ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのスネイク-5

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匿名ユーザー

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(音声のみお楽しみ下さい)

「……ねえホワイトスネイク」
「ドウシタマスター」
「これはどういうことかしら?」
「昼食ハ既ニ、ホトンド食ベラレテシマッタヨウダナ。
 スープトカモキット冷メテイルダロウ」
「……誰のせいなんでしょうねー」
「ソレハ錬金ニ失敗シタマスt」

ドグシャアッ!

「オゴォォッ!」
「あんたが『でぃすく』だの『魔法の才能』だの話し始めたからでしょうがぁあああああああああああ!!」


5話


つまり、こういうことである。
片付けをやっとこさ終えたルイズとホワイトスネイクは、他の生徒より大分遅れてアルヴィーズの食堂に入った。
そしてそこでお腹を空かせたご主人様ことルイズが目にしたのは――
もうほとんど食事が残っていない大皿と、湯気一つ上がらない、きっと冷え切っているであろうスープである。
もちろんお腹をすかせたご主人様はこんなものを見せられた日にはカンカンである。
まあ元はと言えば錬金を派手に失敗して教室を悲惨な状態にしたルイズにこうなった原因はあるのだが、
上記の通りルイズはそれをホワイトスネイクになすりつけた。
責任転嫁である。
その上ホワイトスネイクのスネを蹴っ飛ばしている。全力で。
ルイズとしては、しょうがないんだもん、あたしは魔法が使えないんだもん、みたいな感じでスネてるんだろうが、
責任転嫁された挙句蹴りを食らわされたホワイトスネイクとしてはたまったものではない。
しかし……相手が自分の主人である以上手を上げるわけにもいかず、結局堪えるホワイトスネイクであった。
スタンドの悲しい定めである。
蹴っ飛ばされた方の脚を抱えてケンケンしながら、
ヨーヨーマッもこんなかんじでいつもDアンGにぶん殴られてたに違いない、と思った。
そして一瞬ヨーヨーマッに同情しかけるが、ヨーヨーマッがドMだったことを思い出してすぐに止めた。

こうしてルイズが一人で怒っていて、ホワイトスネイクがケンケンしているところに――

「あの……ミス・ヴァリエールでしょうか?」

いくらか遠慮のかかった声がした。
その声にルイズとホワイトスネイクが振り向く。
はたして、声の主はメイドであった。
彼女の髪の色は黒。
他のメイドや生徒と比べれば、ここでは珍しい色である。

「何? メイドがわたしに何の用?」

ルイズが思いっきり不機嫌な声でメイドに応える。
腹へっていても多少の愛想は必要だと思うホワイトスネイク。
そしてメイドの方にも、ルイズの不機嫌が分かったらしく、

「あ、あの! その……も、申し訳ありません。
 ミス・ヴァリエールが昼食の席に現れなかったもので、お腹が空いてるんじゃないかと……」
「そーよ! もう食事はほとんど無くなっちゃってるし……おかげでこっちはお腹がペコペコよ!」
「で、ですから、大したものは用意できないかもしれませんが、昼食の方を用意しましょうかと……。
 他の貴族の皆様がお召し上がりになったものと同じものは用意できませんが……」

これはありがたい。
今朝のようなアホみたいに豪華な食事は期待できないだろうが、それでも十分だ。
お腹をすかせた我が主人たるルイズにとって単純にプラスになることだし、
またこのままルイズが不機嫌なままだと、いつスネを蹴っ飛ばされるか分かったものではないので自分にとってもプラスである。
そうホワイトスネイクが考えていた矢先。

「イヤよ。わたしがいつも昼食で食べてるのと同じのじゃなきゃ、イヤ」

ホワイトスネイクはため息をつきたくなった。
腹減ってるのはしょうがないとして、何故そこで意地を張る。
どうせこのワガママなご主人様のことだ。
貴族はこんなもの食べないとかなんたらかんたら言うんだろうな、とホワイトスネイクは思った。
でもそれを言うとまたスネを蹴っ飛ばされるだろうから、口には出さない。
そう思っていたそのとき――

ぎゅるるるるるるるる………

ルイズのお腹が盛大な悲鳴を上げた。
そしてその音を出したのが自分だと分かると、ルイズは羞恥心で顔を真っ赤にして周囲を見回す。
周りの生徒が聞いていなかったのを確認してルイズはほっと一息ついた。
今のお腹の音を聞かれるのがイヤだったようだ。
食堂に残っている生徒達は皆談笑に夢中で、ルイズには気づかなかったことが幸いした。
まあ、あまり上品な音じゃなかったからな、と思うホワイトスネイク。
そして確認作業を終えたルイズはメイドの方に向き直ると、

「さ、さっきのは取り消し! あと、えっと、で、出来るだけ上品なものを作りなさいよ!
 貴族が食べるものなんだからね!」

と、これまた顔を真っ赤にしていった。
何もそこまで恥ずかしがらずとも、と思うホワイトスネイク。
メイドの方もそんなルイズを見て困ったような笑みを浮かべながら、

「かしこまりました。スープの方は今から温め直しますので、そちらで少しだけお待ち下さい。
 あ、あと使い魔さんの分も用意させていただきますね」

と言ってお辞儀すると、ぱたぱたと厨房の方へ走っていった。

「何故、マスターハアノ小娘ノ提案ヲ最初ニ断ッタ?」
「貴族は平民が食べるようなものは食べないのよ。下品だから」
「平民? アノ使用人ノ小娘ノコトカ?」

ホワイトスネイクが聞き返す。

「そう、平民。魔法を使えない平民は、あのメイドみたいにわたしたち貴族に奉仕するのよ」
「ナルホド、ナ」

ホワイトスネイクは朝食の席で、自分の姿が使用人に見えていないことは分かっていた。
そして一方、貴族――つまりメイジだが、そいつらには自分の姿が見えている。

(メイジニハ私ノ姿ガ見エル。シカシ使用人、ツマリ平民ニハ私ノ姿ハ見エナイ、トイウコトカ)

そのように、ホワイトスネイクは納得しかけて――先ほどのメイドの言葉を思い出した。

(イヤ待テ。サッキアノ使用人ハ『使い魔さんの分も用意させていただきますね』トカ言ッタナ。
 ダガ、アノ使用人ハマスターノ言カラシテモメイジデハナイ。
 ダトスレバ……)

ホワイトスネイクに、興奮に近い感情が湧き上がってくる。

(アノ使用人……スタンドノ才能ヲ持ッテイルノカ?)

そして数分後。
ルイズ以外には誰も席に着いていないがらんとした食堂に、ルイズのためだけの食事が並んだ。
……とは言っても、スープの他にあるのはシチューとローストした鶏肉だけだが。
しかし、量だけは十分ある。
というか二人分は十分ある。
やっぱりホワイトスネイクが見えているらしい。

「どうぞ、お召し上がり下さい」

メイドが笑顔で言う。
ルイズはメイドの声にそっけなく頷いて応えると、目の前のシチューをスプーンですくって、口に運ぶ。
料理の方も見た目には気を使って皿に盛ってはあったが……
やっぱり見た目がボチボチだったからそれが不満なんだろうか、と思うホワイトスネイク。
それでも、突き返さないだけまだマシだと思うことにした。
やっぱり腹減ってると怒る気力もなくなるんだろうか。
しかし、シチューを食べたルイズの感想は――

「あら……美味しいじゃない!」

感嘆した調子で、ルイズは言った。

「そう言っていただけると嬉しいです」

メイドが嬉しそうに顔をほころばせて言う。
だがルイズは、一口食べて美味しいと分かったからだろうか、
それすら聞こえない様子で、ひたすら食事を口の中に運んでいた。
とはいえ、ガッつくような真似はしない。
由緒ある家柄の出であるルイズは、どんなにお腹が空いていてもテーブルマナーは守るのだ。
その分食事の時間は長くなるが。

そうしてルイズが食事を取っていると――

「あの……使い魔さんは、お食事をなさらないんですか?」

メイドが、ホワイトスネイクに声をかけた。

「イヤ、イイ。私ハコウイッタ形式ノ食事ヲ取ラナイノダ」
「じゃあどんな食事をなさるんです?」

当たり障りの無いように断ったホワイトスネイクだったが、メイドはさらに深く聞いてきた。
「そうですか、分かりました」で収めればいいものを、と思うホワイトスネイク。

さて、どうするべきか。
自分がスタンドであることを話せば、このメイドにスタンドの才能があるところまで話さなければならなくなるだろう。
まだこちらの世界に来たばかりで、まだ状況のいまいち掴めていないホワイトスネイクとしては、
出来るだけ不要なトラブルは避けたい。
「スタンド使いとスタンド使いは引かれあう」というルールもあることだし、
今の段階でヘタにこの使用人に、スタンドのことは話したくない。
しかし……他の平民の使用人には見えない自分の姿が、この使用人の小娘には見えているのだ。
いずれこの使用人自身も、自分が他の平民とは異なることを知るだろう。

どうするべきか。
彼女にスタンドの才能があることを伝えるべきか、それとも言わずに置くべきか。
しばらく考えたホワイトスネイクは――

「私ハ空気ヲ食ベル」

誤魔化すことにした。
勿論大嘘である。
空気食って生き延びる人型生物なんているわけ無いだろ常識的に考えて。
しかしこのメイドは――

「そ、そうなんですか……」

真に受けた。
純真なのか、だまされやすいのか、いずれにしても、
「はいそうですか」で信用するのはどうかとホワイトスネイクは思った。
まあ深く突っ込んでこないのはこちらとしてもありがたいが。
ホワイトスネイクがそんなことを考えていた、そのときだ。

「ごちそうさま」

食事をしていたルイズから声が上がる。
どうやら食べ終わったらしい。
そしてさっきホワイトスネイクが適当なことをメイドに言ったことに反応しなかったあたり、
かなり集中して食事していたようだ。
よほど、お腹がすいていたんだろう。
そう思って、ホワイトスネイクが下を見下ろすと――

「……全部食ベタノカ」
「だってお腹すいてたんだもの」

メイドがホワイトスネイクの分にと用意した食事まで、さっぱりなくなっていた。
つまり、二人分をきっちりルイズは食べたのである。
いくらなんでもあれだけ食べたら太りそうなものだ。
というか、あれが普通なのか?

「食ベ過ギジャアナイノカ、マスター?」
「別に食べすぎじゃないわよ。いつも歩いてるから太らないし」

そういう問題じゃないだろう、と思うホワイトスネイクであった。

「あなた、名前は何ていうの?」

ルイズがメイドに尋ねる。

「シエスタといいます」
「そう。じゃ、ありがと、シエスタ。おかげで助かったわ」
「い、いえ! そんな、滅相も無いです!」
「いいのよ、そんなに縮こまらなくて。あと、今回の恩は覚えておくわ」
「ミス・ヴァリエール……」

メイド――シエスタと名乗ったが、彼女が嬉しそうに言う。

「そんなに驚かないで。ヴァリエール家の女が恩知らずだなんて思われたら、
 私の方が恥ずかしい思いをすることになるもの。
 別に特別なことじゃないわよ」
「そ、そそそうですか。あ、ありがとうございます!」

シエスタがかなり恐縮しながら頭を下げる。
その様子から、

(ココマデ卑屈ニナルトハ……ヨホド、平民ニトッテ貴族、イヤ、メイジハ恐怖スベキ対象トナッテイルノダロウナ)

そんなことをホワイトスネイクは考えた。

「で、でででは、わわ私はこれで失礼します!」

そんなことを言って、メイドがまた深々と頭を下げると厨房の方へ走って行った。
ちょうどそのとき。

「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつき合っているんだよ!」
「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」
「つき合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。
 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

こんな会話が聞こえた。
声の方向に目を向けるホワイトスネイク。
するとそこには金髪の優男と、それを取り巻く数人の男子学生が歩きながら談笑していた。
場所はちょうどシエスタが向かった厨房の近く。

「マスター、アレハ誰ダ?」
「あいつはギーシュよ。色んな女の子のところを、あっちへフラフラ、こっちへフラフラしてるナヨナヨしたヤツ。
 わたし、あんまりあいつのこと、好きじゃないのよね」
「アレニ惚レル女ハアマリ幸福ニハナラナイダロウナ。
 アレハ女ニ気苦労ヲカケルタイプダ」
「でしょうね。まったく、モンモランシーも何であんなのにゾッコンなのかしら……」

ギーシュを眺めながらそんなことをルイズとホワイトスネイクが話していると。
ぽとり、とギーシュのポケットから何かが落ちた。
何か小瓶のようなものだ。
そしてちょうど厨房に入るところだったシエスタがそれを見つけて拾い上げる。

「これ、落としましたよ」

そう言ってシエスタがギーシュに小瓶を差し出す。
だがギーシュは取り巻きとの会話に夢中で気づかない。
いや、今のシエスタの声はそんなに小さなものではなかったし、「気づかないフリをしている」とするのが正しいだろう。
しかしシエスタは、自分の声が小さかったからギーシュは気づかなかったのだと、誤解した。
そしてもう一度、

「あの、すいません。これを落としましたよ」

そう言って、改めてギーシュに小瓶を差し出すと、

「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」

ギーシュはそれを否定した。
しかし自分のポケットから落ちたものを自分のものじゃないと否定するとは、無茶もいいとこである。
そして実際、それは裏目に出た。

「おお? その香水はもしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」
「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分だけの為に調合している香水だぞ!」
「そいつがギーシュ! お前のポケットから落ちてきたってことは、
 つまりお前は今モンモランシーと付き合っている! そうだな?」
「違う違う違う! いいかい、彼女の名誉の為に言っておくが……」

取り巻きたちに問い詰められたギーシュがそこまで言ったところで……
一人の女子生徒がギーシュの元へぱたぱたと走り寄ってきた。
女子生徒のマントの色は、ギーシュやルイズのそれとは違う。

(ソウイエバ朝食ノトキ、アノ色ノマントヲ来タ連中ハ右側ノテーブルニツイテイタナ。
 左側ニハ紫色ノマントヲ来タ連中ガイタ。
 アノ小娘ガ茶色ノマントトナルト……1年生ハ茶色、3年生ハ紫色、トイッタトコロカ)

そんなことを考えながらホワイトスネイクが見ていると、

「ギーシュさま……」

そういって、女子生徒がボロボロ泣き始める。
二股かけられてたことを、今のやりとりで理解したらしい。

「やはり、ミス・モンモランシーと……」
「違うんだよ、ケティ! 彼らは誤解してるんだ。
 僕の心の中に住んでいるのは君だk」

ブワッシィィーーーーン!

「ぶげぁっ!」

有無も言わさぬ強烈なビンタが、ギーシュの頬に叩き込まれたッ!
そして――

「その香水があなたのポケットから出てきたのが何よりの証拠ですわ! さようなら!」

そう言うと、女子生徒は泣きながら行ってしまった。
女子生徒の姿が見えなくなった頃、騒ぎを聞きつけたのか、女子生徒がもう一人現れた。
顔つきを見る限り、おおよその状況は理解しているらしい。
というか、間違いなくギーシュをぶん殴るなり何なりするつもりの顔だ。

「あれがモンモランシー。
 あの子、おだてられるのが好きなのかしらね。
 いっつもギーシュの歯の浮くようなお世辞で顔を赤くしてるのよ」

テーブルに着いたまま、ホワイトスネイクと一緒に様子を見ていたルイズが、興味なさそうに言う。

「シカシマスター。コノママ放ッテオイテイイノカ?」
「どういうことよ?」
「アノ小僧……確カギーシュトカ言ッタナ。
 ギーシュハ今カラアノモンモランシートヤラカラモ、何ラカノ制裁ヲ受ケルダロウ」
「でしょうね。で、それがどうかしたの?」
「私ガ言ッテルノハ、ソノ後ノコトナノダ。
 状況ヲ簡潔ニ整理スレバ、ギーシュハ友人タチノ目ノ前デ二股ガ露見シ、アノヨーニフラレタ事ニナル。
 果タシテ、コノママ自分ガ惨メナママデ済マセラレルカナ……?」
「え……ちょ、ちょっと待って! じゃあシエスタが……。でも、そんなのムチャクチャよ!
 フられたのはギーシュのヤツが二股かけてたからじゃない!」
「ダガ、元ヲ辿レバシエスタノ親切ガ招イタ事ナノダ。
 ギーシュガシエスタニ責任ヲナスリツケナイ、トハ言イガタイナ」
「…………」

ちなみに、ホワイトスネイクにここまでの推測ができたのは、冒頭のルイズの理不尽な制裁があったからに他ならない。
ホワイトスネイクはあの一件で、この世界の理不尽を理解していたのだ。
貴族ならこれぐらいはやるだろう、と。
そのように考えられるようになっていたのだ。
何とも皮肉な話である。

そして現場では――

「誤解だよ、モンモランシー! 彼女とはただ、一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけで……」

ギーシュが首を振りながら疑惑を否定する。
だが、額には冷や汗が伝っている。
今時分が置かれた状況がディ・モールトヤバイことは自覚しているようだ。

「やっぱり……あの一年生に手を出してたのね」
「お願いだよ、『香水』のモンモランシー! 咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれ!
 僕まで悲しくなってくるじゃあn」

ドグシャアッ!

モンモランシーの蹴りが、ギーシュの股間に炸裂したッ!

「おごおおぉぉっ……」

呻き声を上げて、がっくりと膝を突くギーシュ。
なんというか、ギーシュはもうアワレすぎて何も言えない状態になってしまった。
それをモンモランシーは上から見下ろして、

「嘘つき!」

そう叫ぶと、肩を怒らせながら去っていった。

「お、おい。大丈夫か、ギーシュ」

取り巻きが心配そうにギーシュに言う。
ギーシュは荒い息をしながら、取り巻きの手を借りて立ち上がると、
額にびっしり浮いた冷や汗をハンカチでぬぐい、

「あの、レディたちは、ば、薔薇の、存在の、意味を、理解して、いないようだ」

やはりキザったらしい、芝居がかった口調で言った。
そのまますらすら言えたならもう少しマシだったんだろうが、
それほどにモンモランシーの放った金的は強力だったらしい。
そうして、ギーシュが股間の痛みに耐えながら立っていたとき。

「あ、あの……し、失礼します」

いきなり訪れた修羅場に、呆然と立ち尽くしていたシエスタが声を上げた。
ホワイトスネイクはそれを聞いた瞬間、シエスタが地雷を踏んだことを理解した。
そしてシエスタが背を向けて去ろうとすると――

「待ちたまえ」

ギーシュがその背中に声をかけた。
その声に、びくっとシエスタは震えると、そろそろと振り向き、

「な、何でしょうか?」

震える声で、シエスタが言った。

「君が軽率に……香水の瓶なんか拾い上げてくれたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついたぞ!
 ……どうしてくれるんだね?」
「も、申し訳ありません! お許し下さい!」

シエスタはひたすら頭を下げる。
だが、仲間の前で恥をかいたギーシュは収まらない。

「どうやら君には、貴族へ無礼を働くとどうなるか、身をもって知る必要があるみたいだな……」

そう言うと、ギーシュはシャツに刺した薔薇の造花を抜く。
薔薇の造花はギーシュの杖である。
早い話、ギーシュはシエスタに魔法を使おうとしているのである。
その様子をテーブルから見ていたルイズは、

「信じられない……ギーシュのヤツ、シエスタに責任をなすりつけるどころか、魔法まで使うなんて!」

マスターが言えたことじゃないな、とホワイトスネイクは思ったが、そこは黙っておいて

「私ノ言ッタ通リニナッタナ。サテ……ドウスル、マスター?」

ルイズに決断を促した。

シエスタには申し訳ないが、仮にルイズが「何もしない」と言ったなら、ホワイトスネイクは放置するつもりでいた。
偶然にも見つけたスタンドの才能の持ち主を失うことにも多少厳しいものがあるが、
それでもスルーする選択肢も頭の中に入れていた。
しかし、ルイズはホワイトスネイクの言葉に頷くと、

「命令するわ、ホワイトスネイク。シエスタを助けなさい。
 でも、ギーシュに攻撃しちゃダメ。あんたが攻撃されるまではね」

そう命令した。
その内容でさっきまでの自分の心配が杞憂だったことが分かり、ホワイトスネイクは内心に苦笑した。
そして、もう一度命令の内容をなぞる。
ギーシュに攻撃するな、とわざわざ言うということは、ルイズ自身になにか考えがあるということ。
その点に関しては、自分が考える必要はないだろう。
そう察したホワイトスネイクは、

「了解シタ、マスター」

と、それだけ言うと、ルイズの元から、風のようなスピードで離れる。
そして、杖を抜いたギーシュに跪いて怯えていたシエスタの前に、音も無く降り立った。

「……何だ? お前は」

ギーシュが訝しげにホワイトスネイクを見て、言う。
そして数秒後、授業中にペリッソンをぶちのめした、ルイズの使い魔だと分かると――

「お、お前は……ルイズの、使い魔か! な、何だ! 何の用だ!」

瞬く間に取り乱し始めた。
ほんの一言、ルイズのことを「ゼロ」と言っただけのペリッソンを有無も言わさず叩きのめした、
このホワイトスネイクの恐ろしさは、ギーシュも自分の目でよく分かっていた。

「マスターノ命令ヲ遂行スルタメダ。『シエスタを助けろ』ト命令サレタノデナ」

ホワイトスネイクの言葉で、ギーシュは長机に着いていたルイズを見つけると、そちらへ目を向ける。

「どういうことだ、ルイズ! 何で君が首を突っ込むんだ?」
「あら、そんなの決まってるわ。私はそのシエスタに恩があるもの。
 たとえシエスタが平民だろうと変わりは無いわ。受けた恩は、返すものよ」

当然の事と言わんばかりの調子で言うルイズに、ギーシュはますます苛立ちを募らせる。
そして、ルイズの言った「受けた恩は、返すもの」と言う言葉に、シエスタははっとしたようにルイズを見る。

「大体悪いのはあんたよ、ギーシュ。
 二股なんてかければ、いずればれるに決まってるじゃない。
 なのに、あんたはその責任を自分で取らないばかりか、シエスタにその責任をなすりつけようとした……。
 貴族のすることじゃないわよ、ギーシュ」

そのルイズの言葉で、ギーシュは完全に頭に血が上った。
常日頃から「ゼロ」と呼んでバカにしているルイズに、ここまで言われたのがガマンならなかったのである。

「……いいだろう。そこまで言うのなら、ルイズ。君も覚悟できてるんだろうね?」
「覚悟?」
「『決闘』だ、ルイズ! 僕は君に、決闘を申し込む!」

きた、とルイズは思った。
シエスタを私刑に処しようとするギーシュの前に立ちはだかるということは、
真っ向からギーシュと敵対することを意味する。
そしてこういう場合、互いに決着をつけるには……決闘しかない。
決闘で、互いが納得するまで戦うしかないのだ。
たとえ「貴族同士の決闘を禁じる」ルールがあったとしても、
昼食の後に授業が控えていても、それ以外の決着は無い。

「いいわよ。場所は?」
「ヴェストリの広場だ。用意が出来たらすぐに来てもらおう!」
「用意? そんなの、いらないわよ。
 杖はここにあるし、わたしにはやる気もある。
 準備が必要なのは、あんたの方じゃないの?」
「まさか。君がレディだから、ほんのちょっぴり気遣っただけさ。
 だが、それも必要ないというなら、今すぐにでも始めようじゃないか。
 でも……」

そこでギーシュは言葉を切ると、

「君にはその不躾なメイドを慰めるなり何なりする仕事が残ってるだろう?
 それが終わったら、来るといい。僕は先に行っているよ」

そう言って、取り巻きたちと一緒に行ってしまった。

やがて、食堂にはルイズとシエスタ、ホワイトスネイクだけが残った。

「あ、あの、ミ、ミス・ヴァリエール……」

シエスタが震えた声でルイズに声をかける。

「心配しないで、シエスタ。あんなキザったらしいことだけしか脳が無いヤツに、わたしは負けたりしない。
 それに、約束したでしょう? 『恩は返す』って。
 わたしは約束は破らないわ」
「そ、その、でも……」
「大丈夫よ。あなたは何も間違ったことはしちゃいないし、後悔する必要も無い。
 だから、あなたは今までどおりでいいのよ」
「は、はい! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」

シエスタが声を震わせて、何度もルイズに頭を下げる。
ルイズはそんなシエスタを尻目に、ホワイトスネイクを引き連れて食堂を出た。

食堂を出たところで、不意にホワイトスネイクが、

「ソウイエバ、ダ。マスター」
「何よ?」
「何故、先ホド『ギーシュに攻撃するな』ト命令シタ?」
「『決闘』でぶちのめさなきゃ、意味が無いからよ」
「…………ナルホド、ナ。了解シタ、マスター」

正直、ホワイトスネイクにはよく分からない話だった。

敵がいるなら倒せばいい。
どんな方法を使ってでも、奇襲でも、だまし討ちでも、何でも。
それが、プッチ神父とともにあったころのホワイトスネイクだったからだ。
障害を突破するのに、手段は選ばない。
「目的」に到達さえ出来れば、その過程で何が起きようと関係の無いこと。
それが、プッチ神父の信条であり、ホワイトスネイクの信条だった。

しかし……今の主人であるルイズは違う。
過程を大事にして、その上で結果に到達しようとする。
過程においてさえも、プライドを高く保ち続ける。
プッチ神父とは逆の考え方だ。
だからこそ、ホワイトスネイクにはよく理解できない。
授業の片づけで、DISCによって魔法を使えるようになることを、拒んだことも含めて。

(今ハ……理解スル必要ハナイ。後デ、分カッテクルハズダ。
 私ハマスターノ元ニ来テカラ、マダ1日ト少シシカ経ッテイナイノダカラ……)

そう考えながら、ホワイトスネイクはルイズの後を追った。

二人の行き先は、ヴェストリの広場。
二人の目的は、決闘。


To Be Continued...

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