ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神・妖刀流舞-25

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匿名ユーザー

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 ニューカッスルにて、王党派が最後の晩餐に盛り上がる大広間。
 宴は未だ始まったばかり、そして哀しくもどこか明るく盛り上がりを見せていた。
 その最中、それは突然巻き起こる。

 一つの扉が乱暴に音を立てて開き、本日のゲストの一人である、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが転がり込んできた。
 その右の手には、城内のどこぞの壁に飾られていた装飾品の細剣、つまりはレイピアが、左の手には杖が握られている。
 文字通り転がるルイズを追って、白仮面に黒マントという怪しげな出で立ちの男が、その杖に風の刃を纏わせ現れる。

 その白仮面が黙って、杖を振り下ろし、ルイズは素早くも辛うじてといった感じにレイピアでそれを捌く。
 幾度となくそれは繰り返された事だと、レイピアの刀身が物語っている。
 装飾品でしか無いそれは、全体にヒビが入り今にも砕けそうである。ルイズの手足には、柔肌に無数の傷が走り、防戦一方で有った事を物語る。

 大広場はざわめきに埋め尽くされる。貴族らが次々と素早く杖を抜くが、稀有なる存在、スクウェアメイジであるらしき白仮面は、大広間を掻き混ぜる大竜巻を捲き起こした。
 貴族らは攻めあぐね、至近距離のルイズは跳ね飛ばされ、テーブルの上を転がる。
 その上に並ぶ豪華な料理を、酒を、巻き込み跳ね飛ばし、ガラスや焼き物の食器を砕き転がる。
 派手に物が砕ける高い音が次々と響き渡るが、その音も竜巻に飲み込まれ消え失せる。


 ウェールズは、廊下を妖刀と魔剣の二振りを手に駆け抜けていた。
「あいつ、さっき倒した筈なのに不死身かよッ!」
 妖刀アヌビス神がルイズとリンクした視界に映る白仮面に驚く。
「いや……先程も言ったが、あの男は『風』のスクウェアメイジ」
「成る程、『遍在』ってぇー訳か!
 だから、妙な手応えだったんだぁね」
 ウェールズの言葉に魔剣デルフリンガーが続けた。
「恐らく」
「なんだその『遍在』ってのは!?」
「所謂分け身だ。風は何処にでも存在する、ゆえにってなー。
 気を付けろよ兄弟、あれは厄介だ。分身だが一つ一つが思考し、本体と同等の力を持っているかんな!」
 走るウェールズの変わりに、デルフリンガーが説明をした。
「ま……実はさっき、ウェールズの頭の中見たから判ってるんだけどな?」
「俺も判ってる。お約束だ、言わせてくれよ兄弟」


 べろんべろんに酔っ払ったギーシュは考えていた。
 目の前の、この竜巻は何の出し物だろうか?
 す、すすす、スカートが次々に捲れあがって、け、けけけけけけ、けしからん!!怪しからんォ!ワインを勧めてくれた娘のスカートが次々と捲れ上がるッ!
 いやいや、そうじゃなくて、多分これは貴族派の嵐吹き荒れる、白の国アルビオンを象徴して表してる何かだね、うん!
 そうに違いあるまい。この風を打ち払う事で勝利をブリミルに誓う催しだね。
「では、僕も行かねばなるまい!なんてね。盛上げて然るべきだよ。そうは思わないかね。グラモン家の者としてやるべきなのだよ!」
 ギーシュは一人ぶつぶつ言いながら、席からすくっと立ち上がった。
「諸君ーっ!
 見ていてくれたまえっ!」
 一声上げ、しかし千鳥足で、スクウェアメイジが捲き起こした竜巻へと歩を進める。手に握られ、ゆらゆら揺れる薔薇の軌跡が美しい……気がする。
 アルビオン貴族等がざわめいた。
 国王ジェームズ一世も目を見張る。
「一人立ち向かおうと言うのか彼は!否『ギーシュさん』は!」
「友を救う為には、何者にも恐れず立ち向かう。
 成る程!これが噂に聞いた純粋なる『愛』!」
 王の言葉に、側に控えていたパリーも感激の言葉を漏らす。
 彼等の目には、何者もが手を出せぬ暴風吹き荒れる中、仮面の悪漢に追い詰められた一人の少女を救う為、己の身一つでそれに立ち向かうドットメイジの姿が映る。
 相手はおそらくスクウェアクラスであろうと言うのに。

 千鳥足のギーシュは流れる様に、いや文字通り“流される様に”風に飲み込まれた。

 丁度その時、ウェールズがその場に駆けつけた。
「な、なんと言う事に……」
 嵐吹き荒れる大広間にウェールズらは驚愕した。
「再度すまないが、任せるッ!」
 その言葉にアヌビス神がウェールズの身の主導権を得る。それと共にその柄のガンダールヴのルーンが燦々と輝きを放つ。
「俺の出番だーね?」
「おうよ。存分に喰らってやれデル公ッ!」
 轟々と吹き荒れる風の中を、その原因の竜巻へと一足飛びに突き進む。
 そしてデルフリンガーが風の大渦へと刺し込まれた。
 暴風が次々とデルフリンガーの鍔へと飲み込まれていく。

 ルイズは風で揺らぐ視界の向こうに、光を見た。それは見覚えのある光。
 己の使い魔アヌビス神の、『ガンダールヴ』のルーンが放つ輝き。
 目の前の白仮面の男が舌打ちをし、その輝きの方を向き直る。

 魔法の暴風はデルフリンガーに喰らわれ、どんどんと勢いを失っていく。
「おぉおおぉぉああぁああぁああぁぁーっ」
 そんな中、広場の者達は叫びを聞いた。何処か抜けた声、風に揺らされ遠くも近くも聞こえる声。
 最初より見守る、王や貴族らはそれが何者の物かを知っている。
 どさっと音を立てて、白仮面の真上にギーシュが降ってきた。
「うぼっあばばばばばっぼばぁっ」
「なっ!?んななながげがごごごっべぶっ」
 風で運動エネルギーを存分に得ていたギーシュの勢いに巻き込まれ、二人は声にならない声を上げながら、絡まる様にして床を転がる。
 その様に、場には拍手が巻き起こった。暴風の轟音を退け、それ以上の拍手と感嘆の声が巻き起こる。
 つまりは『ギーシュさん』が竜巻すらを利用し、悪漢を押さえ込んだのだ。彼等の視点的には!

 派手に転がった所為で、白仮面が外れ床に転がった。
「ワ……ルド……?」
 真っ先にそれに気付いたのはルイズであった。
 彼は慌て片手で顔を隠すが、それは既に遅し。
「くっ……まさかこの様な事で……いや、だからこそか。だがっ!」
 ワルドは呟くと、急ぎ立ち上がった。
「『エア・ニードル』!!」
 ルーンを呟き杖を振るい、風の刃を纏わせる。
 杖はそれと共に青白く光を放った。
「ならば、せめての一太刀、国王の命を頂く!」
 ワルドはギーシュが絡まったまま、一気に歩を進めた。

「ま、不味いっ、父上ぇーッ!」
 それにいち早く気付き、ウェールズが声を上げるが、身体を弱くしている国王ジェームズ一世が素早く逃れる事も出来る訳無く。
 その声に、反射的にウェールズの身体を操りアヌビス神が『仕方ねえな』と飛び出すが、更に別の遍在ワルドが二人、前に割って入ってきた。
「「ウェールズ皇太子、同じくお命頂戴する!」」
「クソッ!まだ居たのかよ!不味い、二人同時はまだ“憶え”て無い」
 アヌビス神は、突き出される二本の杖を、己の身とデルフリンガーを持ってして捌きながら吼える。
「さっき俺たちに負けたからって、二人掛りか?」
「そちらも実質は一人ではあるまい?」
 デルフリンガーの言葉に、遍在の一人が笑って答えた。

「ジェームズ一世、お覚悟!」
 ワルドが杖を構え、国王へ向けて一気に間合いを詰める。

「ご主人さまッ!」
 アヌビス神の言葉にルイズが、後ろからワルドへ細剣を……と行動を起こそうとした所で、更に一人のワルドが、上より降ってきた様に現れる。
「残念だ。何としてでも、きみだけは動け無くしてでも生かして逃したかった」
「ワルド、これは何のつもり?」
「哀しいかな……、これが僕の仕事でね」
 遍在のワルドは一瞬哀しげな顔を見せる。
 答えを全て聞く前に、ルイズは杖を振るい、狙いの定まらぬ小さな爆発を起こす。それは足元に転がる、鳥肉の塊を破裂させる。
 飛び散るソースや肉がワルドを襲い、ルイズは、その僅かな隙に細剣を突き出す。
「まさかきみが此処まで使えるようになっていたとは驚いたよ。
 本当に強くなったなぁ……」
「わたしも驚いてるわ」
「……だが未熟ッ!」
 遍在のワルドは青白く輝く杖で、ルイズが手にする細剣のヒビだらけの刀身を打ち砕いた。


「げ、げェーご主人さまもピンチかよ!」
 単純に向き合っての戦いは、例え力量が勝っていても、相手の数が増せば不利となる。それが意思を通じ合わせる相手とならば尚の事である。
 一人の杖を、『エア・ニードル』の魔法ごと憶えて斬り飛ばし無力化したものの、ほんの数十秒稼げば良いのだから、残り一人は杖への攻撃を警戒しながら魔法で牽制に入る。
 杖を持たぬ遍在の死角より、放たれる電光。
「やり方変えても『憶えた』ものを喰らうかっての!」
 しかしアヌビス神は、神速の斬撃を持って二振りを振るい、『ライトニング・クラウド』を散らす。
 憶えてはいるが、捌く必要ある。
 殺傷力の高い攻撃は、ウェールズの身体を犠牲にできぬ以上、充分な時間稼ぎとなってしまう。

 その間にも、身体に変に絡まった目を回したギーシュを引き摺り、本体であるワルドは国王を庇ったパリーを殴り飛ばし、一気に青白く輝く杖を突いた。
 ウェールズの目が見開かれ、腕に走る負荷による痛みも忘れ、父親の名を千切れんばかりの叫び声で呼ぶ。
 床を転がるパリーが届かぬ腕を伸ばし、王を救わんと足掻く。

 しかし、次ぎの瞬間ワルドとギーシュの姿は無かった。
 ジェームズ一世の前の床に、突然大穴が空いていたのである。

 その瞬間、遍在に動揺が伴い大きな隙が出来る。
 アヌビス神は一瞬を見逃さず、一気に杖持たぬ遍在の胴をデルフリンガーで貫き蹴り飛ばし、もう一体へとぶつけ出来たその隙に首を一息に撥ねた。
「ご主人さま、伏せろッ!」
 首を撥ねた後、斬撃そのままの勢いで身を捻り、一回転の勢いを持ってして、己自身をルイズに立ちふさがる遍在へと投げつけた。
 ルイズは声に反射的にその場に伏せる。しかし動揺したままの遍在には、その刹那の瞬間が命取りとなり、胴から真っ二つに切裂かれて倒れ姿を消した。

 穴の中が何やら騒がしくなり、少しして何者かが顔を覗かせた。
 フーケだ。
 彼女はキョロキョロと周りを見回した後、物凄い気まずい顔をして素早く首を引込めた。
「な、ななななっ、何で王宮にぃっ!?」
「どういう事?」
「モグモグモグ(ルビーの匂い辿ったけど、途中でご主人の匂いと音がしたからそっちに)」
「ヴェ、ヴェルダンデ?ヴェルダンデなのか?」
「あの騒ぎの後、追いついてきた」
 中でまた少し揉める様な声が聞こえた後、ヴェルダンデの背に掴まってギーシュが笑顔で現れた。
 続けて、打ち所が悪かったのか目を回したワルドが引っ張り出され、キュルケ、タバサと続けて姿を現した。
 タバサは穴から出た後、黙って出てきた穴の中を見つめている。

 広間に再び拍手と歓声が響き渡った。
「え、ええー。此方は僕の使い魔のヴェルダンデであります」
 ギーシュは酔ったまま、それはヴェルダンデの登場による歓喜の声だと思い、使い魔の頭を撫でながら歓声に答えた。
『うーん、流石僕のヴェルダンデ、中々盛り上がったようだ』と大満足で!

「さ、流石『ギーシュさん』だ。まさか潜ませていた使い魔を持って、国王の窮地を救って見せるとは!」
「正しく英雄!『ギーシュさん』はアルビオン救国の英雄!」
 貴族らが口々にギーシュへの賛辞の言葉を、拍手と共に送り続ける。

 アヌビス神を手放したウェールズは、ほっとした表情で腕をぶらんとさせたまま、小走りでジェームズ一世の元へと駆けつける。
 その両腕は既にボロボロであり、その場に居た水メイジが慌てて、治癒の魔法をかける為に集まってきた。

 ルイズは伏せてしゃがみ込んだまま、呆然とその有様を見ていた。
 その元へ慌ててキュルケが駆け寄ってくる。
「ル、ルイズ。あなた大丈夫なの?」
 ルイズが傍に転がるアヌビス神を『助かったわ。誉めてあげる』と労いながら拾いつつ、キュルケの言葉に答える。
「なんとかね」
「あ、あなた……ボロボロじゃないの」
「ちょ、ちょちょっちょっとっ!?」
 その手足が傷だらけの姿を見て、キュルケはぎゅっとルイズを抱きしめた。
 ルイズは顔を真っ赤にして、その行為に慌てた。

 ワルドは床の上に倒れ、転がったままぼんやりしていた。
 何処か夢見心地である。
 何が起こったのか。何をしていたのか。暫し考え理解した。
 この城に入ってからの事がゆっくりと脳裏を過る。
「つまり僕は失敗をしたのだな……。
 しかし『ギーシュさん』の手によってならば、それも本望か」
 最初に決めていた手順どおりに事を運べず、正直焦った。
 皇太子を暗殺し、ルイズを拉致しこの場を去ろうと思い行動に出たのだが、想像せぬ結果に終わった。
 あの手強い使い魔を持たぬ、魔法もまともに扱えぬルイズを捉えるは、易いと思っていた。だが彼女は思ったよりも手強かった。
 ウェールズ皇太子は襲撃時に、何故かルイズの使い魔である剣を持っており。その力は予測を圧倒的に超える物だった。

 ふと気付けば、ルイズが目の前に居た。起き上がろうとするが腕が動かない。
 どうやら、気を失っている間に後ろ手に縛られてしまったようだ。
「ワルド……何であんな事をしたのよ」
 ルイズは哀しげな目で訴えてきた。
「それは……僕が『レコン・キスタ』だからだ」
 その言葉に、広場中にざわめきが起こった。それでもワルドは続けた。
「僕の目的は……ルイズ、きみを手に入れ、トリステインとゲルマニアの同盟の障害となるアレを手に入れ、事上手く運べば、残ったアルビオン王族を亡き者にする事だった」
 ワルドは疲れた表情で、何処か遠いところを見つめながら、哀しげに言葉を紡ぐ。

 その間も、タバサがしゃがみ込んで穴の中を覗き込んでいる。中からフーケが手を振って必死にこっち見ないでと主張している。
「どうせ誰も顔は判らない」
「見るだけで殴り飛ばしそうなのが、何人もいるから無理!」
 それでもタバサは杖で、フーケをつんつんと突付いた。

「だが僕は失敗した。正直きみ等との道中の内に、『レコン・キスタ』に疑問が芽生えていたのだから……これもしょうがあるまいね」
「疑問?」
「気付いたんだ。
『レコン・キスタ』のやり口には、心を打つ物が無いのだよ。
 何者も踏み台でしか無い、自分を愛するが、他者を本当に愛さない。
 僕も、それは当然の弱肉強食だと思っていたのだがね」
 何時しかワルドの言葉を、広場の者たちは皆黙って聞いていた。
「あれだけの、勇気と無償の愛と、その業を目の前で見せつけられて心が動かぬ訳がない。
 この年で有っても、僕も男の子なのだよ。
 幻と思っていた、英雄的行為を見せられれば心も動く」
 ヴェルダンデを猫可愛がりして、すりすりと頬擦りしているギーシュをワルドは見つめた。

 酔っ払ったままのギーシュは、ヴェルダンデを存分に可愛がった後、『そろそろまたワインを飲みたいな、動いて喉も乾いたよ』と呟き立ち上がった。
「さて、ワルド子爵。存分に動いた事だし、僕と一杯やらないか?」
 言うと座り込んだままのワルドに手を差し伸べる。
 他意は無い、今一緒にパーティを盛上げたし、単純に旅を共にした同性は彼だけだったので、声をかけたのだ。

「『ギーシュさん』……、この僕を許すと?」
「へ?あんな、少々派手な小芝居で許すとか何を言ってるんだね?」
 勘違いしたままのギーシュは、あっけらかんと笑って答えた。
 その答えにワルドは大粒の涙を流した。

 完全に勢いだけで作られた寸劇に、アルビオン貴族等は飲み込まれた。次々と拍手が巻き起こる。
 これが劇ならば、スタンディングオベ―ションで大いに盛り上がっているところである。
「素晴らしい……、これが慈愛か。純粋なる『愛』か」
 目の前で命を救われ、感極まったままのジェームズ一世が、この勢いに感化され涙をぼろぼろ零しながら声を上げる。
「許そう!『ギーシュさん』とブリミルの名に置いて、ワルド子爵を許そう!」
 幾度目かの歓声が一気に巻き起こった。
「ギーシュさん!」「ギーシュさん!」「ギーシュさん!」
「ギーシュさん!」「ギーシュさん!」「ギーシュさん!」
「ギーシュさん!」「ギーシュさん!」「ギーシュさん!」
 お約束のように、声が揃った『ギーシュさん』コールが巻き起こる。
 ウェールズも父の恩人へと感謝を篭めて、手拍子を持って『ギーシュさん』コールを贈る。
「相変わらず凄い」
 トリステインよりの一行の中では、タバサだけが小さく拍手をした。

「な、なぁ……ご主人さま。これで良いのか?」
 とりあえず床に転がるデルフリンガーを拾いに動いた、ルイズへとアヌビス神が話しかけた。
「考えたら負けよ。考えちゃ駄目よアヌビス」
「け、けどよォ……明かにおかしいぜ。伝説の聖人じゃ有るまいし」
「い、いや……判ってねえな兄弟!『ギーシュさん』の凄さが判らないたー情けねぇや」
 ルイズはデルフリンガーを鞘の奥へ押し込んだ。

 そして拍手を贈るタバサの肩を押さえて、がくがくと揺さ振っているキュルケを尻目に、後ろ手に縛られた腕を解かれ立ち上がるワルドの前へと動く。
『どうしたんだい、早く出てきたまえ』とギーシュに引っ張り出されそうになりながらも、必死に抵抗するフーケの姿も見える。

「ねえ、ワルド」
「何だいルイズ?」
「わたし、あなたのこと嫌いじゃないわ。けどね……」
 ルイズは、苦笑いで答えるワルドを見据えて、はっきりと言葉を紡いだ。
「命を狙って無かったとしてもね。
 敵と宣言した人間に、拉致されそうになったり、手足折られそうになったのに、『はいそうですか』って相手の改心の言葉をあっさりと受け入れるような、お人好しじゃないの。
 だって、その場しのぎのでっち上げかもしれないわ。
 例え、それが古い馴染みでもよ?」
「ど、どど、どういう事だい?」
 ルイズは、ワルドの焦りもはらんだその言葉に答えず、アヌビス神へと声をかけた。
「アヌビス、久々にあんたに『許可』するわ」
 言うとルイズは、困った顔のワルドの手に、アヌビス神を握らせた。




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