ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-31

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 二回目の決闘騒ぎを無事に潜り抜けたジョセフだが、今も現在進行形で危険が迫っているのを忘れてはいない。
 アルビオンの貴族派が自分達の任務を把握しており、その妨害の為に動いている事。ラ・ロシェールの傭兵達が自分達を襲ってきた事。ワルドは任務以外に何らかの目的がある事。
 十中八九、ワルドは裏切り者か内通者のどちらかであろうという事。
 しかも旅の仲間全員にその事実を教える訳には行かないというのが、またも心労の種でもある。
 ルイズに教えれば、隠し事や曲がった事が嫌いな彼女のことだ。真正面からワルド本人に問い質しに行くだろう。ギーシュは口が軽い、下手に教えればいつ漏らすか判ったものではない。
 だがこの一行が命の危険に晒されているというのは変えようのない事実である。護衛対象に護衛されている事実を伏せたままの護衛という難易度の高い任務を前に、ジョセフは一つの答えを出した。
 決闘以後どこかに行ってしまったワルド抜きでの食事を終えたジョセフは、部屋に戻るとルイズにやおら切り出した。
「なあルイズ。どうせ今日一日時間があるんじゃし、ちょっと字ィ教えてほしいんじゃよ」
「字? アンタ、普通に会話出来てるじゃない」
「いやぁ、話す分にゃ問題はないんじゃが読み書きが出来んのじゃ。これから先、字が読めたりせんと不都合もあるだろうしな」
「うーん、そうねぇ……」
 その言葉にルイズは少し考える。ジョセフの言う事は尤もだし、教えることも吝かではない。だがやはりワルドの事が気にならないと言えば嘘になる。すぐにうんとは頷けない。
 だがそんな反応はジョセフには予想内の反応である。

「ああ忙しかったらいいんじゃ、キュルケかタバサに教え――」
「いいわッ! 教えてあげるッ! 平民が貴族に教えを請えるだなんて滅多にないことなんだから心して拝聴するのよッ!」
 二人の名を出した瞬間に態度を豹変させる主人の反応に、ジョセフはニカリと笑った。
(まあ何と言うか判りやすいと言うか単純と言うか)
 と言う訳で二人はラ・ロシェールの書店に出向き、ジョセフが傭兵達から巻き上げた金で何冊かの初歩的な文法などが乗っているトリステイン語の教本と紙束を買って来ると、改めて部屋でルイズの授業が始まった。
 だがここで問題が少し発生した。
 ルイズはどちらかと言えば厳しく教えるタイプで、ジョセフは努力とか頑張るとか言う言葉が一番嫌いなじじいだったのだ。
 始まって一時間もしないうちにルイズの怒声が何度か響き渡ったが、それでもジョセフは少しずつだが着実に字を学んでいった。ひとまずトリステインで使われている字を書けるようになり、発音もおおよそ出来る頃になった時には既に日は傾いていた。
 中庭では見事主人に追いついたヴェルダンデがギーシュに熱い抱擁を受けるのもそこそこにどばどばミミズをたっぷり食べてるのを見下ろしながら、二人は夕食前のティータイムを楽しんでいた。
「けっこう覚えが早かったわね、この分ならすぐに簡単な本程度なら読めるようになるわ」
「元の世界で使ってた言葉となーんとなく似てるからな。英語とフランス語くらいしか違わんかったような感じじゃよ」
 湯気の香る紅茶を飲みつつ、ジョセフは微かな違和感を感じていた。まるでコーラの炭酸がいつもより抜けているような、そんな些細な違和感。
 だが些細過ぎた為、(ま、気のせいだろなあ)で終わってしまったのだが。


「さ、夕食までまだ時間があるわ! せっかくだからこの童話の本くらいは読めるくらいにならないと!」
 と、物を教える喜びに目覚めたらしいルイズは意気揚々と本を広げ、ジョセフに渡す。
「うはァ、もう今日のところはこのくらいで勘弁してくれんかのォー」
「ダメよダメ! こういうのは一気にやっちゃった方がいいんだからッ!」
 教え方の違いはあれど、かつてエリナお祖母ちゃんに厳しく歴史と国語の授業を教えられてる時の気分を久しぶりに味わいながら、ジョセフは諦めて音読を始めた。
 めでたく本を一冊読み終えた直後にキュルケが明日の出発の前祝いだと宴会に誘いに来たが、すぐにも駆け出そうとしたジョセフの襟首を掴んだルイズが一方的に断ってしまった。
「ダメよダメ! まだ任務中なのに酒盛りなんてもっての他だわ!」
 言われてみれば非常にもっともな意見である。王女殿下から直々に受けた任務中に騒いでいられるか、という言葉の何処に反論出来るだろうか。
「えー……、ご主人様、今日一日頑張ったんじゃしちょびっとだけでも……」
 と、ジョセフが恐る恐る機嫌を伺ってみたりするが。
「ダメったらダメっ!」
 ルイズの有無を言わせない断言に、諦めざるを得なかった。
「じゃあしょうがないわね。来たくなったらいつでも来なさいよ?」
 キュルケもルイズとの付き合いは長いので、ルイズがこう言った時には妥協点がないということもよく知っている。ここで押し問答をしていたら宴会に参加できる時間が少なくなると判断したキュルケはあっさりと引き下がった。
「ああ……ちょっとくらい飲みたかった……」
 がっくりと肩を落とすジョセフに、さすがにルイズもちくりと罪悪感を持った。
「……しょうがないわね、じゃあ部屋にボトルと料理を持ってこさせるから。それ以上はダメよ」


 今までの落胆から一気に機嫌を上昇させたジョセフにやれやれと苦笑を浮かべながら、ハンドベルを鳴らして呼び出した使用人に用件を言いつけた。
「ああ、朝からずーっと勉強漬けじゃったからなァ~~~~。こりゃ料理もワインもうまいじゃろうな」
 大きく伸びをして、凝り固まった気分を解消していく。
「このくらいで弱音吐いてどうするのよ。私なんか毎日このくらい勉強してるのに」
「年取ると勉強するだけでも大変なんじゃよ」
 互いに減らず口を叩きながら、ふと窓を見やったジョセフが目を擦った。
「……おや? 月が見えんぞ……かすみ目か?」
 窓の外で煌々と光っているはずの月が、全く見えなかった。まるで何か巨大な物体が月を隠しているかのような状態だ。
「もう情けないわねジョジョ、いくら年寄りだからって……」
 ジョセフの言葉につられて窓を見たルイズも、同じように目を擦った。
 すると月明かりをバックに、巨大な影を形作っていた輪郭が動く。目を凝らして見ればそれは巨大なゴーレムだと判り、すぐさまゴーレムを操る主に行き当たった。
「フーケかッ!!」
 巨体ゴーレムの肩に立った人物は、長い髪を風にたなびかせながら、自らの名を呼ぶ二人に笑みを見せた。
「感激だわ。覚えててくれたのね」
「盗人稼業の次は傭兵か。もうちょっとまともなシノギをするべきじゃな!」
 ジョセフはデルフリンガーを構えながら、ニヤリと笑う。
 フーケはその言葉に、ギリ、と歯噛みした。
「誰のせいでこうなったと思ってるんだいッ!」
「お前のせいじゃろが、『土くれ』のフーケよ。自分のミスを人のせいにするなら、所詮貴様は他人に左右される程度のマヌケな人生だったってこったッ!」


 更に目を凝らしてよく見ると、フーケの隣に黒マントと白仮面の貴族が立っていた。傭兵達を雇ったのはこの貴族のことだろう。喋るのはフーケに任せているが、体付きからしておおよそ男のはず。相手の実力がわからない以上、闇雲に攻撃を仕掛けるのはリスクが高い。
 ジョセフはすぐさま判断すると、怒り狂ったフーケがゴーレムの腕を振り上げさせたのを横目に、ルイズを抱き抱えてすぐさま部屋を飛び出した。
 後ろでベランダを叩き壊したらしく轟音が響き渡ったが、それを見ることもせず一階へと駆け下りる。だが一階も既に戦場となつており、ジョセフは小さく舌打ちした。
 キュルケ、タバサ、ギーシュ、夕食には戻ってきたらしいワルドが魔法で必死に応戦しているが、多勢に無勢の言葉そのままに苦戦しているようだ。宿の外に陣取っている傭兵の数と言ったら、ラ・ロシェール中の傭兵をかき集めてきたのが明白すぎる数だった。
 床と一体化していたテーブルの脚を折って盾にしているものの、傭兵達はメイジとの戦いに慣れているようで、しっかりとキュルケ達の魔法の射程を見極めた上で射程外から弓を射掛けている。
 しかも暗闇を背にしている傭兵達に地の利があり、屋内の迎撃部隊には分が悪い。
 ジョセフはデルフリンガーを振り回して飛び来る矢を切り払いながら、素早くキュルケ達の陣取るテーブル裏へと飛び込んだ。
「おう。なかなか苦戦しとるようじゃな」
「見ての通りよ、大変だわ」
 軽口を叩き合うジョセフとキュルケ。
 他の貴族達は突然の襲撃に、カウンターの下に逃げ込んで震えているだけだ。
 戦力になるとは期待していなかったが、予想通り過ぎるのもつまらない。
「やっぱり来るとは思ってたけれど、なかなか盛大な歓迎だわね」
 キュルケの呟きに頷いたのは、ジョセフとタバサだけ。残りの三人はその言葉に息を呑んだ。

「そ……それはどういうことだいミス・ツェルプストー!」
 ギーシュが血相変えて詰め寄るが、キュルケは事も無げに返事した。
「あのねぇ、崖の連中がただの物取りなはずないでしょ? ちょっと考えれば判るわ」
 尋問した張本人は、言葉を返すことも出来ずがくりと肩を落とす。
「フーケがおるッつーことは、アルビオンの貴族がバックにいるんは決まりじゃな」
 石のテーブルに矢が降る音を後ろに聞きながらも、ジョセフは普段の調子を崩さない。
「彼らは断続的に魔法を使わせ、精神力が無くなった所で突撃する戦術と予想。私達はどう対処すべきか考えなければならない」
 タバサの言葉に、ギーシュは杖を持つ手を震わせながら言った。
「僕のゴーレムで防ぐよ」
「ムリじゃな。青銅じゃちぃと剣や矢を受けるには柔らか過ぎる」
 ジョセフの言葉に、ギーシュはムキになって言い返した。
「やってみなくちゃ判らないじゃないか!」
「ギーシュよ、その言葉には二つの意味があるな。やってみなくては結果がどうなるか判らないのか、判りきった結果でもやってみなくちゃ判らないのか。今のお前の言葉は後者の方じゃぞ。ちったぁ頭冷やせッ」
 有無を言わさずのゲンコツに、ギーシュは頭を抱えた。
「トリステインの貴族は口だけは勇ましいんだから。勇気と蛮勇の違いくらいいい加減辞書に載せてもらいたいものだわ」
 溜息混じりに言ったキュルケの言葉に頷いたのは、タバサとジョセフだった。
「――いいか諸君」
 ワルドが低い声で言い始めた言葉に、ひとまず耳を傾ける一行。

「このような任務は、半数が目的に辿り着けば成功と「却下」」
 ワルドの言葉を、ジョセフが一刀両断に切って捨てた。
「わしが向こうの親玉なら、傭兵どもを見せ札にした上で逃げ道を作る。そして馬鹿面晒して逃げてきたのを、待ち伏せさせている本命の部隊でとどめを刺す。戦力分断の愚で大敗晒した連中なんぞ歴史ン中にゃ掃いて捨てるほどおるわいッ」
 こんな時でも優雅に本を広げているタバサは、まだ本から目を離さずに頷いた。
「こういう時ゃ逆転の発想じゃ。ここで傭兵どもをブッちめて、全員で堂々と動く。見せ札の後ろにもう一枚抑えのカードを用意できるほど、アルビオンの貴族派連中はオツムが宜しくないようじゃからなッ!」
 ギーシュとルイズはワルドの言葉とジョセフの言葉の間でまだ迷いを捨てきれなかったが、キュルケとタバサはジョセフの言葉にすぐさま賛同した。
「私はダーリンにベットするわ」
「私もジョセフの意見に賛成する。ここで私達の戦力を分断させればそれこそ向こうの思う壺」
 半数の意見が『全員で迎撃』という意見に転がった直後、ジョセフは間髪入れずギーシュに言う。
「ここでヌーベルワルキューレじゃ! 目には目を、矢には矢を、じゃ!」
「だがジョジョ! 向こうは顔を出したところに矢をすぐ射掛けてくるんだよ!?」
「なぁに、こういう時にはこういう時なりの手段がある。とりあえず作ってくれ」
 と、ギーシュから続いて女性陣三人に視線を移した。
「誰か鏡持ってないか? 手鏡でいいんじゃが」
「それなら私が持ってるわ」
 と、肌身離さず持っている化粧道具の中から手鏡を取り出すキュルケ。

「うむ、それで十分じゃ」
 満足げに頷いたジョセフの横で、ヌーベルワルキューレが錬金される。
「さあ作ったよジョジョ! なんならもう一体作ろうか!」
 半ば自棄気味に怒鳴ったギーシュに、ジョセフはボウガンに弦を装着させて事も無げに頷いた。
「おう、もう一体頼む」
 弦を装着させたボウガンに初弾を装填させると、再びキュルケを見た。
「手鏡でちょーっとだけあいつらを映してくれ」
 その言葉でジョセフが何をしたいか察したキュルケは、いかにも愉快げな笑みを浮かべて手鏡を軽くテーブルから上げた。
 傭兵達の矢がなおも飛び来るが、テーブルからほんの僅かだけ覗いた手鏡を矢で射抜けるほどの名射手は傭兵達にはいなかった。
 テーブルから身を覗かせるヌーベルワルキューレには矢が集中するが、上半身に矢が突き刺さった程度ではワルキューレの動きが阻害されることも無い。
 トリガーを握ったジョセフは小さな手鏡に映った傭兵達を横目で見ながら、最初の一発――この戦況を変える切っ掛けの弾丸を、撃った。


 To Be Contined →

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー