ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-24

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 ジョセフの朝は早い。
 彼自身としてはもっと寝ていたいのだが、御年68歳になった彼はどうやっても夜明け頃には目が覚めてしまうのだ。しかも最近は睡眠中にも波紋呼吸をするよう心がけていた為、疲労はかなりの短時間で解消されてしまうので睡眠を取る必要もあまりない。
 その為、ルイズはジョセフの寝顔をほとんど見たことはない訳だが。
「……んぁ?」
 さて目覚めてみれば何やら顔の上に紙が乗っていた。
「なんじゃこりゃ」
 指先で摘んで見てみるが、何の変哲もない紙でしかない。
 何故こんなものが顔に乗っていたのか首を傾げるジョセフに、鞘から顔を覗かせたデルフリンガーが声を掛ける。
「相棒の運の太さにはほとほと感心させられるぜ」
「何言っとんじゃオマエ」
「俺っちから見た感想だよ相棒」
 更に首を傾げる角度を大きくしながらも、軽く伸びをして窓の外を見てみれば月が煌々と輝いており、東の空がほのかに白んでいるところだった。
「さぁて、今日も一日の始まりじゃの」
 服を着替えてから、洗濯物の入った籠を抱えて水場へ向かう。
 水場に到着すると井戸から水を汲み上げ、タライに水をたっぷりと張ってしまう。その水で顔を洗った後、服をまとめて入れた後で石鹸を指でちぎって入れてから、波紋を練り込む。
 そしてほのかな山吹色の光を全身から発した後、波紋を集約させた右手をタライの中に突っ込んだッ!

 もももももももも……

 タライの中で迸る波紋は水を緩やかに微温湯にしていき、石鹸を柔らかく蕩けさせる。
 タライから溢れんばかりに盛り上がった大量の泡は一粒一粒が肌理細かく、服の繊維の隙間にくまなく入り込んで汚れを浮き落とす事請け負いである。
 十分すぎるほど泡が生まれたのを確認すると、反発する波紋を流してタライの中で水流を発生させる。しばらく一方向に回したら、次は逆方向に回す。
 水流が変わるたびに泡がぐるりと巻き起こり、虹色に輝くシャボンが宙に舞う。
「輝虹色の波紋疾走(レインボーブライト・オーバードライブ)じゃよ。あーラクチンラクチン」
 かつてリサリサの下で波紋修行に明け暮れていた時、洗濯当番をしていたシーザーがこの技を使っていたのを盗み見してコッソリと自分流に開発した波紋である。
 当のシーザーは洗濯前に何やらブツブツと懺悔してはいたものの、この技(シーザーは『シャボン・ランドリー』とか名付けていた)を使わない選択肢はなかったようだ。
 洗濯板で根気よくゴシゴシと衣服と格闘するよりは、手を突っ込んでぼけーとしてるだけで洗濯が終わるのだから面倒くさがりのジョセフがこれを使わない手はないというものである。
 召喚された当初はボケ老人を装う必要があったから使いはしなかったが、波紋がバレた今となっては隠すメリットが何一つない。というわけで、波紋はハルケギニアで有効活用されることとなった。
 夜明け空の向こうでシーザーが「てめェーッジョセフッ! 誇り高い生命の力をなんだと思ってやがるゥーッ」と憤ってたりするが。
「年を取ると耳が遠くなっていかんわい。最近目も霞んできたのォー」
 ジョセフはあからさまにシカトを決め込んだ。
 しばらくして泡が落ち着いてきたのを見計らって、すすぎに入る。
 すすぎに使う水も当然波紋をたっぷりと流し込んでいるので泡が残る心配もない。
 最新型の日本製洗濯機にも負けず劣らずの波紋の性能に、ジョセフも御満悦である。

「ふはぁー、一働きすると気分がええわいッ。さ、後はこいつらを干すとするかッ」
 物干し場に洗濯物を干してしまえば、続いて部屋の掃除である。
 水一杯の桶を両手にぶら下げて部屋に戻ると、用意した箒にはたきに雑巾に波紋をかける。それから掃除用具をハーミットパープルに絡めさせる。
「ハーミットパープルッ! 部屋の汚れを掃除しろッ!」
 すると掃除用具を構えた紫の茨が部屋中に迸り、部屋中の掃除にかかる。これもジョセフが編み出したスタンドの有効活用法である。
 念視の応用で、ルイズの部屋を媒介として部屋の汚れを念視する。そして波紋付きの掃除用具が辿り着けば、そこで適当に動かすだけで吸着する波紋が埃をふき取るという寸法である。
 スタンドは使用者の精神に応じて成長していくものである。ジョセフのハーミットパープルにしたって、最初のうちはDIOの姿を念写する為に一台三万円もするインスタントカメラをブッ叩いて写真を出すことしか出来なかった。
 だが旅の中で何度もスタンドを使うたびに、テレビを用いた読心能力も誕生したし、世界中のゲーム機と照合してイカサマがされてないかどうかさえ判るようになったのである。
 機械が存在しないこの世界では、「ジョセフの雑用をこなす」ためのスタンドとしてハーミットパープルは大活躍を見せていた。
 やがてハーミットパープルがしゅるしゅるとジョセフの元へ戻ってきた時には、ルイズの部屋は十分キレイになっていた。
「ま、こんだけやりゃルイズも文句は言わんじゃろ」
「てーしたモンだよなースタンドってーのは。お嬢ちゃんもこんなアタリの使い魔引いたんだから果報者だぜ」
 デルフリンガーが感心したように言うのに、ジョセフもカラカラと笑う。
「まー家族や知り合いにゃ絶対見せられんがのー。もしわしの主人が男じゃったりしたらわしゃここまでマメに働いとりゃせんからのォ」

「はっはっは、相棒は見たとおりのドスケベだな」
「はっはっは、そんなに誉めんとってくれテレちまうじゃないか」
 わっはっはっは、と老人と剣が笑いあう貴重なシーン。
 けっこう賑やかに会話しててもルイズがそう簡単に起きてこないことは知ってるので、ジョセフもデルフリンガーも声を潜めることなくバカ話に興じるのである。
 その後はルイズを起こす時間までのんびりと休憩である。
 朝も早くからメイド達が忙しく働いている食堂に行けば、シエスタが自分からジョセフの姿を見つけて駆け寄ってくる。
 メイド達もシエスタがジョセフに恋慕の念を抱いているのは周知の事実なので、微笑ましげに立ち話を見守っていた。無論その後で根掘り葉掘りある事ない事を聞き出す為でもあるが。
 そして戦場そのものの喧騒が聞こえる厨房に行けば、マルトーを始めとする料理人たちがそれこそ命懸けで立ち回っている。ジョセフの姿を見つけたマルトーは仕事の手も休めないまま、ジョセフとガハハと会話を始める。
 何分か話した後で、焼き上がったばかりのクロワッサンを一つ投げてよこす。ジョセフはほかほかのそれを有難く受け取ると、廊下を歩きながら行儀悪く食べてしまう。
 そして太陽も地平線から離れ始めた頃、ルイズを起こす時間となった。
 毛布に包まりながら「うーんもうたべられないー」などとお約束じみた寝言を言っているルイズの肩とお腹に手を当てると、ゆっくりと波紋を流し込んでいく。
 波紋を流し込まれたルイズの体温は緩やかだが着実に上昇して行き、やがてルイズの目がぱちりと開いた。
「…………ぁー……おはよ、ジョセフ」
 昨夜の舞踏会からジョジョと呼ぶことにしたはずのルイズだが、寝ぼけた頭ではつい慣れた方の呼び方をしてしまった。
「おうおはようルイズ。ほら、今日もいい天気じゃぞ」

 それから顔を洗おうとして洗面器に用意された水に手をつけて「水冷たいー。お湯にしてー」とごねるルイズに苦笑しつつ、水に指先をつけて波紋でお湯にする。
 お湯で洗った顔をタオルで拭いてやると、続いて化粧台の前に座らせて髪を櫛で梳く。それから寝巻きを脱がせて下着を着けさせ、制服を着せていく。ガタイの宜しい老人が幼い美少女の服を着せていく姿を見ているデルフリンガーは、密かに嘆息せざるをえなかった。
(おーおー、嬉しそうな顔しちまってなァー。相棒だけならともかく娘っ子も満更じゃないって顔してるんだからなァー。世も末ってヤツだよなァー)
 ジョセフは気付いていないようだが、服を着せられているルイズの顔にはほのかな桃色が差していた。これまでは従者に服を着せている主人らしく、特に表情に変化はなかったのだが。
 けれどもそれがどのような感情に起因する桃色なのかは、さすがのデルフリンガーにも判別できなかった。
 そして服を着せ終わっていつでも部屋を出て行ける、という段階でも、まだたっぷりと時間に余裕はあった。
 ここでルイズは勤勉に朝の予習を始め、ジョセフは毛布の上で怠惰に寝転んでいた。
「おうそうじゃルイズ。なんか秘薬の材料で足らんモンはないか。今日は城下町に行く予定じゃったから、行き道の近くにあるようなモンじゃったら集めてくるぞ」
「あ、そう? じゃあ、ちょっと待ってなさいよ……」と、引き出しを確認した後で「ああ、ズフタフ槍の草にオニワライタケがそろそろ無くなりそうだわ」と答えた。
「それなら近くの森で採取できるかの。地図貸してくれ地図」
「はいはい」
 そんなやり取りの後に、学院付近の地図、それからズフタフ槍の草とオニワライタケが入ったガラス瓶を引き出しから取り出し、地図と草とキノコをテーブルの上に広げてハーミットパープルで念視する。

 そうするとそれぞれの群生地を茨が指し示すという塩梅である。後は実際この場所に行ってからハーミットパープルを出せば、茨がそれらを感知して伸びていくというワケである。
「ん、まあこの辺りじゃのォ。よしよし」
 とりあえず大まかな場所を確認すると、地図を戻す。
 そうこうしているうちにそろそろ部屋を出る時間となった。
「んじゃそろそろ朝メシじゃの」
 今日の賄はなんじゃろか、と立ち上がるジョセフに、ルイズがやや慌てて口を開いた。
「あ! ジョセ……じゃなかった、ジョジョ! 今日から、その……あれよ。ちゃんとしたご飯、用意させてるから」
 たったそれだけの言葉を言う間に、ルイズの白い頬はすっかり赤くなっていた。
 しかしジョセフも、ルイズの言葉に鳩が豆鉄砲食らったような顔になっていた。
「え? まだ飯抜きの期間は終わってないじゃろ」
 食事抜きの罰を言い渡しまくったのは誰あらぬルイズである。だがルイズはジョセフの当然の指摘に、何やら椅子をがたんと倒しながら勢い良く立ち上がった。
「いいいいいのよっ! その、あれよ! 使い魔がただのボケ老人じゃなくて、ちゃーんと有能で従順な使い魔だって判ったんだから、ちゃんと主人として報いるところがなければダメなのよ!」
 ものすごい早口で言い切るルイズだが、要は「あんまり酷い仕打ちをしてるとジョセフが別の誰かに取られてしまうかも」という危機感が芽生えたという事である。
 食事抜きの罰を言い渡した時も、かなり堂々と厨房付きのメイドに尻尾を振って食事を恵んでもらってたし、例えメイドからの補給ルートを遮断しても、ギーシュやキュルケなどの並み居る友人達から幾らでも食事を得ることは出来るだろう。

 特ににっくきキュルケに餌付けさせたりなんかしたら、このスケベ犬はすぐに尻尾を振ってついていくに違いない。それだけは何としてでも阻止せねばなるまい、と考えたルイズは、舞踏会が終わった後で、明朝からのジョセフの食事を追加させたという次第だった。
 ルイズとしては(ふふ、これで使い魔には寛大な主人という印象も植え付けられて一石二鳥というワケだわ! 私ってなんて頭脳派なのかしら!)と無意味に勝ち誇っているのだが、ジョセフとしてはおおよそのルイズの意図は察していた。
 けれど空気の読めるジョセフは、バレバレ過ぎるルイズの思考を指摘することもせず。にこりと微笑んで、深々と頭を下げた。
「わしは情け深く可愛らしい主人にお仕え出来て、全く身に余る光栄ですじゃ」
「そうでしょうそうでしょう。じゃあご主人様の慈悲深さに深く感謝しながら美味しい朝食を噛み締めなさいよっ」
 あっさりとジョセフの甘言に騙されて鼻高々にカバンを持って部屋を出て行くルイズ。その後ろをいそいそとついていくジョセフ。
 ルイズ主従から少し遅れて部屋から出てきたキュルケとフレイムは、ルイズとジョセフの後ろ姿を目撃することになる。これを目撃したキュルケの感想は(よくわかんないけど、ジョセフは色々大変ねえ)と思い、フレイムは(全くですねぇ)としみじみと同意した。

 食事は用意したものの、さすがのルイズでも使い魔で平民をアルヴィーズの食堂のテーブルに付かせる度胸はなかった。
 というわけで結局、いつものように厨房の片隅で貴族の食事を取ることになったわけだが。
「……なんつーか居心地わりぃのォ」
 特に見られて困るわけでもないのでテーブルマナーにも頓着せずに食べはするが。昨日まで賄いを分けてもらってた所でいきなりランクアップした料理を食べるのは難しいものがある。

 美味しいのは確かだが、周囲の人々と一人だけ違う食事を臆面もなく味わえるほどにはジョセフの鉄面皮は厚くなかった。全員が微妙に視線をそらしてくれる心遣いがまたせっかくの料理の味を判らなくしているのがどうにも辛い。
「なあ我らが剣。なんだったら賄い用意するぜ?」
 大体事情を察したマルトーがそう提案するが、ジョセフは苦笑しながら首を横に振った。
「いやー……うちのご主人様が用意してくれたモンじゃからのォ。有難く頂かにゃならん」
 ルイズは好意で用意したんだろうというのは判るが、今までの仕打ちの中で最もジョセフに効果的なダメージを叩き込んだのはコレだった。何と言うかルイズの空気読めなさっぷりに、苦笑を止めようとも思わなかったジョセフである。
「宮仕えは色々と大変だよなぁ、同情するぜ。でもフライドチキン一つくらいは入るよな?」
「すまん、よろしく頼む」
 結局、その日の朝食で一番美味しいと感じたのは、1ピースのフライドチキンだった。

 食事を終えると、シエスタお手製のサンドイッチとワインの入ったバスケットを受け取り、厩舎に出向き馬を借りる。前もってルイズが馬の使用許可を取っているし、厩舎番の使用人達からも好意的な反応を受けているので全く問題もない。
 まず城下町に行き、武器屋で以前頼んだ品物を受け取りに行く。最初の出会いからして悪乗りが過ぎたため、親父はジョセフを自分の命を取りにきた死神のような目で見ることは仕方のないことだった。
 そんな親父に用意させた小型のボーガンと、このボーガンには間違いなくサイズの合わない強靭で長い弦。それを数本受け取り、秘薬屋に寄ってルイズの求めていた材料を買う。
 昼食は広場の噴水の淵に腰掛けてサンドイッチとワインを嗜んで、帰りがけに近くの森でズフタフ槍の草とオニワライタケを採取して、バスケット一杯に詰めて帰る。

 ヴェストリの広場にボウガンと弦を置き、部屋にバスケットを置いた後、ちょうど授業が終わった教室に大手を振って入ると、いつもの通り益体もない世間話に興じる。その話の輪の中には、赤い洗面器で笑える会の一員であるルイズも、加わっていた。
 だが今日は夕食前まで続く会合は、「今日はすまんが用事があるんでここまでッつーことでなー」というジョセフの言葉で、惜しまれながら解散となった。
 だがジョセフは、帰ろうとしていたギーシュを呼び止めた。
「おうすまんの、前に言ってた話を試したいんでの」
 その言葉に、ギーシュはぽんと手を叩いた。
「ああ、あの話だね? 準備が出来たって訳だ。この『青銅』のギーシュが友人の頼みを断るはずがないということは、無二の親友であるジョジョは判ってくれてるんじゃないのかい?」
 いちいちキザったらしい言い方と大袈裟な身振り手振りが、注意を引かないわけもない。
 ルイズが目を光らせて「使い魔が何をするのかきちんと監視しなければいけないわっ」と付いていけば、キュルケも本を読み続けるタバサの手を引いて付いていくし、モンモランシーもこっそりとその後ろを付いてきた。
 普段あまり人気のない広場に集まる四人の貴族と一人の使い魔。
「で、何するのよ。また決闘?」
 胡散臭げにねめつけるルイズに、ギーシュが応える。
「バカな事を言ってはいけないよミス・ヴァリエール。今日は親友のきっての頼みに、不肖『青銅』のギーシュが……」
 自分の世界にはまり込んで造花の薔薇を口に咥えたまま話し出すギーシュはさておいて、代わりにジョセフがルイズに答える。
「あれじゃよ、この学院の生徒はメイジじゃとは言ってもな。メイジじゃないわしはそれ以外の手段も用意しときたいんじゃよ。で、ギーシュの協力を仰いだッつーワケじゃ」

「前置きが長いのよギーシュは」
「顔はいいんだからそのバカさ加減をもうちょっとセーブしなさいよね」
「興味ない」
「いつも私が色々言ってるのにどうして直そうとしないの?」
「…………」
 女性四人からの集中砲火を受けて冷や汗がたらり流れるギーシュだが、すぐさま気を取り直して口に咥えてた薔薇を指先に挟んで高く掲げた。
「ま、まあそれはさておいて。とりあえず練習はしてたから、後は現物さえあればそれで修正をかけていくよ」
「オッケーじゃ。んじゃちょいと待っとれよ」
 と、広場の隅においていたボウガンと弦を持ってくる。
「んじゃこのボウガンを参考にしてじゃな。で、ここはこうなって……」
「うんうん。ここの部分はこうなってるのか……意外と単純だね?」
 精悍な老人と金髪の美少年が顔を寄せ合って何やら相談する光景。
「どうしたのモンモランシー。よだれ出てるわよ?」
「あ、え? あ、ああごめんなさい」
 そこから後は何やら男同士でしか判らない様々な相談が始まり、レディ四人を見事に置いてけぼりにしてしまう。
 ジョセフとギーシュが一通り相談を終えて固く握手を交わした時には、既に四人の姿は広場から失せてしまっていた。


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