ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神・妖刀流舞-26

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匿名ユーザー

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 ワルドは、ルイズによって突然握らされたアヌビス神を『これは一体?』と思い見つめた。
 このルイズの使い魔たる、不思議のインテリジェンスソードは、手にした物を自在に操り達人とする。それは判る。
 だが『許可』とは?何故渡す?そもそも『ガンダールヴ』に、その様な能力の伝承が有った憶えは無い。
 そう考えたところで、ワルドの思考は一瞬にして途切れた。

 ギーシュに穴から半ば強引に引っ張り出されたフーケは、丁度その瞬間を目撃した。
 同時に胃が痛くなる。
「あ、ああ、“あれ”やっちゃったのね……」
「一体何があったと言うんだい?」
 フーケが思いっきり顔色を変えている事に気付いたギーシュはふと振り返る。
 酔いが吹き飛び、ギーシュも胃が痛くなった。

「始まった」
 タバサの突然の言葉に、キュルケも振り返る。
 そこには、サディスティック全開な表情のルイズがいた。

「準備は良いわねアヌビス」
「おっけーだ、ご主人さま」
 ルイズに『許可』され、アヌビス神がワルドの身体を自在に動かし、上手くいっている事をアピールした。
「しかし、本当に良いのか?後悔してもしらねーぞ?」

 突然起こった珍妙な様子に、注目が集まる。
 アヌビス神の能力を知る、ウェールズは起こった事を何と無く察したようだ。
 幾ら『ギーシュさん』が許しても、身内での問題もそれはそれであるか……と思い止めずにおいた。

「じゃあ何から聞こうかしらね」
「それはやっぱり、何故国を裏切ったか?とか聞くべきよ」
 キュルケが見るからにワクワクしながら、ルイズの隣にやってきた。
「そうね、無難なところね。採用!」
「あー……。
 正直トリステインの政治状況グタグタ過ぎるし、フォローが効かなさ過ぎ。
 そう考えてるな。
 先王妃何もしねーし、王女は直情型甘えん坊勘違いだし、マザリーニが寿命で死んだらどうするんだよ!
 だってよ」
「ま……それはそうね」
 むきーっと騒ぎそうになるルイズを押さえつつ、キュルケがうんうんと頷いた。
「これは現実よルイズ。忠誠心を責めるのは簡単だけれど、この場合は流石に、それを繋ぎ止められない方の問題が大きいわ」
 ルイズも市中のその手の噂は知っている。今のトリステインの王族はお飾りであると。アンリエッタへの私情は有るが、キュルケのその言葉に渋々大人しくした。

「頑張って出世して、国の中枢に近づくにつれて絶望しちまったみてーだなぁ
 今のトリステインじゃ、これより先にはいけねえと思ったんだな。
 で、そうやって迷ってる時に『レコン・キスタ』を知ったっぽい」
 それらの話しを苦々しい思いで聞いたのは、何もルイズだけでは無かった、ウェールズやジェームズ一世としても、決して他人事では無かった。

「方向を変えましょう。今ワルドは『レコン・キスタ』に忠誠心を持っているのかしら?」
 空気が悪くなったのを察して、キュルケが次を提案し、アヌビス神がすかさずそれに答える。
「殆ど無いな。道中で完全に『ギーシュさん』にぞっこんだァー」
「ほ、本気だったのね……」
 何だかんだあっても信じたくなかったのか、ルイズが肩をがっくりと落とした。
「あの時、自白した事に嘘は無いみたいだな」
「そ、そう……。
 ところで『レコン・キスタ』に付いての詳しい事は判るかしら?」
「バッチリだな。組織内では、それなりの地位にいた見たいだからな。
 今のボスの居場所まで、本当にバッチリだ」
 その言葉に、大広間がざわめいた。
 ジェームズ一世とか内心、勢いで勝てるとあの時言ったけど、これ本当に勝てるんじゃね?『ギーシュさん』の恩恵?これ恩恵?で小躍り状態である。
「ちょ、ちょっとそれって……?」
「敵の頭の場所がわかるってのなら、五万でもやり様って事だな。
 ま、いきなり勝てるとは思わんがね」

「ルイズをどう思ってるかとか」
 キュルケが、じゃあこれは?と顔を輝かせて質問する。アヌビス神はもう勢いで、勝手に答え放題である。
「昔はそれなりにマジ。
 暫らくは、出世の方に気が回ってどうでも良くなってた。
 再会すると判った時、実は楽しみだった。
 しかし『レコン・キスタ』の兼ね合いもあって、色々利用するつもりも満々だった。
 再会したら正直好みで戸惑ったから格好付けてみた。
 要約するとこんな感じか?」
 ルイズの秘められた能力に付いての予測も読み取れたが、今言うとアヌビス神自身にも不利益がありそうなので、独断で暈した。

「じゃあ性癖とかどう?」
「ちょっ、キュルケ!?」
 キュルケの質問を、今度はルイズが止めようとするが、アヌビス神はぺらぺらと喋る。
「よく胸が薄いのが好きなんだろうとか、ロリコンとか言われるが断じて違う!
 大きくても小さくてもおっぱいは良い物なんだよ。
 大小で良し悪し決めるとか頭悪すぎるんだ。
 おっぱいに貴賎なんか無い。おっぱいに貴賎無しなのだよ!
 大きくてぷるぷる揺れるのも良いし、ある程度の小ささが無ければ鎖骨からの流れるような美しいラインが活きない。
 あ、お尻とかも大好き。
 こんなん出たぞー?」
 流石に揃って眉を顰めたが、折角なので話しを更に掘り下げてみる事にした。

「じゃあ例えばキュルケのこれは?」
 ルイズが、反撃よとばかりにキュルケの胸を指差した。
「張り大きさ共に素晴らしい。恐らく弾力も柔かさを兼ねた上質な天然物。しかし、見えすぎているのは良くない。想像する事にも楽しみは含まれる。
 実は埋もりたい。是非お願いします!だとさ」

「じゃあタバサのは?」
 続けて指差されてタバサが眉を潜めた。物凄い嫌そうだ。
「成長途上ゆえの薄さがとても好み。過程を楽しめるということは、至上の利点であり美徳。なだらかさを楽しめない奴は死ぬべき。だからこそ吸ってみたい。
 後日是非お願いします。いや、多少強引にでもッ!」
 物凄い勢いでタバサが、大広間の端と端ほど距離を取って離れていった。

「……ルイズのは?」
 キュルケが、今の言葉に非情に微妙な表情をしているルイズを指した。
「素晴らしい!
 胸その物と共に鎖骨からのラインを最上に生かす事ができる大きさ。
 これを貧等といって馬鹿にする奴がいれば、価値が判らない以上生きる価値は無い、そいつは全力で殺す。
 摘んだりしたいし、実に舐めたい。いや舐める!舐めてしまおう!
 だと……。
 ま、まて、おれが言ってるんじゃないご主人さま。いや言ってるが考えてるんじゃない!」
 怒りで肩を震わせながら、デルフリンガーを抜き放ったルイズを見て、アヌビス神が慌てる。

「ついでにミス・ロングビルのを探るんだ兄弟!」
 抜かれるなり、いきなりノリノリでデルフリンガーが参加してきた。
「グレイト。あの、たゆゆん感は国の宝。失ったアルビオンは大馬鹿、そりゃ滅びそうになる。まさに護国おっぱい。
 揉むならアレ。しかしオールド・オスマンが唾つけてるんだろ?勝手にどうにか出来ないから。
 人の物に手を出す野暮は駄目だ。よく揉まれてるみたいだし、愛人だろ?
 あー、けど一回お願いしてみるかなァ?
 だとよ!」
「違うっ!断じて違うわ、違うのよーっ!って言うかさり気に関係を匂わせないでぇーっ!」
 血の涙を流す勢いで、フーケもといロングビルがそれを否定する。
 否定した後、又、穴に逃げ込んだ。フーケ、あたふたする姿をアルビオン貴族に見られっぱなしである。

「ついでにアンリエッタ王女の感想も言ってやろう」
 へへへ、と笑いながらのアヌビス神のその言葉に、ウェールズの耳がピクリと動いた。
「悪い形や大きさでは無いが、あれを喜ぶのは素人。バランス良く纏まった良質品だが面白みが少ない。だが見た事の無い乳首の形次第で、その評価は変わる」
「そうか……僕は素人か……」
「そんな事昔から判りきっておった事。己のおっぱい鑑定眼の甘さに気付いておらんかったのか」
 ジェームズ一世が落ち込みかけたウェールズに、活き活きとした声で追い討ちをかけた。パリーも隣で『昔からウェールズ殿下はおっぱい鑑定眼は甘うございました』と呟きながら頷いた。

 とてつもなく濃厚に、かつ拘り盛り沢山のおっぱい理論が飛び出してきた。それに大広間は騒然となった。
「な、何たるおっぱいソムリエ……。これは尊敬に値するッ!」
 思わずギーシュがぽろりと零す。
 その言葉に、その場の男性一同大きく頷いた。
 しかし、女性は全員ドン引きであった。

「皆の者、注目!」
 その最中、突然、ほろ酔い気味のジェームズ一世が手を叩いた。
「『ギーシュさん』には我が王家の一存で『シュヴァリエ』の称号をと思っておったが。ワルド子爵の為に一つの称号を新設しようと今決めた。
『おっぱいソムリエ』の称号を彼に与えようと思う!このことは後にトリステイン王家にも伝わる様に書状をしたためておく」
 ワルド、トリステインとアルビオンの裏切り者から、お墨付きのおっぱい鑑定第一人者扱いである。しかも意識が無い内に。
 本来、後があまり無い状況だっただけに、ジェームズ一世は妙にヤケクソ気味に気前がよくなっている。
 その上に、突然のこの窮地の打開の可能性の浮上、この上なくご機嫌で思考がおかしい。
 それはアルコールと脳内麻薬が引き起こした一つの狂気。

 ワルドが意識を取戻すと、男性陣から尊敬の眼差しを、女性陣から侮蔑の眼差しを向けられていた。
 アルビオン貴族(男性)たちが次々と握手を求めてくる。
 口々に何故か『おっぱい』と繰り返して居るのがとても気になったが、国王まで握手を求めてきたので、これは多分罪が許されたんだろうと判断した。
 ワルドは片手を、おー!と振り上げて声高々に宣言した。
「僕は『ギーシュさん』に忠節を誓い、アルビオン王党派の力となるぞー!」
 ギーシュが続けた。
「おっぱい子爵!」
「え?」
 その言葉にワルドがその言葉に目を丸くした。
 しかしアルビオン貴族(男性)たちが続ける。
「『ギーシュさん』が言うのならば、そうなのであろう!」
「「「おっぱい子爵!」」」
 口をぱくぱくさせたままのワルドを置きっぱなしにして、一同(男性)は斉唱する。
「「「おっぱい子爵!」」」
「おっぱいソムリエ!」
「「「おっぱいソムリエ!」」」
「おっぱい子爵!」
「「「おっぱい子爵!」」」

 ルイズは色々後悔した。


 さて、何かと横道にそれながらも、此処は追い詰められた王党派の居城であり、敵の攻撃までの時間も迫りきている訳で。
 そしてその最中、絶望を覆す対抗策が僅かに見えてきたのである。
 パーティは即刻取りやめられ、其の侭王党派総出での軍議となった。

 おっぱい子爵、もといワルドの言葉によると、今『レコン・キスタ』のトップである総司令官オリヴァー・クロムウェルは、勝利を目前としている為、確実に事を運ぶ為にもニューカッスル近くへとやってきているそうだ。
「クロムウェルは、自称『虚無』の系統の魔法を使いこなす。
 実際僕はあの様な魔法を見た事は無い。何でも命を司ると聞くが……」
「詳しい事は判らないのね?」
「ああ、この目ではまだ見た事がない。だが死者をも生者とし自在に操ると聞く。
 ってルイズ、何故そんなに離れているんだい?」

「やっぱり前に、話してた通りなのかしら?」
 すごいドライに無視された。視線も合わせて貰えなかった。
 そしてルイズは、あまりに自然な動作でアヌビス神に話しかけたのである。
「臭えなぁ……プンプン臭うね」
 アヌビス神が呟いた。
「そう?」
「わざわざ『虚無』ってアピールしてる以上、普通に説明できる魔法ではないってこった。
 疑問に思っていた、普通にはありえない魔法や秘薬って線はかなり強いと思うね。何度も言うが五万はありえ無さ過ぎる。
 誰か心当たりとか無いか?」

 その質問への答えは以下のようなものであった。
「水の秘薬であれば、水のスクウェアメイジであれば誰かが気付いた筈だ」
「我々に政治的隙が有ったとは言え、見知った魔法において、百人を越える者達が揃って何も気付かぬままにとはありえぬ」
「やはり、知識の及ばぬ『虚無』の系統、もしくは『先住』魔法に寄る物ではないだろうか?」

「スタンドって線は無いのよね?」
 話しあうアルビオン貴族らの、それらを聞きながらルイズは小声でアヌビス神へと話しかける。
「こんだけ大規模なスタンドエネルギー持ってる敵は考えたくないな。
 ありえたら勝ち目が無さ過ぎる」
 アヌビス神は心の中で付け加えた。『スタンド以外に心当たりは有るんだけどな。まー肉の芽とか吸血鬼はもっとありえないよな。DIO様が来てる訳ない』


 軍議は、二時間ほどに渡り続いた。
 決定した事は大まかに以下の通り
  • マヌケにニューカッスル上空を浮いている旗艦『レキシントン』を奪還する。
  • 方法は深夜の内にワルド子爵とアヌビス神の能力を持って、極力秘密裏に制圧する。
  • 乗組員が操作されていれば、艦トップを押さえれば良い筈。そうで無い場合も迅速に偽情報を持ってひと所に乗組員を集め無力化する。
  • 奪い返した旗艦『ロイヤル・ソヴリン』を、ニューカッスル上空に付け、戦力を移動。
  • その後、アヌビス神を伴ったワルド子爵がグリフォンで、クロムウェルの元へと向う。
  • 『レキシントン』奪還後、『マリー・ガーランド』には非戦闘員を詰め込み、早々に離脱。同時にニューカッスル城を放棄する。
  • 『イーグル』号はアルビオン下の雲海に待機。場合に寄っては『マリー・ガーランド』に敵の目がいかぬように囮となる。
  • これらの結果次第で、陣を張る場所を決定し、再度今後の検討をする。


 小一時間の休憩を挟み作戦行動準備へと移る事となった。
 現在は、戦闘に備えた本格的な栄養摂取、つまりはきっちりと食事を取っているところである。

 ウェールズは感服した。
 アヌビス神の力の使い勝手の良さに。心の底まで読めれば、本策戦の重要点を占める中核からの裏切り者は有り得ず。
 その為ワルド子爵を信用して扱う事ができる。例え彼が裏切ったままであっても、操り同じ策戦が可能である。
 軍とは、洗脳の有無は別として、結局頭が有って動くものだ。
 要所要所で、先手を取り動かれる前に軍の指揮系統のトップを支配下に置く事が出来れば、殆ど軍は動く事が出来ないのである。
 都合が良い事に、今『レコン・キスタ』の指揮系統を把握しているワルド子爵がいる。
「何たる恐るべき存在。まさに妖刀」
 篭もり抗戦し討ち死ぬ覚悟は押し流され、続けての玉砕の覚悟も押し流された。
 今目の前に提示されているのは、綱渡りながらも勝利の布石。
 それでも、もしかすれば自分は死ぬ事になるのかもしれない。
 だがアルビオンは生きる。最悪が失せた今、心がどこか晴れ晴れとしていた。

 その頃、再び穴から引っ張り出されたフーケは食卓に共につく羽目になり、物凄い勢いで、話しかけてきたアルビオン貴族を、グーでぶん殴っていた。
 ついでに『うむ!さすがおっぱい子爵推薦の極上おっぱいじゃ!』と手を伸ばしながらマジマジと胸を見詰めてきたジェームズ一世をぶん殴った。
 そもそも厳格で有名なジェームズ一世だった筈である。それゆえにフーケも辛い人生を歩む事になった訳で。
 思わず尋ねた。
「昔と性格違わない?行き過ぎたぐらいの厳格さは何処に消えたのよ」

「何分色々有ったゆえにの。あそこまで厳しくせず、兄弟を活かし共に有れば、アルビオンもこうはならずに済んだかと思えば……な。
 馬鹿らしい。厳格さのみを求めて何も残らずば、愚かしいのみじゃ。
 見よ、『ギーシュさん』を。厳格な裁きでなく『愛』ある許しでこうも事態を好転させる。隣人と手を取り合えぬ、許せぬ心など今日より捨てる。
 例え今日までの命で有ろうが、『愛』の世界に生きて散る!」
 熱く語りながら、胸に手を伸ばしてきたジェームズ一世を引っ叩きながら、フーケがジト目で彼を見た。
「しかし、これは愛ではなくて、スケベ心なのでは?」
「違ァーう!
 ……ん?まて、何処かで見た顔な気がするのじゃが」
 その言葉に、フーケは慌てて顔を背ける。
「以前をよく知っておるような物言いじゃったな?」
「さ、さささささ、さあ~?」
 裏返った声でフーケは慌ててわたわたし、その場から逃れようとする。
 そのフーケに後から抱き付いて制止しながら、ジェームズ一世はウェールズを呼んだ。
「父上?」
「このお嬢さんの顔に見覚えがあるのじゃが」
「言われてみれば……」
 フーケ、憎き王国の、前門の皇太子。後門の国王。しかも抱き付かれてドサクサに紛れて胸を触られた気がする。
 つくづく爺運が悪い女フーケ。
 慌て顔を背けたフーケの横顔をウェールズはマジマジと見つめた。
「ま、まさか……?」
 積年の恨みを持ち憎しみを向けてきた者に抱きつかれ、見つめられる女フーケ。
 ウェールズの声が震える。
「サウスゴータのッ!?」
「何と!」
 その答えにジェームズ一世も驚きの声を上げた。

「チッ」
 忌々しそうにフーケが舌打ちをした。
「そうさ!
 あんたの、その厳格さで何もかも失った女さ!
 ……って言うか胸を触るなァー!」
 フーケは又ジェームズ一世をぶん殴った。
「父上……。それは父上が悪いです」
 転がったジェームズ一世の肩を、ウェールズがポンポンと叩く。

「本当ならこんな所、来たくも無かったんだ!
 仇だからね!」
 フーケが声を荒げる。

 その騒ぎを聞きつけ、次々と人が集まってくる。国王に手を上げるなど、とんでもない事。例え恩人一行であれ、許される事では無い。
 そして当然のように、野次馬根性溢れる男もひょこひょことやって来た。
 先程までは、可愛い女の子に『あーんして』とかして貰いながら、色々食べさせて貰ってご満悦だったのだ。
 そして、その子に良いところを見せてやろうと意気揚揚でやってきたのだ。
 その男は『胸を触るな』の部分だけは、しっかりと聞いた。
「このめでたくも大事な時に、いったい何をしているのかね?」
 状況も面子も確めもせずに、薔薇の造花を格好付けて振りながら語る。
「フッ、女性を傷付けた以上。貴族としてのプライドと誠意とを持って、謝罪すべきだよ。それでこそ僕らは貴族なのじゃないかね。
 例えどんな理由であれ、女性を怒らせ泣かせる事は罪であるのだよ」
 自分の言葉に酔って、キザったらしく鼻を鳴らしてみたりしつつ、目を瞑り、薔薇の花の香りを楽しみながらも熱く語る。
「ぎ、『ギーシュさん』……これはその……じゃなぁ」
「言い訳は見苦しくないかね。
 何事があったにしろ、彼女の大切な物(おっぱい)を大いに傷付けたのは事実。さあ、潔く!」
 ジェームズ一世が肩をぷるぷると震わせた。
「つまりは、何もかも朕が悪かったと……。
 意固地さが、何もかもを傷付けたと。
 理由はどうあれ、例えそれが王の権威を持ってしたとしても、それが裁きで有ったとしても、他者を傷付ければ謝るべしと。
『ギーシュさん』はそう申されるのじゃな?」
「そうそう、ってチン?
 ……げ、げェーッ!国王陛下!?」
 目を開けたギーシュはジェームズ一世が相手で有ったと気付き、泡を吹いて気絶した。

「こ、これが『愛』の許しッ。
 許すからこそ朕らも許され……ッ、アルビオン王家も又『愛』によって救われるのじゃな!?」
 何をどう勘違いしたのか、ジェームズ一世は涙をぽろぽろ零しながら床に伏せった。おいおいと泣いている。
「ウェールズ!そして皆の者!」
 鼻水を垂らしながら、ジェームズ一世がしわがれた声を大きくあげた。
「アルビオン王族、そしてアルビオン貴族、総べての者を持って、サウスゴータの者に与えし傷に謝罪を!」

「え?え?ちょ、ちょっと?これ何?」
 フーケ、もといマチルダ・オブ・サウスゴータ、突然の想定外の展開に大慌てである。
 気付けばにっくきアルビオン王家一同、目の前で揃って土下座同然に自分に頭を下げている。

 ワルドが、もう小便ちびりそうなぐらいうっとり惚れ惚れとしたこの上なく良い表情でその光景を見つめている。
「これなのだよ、これ!『虚無』?クロムウェルは馬鹿だ。『愛』の方が凄いではないか。『虚無』では心は救われぬよ!」
 一人幸せそうに窓より天を仰いだ。

 そう、それは一つの奇跡。冗談のようだが紛れも無い奇跡。

「許しを請おうとも、ついた傷は癒されず、失った者は戻らぬ。
 しかし我々にできるは、こうして揃い頭を下げる事のみ。
 許せとは申しませぬ。ただ我々の、いや、このジェームズの謝罪の言葉、耳に留め置いて頂ければ幸い」
 その言葉にウェールズが続ける。
「攻められ、傷を負わされているように振る舞い、そう思っていたものの。
 我々とて、傷を付ける側にも有った事、それを気づかせてくれた『彼』」
「『ギーシュさん』じゃっ!『さん』をつけるんじゃっ!」
 ウェールズは、ジェームズ一世に突然すぱこーんと叩かれ突っ込まれた。
「こ、これは失礼。『ギーシュさん』に感謝を。
 そしてあまりに愚かであり、貴女を傷付けた事。
 父王だけが謝罪すべき事では無く。この皇太子も共に謝罪する事を、許さぬとも耳に留め置いて頂ければ幸いに思います」

「い、いいいいっ、今更そんな事言われてもっ、
 ど、どどど、どうしようも無いじゃないの!」
 マチルダ・オブ・サウスゴータは、未だ空きっぱなしのヴェルダンデの穴へと逃げ込んだ。
「ずるいわ、ずる過ぎるわ。そんな事されたらどうしようもないじゃないの。
 許せないのに、何も言えなくなっちゃうじゃ無いの」
 実際は既に複数人全力でぶん殴り、顔を腫らした貴族やら沢山いる訳で。国王の顔も彼方此方赤く腫れている訳で。
 しかし穴の中で、彼女はぐすぐすと泣いた。穴の中に潜んでいたヴェルダンデが、慰めるようにもぐもぐと鼻を擦り付けてきたので、それを抱きしめて泣いた。
 穴のの向こうから、『きゅいきゅいっ!(何時までここでいればいいのね?)』と聞こえてきた気がした。


「な、なぁ?ご主人さま。何この流れ。臭いんだけど。
 おれ、鼻は無いけど、鼻が曲がりそうだ」
「は!?何いってんだよアヌ公!『ギーシュさん』が凄いんだろうが!
 俺は見た事無いね!ここまで凄い奴は見た事無いね!
 あのブリミルだって、こうはいかなかったね!」
「ちょっ、待てよデリ公!流れは確かに凄いけどよォ。
 いや、マジで凄い気はするけどな?ギーシュはそこで気絶してるぜ?」
「『さん』を付けろワン公ーッ!」
 ルイズはデルフリンガーを床に突き立てて放置し、その場を離れた。

「駄目よアヌビス。まともに話しても駄目なのよ。
 世の中、流れってあるの。
 もう如何しようもない、何物にも勝る流れって有るのよ。
 流れに取り残された時は、静かに見守るしかないの」
「これが噂に聞く、絶頂とかって奴か……。
 何をやっても良い方向に結びつくという噂のアレか?」
「そうね。そんな感じだわ。普通は一瞬で流れて終わるんだけど」
 ルイズがアヌビス神相手にコソコソ話していると、キュルケが隣で言葉を付け加えた。
「ツェルプストー」
「なぁに?ヴァリエール」
「わたしたち、意外と友達になれるかも知れないわ」
「……同感ね」
「お、おれも仲間に入れてくれよッ!この中で取り残されるのは孤独だよォー」
 二人が顔も合わさず、声を交わし。アヌビス神が一人泣いた。


 そしてタバサが、ワルドと極力距離を最大に取った壁際で一人拍手を送った。
「『ギーシュさん』裁きお見事」




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