ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-22

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 ゼロと奇妙な隠者・幕間劇、もしくは。
 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの憂鬱


 フリッグの舞踏会も終わり、学院には宴の後特有の弛緩した静かな空気が流れていた。
 我らが『微熱』のキュルケも、そんな空気に当てられたか、深夜だというのに自室のベッドの上で一人、ヘビードールを纏って寝転んでいるだけだった。
「きゅるきゅる」
『今夜は誰かと同衾しないんですか』と暖炉の中から問いかける使い魔。明日は雨だな、とサラマンダーであるフレイムは憂鬱な気分になった。
「あー……今夜はいいかなって思ってるのよねー。ちょっと思うところあって」
 月の物でないことは重々承知している。まあ月の物の真っ最中だろうがこの主人は構わず生徒を食っちまう点があるというのに、体調のいい時分に一人寝を選んでいるというのはかなり珍しいことである。
 今のキュルケからは平素のように恋愛にうつつを抜かしている感情は感じられない。むしろ物憂げというか、憂鬱な気分を感じるのは初めてと言ってもいい経験だ。
 この情熱的な主人でもメランコリーになる夜は存在してるのだなあ、と、妙な所で感心していた。
「きゅるきゅる」
『そう言えばヴァリエールさんところのジョセフさんを部屋にお呼びしないのはどうしてですか』と、前々から疑問に思っていた質問を聞いてみることにした。
 使い魔達の中でもジョセフの人気は大したものである。特にエサをくれるわけでもないし何かをしてくれるというわけでもないのだが、何故か一緒にいたくなる雰囲気がある。

 カエルからバクベアードまで幅広く人気があるというのもおかしな話ではあるが、実際そうなのだから仕方がない。
 元々いい男だし、なまっちょろい学院の生徒にはないワイルドさや鍛えられた身体。ユーモアセンスは言うまでもないし、何より男にしか目が行かないというわけでは決してない。
 恋愛狂と称してもいいくらいの主人がこれだけ好条件の男を部屋に呼ばない、というのは奇妙なことに思えて仕方ないのである。粉はかけているようだが、それもルイズをからかう材料にしているだけのレベル。
 使い魔の疑問に、キュルケは苦笑しながら身を起こした。
「いやー……本当なら呼んでるところよ? むしろ呼ばない理由がないというか」
「きゅるきゅる」
『じゃあなんで呼ばないんですか』という質問に、キュルケはやっと身を起こした。
「あー……呼んだらからかうとかいうレベルですまないというか。何と言うか、直感?」
「きゅる?」
 常日頃からツェルプストーとヴァリエールの因縁は聞かされている(主に桃色から)。
 キュルケは特に意識はしていない……というか、気にもしていない様子だが、ヴァリエールの方は意識しっぱなしで、ジョセフとキュルケが立ち話をしているだけでキレていた。
 それはもう懸命にツェルプストーの家は汚いだとか成り上がりだのときゃんきゃんわめいているのだが、ジョセフは右から左でハイハイといなしている。それがまた気に入らない、とキレまくるのをフレイムも何回も見ていた。
「きゅるきゅる」
『でもあの調子なら、大体こんな感じで笑い話になるんじゃないんですか?』と、私感を述べてみるフレイム。

①・フレイムの予想

 ジョセフを部屋に連れ込んだキュルケ。ジョセフはいい年してスケベだから誘惑されようモンならホイホイとついてっちゃう。で、ベッドにいざ来ようとした段階でルイズが乗り込んできて一悶着あった上で、ルイズがジョセフを引き摺って帰る。

「きゅるきゅる」
『大体こんな感じで終わるでしょう』としめくくった。
 ベッドに座ったままのキュルケは、使い魔の言葉を苦笑しながら聞き終わった。
「うーん……決闘前ならそれで終わってるはずなんだけどねぇ。あれよ、決闘終わってからちょっとギクシャクしてたでしょあの二人。その時だとねー……」

②・キュルケの予想(決闘直後の見解)

 ジョセフを部屋に連れ込んだキュルケ。ジョセフはいい年してスケベだから誘惑されようモンならホイホイとついてっちゃう。で、ベッドにいざ来ようとした段階でルイズが乗り込んできて――
「……何――してるのよ……」
 どう言おうが言い訳しようもない現場を目撃したルイズ。その手に握られた杖が震える様子が、彼女の怒りだけではない様々な感情が混ざり合っているのを如実に表わしていた。
「ま、待てルイズ。落ち着け。なッ?」
 危機を感じ取ったジョセフが、ルイズを宥めにかかる。
 だが今のルイズに使い魔の言葉が届くはずもない。
「アンタはッ……そうよ、私を裏切ってッ……!!」

「――とまあ、ブラックルイズ化しちゃう危険性があったと踏んだわけよ。さすがにあの時のルイズとジョセフに手を出したら刃傷沙汰じゃすまないような感じもあったし」
「きゅるきゅる」
『それは確かに』と同意する。
「そもそもこの話はお気楽なラブコメをやろうと思ってたのに、いつの間にかパワフルで頼れるおじいちゃんとワガママだけどカワイイところがある孫娘のほのぼのコメディに変わってきたからそのままいっちまうかァーなんて後先考えてない作者がやってるわけだから」
 何を言い出してるんだこの人は、と言いたげなフレイムの視線にも、キュルケはうむうむと頷いた。
「本当は『ゼロ奇妙にはどうにもハーレムラブコメ分が足りない! ここでジョセフ! スケベで孕ませ放題なジョセフでそれなんてエロゲ? をやろう!』とか思ってた……のに。
 ギーシュに決闘挑んだ時点であれ? 方向性違う? まあいいややっちゃえーとなって今に至ってるわけで」
 フレイムが(もしかして目の前にいる主人は主人の姿をしてるだけで中身が違う人なのでは?)という疑念を抱き始めてきたところで、キュルケは一つ咳払いをした。
「まあそれはさておいて。私もルイズをからかうのはやぶさかじゃないけど、本気で殺意を抱かれたり殺したり殺されたりとかは現時点では望んでないわけ。しかもそれが可能性として高かったあの時期に、ジョセフを誘惑するワケにはいかなかったのよ」
 おお元の主人に戻った、と思ったフレイムは、続けて問いかけた。
「きゅるきゅる?」
『じゃあミス・ヴァリエールとジョセフさんが仲良くなった今なら、①で終わるからちょうどいいんじゃないですか? なんなら呼びに行きますよ』と。
 だがキュルケは、自慢の赤毛を緩く振って苦笑した。

「だめだめ。今だときっとこんなコトになるわよ」

 ③・キュルケの予想(現時点での危険性)

 ジョセフを部屋に連れ込んだキュルケ。ジョセフはいい年してスケベだから誘惑されようモンならホイホイとついてっちゃう。で、ベッドにいざ来ようとした段階でルイズが乗り込んできて――
「……何――してるのよ……」
 どう言おうが言い訳しようもない現場を目撃したルイズ。
 彼女は怒りに満ちた目を隠そうともせず、杖を振り上げるが――その唇から魔法の詠唱が始まることはなかった。
 小刻みに震えていた手はやがてゆっくりと、力なく垂れ下がり……
 魔法を唱えるはずの唇から漏れるのは、紛れもない嗚咽。
「ひっ……ひっ、ひぃっ……どうしてよぉ……えっく、うわぁぁぁぁぁああぁあん」
 にっくきツェルプストーの前だと言うのに、誰憚ることなく大泣きしだすルイズ。
 その姿はまるで親とはぐれて泣くしか出来ない幼子のようだった。
「ジョセフを、えぅっ、あたしのジョセフを、取らないでぇぇぇえええぇ」
 泣く子と貴族にはかなわないという諺がハルケギニアにはあるが、貴族で泣いてる子となればもはや太刀打ちできる者は誰もいない。
 ジョセフは慌ててルイズに駆け寄り、ルイズは泣きじゃくってバカバカと連呼してジョセフの胸をぽこぽこ叩きまくる。
 キュルケはなんか言い様のない罪悪感に圧し掛かられたまま、帰っていく二人の背を見送ることしか出来ませんでしたとさ。

「きゅるー……」
 うわ。なんかリアルに想像できた。とサラマンダーが呟く珍しい光景。
「でしょ? それは怖いというか、今まで挙がった①から③まで、どれも有り得そうでしょ。ただルイズをからかうだけでそんな危険な賭けが出来る段階じゃないのよねー」
 はぁ、と溜息をついてから、キュルケは再びベッドに倒れこんだ。
「いい男なのよねー、スケベで浮気しそうでお調子者なのを差し引いても。年を取ってるのもダンディだし。あの年であそこまで色々スゴそうなのも普通いないわよね」
「きゅるきゅる」
『ヨダレ。ヨダレが出てますよご主人様』
 手の甲で口元を拭う。
「まああれよ。部屋に呼ぶとすれば、もう決戦挑むくらいの気持ちで行かないと。生半可な気持ちでやると大火傷するから、対策はきちんと取っておかないと……!」
「きゅるきゅる」
『おお。さっきまでのメランコリーな気分がもう消えてる。何と言うかあれだな。我がご主人様ながら単純だなー』
 艶かしい肢体を熱情の炎に包みながら、拳を握り締めるキュルケ。そんな主人の姿をサラマンダーなのに生暖かく見守るフレイム。


 隣の部屋で燃え盛る炎など知ることも無く。
 ジョセフは毛布の上で10分間寝息を吐き続け、ルイズは悪夢にうなされていた。


 To Be Contined → 第二部『風のアルビオン』

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