ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神・妖刀流舞-24

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匿名ユーザー

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 ワルドは悩んでいた。あの時ウェールズに話そうとしていた事は、自分への切っ掛けであり、ケジメ。踏ん切りを一気につける為の物。
 その筈だった。
 だが、それはアヌビス神の暴走発言により、タイミングを失ってしまった。
 考え込んだまま歩を進めると、窓際に一人いるギーシュの姿が目に入った。彼ならば相談に乗り答えを導いてくれるだろうか?
 ワルドは思いを少しぶつけてみる事にした。
「やあ、この様なところで一人かい?」
「まあね。
 って……ん?」
 深刻な面持ちのワルドを見て、ギーシュは疑問に思った。
「いや、少し聞いて欲しい事があってね」
「僕でよければ。果たして貴方ほどの人の話しを僕なんかがアドバイスできるか判らないけど」
「いや、この世で最もそれにたる存在だと僕は考える」
 ギーシュの謙虚な発言にワルドは強く頷き答えた。
「実はルイズに結婚を申し込もうと思った。そしてその婚姻の媒酌をウェールズ皇太子に頼もうとしたのだが……。
 ちょっとした事件が起こってしまってね。頼み損ねた」
 なんとギーシュはあっさりと答えた。
「それは良かった」
 と、それはもう、とてもあっさりと答えたのだ。
「な、なな、なぜそのような風に」
 驚くワルドに向って、ギーシュは何故判らないと驚いた顔を見せる。
「そりゃ、今のルイズは結婚まで受け入れる、心の準備が出来てないのは見て取れるじゃないか。
 恋人の関係に踏み込む事は出来たとしても、ブリミルに誓う愛には程遠い。ワルド子爵らしくもないミスを犯すところだった」
「つまりは断られるのがオチと。ウェールズ皇太子殿下の前で恥をかかずに済んだと」
「僕はそう考えるね」
 ギーシュの言葉にワルドは、その表情にショックをあらわにした。
 彼は黙り込んだまま暫し考え込み、『そうか』と一言残して何処とも知れず去って行った。

「中々言うじゃないか」
 ワルドからは、ギーシュの影に隠れて見えなかったアヌビス神が少し感心したような声を出した。
「ま、まぁ……常識的に考えて、昨日今日再会したばかりの人間に結婚迫られて、うんと頷く人はいないだろうと思っただけなんだけど?」
「それだけか?」
「それだけだね。幾ら僕でもそこまではやらない」
「あのワルドって奴焦って失敗するタイプか……」
「何か焦る理由があったのかも知れない」
 アヌビス神がそうやってギーシュと話しをしていると、ルイズがドカドカと不機嫌そうな足音を立ててやって来た。
「アヌビスはそこね?」
 その眼光に引くギーシュを無視して、ルイズはアヌビス神を引っ手繰るようにして奪うと、またそのまま足音を響かせてギーシュの前から去って行った。
「ひ、ひィ~、ご主人さま勘弁だァー」
 というアヌビス神の悲鳴を残して。


 乱暴に連れ去られたものの、ルイズの表情は意外や意外。
 それは淋しげな物だった。
 人気があまり無い所まできてから彼女は口を開いた。
「流石に言い過ぎだったわよ?
 けど許すわ。だってわたしも納得できないもん。
 正直なところ、わたしの思ってた事も言ってたし……」
「だよな?あんな奴首を撥ねて、とっとと殺っちまおうぜ」
「そこじゃない!」
「多分それは兄弟なりのジョークのつもりだ娘っ子」
 アヌビス神を床に叩きつけ様としたルイズを、デルフリンガーが宥める。
「つまんないのよ。空気読みなさいよ。
 で、あんたがさっき言ってた三百で五万に勝てる方法って?」
「有る訳無いだろうが!
 準備期間がありゃまだ考えは有るが、明日の朝までに五万をどうにかしろと言われてできるか!
 強力な爆弾も無いようなハルケギニアでどうしろと」
「おめーのいたとこにゃ、そんな物もあったのか?あの『破壊の杖』の親玉みてーなものか?」
「おう。うっかりするとアルビオン丸ごと焼き払えるな。五万は消し炭。二十万でも余裕かも知れん」
「すげーなそれ。始祖ブリミルの魔法よりも、すげーじゃねえか」
「しかも使った後も年単位で人が住めない上に、十年単位で人が死ぬ。時々、百メイルぐらいの大怪獣も呼ぶらしい」
「お、恐ろしい世界から来たんだな……、おめーを倒せるようなスタンド使いがうろついてる上にそれか」

「……で、有りもしない話しは置いといて、時間かけてあんたができるって言ったのは?」
 二振りが、明かに横道に逸れそうな回想シーンへと入りかけたので、ルイズはそれを制止した。
「いや、おれが向こうの指導者操ったら終わりじゃね?
 他の幹部は全部暗殺するから。
 何も五万人と戦うことは無いし。おれとしては全部斬りたいけど」
「き、貴族の誇りも何もあったものじゃないわね……」
「脳味噌がマヌケかご主人さまは。戦争は見えないところは誇りをかなぐり捨てた連中の方が恐いし強い。
 貴族派も多分そうやって、王党派を追い込んだんじゃないか?
 はっきり言って不自然だ。無茶な治世を引いた極限無能王への造反ならまだしもな。
 同じ次元の差別主義者どもが、此処まで都合良く反乱を起こせる筈が無い」
「そ、そんなものなの?」
 ルイズは一瞬腹が立ったものの、意外な程まともなアヌビス神の話しに聞き入った。
「ああ。急造組織が何で統率とって、統率取れてる軍隊相手に動けるんだよ。
 ここに来る船でウェールズが言ってたろ?
 奴等は、アルビオンで出来て当然の大陸下の雲海戦闘もまともにこなせない情けない練度なんだ。
 不意打ちで最強の旗艦乗っ取ったって、そんな連中がどうやって次々と勝てるんだ?他の連中が同調して裏切るんだ?」
「そうね、言われてみれば不自然な事だらけね」
「確かに、お人よしの王子さまの方が、業突張り貴族連中より普通に人気高いと思うね」
 ルイズとデルフリンガーがうーんと頭を捻った。
「最強だろうが戦艦一隻奪った位で戦争がどうにか成る程、世の中甘くないだろ?
 切っ掛けになったっつーが、普通なら直ぐに鎮圧されてる。
 ぶっちゃけ、五万は無理だが、あの戦艦なら、おれ明日一日で落とせるね
 長い間、アルビオンの治世が最悪で、それだけ鬱憤が堪ってたってのなら別だがよ。
 フーケの記憶でアルビオン王家にお家騒動は色々あったのは知ってるが、あれ位で国が引っくり返る訳無い。
 そうだろ?」
「そう……ね。多分あの位の話し、どこの国にでも長い歴史で一つや二つは有るだろうし。
 それ一つで国が引っくり返る訳ないわね。引っくり返るには敵にその……。
 同じ位の王族とか付いてて然るべきよね。けどその子は身を隠してるみたいだし」
「で、兄弟。おめー何か言いたい事あるんじゃねーの?」
「うむ。最初におれが五万をどうにかできる方法と、貴族派のやり方は同じだと考えた。だから少し警戒をしているんだが」
「つまり……アヌビスみたいに人を操る事ができる何者かが居るって事かしら」
「魔法でどうにかしてるとかありえないか?」
「心を操るポーションはあるけど、そこまで大掛かりにできるかしら?」
「スタンド使いの可能性も捨て難いが、正直射程距離が一つの国に及んで、こんだけ一変に操るパワーがあるってのは考え辛い。
 遠距離型でも自動型でも無茶だっての」

 この光景を何も知らない第三者が見れば、不気味な物と映ったであろう。
 手にした刀と背負った剣と、ぶつぶつ相談を続ける一人の少女。
 だからこそ、人気が無い城の外れまでやってきたのだから。

 それを不気味と思わない一人の男が、その場へとやって来た。
「興味深い話しをしているね」
 皇太子ウェールズその人である。先程アヌビス神に罵られた言葉が気になり、彼等を探していたのだ。
「こ、皇太子殿下っ!
 ま、ままま、まさかお聞きに?」
「断片的に、『レキシントン』を落とせるとの辺りから、何者かが魔法か何かで人を操っているどうこうと言う部分が聞こえただけだけれどね。
 お家騒動については……今は控えておく。どの話しかは判らぬが、その様な話しを追求している時ではない」
 焦り慌てるルイズを嗜めながら、ウェールズは哀しげに微笑んだ。
「突然では有るが、ラ・ヴァリエール嬢。そちらの、きみの使い魔たちを少しの間貸して貰えないだろうか。
 あの話しの続きと……『レキシントン』を落とせると言った事について話しを覗いたい」
 ルイズはその言葉に困り果てた。
「ど、どんな無礼を働くか判ったものでは……」
「いや、あれだけの苦言を呈する者がいてくれれば、アルビオン王家はこのような窮地には陥らなかっただろう。
 きみの使い魔は素晴らしい」
「も、もったいのうございます」
 ウェールズの言葉に、ルイズは深々と頭を下げた。
「では」
「はっ」
 二振りを恭しくウェールズへと差し出す。

「んじゃ行ってくる」
「じゃーな」
「では後ほど」
 ルイズは頭を下げたまま、遠ざかる声を聞いた。少し不安感を抱えて。


 さて、二振りを受け取ったウェールズは自室へと戻った。
 交わされるのは、操られている可能性についての確認、ウェールズの知りうる限りでの、裏切りの起こったタイミング。
 それを再認する。そして頭を抱えた。余りに隙だらけで有った事に。
 不自然な事が起こったのだから、人を疑わずとも事象は疑うべきであった。
「お前等真っ直ぐすぎる考えの貴族ってのは、どうにも相手が自分の常識で動くと思いがちだな。
 もっとも、相手が判らなけりゃ回避不能な事されてる気もするが」
「いやー、兄弟、なんか今日は格別に賢そうだな」
「お前がボケすぎなんだよ!
 六千年でボケたんだろう。五百年位がベストなんだ」
 時折起こる、二振りのぐたぐたした言い合いに苦笑しつつも、ウェールズは更に相談や思いの吐露を続けた。
「『レキシントン』を落とせるというのならば、それを教えて欲しい。
 一つ考えを改めた。確かに僕は死にたく無い。
 しかし死ぬしか無いのならば、打って出て、空軍大将として、奪われた旗艦と運命を共に―――――」
 その時ウェールズは、アヌビス神は、デルフリンガーは妙な気配に気付く。

 それは殺気。

 個室のドアが砕け弾け飛ぶ。

 ウェールズは素早く杖を抜き放ち、風の壁を作りだし、遅いくる風の塊を弾き飛ばした。
「あいつ生きていやがったのか!」
「あんだけボコボコにされて頑丈な奴だねえ」
 アヌビス神とデルフリンガーが驚いたようで、それでいて呆れたような声を上げる。
 果たしてそれは白仮面の男であった。
「知っているのか?」
「ああ、此処へ来るのに船に乗ろうとした時、あいつに襲われた」
 仮面の男は黙ったまま杖を次々と振るう。
 巻き起こる真空の刃が次々と、部屋の中を荒れ狂い、蹂躙して行く。
 ウェールズは慌てて机の影に身を隠す。
「強力な『風』属性のメイジのようだ」
「ウェールズ、あんたは?」
 机の上に乗せられた二振りへかけた訳ではない、独り言に近いその言葉にアヌビス神が質問で返した。
「『風』のトライアングル。それなりに強いつもりではある」
「相手はッ?」
「感じた手応えから察するに、僕よりも強力なトライアングル。もしくは……」
「もったいぶるなよ」
「スクウェアだね」
 ウェールズは少し微笑んで首を振った。
「ちィッ。そりゃそうだよな。何もバカ正直に時間通りに攻撃するとは限らんか。
 潜入部隊用意しといて、前もって厄介なのを殺しにきてもおかしくは無いか」
「で、皇太子殿下はあれどうにかできるのかね」
 デルフリンガーの言葉に、ウェールズは苦々しい顔をする。
「無理だ。逃げる事は可能かも知れないが。
 君等はどうなんだ。以前退けたそうじゃないか」
「おれ達は身体が無いと、どうにもならないんだ。
 ゴーレムか、乗っ取れる身体が無いとな」
 会話を続けるうちにもウェールズと仮面の男による『風』の打ち合いは続けられ。ついに机が粉々に砕け散る。
 二振りが床へと転がる。
「では僕の身体を」
「しかし人間乗っ取るのはご主人に禁止されている」
「アルビオン皇太子ウェールズとして、この僕の身体を使う事を『許可』する!
 後ほどラ・ヴァリエール嬢には僕から説明するッ!」
「け、けどよォ」
「意識は残して操れよ。乗っ取るんじゃなくて、身体を借りるだけだと考えるんだ兄弟ッ!」
 愚図るアヌビス神をデルフリンガーが叱咤した。
「ちっ。後で身体ガタガタんなっても文句言うなよ!」
「ああ!」
 ウェールズは風の壁を作りだした後、転がる様にして、僅かに離れた場所にあるアヌビス神とデルフリンガーをその手に取る。

 風の壁を挟むようにした部屋の半分で、仮面の男の捲き起こした竜巻が荒れ狂う。強力なそれは瞬く間に風の壁を取り込み、部屋を巻き込む竜巻となる。
「「アヌビス神!デルフリンガー!ウェールズ皇太子殿下二刀流!」」
 その中アヌビス神とデルフリンガーの声が響き渡った。
「流石皇太子とは言え軍人!良い身体だァー!」
 ウェールズの目の前で己の身体は己の物では無く、自在に動き部屋を荒れ狂う竜巻を、双剣を持ってして斬り裂く。
 右の妖刀が魔法の風を真空の刃を斬って打ち消し、左の魔剣が魔法の風を喰らいて飲み込む。
「そうだぜ!思い出した兄弟!俺は魔法を吸い込めるんだった」
「なんと……」
 部屋を荒れ狂う竜巻が瞬く間に散され、ウェールズはその強力さに驚きの声を漏らした。

 仮面の男が竜巻に続けて、『ウインド・ブレイク』を放つものの、それはあっさりと、既にその魔法を『憶えて』いるアヌビス神に切裂かれ、デルフリンガーに喰い尽くされる。
「無駄だ無駄!無駄無駄無駄無駄無駄ァ!
 お前の風の魔法は、もう殆ど憶えてるからな!」
 その言葉にも黙ったままで、仮面の男は杖を振るう。
 アヌビス神は素早く床を蹴り、仮面の男を床すれすれから、己をもって斬り付ける。
 しかし、仮面の男は斬撃に対し恐怖を感じていないように、身を掠めるほどに身体を逸らし、ウェールズの身体を蹴りつける。
 操られるウェールズの身体が、咳き込むもそれを物ともせずにデルフリンガーの腹で仮面の男の脚を殴りつける。

 これほどに苦しいとは!ウェールズは呼吸を無視して動く身体に、心の中で悲鳴を上げる。
 泣き言の合間に、ウェールズは焦げ臭さを空気が放っているのに気付いた。
「く、来るぞ。稲妻の魔法」
 ウェールズが口にするのと、電光が至近距離で走り抜けるのは殆ど同時であった。
 そしてウェールズの目にその光景が飛び込んでくるのも同時。

 右の妖刀が神速でもって、稲妻の軌跡を斬り裂く!そして左の魔剣が、散され、ぱちぱちと騒がしい、弾ける雷光を貪欲に喰らう。
 仮面の男の表情は騒がしく、自信たっぷりの笑みから驚愕のそれへとめまぐるしく変わった。
「例え電気だろうが、遅えーッ!」
 次ぎの刹那、上段より稲妻を斬って捨てたアヌビス神自身を持ってして、仮面の男の杖を斬り飛ばす。
「ご馳走様だ!」
 仮面の男が杖に気取られた、その瞬間にはデルフリンガーが乱暴に腹に叩き付けられ、骨が粉々に砕ける鈍い音がウェールズの耳にも入ってくる。
 そのまま仮面の男は、吹っ飛ばされ先程アヌビス神が投げ捨てられた窓から外界へと消えて行った。
「手応えは充分にありだな」
「ああ……、その筈なんだが、なーんか妙な手応えだったかねぇ」
 アヌビス神とデルフリンガーが交わす言葉を、ウェールズは呆然と聞き、そして呟いた。
「これは……無事アルビオン空軍を再建できた暁には、メイジであろうとも剣を学ばせねばならんね」
「生きる気満々じゃねーか!」
 デルフリンガーがその言葉に笑った。
「おや?」
 ウェールズが思わず苦笑する。
「それがこいつの本音なんだからな。
 言って無かったけどな、おれは操った相手の考えてる事は何もかも判るんだ」
「……はは、言うのが遅い。
 しかし身体は痛いが、面白い。目の視界の他にも何か視界が有るようだ」
 アヌビス神の視界を共有し、その奇妙さにも面白がって笑うウェールズ。
 されと笑顔に反し、彼の心の奥底は泣いている。
 建前や責任、そしてプライドの下にある部分は、逃げて逃げてアンリエッタに逢いたいと。

 流れ込むウェールズの心に、何とも言い難い気持ちでいると、突然視界が一つ増えた。
 アヌビス神の視界に、何故か城内の何処かが浮かび上がる。
「な、なんだこりゃー?」
 それは逃げ惑うルイズの視界。倒した筈の白仮面の男がルイズを追い詰める。その光景だと直感的に理解する。
「こ、これは?」
 アヌビス神と視界を共有している、ウェールズも驚きの声を上げる。
「見えたなら判るな?この城は手前の庭だろうが」
「なら任せたッ!」
 アヌビス神は身体の主導権をウェールズへと返す。
 その途端に身体に一気に押し寄せる負荷。ウェールズの全身の筋肉が泣き、骨が悲鳴を上げる。
 しかし、ウェールズはそれによって出そうになる声を飲み込み、壊れたドアから廊下へと飛び出した。


 ルイズは走り、逃げ回っていた。
 一人このニューカッスルの城内を。
 追い縋るは、白仮面に黒マントの男。船に乗る前に確かに倒した筈の者。
 勝て無いのが判る、アヌビスかワルド、せめてギーシュがいないと逃げ続ける事も適わない。
 しかし、意外な位、脚は動いた。一年前の自分では有り得ないほどに足腰は強くなっていた。

 つい僅か前、アヌビスらと別れ一人居る所に、この白仮面が突然現れた。理由は判らないが自分を攫おうとした。
 腕を押さえられ、壁に追い詰められ、腹に一撃を受けそうになった。その刹那、自分でも予想以上に身体が軽く動いたのだ。
 押さえつけられ壁に固定された両腕、そして背負った壁、それらに重さを預け、両の脚を浮かせ、白仮面の男を蹴り飛ばした。

 逃げながらルイズは少し理解した、操られていても、身体は徐々にだが覚えていったのだと。達人の動きは、僅かながらにも身体に刻み付けられていた。
 曲がり角や柱を利用し、打ち出される風の塊を必死にかわし床を転がる。
 せめて、パーティーの会場まで逃げなければならない。
 今あそこには人が集まっている、ここは王城。人が集まれば自ずと高位メイジもいる筈なのだから。
 転がりながら素早く杖を抜き放ち、兎に角思いつくままに適当にルーンを唱える。対象定まりきらぬそれが、仮面の男の側の柱を爆破する。
「ま、魔法は、やっぱり今まで通りよね」
 その隙に態勢を立て直し、立ち上がる。
 仮面の男は杖を青白く輝かせ、それでもって降り掛かる瓦礫を斬り飛ばす様にする。
 男は先程よりも素早く、間合いを詰めてきた。
 杖の軌跡は、手足を狙っていると何と無く判る。先程の思考を思い起こす。魔法は今まで通り、達人の動きを身体が覚えている。

 ルイズは壁に掛っている装飾派手派手しい細剣へと飛びついた。


 さて、ここはパーティー会場。今は皇太子を、来客であるルイズやワルドの登場を待つのみである。
 しかしながら異常に盛り上がっていた。この上なく盛り上がっていた。
 敗北と全滅を目の前にしていながら、その盛り上がりは、殆ど戦勝モードである。
 老いた王も、この勢いに飲まれ、耄碌を通り越してとんでもない事を言い出した。
「諸君!よく判らんが、明日のは戦いは勝てる!
 いやホント、よく判らんが勝てるに違いない!」
 臣下らも、それに呼応する。
「そうですぞ陛下!」
「何故ならば!何故ならば!何故ならば!」
「うむ!この王も明日は打って出る!
 若かりし頃の如く、身体が軽い気がするのである!
 我らには、それほどまでに始祖の祝福が今日あった!」
 程よく酒が回り、そこに不安や哀しみが入り混じり、更に一人の噂のあのお人が現れたため、なんだかわけがわからない方向に事が進んでしまったのだ。
 結果、彼等の脳内では『何らかの形で勝てる』らしい、という事になってしまった。
「そう!我らにはッ!」
 王、ジェームズ一世が両の手をすっと天高く掲げ一言高く叫ぶ。
「『ギーシュさん』!!」
 この場に揃った貴族らが声高く続ける。
「「「ギーシュさん!ギーシュさん!ギーシュさん!」」」

 若い女性達に勧められ、上機嫌でワインをがぶがぶ呑み、べろんべろんに酔っ払ったギーシュ。
 右の手に薔薇の杖を振り、左の手にワイングラスを掲げ、笑顔で答えた。
 薔薇の花びらが花吹雪と散り、それに応じ、会場はより一層盛り上がる。
「「「ギーシュさん!ギーシュさん!ギーシュさん!」」」
「「「ギーシュさん!ギーシュさん!ギーシュさん!」」」
「「「ギーシュさん!ギーシュさん!ギーシュさん!」」」

 ギーシュ・ド・グラモン。パーティーを盛上げるのとか、かなり得意。




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