせた奴らを、せめて一人でも道連れにするために・・・。

だが、それもすぐに止められた。
JJFの腕が、動かない。
ホワイトスネイクがJJFの両腕をガッチリと捕まえ、その腕輪の照準が三人の少女にそして自分へと向かぬよう、
そして照準が誰もいない上空へ向くように押さえ込むッ!

「ア・・・アガ・・・ゴバ、ガ・・・ガボバ・・・・・・」

しかしラングラーは止まらない。
JJFへの指示を止めはしない。
そして主人のダメージに従ってボロボロとその身を崩壊させていくJJFは、
主人の命令に忠実に、最後の足掻きを見せたッ!

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!

それは戦いの序盤でホワイトスネイクに対して行った、マシンガンのような集中射撃。
JJFはそれが自分の最後の輝きであるかのように、ホワイトスネイクに押さえつけられたまま、上空に向かって撃ち続けた。
今までで最大の威力を持った、鉄クズの射撃だった。
撃ち放たれた無数の鉄クズはその大半が校舎に当たり、
そしてそれらを抉り、無数のひびを入れた。
巨大なゴーレムの一撃ですら破壊できない壁に、目に見える形で損傷を与えた。

そして残弾が完全に尽きたのと同時に、
ラング・ラングラーは全身の血を外気圧に絞り取られて絶命した。
ジャンピン・ジャック・フラッシュの姿は、もうその傍らには無かった。


「終ワッタ・・・・・・カ・・・・・・」

ラングラーが死んだのを確認し、ホワイトスネイクはそう呟いた。
そして周りを見回す。
見回して、ひどい有様だと思った。

周囲一体がラングラーの血で染まって真っ赤になっている。
ルイズ、キュルケ、タバサの三人も例外ではない。
全員の衣服が、血で真っ赤になっていた。
もっともキュルケとタバサの衣服は彼女達自身の血でスデに赤く染まっていたが。

(シカシ・・・マズイナ。今ノ私ハ、ホトンド行動不能。
 ソレニ助ケヲ呼ブコトモママナラナイ。
 マスターハマダ大丈夫ダガ・・・コノ二人ハ応急処置ガ必要ダ。
 クソッ・・・・・・ドウスル・・・・・・?)

自身も再起不能寸前でありながらも、冷静に状況を判断するホワイトスネイク。
その時――

「ルイズの使い魔君ッ! 君の命がけの行動、僕は敬意を表するッ!!」

バカみたいにでかくて、それでいて妙に気取った声が聞こえてきた。
どこか聞き覚えがあった声だ、と思いながらホワイトスネイクがそちらを見る。

「ちょっとギーシュ! あんた分かってるの? あいつはあなたを殺しかけたようなやつなのよ?」
「黙っていてくれモンモランシー。僕は今猛烈に感動しているんだ!」

声の主はやっぱりギーシュだった。
そしてその後ろから、モンモランシーがギーシュを引きとめようとしている。
しかしギーシュはそれを引きずるようにしてこっちにやってきた。

「・・・・・・何シニ来タ」

ジト目でギーシュを見ながら言うホワイトスネイク。

「そんなことを連れないことを言わないでくれ、使い魔君。
 僕は君の命がけの戦いの一部始終を見ていた。
 それで・・・感動したんだ!
 不届き者から三人のレディーを守り、
 満身創痍になりながらも勝利した君の姿に!
 そして実感したよ! 君と僕は似たもの同士だったんだ!
 君は一週間前のあの日、僕と決闘したろう?
 それが何故なのか、ずっと気になっていたんだ。
 でもそれが分かったよ! 君は君の主人であるルイズのために、
 レディーのために戦ったんだね!
 あのメイドを僕の勝手から守ったのも、
 レディーを守るという君の新年に基づいたものだったと分かったんだよ!
 はっはっは! そんな神妙な顔をしないでくれ!
 何も言わずとも分かる! 
 君のその行動こそが君の精神のあkガボゴババゴボ・・・・・・」

延々と喋り捲っていたギーシュが、突然彼を包み込んだ水によって黙らされた。
やったのはモンモランシーである。
しかしギーシュもなんと言うか、相当にアレだ。
一週間前に自分を危うく殺すところだった相手にここまでフレンドリーになれてしまうとは。
お調子者というべきか、能天気というべきか、とにかく色々と心配だ。

そしてギーシュを黙らせたモンモランシーがその前に出て、
じろりとホワイトスネイクをにらむ。
ホワイトスネイクも、それを正面から見返す。

「・・・あんたがギーシュに決闘でしたこと。私は忘れて無いわ。
 でも・・・・・・」

そういって、地面に横たわる三人に目を向けると、短くルーンを唱える。
すると、キュルケとタバサの傷が、溶けるようにして浅くなっていく。
水のメイジにしか使えない、「治癒」の魔法だ。
ホワイトスネイクは驚いてモンモランシーを見る。

「この三人がケガをしてるのは別の話よ。
 応急処置をしてくれる人を探してたんでしょ?
 ・・・だったら私がしてあげるわよ。
 この三人のケガはどれも致命傷じゃないし、
 水のラインメイジの私なら応急処置が出来る。
 ただ、キュルケとこの青髪の女の子は相当に弱ってるから、
 魔法薬での治療が必要になるけど。
 ・・・別に、あんたがしたことを許したわけじゃないんだからね。
 勘違いしないでよ」
「・・・覚エテオク」

ホワイトスネイクがそれだけ言うと、
モンモランシーはぷい、とそっぽを向いてギーシュのほうへ戻っていった。
そのギーシュが、何やらゴボゴボ言っている。

「どうしたのよ、ギーシュ?」
「ばべ! ばべぼびべぐべぼ!」
「・・・何言ってるかわかんないわよ、ギーシュ」
「ばばらばればぼ! ぼぼばび! びびぼぶびぼごべば!」

モンモランシーの魔法で水攻めにされたまま、
ギーシュが指を差しながら何か言っている。
だがモンモランシーには何が言いたいのか全く理解できない。
かろうじて、何がしたいかが理解できたホワイトスネイクが、
ギーシュが指差す先を見ると――

「・・・・・・何ダ、アレハ?」

そこには、全長30メイルは下らない、巨大なゴーレムがいた。


To Be Continued...

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