ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神-11

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匿名ユーザー

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 ごとごとがたがたと馬車が揺れる。襲われたとき直ぐに外に飛び出せるほうがいいという事で、屋根なしの荷車なのだが、それが早朝の日が昇る様を堪能できる。
 とても空が美しい。とても空気が気持ち良い。
 ルイズは昨晩眠りそこねたので、ごろんと仰向けになってぼぉーっと空を眺めている。
 勘違いで慌てて、うっかりこんな事になってしまった。強力なメイジとしても有名な、盗賊土くれのフーケの探索。もちろん戦闘もありえるだろう。
 果して生きて帰れるのか?とてもとても不安になる。
 けど考え方次第では無いかなとも思う。フーケを倒せなくとも『破壊の杖』をどうにか取戻せば良い訳で。任務を無事こなせば自分を『ゼロ』と馬鹿にしてきた連中を見返す事もできる。
 フーケが本塔を襲ったとき、アヌビス神とタバサが良い勝負をした事は話しを聞いてれば何となく判った。それに今はキュルケもいる。悔しいけれど彼女の魔法の腕は自分と違って一級品だ。
 一応ギーシュもいる。あれでも自分よりは強力なメイジだし少しは期待できる。ちらっと見るとギーシュは少し青い顔をして流れる景色を見つめている。
『やー、僕リーダーよろしくね』とか虚空に向って話しかけてるし。
 一部の先生達は物凄い期待してたけど……大丈夫?
 自滅で作ったピンチだけれど、今までの人生でなかった大きなチャンス。慌ててた時にはもう色々覚悟した。それぐらいに慌ててた。それに比べれば今はとても明るい。
 ルイズは傍らで『拭いてー拭いてー』と騒がしい二振りの剣にそっと手を置いて、ぐっとその手に力を入れた。

 ルイズと同じく、ぼぉーっと夜明け空を見つめていたキュルケが、黙々と手綱を握るミス・ロングビルに話しかけた。
「ミス・ロングビル……、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
 その言葉にミス・ロングビルはにっこりと笑った。
「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくしたものですから」
 キュルケはきょとんとした。
「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
 ミス・ロングビルは優しい微笑を浮かべた。それは言いたくないのであろう。
「いいじゃないの。教えてくださいな」
 興味津々といった顔で、ミス・ロングビルににじり寄るキュルケ。ルイズがそれを止めようと手を伸ばそうとしたら先に小さな手がキュルケの肩をそっと掴んだ。
「……」
 キュルケの肩に手を置いたタバサが黙って首を数回横に振る。その表情を見ると何か思い当たるところでもあるんだろうかと考えさせる。
 タバサの瞳を見てキュルケは黙って引下りその頭を優しく撫でた。

 ルイズは何と無く伸ばした手が行き場をなくしたので、布を取り出して、先程から、か弱い声で合唱している剣を手に取った。


 馬車は深い森に入っていった。鬱葱とした森が、五人の恐怖をあおる。早朝のしっとりとした湿度の高い空気が、薄暗い森に気味の悪い雰囲気を与える。
『ここから先は、徒歩で行きましょう』
 ミス・ロングビルがそう言って、全員が馬車から降りた。
 怖がるギーシュを無理矢理先頭にすえて、ゆっくりと薄暗い森を奥へ奥へと進む。
 小動物が走ったり、木の枝を踏んだりするたびにギーシュが『ヒィッ』『出たッ』とか小声をだす。
 そんな事を繰り返しながら暫らくすると、開けた場所に出た。その開けた空き地の真中に古びた小屋があった。いかにも廃屋といった感じで人が住めるようには見えない。

 五人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠す。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話しです」
 ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。

「や、やはりまず作戦を立てるべき……だよね?」
 ギーシュが少し自信なさげに振り返り言う。
「当たり前でしょう?あんた一人で行くなら、そのまま突っ込んでくれて結構だけど」
 ルイズがギーシュをぎろりと睨む。
「おれに良い作戦があるぜ」
 ルイズの腰からアヌビス神が声を上げる。
「……言うだけ言ってみなさい。つまんない事言ったらフリルも付けるわよ?」
「……ま、真面目に言うって、
 ギーシュの使い魔のヴェルダンデで穴掘って地下から強襲して、油断してるところを後ろから一気にブッスリずばァーっと殺っちまおうぜ。
 でもって、すかさず足の腱斬って動けなくしてよー。魔法使われる前に腕を落としちまえば。後はゆっくりと『破壊の杖』の在り処尋問してを回収して終わりだぜ」
 全開残虐発言にミス・ロングビルが青い顔をして生唾を飲みこむ。
「ば、バカかっ。ミス・ロングビルが怯えちゃったじゃないの!」
「けどよー、相手は土くれのフーケとか言う凄腕なんだぜ?先手必勝で達磨にするに限るぜ」
「言ってる事は物騒だがよ、あながち間違っちゃあいないと思うぜ俺も。戦術の基本だな」
 ルイズの後ろから次々と残虐発言とそれに呼応する発言が飛ぶ。まるでルイズ当人が言っている様で実に落ち着かないのか、ぷるぷると震えている。
「残念だけど、僕のヴェルダンデは連れてくる事ができなかったよ……馬車に乗れなくてね」
「糞、役立たずが!お前なんかヴェルダンデのおまけだろうが。フーケと一緒に斬っちまうぞ、あ?」
「ま、まぁ落ち着いて。わたしだってフレイム連れてこられなかったんだから」
 興奮するアヌビス神をキュルケがまあまあと止める。
「全くこれだから100年生きてないガキどもは考えが甘いんだッ!何が重要か考えれば判るだろ常識的によォ!」
「あんたねぇ……そんな化け物じゃないんだし、100年も200年も生きてる奴なんかそうそういないわよ!」
「俺は6000年だけど?」

 アヌビス神案がぽしゃった所で、タバサがちょこんと地面に正座し、何時の間にか辺りの簡単な図を描き始める。
「まず、偵察兼囮役が小屋の側に赴き、中の様子を確認する。
 そして、中にフーケがいれば――――――」
「成る程、キュルケの魔法で小屋ごと焼き払うって訳……ぶっ」
 ルイズは其の侭アヌビス神を腰に敷く様にして座り込んだ。
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり
 そして地面を均すようにお尻を何度も動かす。
「『破壊の杖』まで一緒に破壊しちゃうじゃないの!」
 タバサが『リーダー、続けていい?』とギーシュに目で訴える。
「つ、続けてくれたまえ」
「中にフーケがいれば、これを挑発し外に出す。
 小屋の中にゴーレムを作りだすほどの土は無い。きっと外に出てくる。
 出て来たところをゴーレムを作りだす暇を与えずに、集中砲火でフーケを沈める」
「で、その偵察兼囮は誰がやるんだい?」
「すばしっこいのが理想」
「全員遅そうだけど」
「ワルキューレを使う。あの時みたいにワルキューレがアヌビスを持つ」
「あ、成る程ね、これならもし見つかっても安全よね」
「罠が有っても問題無い。窓から中も覗き易い」
 ギーシュが薔薇の花びらを一枚飛ばし、ワルキューレを『錬金』する。
 自由を手に入れたアヌビス神は『ブッタ斬る斬るブッタ斬れー』とか物騒な鼻歌を歌いながらがしゃこんがしゃこんと小屋へと向っていく。

 まずは窓にアヌビス神自信をそーっと近づける。
 傍から見る分には、青銅のゴーレムが窓の前で剣をチラチラ振ってる間抜けな光景だが、立派な偵察行為である。
 続けて、ドアの隙間からからアヌビス神自信を差し込んで、窓からの死角の様子を伺う。
 傍から見る分には、青銅のゴーレムが小屋のドアの隙間に剣を何度も差し込む間抜けな光景だが、立派な偵察行為である。
 続けて乱暴にドアを蹴破る。何も起こらないので罠は無しと判断される。
 続けてズカズカと内部へと侵入。どうやら罠は全く無さそうだ。
 アヌビス神が操るワルキューレが、がっくり椅子に座り込みと残念そうな動きをした。
「どうやらフーケは居なかったみたいね」
「良く判るわねあんた」
 キュルケが感心した目でルイズを見る。
「あんなのでも一応わたしの使い魔だから」
 どんな形であれ自分の使い魔が役に立ったのが嬉しかったらしく、ルイズは率先して軽やかな足取りで小屋へと向った。

 タバサが念の為に外から杖を振り罠などが無いか更に確認をしてから、小屋の中へとワラワラと入る。
 全員中に入って部屋を漁ろうとしたところで、ミス・ロングビルが、『フーケが辺りに潜伏していて、不意打ちされては危ないので偵察してきます』と言って、外へ出ようとする。
「後を追ってきたマリコルヌが全裸潜んでいるかも知れないから気をつけろよ。ヘッヘッヘ」
 アヌビス神が珍しく意地悪な声で、からかう。
 ミス・ロングビルがちょっと泣きそうな反応でビクッと硬直した。同時にタバサも硬直した。ルイズは全裸の部分で嫌な脂汗を大量に流した。
 最初堅い動きだったけれど、なんとか普通に歩き出し、ミス・ロングビルは森の中へと消えた。

 さて、残った者、総出で小屋を調査開始。
「おぉ~っ!す、すごいよこれは!見たまえ!」
 いきなりギーシュが素っ頓狂な声を上げたので皆が注目する。
「ここまで精巧に彫ってるとは凄いよこれは!」
 机の下に転がっていた、熊の置物に感動している様だ。
 ルイズ、キュルケ、タバサは揃って冷たい視線を送っておいた。
「こ、これの凄さが判らないとは……」
 彫刻技術の高さを誰も理解してくれずギーシュは哀しそうに俯いた。
 アヌビス神も少々乱暴にだが辺りを調査し穿り返している。
「今度はこのチェストだな。
 ちっ、こりゃ違うな。なんで木こり小屋に釣竿があるんだよ」
 ぽいっと後ろに投げ捨てる。
「けっ。鞭とか何に使ってたんだよ!」
 ぽいっと後に投げ捨てる。
「あァ?何でロケットランチャーがこんな所にあんだよ!杖だせよ杖!」
 ぽいっと後に投げ捨てる。
「何だこの気持ち悪い形のマスクは。息できねえだろ!」
 ぽいっと後に投げ捨てる。
「何だこの赤いキラキラした石は」
 ぽいっと後に投げ捨てる。
「何で鉄球なんかまでしまってるんだ」
 ぽいっと後に投げ捨てる。

「破壊の杖っぽい物は無ねえなー」
「無いわね」
「無い…」
「無かったよ」
「無いわ」
 小屋の真中辺りに、中にあった物が山積みになっている。
「いっぺん出直した方が良いんじゃねえか?」
「うーん……散らかしっぱなしで大丈夫だろうか?」
 デルフリンガ―の言葉にギーシュが辺りを見渡して不安そうな顔をする。
「あんた変な所で生真面目ねぇ。良いのよ誰も住んでなかったみたいだし」

 ガォン

 小屋からの一次撤収の相談をしていると突然小屋の屋根が吹っ飛んだ。
 実際はかなりいい音を立てて、屋根が吹っ飛ばされたのだが、ルイズ達にはいきなり消し飛んだように感じた。

 屋根がなくなったおかげで空が良く見えた。もう昼前ね?とか一瞬ずれた事を考え……。しかし視界に巨大なゴーレムが入ってきて現実に引き戻される。
「ゴーレム!」
 キュルケが叫んだ。
「て、ててて、偵察の意味が全く無いじゃないかっミス・ロングビルっ!」
 ギーシュが泣き言を言う。
 タバサが真っ先に反応して動き、自分の身長より大きな杖を振り、巨大な竜巻を作り上げる。しかしゴーレムは竜巻を受けてもびくともせず、腕をゆっくりと小屋の中へと伸ばしてくる。
 キュルケが胸にさした杖を引き抜き、呪文を唱える。
 杖から炎が伸びる。……が炎に包まれようが物ともせず向ってくる。
「無理よこんなの!」
 キュルケが叫んだ。
 「退却」
 タバサが呟くと一同は一目散に、入り口から飛び出した。
 がつんっ
「うきゃっ」
 ルイズが猿みたいな声を出して仰向けにすっころぶ。
 デルフリンガ―が入り口に引っ掛かった様だ。
「あぶなーいっ!」
 ギーシュが振り向きざまに薔薇の杖を振りワルキューレを一体生み出す。
 ワルキューレはルイズへと振り下ろされるゴーレムの腕へと飛びついた。その勢いで一瞬腕の方向が反れ、ルイズを外れて小屋の壁を粉々に粉砕する。
 しかし直ぐさまゴーレムが腕を振り回したのに耐え切れず、振り落とされ叩きつけられ粉々に破壊さてしまう。
「わ、わわわわわわわわ」
 その隙に腰を抜かした状態になったルイズは、奇妙な言葉を発しながら四つん這いでわたわたと小屋から逃げ出した。
「馬鹿野郎、そんな使い方じゃワルキューレが持たんだろうが!」
 アヌビス神がギーシュに一喝すると素早く飛び出す。
「何かでけえ武器寄越せ」
 走りながら操るワルキューレの片手をぷらぷらとさせ催促する。
「わ、わかった」
 ギーシュが薔薇の杖を振ると、青銅の塊の様な大剣がアヌビス神操るワルキューレの前に現れる。
「悪くない」
 走りながらそれをぱしっと掴むと、下から一気にゴーレムの腕へと斬り上げるが腕に半分減り込んで止まってしまう。
「ちっ、高すぎて勢いが足りなかったか」
 そこへ座ったままのルイズが杖を振るう。
 小さな爆発、それが丁度ゴーレムの腕で起こり、半分切られていた腕を付け根から崩した。
「ナイスアシストだご主人さま」
「そ、そうだった?……じゃなくって
 と、ととと、当然でしょ!」
 しかし、ゴーレムは直ぐさま腕を新たな土で再生して、殴りかかってくる。
「相変わらず、きりが無い奴だ。
 って何ィー!」
 地面に突き立て、ゴーレムのパンチを受け止めた青銅の大剣が粉々に砕ける。同時にワルキューレの身体にもひびが入る。
「こ、鋼鉄に変わってるのよっ!青銅じゃ駄目よ」
「ギーシュ!鋼鉄に負けない武器を作れっ!」
「え、ええええ?無理無理。それに鋼鉄より強いなんて僕には無理だよ」
「さっさと、ダマスカス鋼か、たたら製鉄のねばりっ気強くて頑丈なの出せつってんだ!」
「わ、判らないよ。何だよそれ」
 聞いた事も無い名称を羅列され、ギーシュ半泣きになる。
「ええい、黙ってりゃ、俺の事完全に忘れてるのかよ兄弟」
 ルイズの背中でかちゃかちゃとデルフリンガ―が騒ぎ出す。
「てめえだけ恥ずかしい鞘プレイから、開放されてずるいぜ」
「ちっ、ずっと入ってりゃいいんだ」
 言いつつも、そいつ寄越せと腕をちょいちょい動かして主張する。
「ん……しょっと」
 ルイズは自分には不釣合いな大きさのデルフリンガ―をどうにか抜き放つ。
「お前等じゃ決め手がねえ、下がって支援しててくんな。俺たちが前、メイジは後ろ。戦闘の基本ってぇもんだ」
 喋るデルフリンガ―を手渡す。
「あんた達、剣の癖して結構心強い事言ってくれるのね」
「こちらとらおめえ等の何十倍何百倍生きてるんだ、任せときなガキども」
「その年にガキ扱いされても流石に腹が立たないわ」
「いいからいけ、ご主人さま。危なくなったら躊躇わずに撤収しろよ」
 苦笑してルイズは後ろに下がり、数歩下がった場所でおたおたしていたギーシュと共に、更に後方で、タバサに呼ばれ助けに来た、風竜のシルフィードへと乗ろうとしている、キュルケとタバサに合流した。



「さーて、行くか?兄弟」
「ちっ、兄弟なんて言うんじゃねえ、俺が主導権持ってんだぜ、糞兄貴」
 アヌビス神、剣として500年生きた。それは己と同じ存在は決していない歩みだった。同じスタンド使いはいても、それは人や動物。
 同じような奴が隣にいるってのも悪くない。そう少しだけ考えた。
「んじゃ、行くぜ!」
「おうよ!」

「アヌビス神ッ!

  デルフリンガ―ッ!

   魔剣!妖刀! 二 刀 流 !!」

 アヌビス神の柄のルーンが大きく輝きを放ち煌いた。




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