ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

空条承太郎!貴族のルイズと会う ――(2)

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匿名ユーザー

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少女が、口づけを終えて一歩離れた。

「おい、テメェ、なんのつもりだ」

承太郎は少女を軽く睨み付けながら問う。
動揺はない。今更キス一つで狼狽える歳でもないし、
そもこんな色気もなくて尖るばっかりのガキに興味もない。

少女はきっ、とこちらを睨み付け、何も言わない。
承太郎は更に問いつめようと一歩前に出て、そして、

「む…っ?」

首の後ろに僅かな痛みを覚え、立ち止まったッ!
焼けるような痛みは一瞬で消え、霧散していく。
承太郎は無意識のうちに首の後ろを押さえる。異常はもう無い。

「ほう。これがこの使い魔のルーンか。
 星形、とは珍しいな。首の後ろとは、場所もまた『奇妙』だ」

と、いつの間にか背後に移動していた男が、承太郎の首筋にある痣をスケッチしていた。
しかしこの時、この男、ミスタ・コルベールはミスを犯していたのだッ!
まず第一に、この痣が『前から承太郎にあるもの』と気づかなかった事ッ!
もう一つのミスはッ!ルーンの焼き付けにもかかわらず『痛みがそれほど大きくなかった事』に気づかなかった事だったッ!
とはいえ、普段は物言わぬ動物を相手にしていること、また、契約後に痛みを感じるのはルーンの焼き付けだという常識の壁、
その二つが、ミスタ・コルベールのミスを誘発したッ!まさに避けられぬ『過ち』ッ!
この時誰も気づく事はなかった。そう、使い魔との契約『コントラクト・サーヴァント』が成功していなかったと言う事実にッ!

「さて、『儀式』は無事終了した。みんな、今日はここまでだ。解散!」


ミスタ・コルベールはそう周りの人間に言うと、とん、と地面を蹴って、
なんと、ああなんと、なんでもないかのように空を飛んだではないかッ!

「じゃあなルイズ。お前は『魔法』を使えないんだから歩いてこいよ!」
「俺は上、てめーは下だっ!」

周りの人だかりも次々と地面を蹴り、飛び上がる。
殆どはその身一つで空を飛び、あるものはなんだか分からないでかい生き物の背に跨って飛んでいく。
承太郎は内心驚きながらも飛んでいく人間を観察した。

――違う。スタンドは見えない。
彼らはスタンドを使って飛んでいる訳ではない。
どのみち、スタンドは1人に固有のものが一つッきり、『空を飛ぶスタンド』がこんなに居るはずもないのだが。
そう言えば先ほど『魔法』と言っていたが。

「おい、ガキ」

承太郎は先ほどこちらにキスした少女に、声をかける。
少女はきっとこちらをにらみ返すと、なにやら手にしている杖をこちらに向けて、叫んだ。


「口の利き方がなってないッ!
 使い魔は『下僕』!ならばふさわしい言葉づかいをしなさいッ!」

「知った事か、このアマ。
 訳の話からねぇことをぐだぐだ喋ってんじゃねぇ。ここは一体何処だ」

「ここ?ここはトリスティン王国のトリスティン魔法学院よ。
 それから、私は『アマ』じゃないわ。私の名はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!
 誇り高きヴァリエールの貴族!平民の使い魔程度が恐れ多いのよッ!」

こちらを怒鳴りつける少女、ルイズ。
その台詞を聞いて、承太郎は呆れた。呆れかえった。このまま歩いてうちに帰ろうと思った。
魔法学院、魔法、二つの月、知らない文化と地名。
分かりすぎるほどに分かる。全く、こんなベタな展開、今時ジャンプにも乗ってやしない。

自分は、魔法の世界に呼ばれたのだと、承太郎は理解した。
幻覚のスタンドの類が攻撃を仕掛けていて、自分はその術中に嵌っているのではないかとも考えたが――。
承太郎はタバコに火を付け、迷うことなく自分の手の甲に押しつける。ジリッと痛みが走り、火傷が残った。
幻覚ではない、目の前の光景は消えない。

「やれやれだぜ」

承太郎は押しつけたタバコをくわえた。
話を整理すると、自分はこのガキに召喚されて、使い魔とやらにならねばならぬらしい。
全くくそったれだ。

「行くわよ、あんた。ええと――」
「空条承太郎だ」
「じょう…じょう?変な名前ね。ジョジョ、でいいかしら」
「そいつは構わないがな」

承太郎はため息を一つつく。タバコの煙が広がり消える。
ルイズは自分の背後を杖で指し示した。
馬鹿でかい壁が見える。四方を見回して、その壁にこの広場が囲まれている事が分かった。
ここは中庭だろうか。

「ジョジョ、あんたにも説明が必要だろうから私の部屋へ行くわ。
 それから……」


ルイズは背後に向けた杖をぶん、と振るう。
杖の先が承太郎のくわえたタバコに当たり、タバコの葉の入った部分を吹っ飛ばした。

「私はヤニ臭いのが嫌いって言ったわよね?
 ふぁ、ファーストキスがタバコの味だなんて最悪よっ!」

杖をこちらの鼻先に突きつけ怒鳴るルイズ。
自分の台詞に照れているのか、その顔は、それこそ首の辺りまで真っ赤だった。
承太郎は加えたフィルターを吐き捨てると、そのまま『案内しろ』と視線で促す。
ルイズはその態度にひどく気分を害したが、ふん、と鼻を鳴らして踵を返した。

おっかない男だが、自分が喚び出し、契約出来たと言う事は、
自分の使い魔として『制御出来る』事は間違いがない。
制御出来ないなんて言うそんな事は、魔法の仕組みから考えてもありえない。
しかし、それにしても。

(視聴覚の共有が出来ないのは妙ね。まあ、人間の使い魔だからなのだろうけど。
 契約もなんだか繋がっている感じはしないし――ま、実際の『使い魔との繋がり』ってのはこんな程度って事かしら)

初めての使い魔召喚故の認識の錯誤。それに気づくのは、一体何時の事なのだろうか。
運命はけして語らず、ただ時を待つ……。


   ■----------------------------------------------■


ルイズの自室は意外なほど片づいていた。
承太郎は女の部屋に上がり込んだ事はないが、まあ、こんなものだろうか、普通は。

ルイズの説明は簡潔だった。
自分はメイジ――魔法使いの事だろうと承太郎は見当を付けた――であること、
承太郎は授業の一環で使い魔として喚び出された事。
そして「あんたに普通の使い魔の仕事は出来そうにないから、雑用をやってもらう」というシンプルな命令。それだけであった。
だが、当然承太郎にはそんな強引な申し出を引き受けるほどお人好しでもない。

「知った事か。てめーに従ってやる義理はねぇ」
「平民が生意気な事を言わないで!口の利き方に気をつけなさいよ!
 私達は『コントラクト・サーヴァント』で契約を交わした。魔法で『契約』した以上、覆す事なんて出来ないわよ」

不満げに言うルイズ。「こんなヤツを呼んでしまった私の方こそ災難だ」と言わんばかりの態度だ。

「俺を呼びだしたのが不満なら、とっとと首にでもしてくれ。
 こっちは元の世界に帰らなきゃならないんでな」
「あんたは私の使い魔として契約したのよ。たとえあんたがどんな田舎物だろうが、一度契約したからにはもう動かせない」

そこまで言ってから、ルイズはふと口をつぐんだ。
何か、今、この男は妙な事を口走らなかったか?

「元の――『世界』?」

目を丸くするルイズ。なんだそれは?
違う世界と言うことか?そんなものがあるのか?ファンタジーやメルヘンでもないだろうに

「俺の住んでる世界に『月』は一つしかねぇし、『魔法』なんてありゃしねぇ」

「魔法に近いものはあるが」という言葉は飲み込んでおく。
話がややっこしくなるだけだろうから。
ルイズは唾をごくりと飲み込んだ。僅かだが、顔が蒼くなっている。

「なんか証拠見せてよ」

承太郎は、しばし迷ってから、懐の学生手帳を投げて渡した。
この女に物を渡すのはいささか不安だが、帰る為には自分を喚んだらしいこの女に、ある程度の情報を与えねばならない。
ルイズは受け取った手帳をざっと眺めると、中身に目を通す。
よく分からない文字の羅列。意味は掴めない。それよりも驚いたのは、そこに描かれた承太郎の似顔絵(写真)であった。
小さい!そしてあまりにも精密!それは魔法ではない、不思議な技術の産物と思えた。


案外嘘ではないのかもしれない。異世界から来た、なんて冗談みたいな言い分は。
だが、何かのトリックかもしれないし、遠くの国にはあんな技術があると言うだけかもしれない。

だが、ホントに異世界から来たのだとしたら、それは凄い事ではないのか?
自分は、そんな凄い事が出来るのではないか?もう、誰にもゼロのルイズだなんて呼ばせない位凄い事なのでは――

(――何考えてるのよ、ルイズ。バカバカしいにも程があるわ)

あり得ない。異世界なんてのもそうだが、
『自分が突然凄い魔法が使えるようになる事』がまずあり得ない。


ずっと、『ゼロのルイズ』だったのだ。
努力を欠かした事はない。貴族の誇りだって誰にも負けない。
なのに、やっぱり、魔法は使えず、使用人にすら嘲笑われ、『輝ける未来』に到達する事はない。
負けないと心に近い、抗い続けているけれども、心のどこかが囁きかける。諦めろと。

「別に信じても良いけど、結局何も変わらないわよ。
 世界を超える方法なんて聞いた事もないし、使い魔の契約を交わした以上、もう逃げたりなんて出来ないんだから」
「ふざけるんじゃねぇ。はいそうですかと言う事を聞くとでも思ってるのか?」

承太郎が、逆らってくる。
他人に嘲笑われるような平民の使い魔ですら平然自分に逆らってくる。
腹が立った。猛烈に腹が立った。自分が無能な貴族だと悟られたような気すらした。

「うるさいっ!どのみちあんたを元に戻すなんて出来ないのよ!」

腹が立ったので、ベッドの上の毛布を投げつけた。
ばさりと広がる毛布を、承太郎が受け止める。

「――それはあげるわ。床にでも寝なさい」

震える呼吸を無理に整えて、ルイズは小さく言った。
なんて無様なんだろう。平民ごときにさえ、毅然とした態度をとれない。
こんなことでは『貴族の誇り』が泣いてしまう。

もう、疲れた。兎に角今日は寝よう。
明日、この分からず屋の使い魔に、ここのルールを教え込んでやらねばならない。
この『平民の使い魔』に。


ルイズは手早く服を脱ぎ捨てると、承太郎の足下に放ってやった。
「それ、洗濯しといて」
ぶっきらぼうに言い放ち、ネグリジェに着替える。承太郎には一瞥もくれない。
そのまま布団を被った。

メイジの力量を見るには、使い魔を見ろと言ったのは誰だったか。
ならば、『ゼロ』の自分には、この逆らってばっかりの平民程度がお似合いと言う事か。
泣きそうになった。まともに魔法も使えない自分が、改めて情けなくなった。

だけど、泣いてやるつもりはなかった。自分は『貴族』なのだ。
それをかなぐり捨ててまで、平民の前で泣く訳には断じていけなかった。



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『空条承太郎!貴族のルイズと会う ――(2)』 終わり

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