ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神・妖刀流舞-23

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匿名ユーザー

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 ルイズたち一行は、軍艦『イーグル』号へと移動し、『マリー・ガランド』号を伴いニューカッスルの城へと向った。
 進路は真っ直ぐニューカッスルへとは取らず、大陸の下側へと潜り込む様に迂回した。

 ニューカッスル上空は奪い取られた、かつての旗艦『ロイヤル・ソヴリン』改め『レキシントン』によって封鎖されてるとの事。
 その事をウェールズ皇太子は微笑みながらも、何処か口惜しそうに語った。

 巨大戦艦『レキシントン』、その姿は余りに雄大であり、舷側に構えられたの大砲、艦上に舞う無数のドラゴン。それらが強大な戦闘力を物語っている。
「備砲は両舷合わせ百八門。おまけに竜騎兵まで積んである。あの艦の反乱から、すべてが始まった。因縁の艦さ。
 さて、我々のフネはあんな化け物を相手にできるわけもないので、雲中を通り、大陸の下からニューカッスルに近づく。
 そこに我々しか知らない秘密の港があるのだ」

「どう思うね、アヌ公」
「やり方次第か」
 ルイズの背と腰より、その戦艦を見ていた二振りが小声で語り始めた。
「落とせると思うって事か?」
 小声で、何時もよりも真面目な声で、デルフリンガーが『レキシントン』を見る。
「乗り込めれば、確実にやる自信はあるね。
 真上にでもある程度近づける手段と、後は乗り込む時に頑丈な身体って所か」
 アヌビス神も小声で答えた。
「ま、船じゃ無理だろうな。丈夫な身体も青銅のゴーレム程度じゃぜってえ無理だ。それも確実に敵がメイジと水兵だけならだ。
 その条件ならおれとお前でやれる。脱出に上手い事ドラゴンでも捕まえれりゃ完璧だな」
「成る程ねぇ。まー俺たちなら其の侭落っこちても平気だしなぁ」
 話しを続けていると、眼前から巨大戦艦は姿を消し、雲に包まれた。
 突然の暗闇に慌てたアヌビス神がわーわー騒いでいると、ウェールズが笑いながらご丁寧に、大陸が頭上に有るので日が入らない事。
 そして視界がゼロに等しく、簡単に頭上の大陸に座礁する危険があるため、反乱軍の軍艦は大陸の下には決して近付かないのだと説明してくれた。
「先に言っとけ!首を跳ねるぞボケナス風ひきタコ王子!」
「こ、この無礼者ぉー!」
 逆切れをしたら、ルイズの怒りの声が聞こえ、暗闇の中で突然甲板に叩き付けられた。

 しかもマストに灯した明かりだけで、足元が殆ど見えないのにも関らず、的確に足の裏がアヌビス神へ向って飛んでくる。
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
「何をするだァーご主人さま」
「黙りなさいこの犬!相手を弁えなさいよ!」
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
「人じゃないか。特に首を跳ねたら紛れもなく、同じ死体じゃないか」
「だから物騒なことは言うなー!」
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ

 小声で交わされるルイズたちの珍行動を余所に、ウェールズは笑いながら説明を続けた。
「地図を頼りに、測量と魔法の明かりだけで航海することは、王立空軍の航海士にとっては、なに、造作もないことなのだが。
 貴族派、あいつらは所詮、空を知らぬ無粋者さ」
 ひたすら闇の中でぼてくりまわされ、アヌビス神がそろそろ考えるのを止めようか。と思ったところで、突然眩い明かりが辺りを包み込んだ。
 その瞬間ルイズは素早く、動きを止め器用に足だけでアヌビス神を跳ね上げ手に取って腰に収めた。
 デルフリンガーが『おでれーた』と言ったとかなんとか。

 さて、そこはニューカッスルの秘密の港。そして明かりは真っ白い発光性のコケのものであった。
「ほほ、これはまた、大した戦果ですな。殿下」
 出迎えに現れた、背の高い老メイジと兵士たちを前にし、ウェールズは今回の戦果だと、『イーグル』号に続けて入港してきた、『マリー・ガーランド』号を指し叫ぶ。
「喜べ、パリ―。硫黄だ、硫黄!」
 その言葉に歓声が巻き起こる。
 火の秘薬である硫黄があれば、我等の名誉を守れると、おいおいと泣きに泣いた。
 その姿を見、ウェールズはにっこりと笑った。
「王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ、敗北することができるだろう」
「栄光ある敗北ですな!この老骨、武者震いがいたしますぞ。してご報告なのですが、叛徒どもは明日の正午に、攻城を開始するとの旨、伝えて参りました。
 まったく、殿下が間に合って、よかったで……ん?」
 そこでパリ―と呼ばれた老メイジは、一部の兵隊たちがウェールズの後方に控えている者を指してひそひそ話しをしている事に気付いた。

 一人や二人では無く、あちらこちらでぽつぽつとそんな様子が見られた。
「はて?」
 目を凝らして見ると、見覚えの無い者が三名ほど目に付いた。
「殿下、その方たちは?」
 パリ―の問いにウェールズが答える。
「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で、王国に参られたのだ。
 そして恐らく兵士たちのあの反応は気付いたのだろう」
 ウェールズがギーシュをさっと横に引っ張り出した。
「パリーも少しは聞いた事があるだろう?
 近頃トリステインからの噂には常にある『愛』の人の事を」
「は、はぁ……。少しでしたら耳にした事がございますが。所詮は噂話。噂が噂を呼び膨れ上がってる類の物かと。
 何者もが心強く有る訳ではございませぬ。何かに縋りたい者たちがそのような英雄を夢想する事もございましょう」
「フフ、私も最初はそう思ったよ。だが彼こそはまごう事無き『ギーシュさん』!噂は本当であったよ。
 何しろ彼の一声で、貴族派との取り引きを行っていたあの船の者達。揃って涙を流し、我等が側へとついてしまった!」
 その話しを聞いた、兵士たちが声をあげた。
「『ギーシュさん』!本物の『ギーシュさん』だぞー!」
「本当の本当に存在したんだな!」
「一度やってみたかったんだ俺!
『ギーシュさん』!!『ギーシュさん』!!」
「「「ギーシュさん!ギーシュさん!ギーシュさん!」」」
 一人のコールに続けて、次々とコールが巻き起こる。
 そして、やたらと盛り上がった。
 パリーは少し呆気に取られている。
 ウェールズは『凄いなぁ』と顎に手を当てて笑いながらも感心している。
 ワルドは、ドサクサに紛れて兵士と一緒になって『ギーシュさん』と両手を上げて叫んでいる。
『マリー・ガーランド』号の船員達も下船してきて、一緒になって大声で『ギーシュさん』コールを繰り返している。
 ルイズはさっさと船から下りて、壁に付いている光ゴケを興味深そうに指でなぞっている。
 背中のデルフリンガーがつられて『ギーシュさん』と叫んだので、鞘に厳重に押し込んでおいた。
 ギーシュは何のことか良く判らなかったが、これは多分、姫さまの大使へ最上の礼だと考え、薔薇の造花の杖を素早く振り翳してその歓声に応えておいた。
 今、ニューカッスルが秘密の港は、作り上げられて初めて、風に舞う薔薇の花びらによって美しく彩られた。


 さて、騒ぎも一段落したところで、兵士たちに熱く見送られながら港を後にし、ウェールズに付き従い、ルイズとワルドは城内の天守の一角にある彼の部屋へと向った。
 ギーシュだけは、兵士たちに囲まれていた為、ウェールズが皆を励ましてやってくれと頼み、それに応じ別の方へと進んでいった。

 そこは王子の部屋とは思えない、質素な部屋であった。
 椅子に腰掛けると、机の引き出しを開き宝石が散りばめられた小箱を取り出した。そして首から外したネックレス、その先にあった小さい鍵で箱を開ける。
 蓋の裏にはアンリエッタの肖像があしらわれていた。
 そこより取り出された一通の手紙、ウェールズはそれに愛しそうに口付けし、ゆっくりと読み始めた。
 何度も何度も、手に取られたと思しき手紙は、ボロボロで。それを見ただけでルイズは胸が熱くなった。
 最後に読み返すと、ウェールズは再びその手紙を丁寧にたたみ、思いを封じ込めるように封筒に入れ、ルイズへと手渡した。
「これが姫からいただいた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」
「ありがとうございます」
 ルイズは深々と頭を下げ手紙を受け取った。

「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号が、ここを出航する。それに乗って、トリステインに帰りなさい」
 ルイズは、その手紙をじっと見つめていたが、それでもどうしても言いたい事があり、口をゆっくりと開いた。
「あの、殿下……。さきほど、栄光ある敗北とおっしゃっていましたが、王軍に勝ち目はないのですか?」
 ルイズは躊躇うように問うた。しごくあっさりとウェールズは答える。
「ないよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。我々にできることは、はてさて、勇敢な死に様を連中に見せることだけだ」
「殿下の討ち死になさる様も、その中には含まれているのですか?」
「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」
「殿下……失礼をお許し下さい。恐れながら申し上げたいことがございます」

 言葉を数度交わし、一番言いたかったことを意を決して口にする。
「ただいまお預かりしたこの手紙の内容、これは……
 この任務をわたくしに仰せ付けられた際の姫さまのご様子、尋常ではございませんでした。そう、まるで、恋人を案じるような……。
 それに、先程の小箱の内蓋には、姫さまの肖像が描かれておりました。
 手紙に接吻なさった際の殿下の物憂げなお顔といい、もしや、姫さまと、ウェールズ皇太子殿下は……」
 ウェールズは微笑んだ。ルイズが言いたい事を悟ったのだ。
「確かに、この私と従妹のアンリエッタは恋仲であったよ」
 そしてウェールズは額に手を当て悩んだ表情を見せ、一瞬黙り込むがそのまま続けた。
「その手紙も彼女より私への恋文だよ。
 そしてアンリエッタが手紙で知らせたように、この恋文がゲルマニアの皇室に渡っては、まずいことになる。
 何せ彼女は始祖ブリミルの名において、永久の愛を誓っているのだからね。
 この手紙が白日の下に晒されたならば、彼女は重婚の罪を犯したも同然。
 ゲルマニアの皇帝は婚約を取り消すに違いない。
 そうなれば、なるほど同盟は相成らず。トリステインは一国にて、あの恐るべき貴族派に立ち向かわねばなるまい」

「おれが人間だったらむしろ横から他人の心をずばァーっとぶった斬る感じでそれはそれで有りだな!」
「ま、マジか兄弟!」
「純愛なんざ一刀両断!これが今のブーム」
「異世界は一味違うねェ。こいつはおでれーた」
 ルイズは己の背面の不遜者をスルーした。この手の輩は相手にすると喜ぶのだ。

「殿下、亡命なさりませ!トリステインに亡命なされませ!」
 ワルドがそんなルイズを止めようとするが、彼女はそれでも食い下がり必死に訴えた。
「お願いでございます!わたしたちと共にトリステインにいらしてくださいませ!」
「それはできんよ」
「殿下、これはわたくしの願いではございませぬ!姫さまの願いでございます!
 姫さまの手紙には、そう書かれておりませんでしたか?
 わたくしは幼い頃より姫さまの事を存じております。その気性もよく存じております。
 殿下!姫さまは多分、手紙の末尾であなたに亡命をお勧めになっている筈ですわ!」
 ウェールズは首を振った。
「そのようなことは、一行も書かれていない。
 私は王族だ。嘘はつかぬ。姫と、私の名誉に誓って言う」
 ウェールズの苦しそうな口振りから、ルイズは己の指摘が当たっていたことがうかがえた。
「アンリ「しかしながら、亡国への大使としては適任かもしれぬ。明日に滅ぶ政府は、誰より正直だからね。
 なぜなら、名誉以外に守るものが他にないのだから。
 そろそろパーティの時間だ。きみたちは、我らが王国が迎える最後の客だ。
 是非とも出席してほしい」

 突然、そのウェールズの声を斬り裂く不遜者があった。
「くっだらねえー!!」
「げ、お、おい兄弟」
 このタイミングでいきなりかよと、口を挟むデルフリンガーを無視してアヌビス神は続けた。
 何時もよりもきつく、強い感情が篭もっているかのような言葉で。
「自分に酔ってんじゃねえよ!何がパーティだ、何が最後の客だ?
 名誉しかない?なら何負けを決め込んで、非戦闘員を今更になって逃がしてんだよ。
 逃がすのがおせえよ。名誉だってんなら空賊なんかしてんじゃねえ!」
 ルイズはその叫びを止めようと動く事ができなかった。
「守るものがない?非戦闘員を守るのは名誉の為だけなのかよ。
 そんなチープな考えしてっから裏切られんだよ。
 名誉に死ぬならパーティーなんかしてんじゃねえ。
 セコイ篭城戦なんざな、おれに言わせりゃ不名誉に極みだね。
 小屋の中の鶏だ、臆病な雌鶏だァー!
 くっだらねえ事してる間に打って出て前向きに死ね!
 攻められる前に攻めろよ。非戦闘員がいるからできないだァ?
 そんなん、明かに撤収させるタイミング間違えたミスじゃねえか。
 空賊してる間に何度逃がせたよ。ミスを誤魔化す為に名誉だなんだと言い訳してるんじゃねえ。」
 浴びせられる暴言に表情が強張るウェールズを無視して、アヌビス神は言葉の刃で斬り付け続けた。相棒のような乱暴な言葉で斬り付け続けた。
「やり方次第じゃ三百対五万でも充分勝てらァ!」

「まあ……亡命されなくて助かるのはトリステインかもしれねーが。
 王族が消えて、こんな下らない反乱起こす欲の皮の突っ張った貴族連中に、未来永劫支配される事になるこの国の民はどうなるんだろうねえ」
 デルフリンガーが、荒れに荒れて叫ぶ相棒を見兼ねて口を挟んだ。
「自分の名誉と、好きな女の名誉が気になってよ。手前んちの国民の心配も出来ず、自信を持った治世敷けねえ王族は縮こまって死んだ方がマシだな!
 心配なのは城の中だけかっての。屑!屑!
 この屑屑屑屑屑屑!!
 今からおれが首撥ねてやらァー。名誉の処刑と行こうぜ」
 ルイズは、どこか心に引っ掛かる物もあったので、黙って聞いていたものの、あまりに度が過ぎてきたアヌビス神を黙らせる為に、慌てて窓から放り捨てた。
 ウェールズは表情を強張らせていたものの、突然涙を流しながら笑い転げた。
 大慌てのルイズの謝罪の言葉を聞きながら、彼は笑い続けた。
 ワルドは切り出そうとしていた話題を切り出すタイミングを完全に失ってしまい考え込んだ。

 その頃、人々に揉まれて疲れ果て、一人窓際で夜風にあたりながら一休みしていたギーシュ。
 彼はいきなり頬を掠めるように飛んできた妖刀があわや直撃という、今まででも最大級の生命の危険を経験した。
「何で、おれあんな事言ったんだろうな?ギーシュよォ」
「いや、その、なんだ。
 いきなり飛んできたんだよアヌビス、きみは!
 それなのに判るわけ無いだろう……」
 確かに気には食わなかった、だが何故あそこまで感情的になってしまったのか、アヌビス神は少し頭を悩ませた。




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