ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神-10

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匿名ユーザー

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 トリステイン魔法学院では、今蜂の巣をつついた大騒ぎが起こっていた。
 何せ、たった今秘宝の『破壊の杖』が盗まれたのである。

 宝物庫の壁を巨大ゴーレムの拳で打ち抜く大胆な犯行。
 そして壁に刻まれた土くれのフーケの犯行声明。
 教師たちの責任の擦り付け合いが起こり、荒げられた声が飛ぶ。
 何せその日の晩の当直だったミセス・シュヴルーズが夜通しの門の詰め所の晩をサボっていた為、その責任追及が容易くあったのだ。

 中でもミスタ・ギトーが厳しく彼女を追及する。その厳しすぎる言葉にボロボロと泣きだしてしまう。
「泣いたって、お宝は戻ってこないのですぞ!それともあなた、『破壊の杖』の弁償できるのですかな!」
「わたくし、家を建てたばかりで……」
 ミセス・シュヴルーズはよよよと床に崩れ落ちた。
 そこにオスマン氏が現れた。
「これこれ、女性を苛めるものではない」
「しかしですな!オールド・オスマン!ミセス・シュヴルーズは当直なのに、ぐうぐう自室で寝ていたのですぞ!責任は――――」
 オスマン氏がその言葉を最後まで聞かずに、その長い口髭をこすりながら口を挟む。
「ミスタ・ギトー」
 そこで教師達に驚きが!『オールド・オスマンが何でちゃんと人の名前覚えてるんだ!』と。
「君は今のその姿。かの人に見せることができるのかね」
 ミスタ・ギトーがハッとする。
「今の君には『愛』がまったく無いとは思わんかね」
 その言葉に彼はがくっと崩れ落ちる。
「『ギーシュさん』ならば絶対にあの様な発言はせぬはずじゃっ!」
「そ、そうでした……『ギーシュさん』ならば」
「「ギーシュさん!」」
『はいはい、だから名前覚えてたのね』『この二人はまだ覚めてなかったのかよ』『まぁこの騒ぎが少しマシになったんだから御利益はあるのかもしれない』とか考えつつ、取り合えず教師達は、腕を打ち合わせる二人から距離を置いた。

「で、犯行の現場を見ていたのは誰じゃね?」
『ギーシュさん』コールを満足行くだけしたオスマン氏が、取り合えず白湯で喉を潤し一服しながら教師達に問う。
 コルベールがさっと進み出て、自分の後に控えていた者達を指差した。
 ブーッ
 オスマン氏は白湯を激しく噴出した。
 そこには下半身にタオルを巻き、片手にルイズの使い魔アヌビス神を握りしめるマリコルヌと、珍しく感情を表に出した赤面顔で物凄く居辛そうにしているタバサがいた。
 マリコルヌの表情がおかしい。この様な顔をする様な少年でなかった筈だ。とか糞真面目に思ったが『ギーシュさん』との決闘を思い出し理解した。
「ふむ……実質は二人と言う事かの」
「はい。後は一応、使い魔だけと言うのも何かと便が悪いので、ミス・ヴァリエールを呼び出し中です」
 それを聞いたアヌビス神が『信用がねーな』と一人ぶつぶつ言う。
「……その姿は説得力が皆無」
 視線を合わせないままタバサがぼそり。

「取り合えずただ待っておるのも時間が勿体無い。今は急ぎじゃし話してくれんか?」
「おれが何時もの恒例の走り込みをしてたら、妙な人影が塔の側に浮いてたから捕まえようとしたんだ。
 もうちょっとで斬ってやれたのによォーっ!」
「アヌビス神を探してたら塔から悲鳴が聞こえたから駆けつけた。
 黒ずくめのメイジがゴーレムで宝物庫の壁を壊して中に入った。
 逃げたから追いかけたけど、ゴーレムは崩れて土になって消えた。黒ずくめのメイジはそこにはいなかった」
 どうにも目撃者が悪い、話しが的を得ない。
 タバサは思い出したくない事が多々ある様で、証言がやたらと断片的だ。

 そこに呼び出しを受けたルイズが現れた。部屋で一緒に居たと言うキュルケも一緒に付いてきている。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、ただいまさ―――」
 言いかけてルイズはブーっと噴出し咳き込んだ。
「な、ななな、なんてあんたがここに!」
 その視線の先には殆ど全裸のマリコルヌとその手に握られたアヌビス神。ルイズはまさかばれた?と焦る。
 きっとアヌビス神がヘマをして見付かって呼び出されたのだ。そう言えば何故かタバサがいる。しかも妙に赤面してて視線を逸らしている。まさかタバサに何かしたのか?それで掴まったのか?
 いやいや、タバサに見付かったと考えた方がまだ被害は少ない。
 キュルケは顔色が妙なタバサの側にいって『どうしたのタバサ。顔が真赤だけど大丈夫?』とか言ってそっと抱きしめてるし。タバサも何か怖いものに遭った後の子供みたいに妙に抱きついてるし。やはり只タバサに見付かったとかじゃないわよね?
 これ確定?確定なの?ねえもしかしてわたしお終い?こんな時はどうしたら良いのどうしたらっ!ねえちい姉さまァーっ!
 ルイズは尋常じゃなく混乱し狼狽する。

「さて、これで揃いましたかな?」
 ルイズ達の到着を見てコルベールが、オスマン氏に向く。
「ときにミス・ロングビルはどうしたね?」
「時間が時間ですし、連絡が上手く回ってなければまだ自室で寝ているのでは……?」
「こりゃイカン。非常時じゃし起こしにいかんと!」
 オスマン氏がウキウキした表情で退室しようとした所で、ミス・ロングビルが現れる。
 髪の毛や服が微妙に乱れているので多分起きて慌てて着替えて出て来たんだろうと皆考えた。
 コルベールはその微妙な乱れ感の色気がゴクリと一人思った。
「事件が発生したと聞き、急ぎ参りました。今判っている事を教えていただければ直ぐ調査に入りますわ」
 その言葉を聞き、『ちょ、ちょちょちょ、調査までしちゃうの?』とルイズは更に焦る。
 焦って焦ってもうなんか言葉が何も耳に入ってこない。不味い脂汗が止まらない。

「さて、再度言うが宝物庫に納められていた秘宝『破壊の杖』が土くれのフーケによって盗み出された。
 目撃者はそこの、二人?じゃ」

 話しは進むがルイズの耳には殆ど入らない。
 辛うじて、
「王宮に報告しましょう!王宮衛士隊に頼んで……」うんぬん
 珍しくオスマン氏が目ン玉引ん剥いて怒鳴る様に、
「ばかもの!王宮なんぞに知らせて……」うんぬん
 と耳に入った気がする。
 そもそもマリコルヌだって仮にも貴族。そりゃプライドも高いわ、あんな事ばれたら流石に不味いわよね、不味い。
 調子に乗り過ぎたかしら?ねえ、わたし調子に乗り過ぎてた?
 けど王宮にまで知らせるのは大袈裟ではないかしら?いえ、きっと毎晩全裸疾走は、わたしが思っていたよりも大変な事だったのね。
 まってまってまって、調査される前に素直に自首すれば罪は軽いかもしれないわ。

「調査の必要は無いわ!」
 ワイワイどうするか、どう動くにしてもまずは調査しないと駄目じゃないか?等と話し合ってる中、言葉を割ってルイズが大きな声を出した。
 いきなりの言葉に『では調査の下準備を……』とか言っていたミス・ロングビルなんかは、何で今動こうとしたこの瞬間に中止宣言をするのよと表情を変える。
 兎も角、ルイズのその言葉に、その場に居る物達がルイズに注目する。
「……えっとーその、……ですね」
 ルイズ、注目されて心が折れそうだ。
「犯人は……わた、わた、わたたたたたたたた――――――」
 駄目、あんな恥ずかしい事をわたしが命令してたなんて言えない、けどここまで言ったらなんて言えば、……そうだわ!
「わたしが見つけてきます!」
 いきなりの宣言である。何処にフーケが逃げたかも判らない段階でこの発言。しかし根拠は無いが有無を言わせぬ勢いがある。
 良く判らないが、その場の全員これだけは理解できた。『ミス・ヴァリエール、彼女はやる気である』
 生徒だからとか未熟者だからとか、そんな事すらも些細な事で、止める理由にすらならない。それぐらい今のルイズの目がスゴイ。

 そこで更にルイズは考える。さっきのタバサのあの表情。あれは確実に何か知っている、迅速に説得して何らかの詫びをして口止めをしないと危ない。
 取り合えず呼び出す必要がある。
「え、えっとー、そうよ、タバサ。タバサにも来て貰う必要があるわ!」
 その言葉にタバサ、尋常じゃなく嫌そうな目をする。何と無くあの全裸と関らないといけないかもしれないと思い、それだけは嫌だと思った様だ。
 しかしその言葉にオスマン氏が感心した様に言う。
「流石ヴァリエールの三女。人を見る目が有る様じゃの。
 ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士じゃ。必ずや力になってくれるじゃろう。何よりも目撃者の一人じゃしな」
『目撃者』の部分で又タバサが何か思い出しそうになったらしく、物凄い逃げたそうな目をする。
 キュルケはそんなタバサの様子を見て、土くれのフーケとはそれ程の相手なのかと判断した。何よりタバサがシュヴァリエの称号を持っていると言う事実にも驚いたが、どこか怯える小さな友に助けの手を差し伸べる方が先である。
「タバサが行くのであれば、この『微熱』のキュルケも」
 勿論ルイズにとってこの発言は『えェー!?』である。
 しかし、オスマン氏はそれを見て、
「そうか。では、頼むとしようか」
 と言い出す訳で。不味い、言い訳する相手が増える。むしろややこしくなる。どうするどうするどうするのルイズ、更にピンチよ!と内心大慌て。
 そこでルイズは気が付いた、つまりはキュルケをアヌビス神で操って撤回させれば良い。

 ルイズは、マリコルヌの手からアヌビス神を慌てて、もぎ取った。

「あ…ありのまま今起こった事を話すよ!
 『夜も遅くなったし、さて寝ようって事でベッドで横になって夢の中!と思ったら学院長室で殆ど全裸で立っていた』
 な…、何を言ってるのかわからないとは思うけど
 ぼくも、何が起こったのかわからなかった…
 頭がどうにかなりそうだった…
 最近、夜全裸で走ってるだろ、マゾ扱いとか
 そんなチャチなものじゃ断じてない
 最も恐ろしいものの片鱗を味わったよ」
 マリコルヌは大混乱である。
『ルイズが物凄い形相でこっちを見ている。
 タバサが何か汚い物を見たように視線を露骨に逸らしてる。
 キュルケが、まるでせつない動物を見るような目でこっちをみる。
 その他の教師連中はどうでもいい、男とかオバさんだし。
 いや、まって!まってよ!ミス・ロングビルのその冷たい嫌悪感溢れる視線はァー
 ちょ、ちょっと快感だよ。
 他は兎も角この四人の視線は興奮を呼び起こすよ』
「も、もっと……」
 マリコルヌが何かぼそぼそと口にする。
「知らず知らずのうちに麗しい女性達の前を何も纏わずに現れて興奮をォォォォォ
 もっと、もっと見てくれっ
 その冷たい視線でぼくを見てくれっ
 この罪深いぼくをつらぬいてくれっ!」

 ルイズは『やっちまったか……』とかぶつぶつ口走るアヌビス神を手に硬直していた。
 そりゃそうだ。このタイミングでマリコルヌからアヌビス神を奪えば彼は意識を取戻す訳で。ルイズはその事をすっかり失念していたのだ。
 予想外の展開で身体が固まって動かない。

 すぱこーんっ

 なんだか景気の良い音が理事長室に響きわたった。
 ミス・ロングビルだ。何故だか判らないが普段大人しげな彼女がマリコルヌを、机の上に乗っていた分厚い本でぶっ叩き、ぐしゃっと踏みつけた。
 こんな感情的に攻撃を加えるミス・ロングビルの姿は、普段セクハラ三昧だったオールド・オスマンすら初見だ。
 ぐしゃっぐしゃっぐしゃっ
「そ、そうっ!
 おふぉぁっ、あ!あ!んんぁああッ!
 もっと踏み付けてぼくを断罪してくれッ!
 そうだ、そう、ただ踏みつけずグリグリと踏み躙ってくれッ!」
「エアハンマー」
 その絶叫を聞いたタバサが魔法を放った。
 マリコルヌは沈黙した。

 口髭を弄りながらその光景を一部始終見ていたオスマン氏。
「と、とりあえず仕切りなおすかね」

 さて、一通り再度説明がされ、一から纏めなおされた。
 ルイズは渇いた笑いを浮かべている。全部思い込みで危惧し過ぎていた。秘宝が盗まれて大変だけど個人的にはたいした事無かった。
 ごめんなさいマリコルヌ。もう何度ゼロと言われても、『かぜっぴき』とはもう呼ばないわ。

 しかしルイズ、キュルケ、タバサの3人が土くれのフーケを追う話しは生きており。それは決められた事として話しが進められた。
気を失っているマリコルヌは自室へと運ばれていった。
 妙に落ち着きが無かったタバサとミス・ロングビルはマリコルヌが運び出されると何時もの調子を取戻していた。
 さて、纏め直され変わった事と言えば一つ。
 一から纏め直しを開始したら、しょっぱなにオスマンとギトーが、そしてあまつさえ今度はシュヴルーズまでが
『ギーシュさん』『ギーシュさん』『ギーシュさん』
 と言い始め、捜索隊のリーダーにギーシュが任命されていた事だ。
 なおギーシュは何も知らずに自室ですやすや眠っている。
 今も『愛しいモンモランシー、さあこの指輪を受け取っておくれ』とか寝言をむにゃむにゃと。

 どちらにしてもこの夜の闇の中追撃するのは危険であり、闇の中広範囲を探索するすべもない以上、日の出を待って出発する事となった。
 そしてそれまでにミス・ロングビルが時間が空かない内に調べるべき事を安全な範囲で調査をすると申し出、ルイズ等はそれまで準備を含め体調の万全を期すため休息する事となった。

 まずは各々自室へと戻る。
 ルイズとアヌビス神は床の上で、死に体で虫の息なイメージで転がっているデルフリンガ―に出迎えられた。
 乱雑に転がるその姿を見て、アヌビス神が何かしみじみ哀れむ様に声をかける。
「無様だな、余計な事言っただろ、ん?セクハラ発言でもしたな?」
「うっせー、オメエと一緒にすんじゃねーや。俺はちょいと仲良い友達同士良いねと言っただけなのによ」
「五月蝿いわね、あんまり仲良く五月蝿いと、まとめて塩茹でにするわよ」
 帰るなり口喧嘩を始めた剣共に一喝し、ルイズは少しでも休もうとベッドに突っ伏した。
 だが緊張で眠る事は出来ない。
「誰と誰が仲が良いってェ?」
「こんな折れ物と一緒にすんじゃねー」
「何だと?こっちこそ錆び剣と一緒にされたくない」
「黙れナマクラ」
 ぽいっ
 ぽいっ
 ルイズは黙って窓から二振りの剣を全力で投げ捨てた。どうせ後数時間で動かないといけないのだ、それはまだ夜明け前。出かける前に拾えば良い。
「な、なんでこんな事になっちゃうのよ……」
 再びベッドに突っ伏し一人ごちる。
 何だか自業自得因果応報なのは確かだが納得できない。むしろ多分納得して探索隊に参加したのはキュルケだけなのが現実だ。
 結局ルイズは、出発するまでずっと考え込むハメになった。

 ミス・ロングビルは夜明け前に戻ってきた。
 夜明け前から農作業をしていた近隣の農民が、それらしき人影を見たとの事だ。
「徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」
「フム、それだけ離れた場所にも関わらず見つけられるとは幸運だったの」
 彼女はそれをオスマン氏達に報告しながら、広げた地図にチェックを入れる。
 そこは学院近くの森。そこにある廃屋に入っていった黒ずくめのローブの人影を見たと言う。
「地図と口頭説明だけでは確実ではありませんので、わたくしが案内いたしますわ」
 その言葉にオスマン氏は、危険があるかも知れないので気を付ける様に答え、彼女の尻を撫でた。


 さて朝日がさしはじめ出発の時刻となった。まだ人気も殆ど無い早朝である。
 ルイズの背中と腰では『朝露拭いて拭いて』と合唱が騒がしい。初めて二本とも身に付けているのだが、これは重い、とても重たい。後に転びそうだ。
 身体を多少鍛えるか持ち方を考えないとこれは危ないなとルイズは考える。

 そして今、オスマン氏が用意させた馬車を前にギーシュは混乱し通し大慌てである。
 早朝突然叩き起こされ、土くれのフーケに突然奪われた秘宝『破壊の杖』を取戻して来いと言われた。
「ま、まってくれたまえ。僕は今日モンモランシーと約束が。ゆ、指輪をだね。
 そもそも何故当事者でも無い僕が行く事にィーっ!
 出来の悪い冒険小説の導入よりも酷い展開じゃないかァー!」
 ギーシュ半泣きだが、オスマン氏始め数人の教師達は明かに期待の眼差しを向けている。
「フーケは待ってくれません、急ぎますわよ!」
 御者として乗り込んでいるミス・ロングビルが促し、ようやく出発となった。

 片頬を真っ赤に腫らしたオスマン氏が馬車の前に並ぶ4人に向き直る。
「魔法学院は、諸君等の努力と義務に期待する」
 それに対し、揃って杖を掲げ唱和する。
「杖にかけて!」

 寸前までわたわたしていたものの、ギーシュは反射的に動きを併せていた。





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