ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神・妖刀流舞-20

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匿名ユーザー

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 ラ・ロシェール滞在二日目。
 ギーシュは昨晩、落ち込んで荒れるワルドを励ますのに大変であった。

 べろんべろんに酔っ払ったワルドに、やたらと色々コメントし辛い話しをカミングアウトをされたりもした。
 話しの辻褄が合わない意味不明な事を連呼され、絡まれもした。
 あのクソ傭兵が勝手に誤解してるけど、あの時見てたの違うんだよ!何で何時も何時も僕はあんな扱い直ぐ受けるんだ!
 部下たちも何時も、ああなんだ!泣くぞ?泣いてしまうぞ僕は!『ギーシュさん』受け止めてくれ!とか。
 元々長い間会ってなかったルイズ、正直言うとどうでも良くなりかけていて、ちょっと色々利用してやろうと思って今回近付いたとか。
 けれど実は一目惚れの勢いで惚れ直したとか。
 タバサってあの子、あの髪色は絶対某王家の王女さまじゃね?逆玉狙える?狙うべき?ルイズよりそっちのが有利?とか。
 アルビオンの次はガリアだよねガリア!先手打たなきゃ!全くあの親父は何が次は組みし易いトリステインだー!なんだクソックソッ!とか。
 何でおっぱいが小さいの?おっきいのも実は大好きなんだよ。おかあさーん!だから、小さくて大きいのをお願いします!とか。
 僕は焦りすぎて嫌われた?ねえ教えてくれよ『愛』のプロフェッショナル!と迫られたりもした。
 仕方ないので、モンモランシーとケティの話しをしてやると、いたく感動された。

※一つここで注意ポイント。
 ワルドはアヌビス神の能力を基本的に何も気付いていません。
 尋問の時は早々に咽込んで、確認する所ではありませんでした。
 多分切れ味が鬼のように鋭いアヌビス神で脅して、効果覿面だったのか?と判断しております。
 当たり前の如く、アヌビス神がガンダールヴとの噂は聞いた事もありません。

「他人を都合良くどうにかしてやろうって心積もりが僅かにでもあったら、人の仲はどこかで破綻してしまう可能性が有る!と最近僕は考えるかな」
 ギーシュが最近の経験則から、しみじみと言ったその言葉を聞いたところで、ワルドは涙をどばどば流して、
「ああっ!『ギーシュさん』は、その年でそこまで悟れて凄い。僕は!僕なんかは、人を裏切って騙して……」
 そう大声で叫ぶと、ぱたりと倒れ文字通り泣き寝入りをしてしまった。
 その後、寝言で『も、もう『ギーシュさん』きみでも……』『優しくしてくれ『ギーシュさん』!!』
 等と不穏に煩くて、ギーシュは中々眠れなかった。

 フーケは久々に開放感を味わっていた。キュルケとタバサとギーシュには色々知られている物の、その件の主犯格という訳ではない。
 ギーシュに至っては同じく経験者だ。
 そして何より糞爺が居ない。未だ発生した事は無いが、もし夜這いでもかけられたら如何しようとか心配しながら眠る必要も無い。
 あの糞爺がトチ狂って本気できた場合は、正直勝てる気がしないだけにちょっと本気で心配していた。
 そして知られているという事は、僅かに利点がある。どんな愚痴でも聞いてもらえる。今までまともに愚痴ることが出来なかった、サウスゴータの事すら聞いてもらえる。
 ずっと年下の子供相手にと言うのが情けなかったが、部屋に引込んでからもワインをがぶがぶ飲みながら、自分でも驚くぐらい饒舌に愚痴りまくった。
 普段無愛想なタバサが、やたらと親身に話しを聞いてくれたので酔いに酔ったフーケはタバサに抱き付いて大泣きした後、そのまま寝てしまった。


 と言うことで、大人二人の愚痴のリレーを味わう羽目になったギーシュは、疲れが取れずにぐったりとして椅子にもたれかかっている。
 ただ話しが半端に終わった、巨乳エルフの話しがとても気になっていて、覚醒しきらない脳内を、会った事がない少女が駆け巡っている。
 ワルドが何かとんでもない事を色々言っていたきもするが、疲れすぎて良く覚えてない。

 フーケもといロングビルがタバサに『昨日は抱き枕にして寝てしまってすまなかったね』と謝りながら、少し気まずそうに頭を抱えている。

 顔色の悪いワルドは、やたらと良い笑顔で、しかし作り笑いとばれるそれで脂汗を流しながら、タバサに勧められたハシバミ草のサラダを摘んでいる。

「記憶を無くす程の二日酔いにとても効く」
 ワルドをチラリと少し見て言うと、タバサも同じくハシバミ草のサラダを摘んだ。

 キュルケはそれらの様子を見て、苦笑気味である。何せ昨晩大荒れするルイズを寝かし付けるのにも大変だった訳で。一体何があったのやら?である。

 ルイズはちょっと用事があると言って、起きて早々に部屋を後にした為此処にはいない。

 そんなこんなで朝である。


 しばらくすると、良い汗をかいたルイズがアヌビス神とデルフリンガーを引き摺ってやってきた。
「朝一番の運動って頭がはっきり覚めて良いわよね。あー、お腹空いたー。」
 ルイズはやたらと色艶が良いが、アヌビス神とデルフリンガーはやたらと瀕死である。
 ルイズはワルドの隣にちょこんと座ると、朝食を注文した。
「ワルド、顔色が悪くない?」
 自分の分を待ちきれずに、ロングビルが手をつけずにいた朝食を頂戴と言ってつまみながらワルドの顔を覗き込んだ。
「よ、良く判らないが昨晩飲み過ぎたらしくてね……頭がガンガンするのだよ」
「身体を動かして汗をかくと良いわ。あ、そうだ。
 中庭に良さそうな広場があったの。そこで軽く身体を動かしたらどう?」
 そんな事をしたら頭痛がより一層ひどくなってしまう……。とのワルドの抗議はルイズに届いていなかった。
「ゴーレム相手に模擬戦とかしてみたらどう?そうね、ミス・ロングビル、お願いできるかしら?ギーシュは何だか目の下にクマが出来ちゃってるし」
 あまつさえも勝手に話しを進めていた。


 『女神の杵』亭、ここはかつてアルビオンからの侵攻に備える為の砦であった。その為か中庭に練兵場が存在する。
 今此処には二日酔いの男女がしんどそうに向き合っている。
『わたし……無理だから。絶対この状態は無理』とロングビルに泣き付かれたので、コントロールはアヌビス神にやらせると言って納得させた。
 ワルドはルイズの好意に基づく提案を断りきれなかった。

「それでは準備しますわ……」
 ロングビルが軽く杖を振ると、大きさは成人男性とほぼ同じ、素材は鉄で出来た戦士が錬金される。
 彼女は錬金した後、『うぷっ』と口を押さえながら隅っこへ移動して壁に凭れて座り込んでしまった。

「かつて名誉と誇りをかけて決闘がおこなわれたが、その実、女を取り合ったりだのくだらないことで杖を抜きあった。
 そう言うが……二日酔い解消の名目、今ほどくだらない理由はかつての時代にも有ったのだろうか」
 ワルドは額でふやけてぶらぶら揺れているバッテンバンソウコウを剥がしながら、空を仰いだ。
「記憶を無くすまでワインをやったのは、何年ぶりだっただろうか。うっかり何か不味い事をしゃべってなければ良いのだが……」
 決闘なんか上の空でぶつぶつ繰り返す。

 目の前ではルイズが自分の使い魔を鉄のゴーレムに握らせている。
「無茶したら怒るわよ?」
 等と話しかけているが、正直意味が判らない。剣が何をすると言うのだろう。
 しかし、剣が二本とも握らされた時、起こった変化にワルドは目を引ん剥いた。アヌビスと呼ばれている方の柄に輝いたそのルーンに。
『やはり……ルイズ。彼女は間違い無い』心で呟き、ワルドは何かを確信する。
「まさか、ガンダールヴだったとはね」
 その場にいる者に聞こえる声で言うと、ワルドは右の手で腰から杖を抜き放ち、前方に突き出す形で構えを取る。
 続けて左の手で口元を押さえる。
「うぷぅっ」
 一瞬少し逆流してきた。先程食べたハシバミ草のサラダの味が口内に甦り、未だ少しぼやけていた意識が無理矢理覚醒させられる。

 ルイズはワルドが構えるのを見て、鉄のゴーレムから小走りで離れた。
 キュルケはロングビルの顔色が悪すぎるので、水を汲んで来て勧めている。
 タバサはここには来ずに食事を続けている。
 ギーシュはその斜め前で椅子に座ったまま、ガーガーといびきをかいている。
 ロングビルは、キュルケに手渡されたコップの水を一気に飲み干した。

「あー、あの変態の首撥ねてェー!」
「今駄目だって言われたばかりだろうが!」
「ジョークだ。今はどっちかって言うと、初の鉄のボディがどんな按配か、おれはそっちに興味深々だ。
 それにしてもなんで鋼じゃねえんだろう」
「それもそうかもしれねーな、青銅でも凄かったもんなあ。
 鋼じゃねえのは多分正体隠したいからだね。あれはあくまでロングビル」
 小声を混ぜて軽く会話をした後、アヌビス神は二つの刀身を、身体慣らしとばかりにびゅんびゅんと高速で振り回す。
 風圧で土ぼこりが舞い、敷石が削れ飛ぶ。
「こりゃすげえな」
 風斬り音にまぎれてデルフリンガーの声が揺れながら聞こえる。
「バラバラだァー。微塵切りにしてやる」
 興奮しながら言うと、アヌビス神は刀身を半ば辺りで交差させ構えた。
「アヌ公……おめえ、やっぱ本気なんじゃねえか……」

 ワルドはその剣捌きをみて生唾をゴクリと飲み込んだ。
 冗談ではない、剣の動きが全く見えなかった。速い何て言葉で片付けて良いものでは無かった。
 あんなのと戦うのの何処が、アルコール抜きの軽い運動だと言うのだ。
「や、やはり僕は昨晩何かしでかしてルイズを怒らせたのだろうか……」
 殺気は無いが殺意は感じられる。判り易いほどに感じられる。
 先程から『バラバラだァ』だの『一瞬で撥ねてやる』だの『ずっぷりどっぷりぶちまけようぜ』だの聞こえてくる。
 嫌な汗がダラダラ流れて、それでアルコールが次々と抜けて行く。
「で、ででで、では。か、軽く勝負といこうか。
 デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……」
 ワルドは器用な動きで後退しながら、逃げ腰気味に杖を振る。

 アヌビス神が『イヤッホォー!』と最高にハイな叫び声を上げ、鉄のゴーレムが突進してきた。
 人の物ではありえない速さで、瞬く間に目の前まで間合いを詰める。
 しかもその足運びがゴーレムの物とは思えぬ、無駄の一切無い達人のものである。

 ワルドは詠唱しておいた魔法を発動させ、空気のハンマーを叩き付けた。
 それは見事に鉄のゴーレムに直撃し、宙を舞わせる。
 何とか目前から引き離せ、ふぅっと一息を付くが、ゴーレムは空中でくるくると身を捻り、壁へとまるで着地するかのように、双剣を突き立て張り付く。

 ワルドの詠唱速度は、軍人のものとして完成され戦いに特化されている為、非常に早い。それは杖の構える動作を始め、戦いの動きの中にこめられている。
 しかしあれに追いつくことが出来ない。
 壁に!?と思った次ぎの瞬間には、壁を蹴り目の前に迫っている。
 ワルドは跳ねるようにして横に飛びのく。その動作の中に詠唱をし、小型の竜巻を捲き起こし、敷石をザックリと斬り裂いたアヌビス神らへと向けて放つ。
 身体能力が人のものではない鉄のゴーレムは、人ではありえぬ無茶な動きで飛び起き体勢を立て直し、両の剣を交差させるように竜巻目掛けて強く振り下ろした。

 剣を竜巻に叩き付ける等、あまりに意味が無い事。ワルドはそう思った。
 だが音よりも早く振りぬかれたそれは空気の断層を捲き起こし、竜巻を吹き散らす。
「くくく、魔法の竜巻なんてのも憶えられるものか」
「ん?なんか今何か魔法が?アレ?」
 アヌビス神とデルフリンガーが、ウキウキした声で其々独り言を零した。

「じょ、じょじょ、冗談じゃない!何処が二日酔い解しょ、……うぷっ」
 激しい運動が、荒れた胃を掻き混ぜ何かが込上げる。
 流れる涙は、恐怖からでは決してない。胃から込上げてくるので涙腺が緩むのである。
「こ、こうなれば……奥の手を」
 握る杖に力を入れる。
 それを聞いたアヌビス神が『おもしれえ、見せてもらおう!』と叫び、一気に間合いを詰めて来た。
「ユビキタぶふぉっ!」
 ワルドの口からキラキラと輝く強酸性の雫が噴出される。
「こ、こいつ、『風』だけじゃなく『水』の魔法もいけるのか!
 デル公、何て魔法だ?『ユブキタブフォ』って何だ!?
 がっこの授業でも、こっちに来て読んだ記憶にもねえー!」
「馬鹿、ゲロだよゲロ!逃げろ兄弟!」
 デルフリンガーは問うアヌビス神に慌てて撤退を促がした。

「うぷっ」
 壁際で座り込んでいるミス・ロングビルが、それをモロに目撃して杖を取り落とし貰いゲロをした。
「ほ、ほらしっかりしてよ、もう!」
 慌ててその背中をキュルケが撫でる。

「なんか身体が動かな……!?
 この感じなんかデジャブな―――――」
 アヌビス神が、支配する身体の異変を感じ取る。
 そして、鉄のゴーレムの錬金が解け土に戻り崩れる。
 取り落とされたアヌビス神とデルフリンガーが地面へと転がる。
 ワルドの足元の地面へと転がる。
 そして限界を迎えたワルドは、其の侭その場に崩れこむ。
「おえええええええっ」
 胃酸特有の刺激臭が辺りに漂う。

「ぎゃあああああああああああああっ!!!!」
「いやあああああああああああああっ!!!!」
 アヌビス神とデルフリンガーの悲鳴が中庭に響き渡った。




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