ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神・妖刀流舞-21

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匿名ユーザー

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 出発を翌日に控えている今日であるが、実にグタグタ状態である。
 ワルドは胃から出す物を出して、ベッドでぐったりと伸びている。
 傍ではバツが悪そうな表情でルイズが看病をしている。何しろ自分が勧めた模擬戦でこんな事になってしまった訳で……。

 ロングビルも同じく大部屋のベッドで伸びている。此方はワルド程ダメージが有った訳では無いが、気持ち悪い物は悪いらしい。
 その横で椅子に座ったタバサが本を読みながら、時々水を差し出している。
 アヌビス神とデルフリンガーは水洗いされ、窓際に日乾しにされぶら下げられている。
 ギーシュはずっと椅子に座ったままいびきをかいている。

 汚物塗れのアヌビス神とデルフリンガーの二振りを洗う羽目になり、キュルケはかなり憂鬱である。物凄い割りを食ってるのは決して気の所為ではない。
「そ、そもそもあたしは何をしに来たんだったのかしら……」
 泣き言で喧しい二振りを拭いて干し、続けてワルドとロングビルの衣服の洗濯を宿に頼み、やっとで臭い仕事から解放されたところだ。
 あまりにやってられないので、まだ昼前だが一杯やる事にして一階の酒場へと向う。
「確か、ギーシュはまだ酒場で転がってたわよね。叩き起こして相手でもしてもらおうかしら」
 何だか凝った肩をぐりぐり回し、首をぐきぐき動かしながら酒場へと。

 相変わらず椅子で居眠りをしているギーシュがいた。そして何故か回りに子供の人だかりができている。
「知ってるぜ。こいつ『ギーシュさん』だぜ。すごいえらいらしいぞ」
「うちの母ちゃんが『ギーシュさん』はブリミルより凄いから拝んどけって」
「貴族だけどすごい『愛』に溢れてて優しいって」
「婆ちゃんが『ギーシュさん』拝んだら長生きできるって」
「騙されるなよお前等、こんなだらしない奴、ただの駄目貴族にきまってるじゃん。ヨダレたれてるし」
「今なんていったよお前。『ギーシュさん』って呼ばない奴は夜オーガがやってきて頭からばりばり食べられちゃうんだぜ」
「そうだよ。『ギーシュさん』を馬鹿にする奴はエルフに攫われて、皮を剥がされちゃうんだよ」

 キュルケは部屋に戻って飲むことにして、くるっとその場でターンした。

 しかし部屋で待っていたものは、何とか寝付いた物の悪夢にうなされるロングビルことフーケと、窓際にぶら下げられて日乾しにされブツブツ五月蝿いアヌビス神とデルフリンガーと言う何とも言えない図であった。
 とても飲める環境ではない。タバサはどこかに退散してしまったようだ。
 この任務とやらの事情を知らない、タバサと自分だけがまともな気がする。
 これは何らかのカモフラージュだろうか?それとも実は大した任務では無い?頭をそうよぎった。

 仕方ないので中庭へ行って見る。
 しかし、まだ鼻にツンとくる酸っぱい臭いが残っていた。日光でその臭いがこれまた不快感を刺激する方向で変化し立ち込め、そして生温かく漂ってくる。
 とても街一番の高級宿とは思えない有様だ。
「日が暮れるまで適当に街で時間を潰すしか無いわね……
 きっとタバサも流石にどっかに逃げてるわね。探すとしましょ」
 キュルケはフラフラとした足取りで、ラ・ロシェールの街の探索へと出掛けて行った。


 さて、一日中殆どの面子がダラダラと過ごし、いよいよ出発前夜となった。
 窓際に吊るされたアヌビス神とデルフリンガーをそのままに、全員が一階の酒場で夕食を取っている。
「『スヴェル』ってのが月と月が重なる晩って奴だっけ?」
 アヌビス神は隣にぶら下っているデルフリンガーにふと話しかけた。
「ああ、でもってその次の日がアルビオンがここに一番近づくらしいぜ」
 その声に黙ってぶら下っていたデルフリンガーが鍔をカタカタ鳴らした。
「しかし、月二つってのはどうにも馴染むまねえな、おれ」
「おめーのいた所は月が一つしかねえんだっけか。その方が俺は実感がねーな。
 それはそうとよ相棒。昼間のあのワルドとやった時に、なんか思い出せそうになってな」
「そういや魔法の時になんか言ってたな。おれはおれであの時面白い事に気付いたな」
「へぇー何だ?」
「魔法も物によったら憶えて斬れる気がする」
「物ってえと?」
「前から気にはなってはいたんだがな。
『固定化』掛った物も何か良く判らんが憶えられていたからな。形がある程度ある物は多分いけそうだ。見える形のエネルギーなら何か行けそうな予感がする。
 つっても、あの手のちっさい風の話しだけどな。どでかい竜巻なんか斬れてもどうにかなる規模じゃ無いしな」
「へぇー、そいつぁすげーな」
「多分だけどな。あとデル公。おめーが気になってるのは多分、おれが今言ってる話しに近いと思うぞ。おそらく魔法だぜ」
「な、なんでだ?」
「あの時空気の塊を斬った時に、憶えて斬ったのとは別で手応えが妙だった」
「へ、へえー!流石だぜ兄弟!その手の事は本当に実に判ってるね!」
 デルフリンガーが驚き感心したかのように、高い声を上げた。
「多分魔法を弱める力でもあるんじゃないか?」
「言われてみれば、なんかはっきり思い出せそうになってきたぜ。多分それに近い何かにちげーねえ。
 全く、今まで組んできた中で一番おもしれーやね、おめーって奴は」
「そりゃおれの居た世界でも、刀剣同士がコンビを組んでるなんて見た事も聞いた事も無い。正直不思議な気分だ
 魔法が無いからおれみたいな存在はかなりレアだったからな」

「変わりにスタンドって不思議な力が有ったんだろ?」
「あのネズミ見たから理解してると思うが、スタンドってのは汎用性が薄いんだ。個人の個性に併せた特化的だ。
 おれみたいな存在が生まれるには、それこそ刀剣に対して異常なまでの執着があって、更にスタンドの質が何か他の物質に憑依できてだ。
 でもってその時何らかの力を対象に付与できて、更に使い手が死んでも能力が残りって条件を満たした一人が現れないと駄目だ。
 しかもスタンド使い自体が滅多に現れないからな。無理矢理スタンド使いにする道具もあるが、あれで目覚める事ができる奴も稀だ」
 少しだけ淋しそうにアヌビス神が夜風に揺れた。
「ところでよ。アヌ公、おめーはその元の世界に帰りたいとは思わねーのか?」
「全く思わ無いな。正直500年で充分だ。斬りあいは殆ど無くなったしよ。数百年もありゃ飽きるのは判るだろ?」
「まーなぁ。うん、その手の気持ちが理解できる仲間ってのは正直こそばゆいかも知れねーな。
 間違いねえ。俺だって立場が逆だったら無理に帰ろうと思わねえかも知れねーな。それにしてもアヌ公、おめー実はずっと淋しかったんだろ?
 おめー結構淋しがりやだしな。孤独は嫌だとか叫ぶしよ」
「う、うるせえ!」
 デルフリンガーにてがわれてアヌビス神は黙り込み、ただ夜風に揺れて、一つになった白い月明かりを映すだけとなった。


 一階の酒場の面々は酒場であるのに、今回は誰も酒に手をつけていなかった。
 ワルドとミス・ロングビルは『もう酒は暫らく結構』と口を揃え、キュルケは『今日はもう飲んだから要らないわ』とのこと。
 ギーシュは誰も飲まないのなら別に今回は要らないと言った風。タバサとルイズも似た様な感じである。
 ワルドは何故かハシバミ草のサラダを摘んでいる。
 少しマジな目と微妙な表情で『何度も口にしてたら段々病みつきにね……』と注文する時に語っていた。
 タバサの服装が寝間着から、妙にふりふりの付いた可愛らしいものに変わっていた。
 どうやら街でキュルケに着替えさせられたそうだ。『あなた……その格好で日中街をうろうろするのはどうかと思うわよ』と言われたとか。

 そろそろ食事も終わろうか、そんな時突然、完全武装傭兵の集団がドカドカと乗り込んできた。
 皆が客にしては随分と物々しい格好だなと思っていると、入り口で突然陣形を組み、矢を射掛けてきた。
「危ない!」
 ワルドが素早く、杖を抜き放ち風を捲き起こし矢を吹き散らす。
 その声に反応した、ミス・ロングビルが素早くテーブルの下に潜り込み、床と一体化している脚を『錬金』で崩し、テーブルを横にして矢からの盾にした。
「随分とやりなれているね」
 彼女はワルドの言葉に『たまたまですわ』と返し、反応が遅れたギーシュを引っ張り込んだ。
 テーブルの影から様子を覗うと、傭兵の数がとんでもなく多い。
「な、何よあの数……昼間街で見かけた殆どの傭兵が襲ってきてない?」
 キュルケの言葉に、タバサがこくりと頷き同意した。

 どうやらメイジとの戦いにも慣れている歴戦の傭兵達のようで、少しテーブルの影から魔法で応戦しただけで、こちらの間合いを見切り、魔法の射程外から矢を射ってくる。
 外の暗闇をも利用してくるその戦いは巧みで、まともに標的を絞るのも難しくあった。
 テーブルの影からしか応戦が出来ない状況はあまりに不利であった。
「参ったね」
 ワルドの言葉に、キュルケが頷く。
「やっぱり、あれはこの前の連中と同じ仮面の男に雇われているのかしら。
 ……やつらはちびちびとこっちに魔法を使わせて、精神力が切れたところを見計らい、一斉に攻撃してくるわよ。そしたらどうすんの?」
「ぼくのゴーレムでふせいでやる」
 ギーシュがちょっと青ざめながら言った。キュルケは淡々と戦力を分析して、言った。
「ギーシュ、あんたの『ワルキューレ』じゃあ、一個小隊ぐらいが関の山ね。
 相手は手錬れの傭兵たちよ?
 そりゃ、アヌビス神があればどうにかなるのかも知れないけど……」
「駄目ね……部屋に干しっぱなしよ」
 息巻くギーシュを押し退けてルイズが溜息混じりに答えた。
「た、確かにあれならどうにか出来てしまいそうでは有るが」
 ワルドがあの無茶苦茶な動きを思い出す。
「無い物をねだってもしょうがない」
 タバサがこんな状況でも本を開いたまま呟いた。

「いいかい諸君」
 ワルドは低い声で言いながら全員を見回す。
「このような任務は、半数が目的地にたどり着けば、成功とされる」
 タバサは開いていた本をぱたんと閉じてワルドの方を向いた。
 自分とキュルケを指差す。そこでミス・ロングビルが、その手を取って自分を指差させる。
 それも確認した上でタバサが『囮』と呟く。
 それからワルドとルイズとギーシュを指差して『桟橋へ』と呟いた。
「ぼ、ぼくもかい?」
「アヌビス神にはゴーレムがあったほうが良い」
 ギーシュにそう答え『今すぐ動くべき』と全員を促がした。
「では二階で回収した後、其の侭裏に面した部屋の窓から抜けよう」
 そのやり取りにルイズが驚いた声を上げる。
「今からここで彼女たちが敵をひきつける。せいぜい派手に暴れて、目立ってもらう。その隙に、僕らは桟橋に向う。以上だ」
 不満げなルイズにキュルケが唇を尖らせて言う。
「ま、しかたないかなって。あたしたち、あなたたちが何しにアルビオンに行くのかすら知らないもんね」
「わたくしはこの方が都合が良いですから」
 ミス・ロングビルがそれに続け、タバサも頷いて答えた。
「で、ではお互い無事を」
 ギーシュが薔薇の杖を小さく手先で掲げ、ルイズはキュルケ達に小さく頭を下げた。
 そして三人は低い姿勢で階段へと走り込む。その間タバサが風の防御壁を張り矢を防いでくれた。
 階段を駆け上がる途中、酒場の方から派手に轟音が響いてきた。

 二階の大部屋へ入ると、窓から外の様子を見ていた二振りが騒いでいた。
「ご主人さま、ありゃ敵襲だな?」
「そうよ」
 一言そう答えると素早く、二振りを鞘に納め背と腰に帯びる。その動作に我ながら随分と慣れてきたなと一瞬思うルイズであった。
 そして、そのまま裏に面した部屋へと駆け込み、ワルドが窓から外の様子を覗う。
「よし、誰もいないようだ」
 言うとワルドはルイズを脇に抱え、『フライ』を使い一気に外へと飛び出す。ギーシュもその後に続いた。
「桟橋はこっちだ」
 ワルドを先頭に駆け出す。途中ギーシュがワルキューレを『錬金』し、アヌビス神とデルフリンガーを持たせ、それをしんがりとした。


 三人が二階へと向ったのを確めると、残った三人が顔を見合わせる。
 ミス・ロングビルがメガネを外し懐へと入れた。
「さて、じゃあ久しぶりに本気で暴れちゃおうかしら」
 キュルケが手鏡を取り出しながら『どう攻めるのかしら?』と尋ねる。
「フフッ、こんな時のわたしのやり方は充分に承知してるんじゃなくて?」
 化粧を直すキュルケに、フーケの表情を取戻して妖艶に笑いかける。
「あ……ああー、そうね」
 キュルケは今までに聞いた噂や実体験を思い出す。
 つまりは力技だ。国中の貴族を震え上がらせたアレだ。確かにこの土くれのフーケはそれだけの実力を持ち合わせている。
 実力を隠す必要のある相手も今は居ないのだから尚更だ。
「確かに風、火、土のトライアングル三人いれば力技で派手に行っても大丈夫かも知れないわね」
 厨房の油でも使おうかと考えていたキュルケは、少し戦略を考え直した。
 考え直したと言うよりも、戦略は消え強引な力技に変わったのであるが……。
「それじゃいくわよっ!」
 フーケが杖を振り、岩盤の床をぱんっと叩く。
 すると宿の中に地鳴りが響き渡り、テーブルの向こう側で何かが盛り上がる。
「ゲェッ!」と叫び声が傭兵達から零れた。
 部屋いっぱいの巨大なゴーレムが現れ、見る見るうちに更に巨大化しながら腕を振るい、天井を、壁を、突き破り傭兵達を纏めて宿から叩き出す。
「この土くれのフーケを敵に回したこと、たっぷりと後悔させてあげるわ」
 蹴散らされる傭兵の姿を見てフーケはフフンと鼻で笑う。
 キュルケはその姿に、思わず小さく口笛をひゅうっと吹いた。
「まったく、敵だと厄介だけど、味方になったら……」
「頼りになるでしょう?」
「爽快ね」
 言うやいなやキュルケは、たんっと跳び出し、更に身体を大きくしながら外へと向うゴーレムの背を駆け上る。
 そして肩の上に立ち、優雅に髪をかきあげて、杖を掲げる。
「名もなき傭兵の皆様がた。あなたがたがどうして、あたしたちを襲うのか、まったくこちらとら存じませんけども」
 ゴーレムに蹴散らされながらも、統制を取戻し傭兵たちは矢嵐を降らせる。しかし、それらはタバサが放った風の魔法が全て吹き散らしてしまう。
 キュルケは微笑を浮かべて一礼した。
「この『微熱』のキュルケ、謹んでお相手つかまつりますわ」
 言葉に続け杖を振るうと、業火の塊がゴーレムの頭上に現れる。
 業火が地へと叩き付けられ、そして次々と放たれる炎が、地に打ち据えられ炸裂し燃え盛る。
 そして、矢を吹き散らす為にタバサの捲き起こした風が、炎を煽り荒れ狂わせる。

 夜の闇の中、吹き荒れる炎嵐の中で暴れる巨大なゴーレムの前に、ついに傭兵達は恐慌を起こし、統制を失い叫び声を上げながら蜘蛛の子を散すように逃げ出し始めた。
 キュルケはゴーレムの肩で、高笑いを上げる。
「快感!これ病み付きになりそう」
 高所のアドバンテージを活かし、逃げ惑う傭兵たちへ向けて次々と火の玉を叩き込む。
 闇の中、炎に照らしだされ浮かび上がる動く舞台の上で、キュルケは高揚し酔いしれた。


 キュルケがフーケ操るゴーレムの上でうっとりとしている頃、ルイズらは桟橋へと走っていた。
 先導するワルドが建物の間にある階段へと駆け上がる。
「何だ?上に行くのか?」
 アヌビス神が疑問を言葉にする。
「そうだぜ。アルビオン行きの船は上……っておめー知っててわざと聞いただろ?」
「いや、よく考えれば傭兵どもから、記憶も穿り出して知ってるんだけどな。
 初めての事だから思わず口にしただけだ」
 デルフリンガーとぶつぶつ雑談をしながら後を追って階段をがっしょんがっしょんと駆け上がる。
「しかし実際に見ると、知ってはいてもくる物はあるね」
 階段を上ると丘の上にでた。そこには巨大な樹が四方八方に枝を張り巡らせているのが見える。かつての世界では見た事も無い、圧倒的な大きさをほこるそれを目にすると流石に言葉を失ってしまう。
「やっぱこの世界にゃ飛行機は無いんだな」
「なんだそりゃ?」
「おれのいた世界で空を飛ぶ乗り物だ。船は水の上だけだからな。
 飛行機は物によっちゃ音より早く……って音の速さのこと判るかデル公?」
「サッパリだあね」
 ワルドの後を追っていると、樹の根元へと向う事になった。根元は巨大な吹き抜けとなっており、各枝へと通じる階段がある。
 その内の一つの階段へ駆け上がるワルドを追いかけ駆け上がる。木でできた階段はワルキューレの重量にしなり揺れる。
 踊り場まできた所で、アヌビス神は突然ワルキューレを、くるっと振り向かせた。
 そしてそれより下の階段へと、斬撃を加えゲシゲシと蹴りつける。
 前を走るワルド、ルイズ、ギーシュがそれに驚いて立ち止り振り返った。
「な、何をしているんだい?」
「追っ手がきてる。下を見ろ」
 ギーシュの問いに答え、崩れた先を、己を使って指し示す。
 そこには崩れ去る階段と共に落下していく、人影が見えた。
 しかしその影は途中で停止する。どうやら『フライ』を使用したようだ。
「急ごう」
 それを見たワルドが促がした。
「いや、全員でガンガン物投げつけてやろうぜ。あいつ一人だけだ」
 言うや、アヌビス神は階段の手摺りや外壁を手頃な大きさに斬り刻む。
「わ、判った」
 ギーシュが素直にそれを聞き入れ、アヌビス神が用意した木片を手にして人影、白い仮面を付けた謎の者へと投げつける。
 戸惑っていたルイズもそれに続いた。
「そんなチマチマ投げてても避けられるだけだ。もっと景気良く行けよ」
 デルフリンガーを横の外壁に突き立て、アヌビス神が無茶苦茶なパワーと回転率で木片を次々と投げつけ始めた。
「死ねェ!落ちろ!弾けろ!
 ご主人さま。もっと殺意を篭めろ!」
「こ、こうかしら?
 その悪趣味な仮面ごと顔面へしゃげてトマトみたいに潰れてしまえー!」
 思いっきり振り被ったルイズが、木片を全力で投げつける。
「良い線行ってる。それだ!」
 そのありさまを見たワルドが呆気に取られている。
「エ、『エア・ハンマー』でも叩き込んだほうが良いのでは?」
「駄目だ、あれは直撃した時の殺傷力が薄い。この高さだからな、体勢立て直されたら直ぐに又来る」
 アヌビス神は、恐る恐る進言してきたワルドの案をあっさり却下した。
「もっと良い手を考えたよ!」
 そのやり取りを聞いたギーシュがにやっと笑うと花びらを沢山宙に舞わせる。
「この方が絶対有効だよ。殺傷力は尚の事!」
 更に薔薇の杖を振ると花びらが次々と青銅の剣へと姿を変えて、人影へと次々と降注ぐ。
「グッドアイデアだギーシュ!ナイスエゲツなさ!
 ちっさい投げナイフもいっぱい作れ。それなら数作れるだろ?
 それも投げようぜ」
 アヌビス神の言葉に、ギーシュは頷き青銅の投げナイフを足元に沢山『錬金』する。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
 狂った様に殺意を篭めた言葉を連呼しながら、アヌビス神が青銅の投げナイフを、宙を動き逃げ回る人影へと次々と投げつける。
 びゅんびゅんと風切り音を響かせ、雨あられと降り注ぐ投げナイフを避けそこね、それらが腕や足を掠めた白仮面の人影が動きを鈍らせる。
「ギーシュ、塊!ちょっと大き目の塊よこしなさい!」
「よしきた!」
 それに気付いたルイズがギーシュを促がす。
 阿吽の呼吸で頷いたギーシュが薔薇を振ると、足元に両手で抱えるのが精一杯といった大きさの青銅の塊が現れた。
「ワルド!手伝って!」
 呆然としているワルドを促がし、共にその塊を持ち上げ、宙でふら付く白仮面へと放り投げる。

 その青銅塊がぶつかるか?といった瞬間に電光が突然宙を斬り裂き、上へと走り抜け、青銅塊を打ち砕いた。
 辺りの空気が一変し焦げ臭さが立ち込めた。
「『ライトニング・クラウド』!?
 不味い、足場を確保したようだ!」
 ワルドがその稲妻を見て叫ぶ。
「ちィ!しぶとい奴だ」
 アヌビス神が手早く壁からデルフリンガーを抜き放つ。
「気を付けろよ兄弟!」
「そうも言ってられ無いみたいだぜ」
 白仮面が杖を構えるのが見える。
「来る!お前等下がれ!」
 アヌビス神が、己とデルフリンガーを交差させ三人の前に立ちふさがると同時に、空気が震え何かが弾ける音がし、再び稲妻が駆け抜ける。
 避雷針となった二振りの剣と青銅のゴーレムが一瞬閃光を放ち、煙をあげる。
「不味いぜアヌ公。ワルキューレが熔け掛ってる」
「だが、あの雷は憶えたぜ!
 っとそれ所じゃねえな。全員上へ走れ!」
 アヌビス神が振り返ったところで、またなにやら振り被っているルイズの姿が見えた。
「ご、ご主人さま?」
 勢い良く手に握った手の平大の青銅のボールを彼女は投げつけた。
 続けて真下で『ごぶっ』という何とも言えないせつない声と、鈍いごすっという音が聞こえた。
「す、すげえー」
「最近派手に俺達振り回して、身体動かしてたからか?」
 アヌビス神とデルフリンガーが感嘆の声を漏らした。
「う、上手く当たった……みたいね?」
「そ、そうみたいだね……。それにしてもルイズ、きみは最近随分と逞しくなったね……」
 下を覗うルイズを見て、ギーシュは少し冷汗を流した。ワルドも冷汗を流していた。
「ご主人さま。もうこの身体は限界だ。後は運んでってくれ」
 ルイズは頷くと二振りを背と腰へと納める。

「行こうか。も、もう敵はいまい」
 ワルドは上へと向き直って全員を促がした。




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