ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神・妖刀流舞-19

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 ラ・ロシェールへの到着は夜も更けた頃となった。はっきり言って賊を成敗した後の時間が大幅に無駄であった。
 襲撃してきた連中は、瀕死で動けない状態そのままで現地に放置されている。

 さて、ラ・ロシェールとはアルビオンへの玄関口である、港町でありながら、狭い渓谷の間の山道に設けられた、小さな街である。
 人口はおよそ三百ほどだが、アルビオンと行き来する人々で、常に十倍以上の人間が街を闊歩している。
 もっともこんな時刻ともなれば、人通りも随分と少なくなっているのだが。

 一行は街で一番上等な宿である『女神の杵』亭に泊まることにした。現在は部屋の準備を待って、一階の酒場で、くつろいでいる。
 時間が時間なので乗船の交渉に出ることはできなかったものの、一応宿の者に尋ねたところ、『スヴェル』の月夜の翌日となる明後日の朝が一番早いアルビオンへの便だと聞かされた。

 ルイズは敵遭遇した後の街に至るまでの道中から、今まで一人ぐったりとしている。
 怒りに任せてお仕置き大暴走したところを、見られてはいけない人に見られてしまったのに気付いた為、精神的ショックで放心状態なのである。
 ワルドは笑って『ルイズは相変わらずお転婆だな』と言ってくれたが、その笑いがどこか苦笑いなのが見て取れた。
 アヌビス神とデルフリンガーを見ると、それだけでぐったりするとの事で彼等は少し離れたルイズからは死角になる後方に立てかけられている。
 時々ワルドがにっこりと笑いかけるのだが、その度に顔を真っ赤にして余所の方向を向いてしまう。

 さて、そんなこんなで暫らく遅い晩飯を取りながら待っていると、宿の女将が頭を下げてきた。
 ワルドは三部屋用意するように言ったのだが、どうやら二部屋しか取れなかったようだ。到着時間が遅過ぎた為の事ゆえ文句を言う訳にもいかない。
「さて……どう部屋割りをすべきか」
 ワルドは顎に手をやり髭を弄りながら、やたら男前な表情で思案し始めた。
 元々は建前的には女性二人づつ、そしてギーシュと自分。しかし当初の予定的には、自分とルイズを同じ部屋に……と思っていた。
 つまり女性三人で一部屋、ギーシュが一部屋、そして自分とルイズで一部屋。 しかし二部屋ではそうはいかない。
「男性二人に女性一人は居心地が悪いと思う。
 そこで女性二人男性一人、と言った形で割り振ろうと僕は思う」
 まあ正論と言えば正論だなと全員が頷く。
「僕とルイズ、そしてもう一人はそちらの……メガネのお嬢さん、お名前は?」
「タバサ」
 タバサは質問に簡潔に答えた。
「ふむ、良い名だ。その三人にしようと思う!」
 ワルドはちょっと力強く言い放った。

 ルイズはワルドとギーシュが一緒の部屋で『ギーシュさん』と連呼しない組み合わせなので納得した。
 この精神状態で誰かに色々突っ込まれても鬱陶しいし、二人っきりも気まずい。タバサは実に適当な気がした。

 キュルケは不満がありそうだ。一番の友達と、それなりに良い男としてチェックしたワルドと別の部屋なのが不満げだ。

 タバサはどうでも良いようだ。ハシバミ草のサラダのおかわりを注文した。

 ギーシュは、ワルドの鼻の穴がまた妙に広がってるのに気付いた。
 それは置いて、ガキっぽい組み合わせじゃない方が見た目楽しいので納得しておいた。

 フーケもといマチルダちゃんは、アヌビス神が別の部屋に行ってくれる組み合わせに、ホッと胸を撫で下ろした。
 同じくアヌビス神の被害者のギーシュの方がなんとなく連帯感もあった。

 多数決で圧倒的支持を受け、ワルドは机の下で両手をぐっと握り締めた。
 問題は当初の予定では三部屋とり、クールにルイズを誘う予定だったのが破綻した事だろう。
 いや、むしろ別の方向で大収穫ではないか?これは食が進む。
「いや、ここの料理は本当に美味いね。空腹も手伝って幾らでも入ってしまうよ。いやぁ本当に美味い」
 ワルドは元より分量が多かった晩飯をお代わりまでして上機嫌だ。

 そろそろ晩飯も終わる頃、女将が再びやって来た。
 四人泊まれる大部屋を上手い事、用立てる事ができましたとの報告であった。
 ワルド、ショック!『ギーシュさん』と今日の活躍について一晩語り明かすのも悪くないが、それ以上の予定が元から有る訳で。
 しかし残りの連中は『女性と男性に別れましょう』とか、さも当然で当たり前の結論へ向っている。
 このままでは何の為に、今回の任務に立候補して自分を売り込んだのか判ったものではない。
 タバサは惜しいが……では無かった。不可能な妄想をしても意味は無い。
「僕とルイズが同室だ!」
 強く言いつつも、表情は冷静を装いすっと立ち上がる。そして反論をされる前に駄目押しの一言。
「婚約者だからな。当然だろう?」

 ルイズは、そこでそう来るか!と言った表情で『わたし達まだ結婚してるわけじゃないのよ』と慌てている。

 キュルケは、面白いからそれはグッド!と微笑んだ。

 タバサは興味が無いようだ。何と無く、ワルドの何らかのやる気を察して、応援の為、彼の分もハシバミ草のサラダなどを注文しておいた。

 ギーシュは、基本的に面子が変わらないし、可愛い子が増えるのは良い事だから取り合えず良いよ的な表情でにこやかに。

 マチルダちゃんじゃなくてロングビルは、アヌビス神が居ない方が安心だからむしろ歓迎らしく、なにやら頷いている。

 更に完全に駄目押しをしておく事にする。
 邪魔をされないように、念を入れるのである。
「大事な話しがあるんだ。二人きりで話したい」
 全員野暮は無しよと納得したらしい。人間は全員。
 心の中で勝ち誇りながらワルドはクールに二人部屋の鍵を手に取った。
 そして自分の目の前にある、料理を一気に片付ける。
 すると途中、突然苦味が口に広がる。注文した覚えの無いハシバミ草のサラダだ。思わず咽て噴出しそうになる。しかしワルドは熱い視線に気付いた。
 今まで興味無しといった風な、どこか抜けた目をしていたタバサが、微妙に熱い視線を自分に向けている。
 口内で激しく存在主張を繰り返すハシバミ草を飲み込み、ワルドは本日二度目の凄い良い笑顔を作った。

 タバサの好感度が 4上がった気がした。

 笑顔を作りながらも、現実問題として非情につらいので、素早く手元のグラスに手を伸ばし一気に呷る。
 これ又とてつもなく苦い!良く見たらワインではない。
 ハシバミ青汁ではないか!こんなマニアックな飲み物、このワルドが注文する筈が無い。
 噴きそうになるのを堪え『女将を呼べ!』と言おうとした所で、タバサの熱い視線が未だ続いている事に気付いた。
 つまりこれは彼女からのラブコール?そう勘違いしたワルドは、本日三度目のとても良い笑顔を作った。

 タバサの好感度が 3上がった気がした。

「苦味は刺激で頭を覚醒させて判断力を高める」
 笑顔にタバサが一言返した。
 現実熱い視線など無く、観察されていただけなのに、ワルドがますます誤解した。


 さて、アヌビス神とデルフリンガーは正直暇だった。飯なんか食う必要が無い二振りにはどうでも良い。
 ちょっと何かと道中心的疲労が多かったので、ぼーっと過ごして回復を計っていた。
 そしたら突然、ルイズの腕を引いてズカズカ歩いてきたワルドに、捕まえられた。ルイズはちょっと赤面気味だ。
 はっきり言って判る。このワルドという男、表情を作るのが得意だ。偽りの表情を作りだして他人を騙してきた事が判る。
 せいぜい数十年生きた人間が、心理的な自己暗示と筋肉で作った表情など、アヌビス神に取ってはお子様のお遊びである。
 なおその観点から見て、『ギーシュさん』と繰り返してる笑顔は本物でした。

 そして今のワルドを見れば判る。顔は紳士、心と下は狼だ。やる気全開である。多分晩飯も精が付く物をチョイスしていっぱい喰らってやがる。
 アヌビス神のその考察は一部間違えている。
 ワルドは晩飯を食べている時は、『ルイズにタバサか。なんかご褒美すごくね?眺めてるだけでも和むわー』とか考えていたのだから。
 流石のアヌビス神も、ワルドの欲深さまでは想定外。

 よりによって、そのワルドに耳打ちするように『道中のような感じで素晴らしい『愛』の曲でも流して雰囲気を盛上げてくれよ』と請われてしまった。
 心底げっそりしながら『はいはい、俺の知ってる最上の愛の歌ながしてやるよ』と返しておいた。
 もう完全に携帯用ジュークボックス扱いだ。迂闊な行動は避けるべきだとアヌビス神はやっとで“憶えた”。

 やけに慌てるように、部屋へと向ったワルド達を見てキュルケが突然、
「ルイズもこれで大人ね」
 と楽しそうにけらけらと笑い出した。
 ロングビルはアヌビス神がいなくなって落ち着いたのか、更にワルドが居なくなって演技の必要もなくなったのか、気を抜いてフーケモード全開でワインを飲み始めた。


 ワルドとルイズが宿泊する事となった部屋は、並の上ぐらいの物だった。
 受け付けカウンターに片肘を乗せ、指先で羽帽子を少し上げながら、やや下向きから上目使いで決めて『一番良い部屋を』と頼んだのだが空いていなかった。
 しかし一番上等な宿屋の並の上の部屋。並の宿屋と比べれば豪華である。

 ワルドはテーブルに座ると、ワインの栓を抜いて、杯についで一気に呷った。
 そして目を閉じ口の中でもにゅもにゅとやたらと味わい、ほっとした顔をしている。
 そして一言『あー苦かった』と呟いた。
 ハシバミ草の苦味をどうにか流して落ち着いたワルドが、ふとドア近くを見ると、ルイズは未だそこでキョドキョドしている。
 アヌビス神とデルフリンガーは今ルイズが立っている、入り口近くに立て掛けられている。
「きみも腰掛けて、一杯やらないか?ルイズ」
 もう一杯別に注ぎながらワルドはルイズを呼んだ。

「酔わせて口説くのか。王道だなこれは」
「やっぱアヌ公、おめーの世界でも女を酔わせて口説くのはお約束だったのか。
 まったく、焦った男のやり口は万国共通どころじゃねーな」
 二振りが小声でヒソヒソ話しを始めた。
「ご主人さま、あんなに幼児体型なのに大人の階段のーぼーるーって訳か。
 あの髭、凹凸の少ない身体でも興奮できるのか」
「そのフレーズもどっかで憶えた歌か何かか?
 取り合えず気付いてなかったのかアヌ公。俺はあのワルドって奴、むしろそっちの方が好きと見たぞ。
 何せタバサを見る目も興奮気味だったね」
「マジか!」
「マジだ。落ち着け相棒。
 最初ドサクサに紛れて、幼児体型二人と相部屋になってハーレムる気だった
 間違いねえ。あまりに直球で俺、おでれーたよ」
「確かにおれは個人的にタバサも悪くないと思うが、あのさりげに締った肉の手足とか。実に斬り落としたい」
「わざと話し外しただろおめー」

 二振りがヒソヒソ話しをしてる間に二人は、グラスをあわせて、手紙がどうとか話し始めている。
 姫殿下がどうとか言っているので、恐らく二振りが外に放り出されたあの時に依頼された内容についてだろう。
「ちっ。一瞬ここまできといて文通でお願いしますとか言い出すのかと思って、おれドキドキしちまったよ」
「おめー甘々は嫌いだったんだろ?」
「嫌いだが、流れが不自然に半端なのはもっと嫌いだ。
 逆転はもっと面白くないとな」
「へー、中々言うね、おめえ」
 そしてワルドとルイズの会話は、二人の昔の想い出話しへとなり、いよいよ口説きモードに入っていった。
「み、魅力がどうとか言ってるぜ。
 やべえ、一応『覚悟』してここにいたけど、やっぱキツイ。助けて兄貴」
「しっかりしろ兄弟!まだまだ序の口だぞ。まだ第一次接触にも移行してねえ」
「そ、そうだな。この程度で……」
 デルフリンガーの言葉に力を取戻そうとするアヌビス神。
 しかしワルドは、接触を伴わない奥の手を残していた。

「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」
「え……」
 いきなりのプロポーズの言葉に、ルイズがはっとした顔になっている。

「がはァッ、臭えッ、こいつァ臭ェ。ドブ以下の臭いがプンプンしやがるぜ。
 もうおれは間違いなく駄目だ。ついていけねえ」
「落ち着け。この程度で怯んでいたら後はもっと厳しいぞ?」
 しかし攻撃の手が緩む事は無い。
 まだ子供だとかもう子供じゃないとか、顔を真っ赤に染めて引くルイズと、それに必死に食い下がるワルドのやり取りが展開される。

 ワルドがルイズの肩を抱き、距離を詰め顔を覗き込む。
「確かに、ずっとほったらかしだった。けどやっと僕は真実の『愛』を知った。 婚約者だなんて言いながら、ルイズ、きみをほったらかしだった自分が恥ずかしい。
 だからこそこれからはきみを支えてずっと一緒に……」
 ワルドは愛の言葉を囁きながら、アヌビス神達に指で合図を送ってきた。

「ま、マジでやれってのか?」
「あの目は本気だあね。疲れてるからって適当にOKするおめーが悪い」

 ルイズは『愛』の部分が妙に引っ掛かったが、悪くない気はした。
 自分はまだまだ未熟でつりあわない存在かもしれないけれど、優しく一緒に歩んでくれるかなと思えてくる。
 流されている気もするけど、そうやって自分を支えてくれるのはこの人だけなのかもしれない、と思うと流されてしまっても良い気持ちになってしまう。

 ワルドはルイズのそんな心情を察したのか、力が抜けている彼女を一気にベッドへと押し倒した。
 ルイズは戸惑った表情ながらも、抵抗せずにそのまま見つめ返している。

「お、オイ。ワルドは一気にやっちまう気だ。急げ、さっきからさっさと良い曲流して駄目押しだとサインが来てる」
「アホ臭いが、とっておきを出すしかねえな」
 アヌビス神は覚悟を決めた。

 ワルドは正直、ルイズと会う事の無かった期間にライバル登場してたら不味いなと考えていた。
 特に再会したルイズが自分好みに成長していなかった、もとい成長していた事で、その不安はより一層大きくなっていった。
 しかし現実として、心を奪い去る存在は現れていなかった。
 今もその格好つけてる表情と裏腹に内心はこうだ。
『ああもう理屈抜きでルイズは可愛いな堪らんいっちまって良いよね?多少抵抗されても嫌よ嫌よは好きの内で済むよね?』
 そんな感じで欲望が全開で渦巻いている。

 まずは刀身を振るわせ共鳴させ、それを利用して、高音のメロディを奏でる。
 それはさながら、オルゴールが鍵盤を弾いて奏でる澄んだ高音。
 それでいながらも、刀が奏でているとは思えない優しいメロディーが部屋に満ち溢れる。
 デルフリンガーの刀身もその震動を受け共鳴し、二重奏が部屋を駆け巡る。

「こんにちは!赤ちゃん!あなたの笑顔!」
 そして、メロディに続けてアヌビス神は渾身最大の愛の賛歌を、素の野郎ボイスで声高らかに歌った。
 ノリノリでデルフリンガーも、それに続けて野郎ボイス全開で続けた。

「こんにちは!」
 「こんにちは!」
「赤ちゃん!」
 「赤ちゃん!」
 (中略)
「「はじめまして!わたしがママよ!」」

「す、すげーな兄弟。初めて聞く歌だけどよ。
 愛と誕生に溢れてて、この上ない愛の歌だぜ!」
「だろ?だろ?おれの知りうる限り、これ以上の愛の歌は無い」


 何故かルイズは四人部屋へと移動し、ギーシュは幸せの間から気まずい野郎二人の間へと追いやられた。
 アヌビス神とデルフリンガーは掃除用具置場の、汚水が半分程まで満たされたバケツに突っ込まれて翌朝を迎える事となった。

 野郎部屋に入った時、ギーシュは、ベッドで一人咽び泣くワルドの姿を見た。


 翌朝ワルドは宿屋の女将に『他のお客様のご迷惑になりますので、夜分唐突に『ギーシュさん』と叫ぶのは御遠慮下さい』と叱られた。




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