ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク-6

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匿名ユーザー

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6話

ヴェストリの広場は、魔法学院の「火」の塔と「風」の塔の間に位置する、西側の広場である。
この場所は西側ということもあって、日中はあまり日が差さない。
つまり目立ちにくい、ということで、決闘なんてことをするのにはうってつけの場所である。
……はずだったが。

「諸君、決闘だ!」

などとのたまって薔薇の杖を掲げる目立ちたがり屋のおかげでヴェストリの広場はまさに大盛況、
前後左右人だらけ――まあ生徒ばっかりだが、とにかくそういう状況になってしまった。
目立ちたがり屋とは、言うまでも無くギーシュのことである。
そして前述したとおりにギーシュが杖を掲げてカッコつけた台詞を吐くと、
周囲の生徒達から大きな歓声があがった。

「ギーシュが決闘するんだってよ!」
「相手はルイズだ!」
「魔法使えないのに決闘するのかよ!?」
「いや、ひょっとしたら決闘するのはルイズの使い魔なんじゃないか?」
「ペリッソンを気絶させたヤツじゃないか! ギーシュは大丈夫なのか?」
「キノコを最初に食べた者を尊敬する……」
「族長(オサ)! 族長(オサ)! 族長(オサ)!」

そんな歓声に、ギーシュは満面の笑みで手を振って応える。
そして、それから広場の反対側に立つルイズをぐっと睨みつけると、広場の中心に向かって歩を進める。
ルイズもそれを見て、広場の中心へと歩き出した。
ホワイトスネイクは、ルイズの後ろに空中を滑るように移動して続く。

「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてあげるよ、ルイズ」
「私のほうこそ、コソコソ逃げなかったあんたに感心してるぐらいよ、ギーシュ」

まずは舌戦。
古来より続く、戦いの基本である。
ここでガマンが効かなくなってうっかり攻撃を開始しちゃったりすると、
相手の策にハマったりして大変なことになるものなのだが――

「っ! ……いいだろう、そこまで大口が叩けるなら、準備は万端のようだな!」

ギーシュはルイズの安い挑発にあっさり乗ると、杖を振るう。
その動作で、杖から一枚、花びらが地面に舞い落ちると――

「……ホウ」

「それ」を見たホワイトスネイクが、感嘆した様子で声を漏らす。
ギーシュの杖から舞い落ちた花びらは地面に落ちると同時に、甲冑を着た女戦士の人形に姿を変えたのだ。
その高さは人間とほぼ同じ。
その表面は深い緑色――青銅色に輝いている。

「僕は『青銅』のギーシュ。君が魔法を使えようと、使えなかろうと、
 僕はこの青銅のゴーレム、『ワルキューレ』でお相手するよ、ルイズ」

(『青銅』……ト名乗ッタナ、アノ小僧ハ。
 ツマリアノ人形……『ゴーレム』、ダッタカ? アレハ青銅デ出来テイルノダナ)

ギーシュがカッコつけた口上を聞いて、ホワイトスネイクはそんなことを思った。
そして一方のルイズは、

「ホワイトスネイク」
「何ダ、マスター?」
「あんたに命令するわ」

来たな、とホワイトスネイクは思った。
マスター、もといルイズは魔法を使えない。
どんな魔法を使っても、きっと授業のときのように爆発する。
だとすれば……あの青銅のゴーレムに勝つ手段は、ルイズにはない。
それでもルイズがギーシュに勝とうとするなら、自分に――ホワイトスネイクに、頼るしかない。
だからきっと、「わたしの代わりに戦いなさい」と命令するだろう。
その方が確実だし、決闘でぶちのめす、という目的も果たせるからだ。
そう、ホワイトスネイクは考えていた。

「私が戦える限り戦い切るまで、あんたは手を出しちゃダメ」

しかしルイズの命令は、ホワイトスネイクにはまったく意外なものだった。
つまり、ルイズは自分であの青銅のゴーレムと戦おうと言うのだ。
無謀にも程がある。
勝算はあるのか、何故そんな意味のない事をするのか。
そういう言葉が口をついて出かけたが、ぐっと堪える。
自分はスタンドだ。
スタンドは本体に意見などしない。
スタンドは本体の力そのものでしかない。
力は、持ち主に意見しない。
そう言い聞かせて、自分には到底理解できないであろうこの命令を、

「……了解シタ」

渋々ながらホワイトスネイクは了解し、自分自身を解除した。
ホワイトスネイクの姿がルイズの背後からフッと消える。
それを見て、今まさにワルキューレをけしかけようとしていたギーシュは、

「ルイズ、君は使い魔を引っ込めるのかい?」

驚いた様子でそう言い、ワルキューレの動きをピタリと止めた。
ギーシュもまた、自分がホワイトスネイクと戦わねばならないものと考えていたからだ。
そしてワルキューレを止めたのは、予想外の事態に、ギーシュの生来の小心が「危険だ」と囁いたからである。
しかし、そんなギーシュに対してルイズは、

「そうよ。何を驚いてるの? 御託はいいから、早く仕掛けてきなさいよ、ギーシュ」

さも当然とでも言うような態度で言い放って杖を抜く。
既に、自分に勝算があるかのような態度だ。

「そうか……ならばもう遠慮はするまい! 行け、ワルキューレ!」

ルイズの再三の自分を見下ろした態度で、完全に戦闘体制に入ったギーシュは、すかさずワルキューレに指令を出す。
ワルキューレが、青銅製の重い足を軽やかに持ち上げて一歩を踏み出した。
そしてニ歩目、三歩目と徐々に加速し、ガシャガシャと関節を鳴らしながらルイズの方へ突進する。
ルイズはそれを確認すると、ワルキューレと距離をとるようにしてニ、三歩下がる。
だがその程度では駆け足でルイズに迫るワルキューレとの距離は取れない。
ついに、ルイズとワルキューレとの距離が五歩まで縮まる。
そして四歩、三歩と瞬く間に距離は縮まり、距離が二歩になったところでワルキューレがぐん、と拳を振り上げる。
重いワルキューレの体重を十分に乗せたパンチが、来るッ!
それを認識した瞬間、ルイズは横っ飛びにワルキューレの正面から逃れた。
直後、ルイズがいた空間をワルキューレの拳が薙ぐ。
そして体重を十分に乗せたパンチが、逆にワルキューレ自身の重心を崩す。
ぐらり、とワルキューレがよたける。
この瞬間を、ルイズは待っていたッ!!

素早く体制を立て直し、杖をワルキューレへ向ける。
そして短くルーンを唱え、ワルキューレに向けた杖を振り下ろすッ!

ドモンッ!

ワルキューレの体内で、鈍い共鳴を伴った爆発が巻き起こるッ!
ワルキューレの体内は空洞ッ、
そしてその空洞の中に閉じ込められた爆圧はワルキューレの細くくびれた腰周りを風船のように肥大させ、
さらにその胴体につながれた脆弱な間接を、根こそぎッ、もぎ取るッ!

バギョアァッ!

金属が引きちぎれる甲高い音とともに、ワルキューレはッ!

バラバラに砕け散ったッ!!

自身を支える両足どころか両腕までもを失い、さらに腹を爆圧で膨らませ、
まさしくダルマ同然の姿になって地面に転がるワルキューレ。
自分が目の前の、コモン・マジックさえまともに使えない少女に対して、
絶対の自信をもって送り出したしもべが晒した無様な姿に、ギーシュは声にならない呻き声を上げた。

その様子を横目に、ルイズは表情を崩さずに言う。

「今朝の錬金の授業で……知ったのよ。
 わたしが錬金に失敗すると、錬金の対象だったものは、その中心から爆発する。
 石ころみたいなのに使えば、まず間違いなく粉みじん、よ。
 ま、考えてみれば当然よね。
 錬金は、対象の物質を構成するものをまったく別のものに変換する魔法。
 だから魔法に失敗して爆発が起きれば、対象の中心から爆発が起きる。
 そして今……わたしはあんたのワルキューレの全身を砂に錬金しようとした。
 そして魔法は失敗するから……ワルキューレはその中心から爆発する。
 つまり……爆発はワルキューレの中心、つまり空洞のお腹から始まる。
 さて、どうしたの? 早く次のワルキューレを出しなさいよ。
 あんたの精神力なら、まだ六体は出せるはずよ、ギーシュ」

冷静に、自分のしたことを説明して見せるルイズ。
その様子にギャラリーは完全に静まり返る。
あの「ゼロ」が?
まさかあんな手段でギーシュのワルキューレを?
誰もが、ルイズのしたことを半信半疑に見ていた。

そして一方、土を付けられた形となったギーシュは、

「くそ……僕を……甘く見るなッ!」

そう言って、手に持った杖を力任せに振るう。
再び杖から花びらが舞い落ち、それぞれがワルキューレへと変化する。
その数六体。
今ギーシュが出せる限界にして最大の数だ。
そしてギーシュはそれら全てを自分の前にずらりと整列させ――

「君の言うとおり、これが僕が出せるワルキューレの残りの数だ。
 そして一体のワルキューレに丸ごと錬金をかけるようなことをしたなら、
 時間も精神力も余計にかかってしまうのは僕にだって分かる!
 集中力だって多く必要になる!
 つまり、君はさっき僕のワルキューレを倒したやり方では、この六体を倒すことは出来ない!
 もう分かるだろう! 今この瞬間で、君の負けだ、ルイズ!
 君にはもう、僕のワルキューレに殴り倒される未来しか残っていないぞッ!」

そう、大声で叫んだ。
決闘が始まる以前のカッコつけたギーシュはここにはいない。
今のギーシュには、カッコつける余裕なんて無い。

確かに状況においては、なるほどギーシュがルイズよりかなり優位に立っているだろう。
しかしルイズはギーシュを圧倒していた。
精神の面で、ギーシュを圧倒していた。
そのことがこの圧倒的優位な状況にもかかわらず、ギーシュから余裕を奪い取っていたのだ。

そしてルイズはギーシュの言葉を一通り聞くと、

「そうね……確かに、状況はわたしが圧倒的に不利。
 でもそれはわたしが決闘を降りる理由にはならない。
 わたしはわたしで決めて、ここにいるのよ。
 だからどんなに不利でも、そんなのは関係ない!
 やれるだけやるまで、杖を落とすまで、杖を折られるまで、わたしは決闘を続けるわッ!」

高々と宣言するかのように、そう言った。
そんなルイズの姿を見て、周囲の生徒達はようやく理解した。
自分たちの目の前にいるルイズは、もう自分たちが知るルイズではない。
何かは分からないが、だが確実に、ルイズは以前より成長している、ということを。
そして、それは相対するギーシュにも感じ取れた。
今まで見下していたものが、いつの間にか自分よりもずっと先にいる。
技術とかの問題ではない。
何か、何かよく分からないものにおいて、ルイズは自分より遥か先にいる。
それが、気に入らなかった。
自分でもそれを認めてしまうのが、なおさら気に入らなかった。
ギーシュはそんな思いを無理やり胸中にしまいこむと、苦し紛れに叫んだ。

「くっ……行けぇッ、ワルキューレ!」

ギーシュの号令とともに、ワルキューレたちが動き出す。
どれか一つが抜け駆けすることも無い、一つの青銅の壁のようにルイズに迫る。
それを見て、ルイズは覚悟を決める。
あれから逃れる手段は、自分には無い。
先ほどワルキューレを破壊したやり方では、あの壁は突破できない。
なら、どうするか。
もう考えていられる時間は幾分も無い。
5秒もしないうちに、ワルキューレたちは自分のところに到達する。
何か、何か手段は――
そうやって必死に策を探すルイズの脚に、何か硬いものがぶつかった。
思わず下に目を向けるルイズ。
そして――閃いた。
あのワルキューレを突破する手段が、起死回生の方策がッ!

ルイズはすぐに足元に無数に転がるそれを、思い切り、迫り来るワルキューレの方へ蹴飛ばす。
蹴飛ばされたそれは、迫り来るワルキューレのうちの一体にぶち当たり、跳ね返って地面に転がる。
しかし跳ね返ったとはいえ、それにはいくらかの重量があり、遠くまでは転がらない。
はたしてそれが落ちた場所は、迫り来るワルキューレの正面、すぐ近く。
そしてワルキューレのうち一体がそれを――先ほど破壊されたワルキューレのパーツを跨ごうとした瞬間――

ドッバァァァアアアアン!

パーツが、炸裂したッ!

炸裂を引き起こしたのは、ルイズの「錬金」の失敗魔法ッ!
破裂したワルキューレのパーツはまとまった一つの金属。
だからこそ、内側より解放されるその爆発力は、手榴弾さえ上回るッ!
そして強烈な爆圧は、パーツを跨いだワルキューレと、その両脇のワルキューレを転倒させ、
さらには地面の土を盛大に巻き上げ大きな土煙を作るッ!
興奮した周囲からわあっ、と歓声が上がる。
それを聞いてギーシュは思わず舌打ちした。
何をそんなに騒ぐんだ。
まだ自分のワルキューレは三体が無傷で動いている!
転倒した三体が起き上がるのには時間がかかるが、
まだ立っている無傷の三体があれば、あっというまにルイズを……

そこまで思ったところで、ギーシュは奇妙なものを感じた。
ワルキューレがルイズを攻撃する音が、まだ聞こえてこない。
ワルキューレは青銅の塊だ。
それで人間を打てば絶対に音がする。
それなのに……その音が聞こえない。
爆発の直前のルイズとワルキューレとの距離を考えれば、もうルイズに到達したはず。
なのに何故ワルキューレは、まだルイズを攻撃していな……

その瞬間だった。
自分の正面、約数歩先。
もうもうと立ち込める土煙からルイズが飛び出し、自分の方へ一直線に駆けて来るのが見えたのは。
ルイズは衣服のところどころを何か鋭いもので切っており、血が滲む場所も少なくない。
その上、土煙を突破してきたため体中泥まみれ。
自分が起こした錬金の爆発に自分から突っ込むことでワルキューレを振り切り、
さらにギーシュの目を誤魔化すために土煙の中を突破した結果だ。
傷の中にはいくらか雑菌が入ったことだろう。
それでも、そんなことはお構い無しと言わんばかりに、こちらに突っ込んでくる。
その姿はあまりにも前向きで、そして、あまりにも誇り高かった。

一直線に土煙を駆け抜け、ギーシュの前まで駆け抜けたルイズは、ギーシュに杖を突きつけ、高らかに宣言する。

「杖を捨てなさい。わたしの、勝ちよ」

さっきの爆発のときよりも、数倍大きな歓声が、巻き起こった。
ルイズが、「ゼロ」と呼ばれて蔑まれたあの少女がギーシュに勝ったのだ。
その事実が周囲の生徒達を、より大きい興奮に包んでいた。

だが――そのとき、ルイズには二つだけ、しかし致命的なミスがあった。
そして一つの不運があった。
一つのミスは三体のワルキューレを土煙の向こう側に残したままだったこと。
もう一つのミスは、ギーシュがまだ杖を持っていたこと。
そして一つの不幸は――周囲から巻き起こる歓声のため、後ろから迫り来る、ワルキューレの足音に気づけなかったこと。

ギーシュは、湧き上がる歓喜を顔に出さないようにするので必死だった。
結局この「ゼロ」は、最後の最後でツメが甘かった。
まだ自分は杖を持っている。
土煙の向こうにいるワルキューレを操ることが出来る。
そしてこの歓声があれば――ルイズにばれることなく、背後からルイズを倒せる!
グラモン家の男児たるこの僕が、魔法一つまともに使えない「ゼロ」に、負けるはずなど無かったんだ!

そうほくそ笑みながら、三体のワルキューレのうち一体を、土煙の中に隠れるように操作する。
これで周囲からはこのワルキューレの動きは見えない。
そして、土煙の中から、ルイズの方へ突進させるッ!
いつもなら、ガシャガシャとうるさい音がするはずのワルキューレの歩みも、この歓声のおかげでそれが聞こえない。
ワルキューレの姿が、土煙の中からでも
ルイズには、これを受けきれるだけの体力は残っていないッ!
勝ったッ!!

そう、ギーシュが思った瞬間だった。

ズゴンッ!

鈍い音とともに、ルイズのすぐ後ろまで迫っていたワルキューレが吹っ飛ばされたッ!
突然の轟音に、大騒ぎしていた周囲の生徒達が一斉にシン、と静まる。

そして、今更になってギーシュは気づいた。
ルイズに、「そいつ」がいたことを。

「そいつ」は――ホワイトスネイクは、今の音に驚き、振り向いたルイズに向かって、
しかしルイズには背を向け、ワルキューレを吹っ飛ばした方向を見据えながら言った。

「マスター……ココカラハ、私ノ領分ダナ」


To Be Continued...

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