ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神-9

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匿名ユーザー

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 城下町に突如現れた謎の正義の覆面貴族。
 それは華麗で!優雅で!それでいて強い!しかし何故か魔法を使わず、殺しはしないがちょっと容赦無い。
 最近街でも評判の噂だ。
 正体は誰か?マントから覗く柔らかそうな手足は間違いなく女性、きっと美少女に違い無いとか。
 女な訳ない、胸があまりに無かったとか。
 そんな事は無い、あの透き通る様な声は女性に決まっている。いや美少年だね!この手のはそういう風に相場は決まってるんだ!とか。
 ともあれ最近暴れまわっていたスリグループが見事一網打尽にされ、被害者達は物が戻ってこなかったとはいえ溜飲が下がる思いだった。
 それは貴族平民を問わなかった。貴族なのが良い。魔法を使わなかったのが平民も希望を持てて良い。とかなんとか。
 その活躍を面白おかしく小説や劇にしようという動きも有るとか。

「あ、あはははははははは……」
 ルイズは自室でベッドに突っ伏し乾いた笑いが止まらないでいた。ギーシュの気持ちが物凄く判った気がした。城下町でも時々魔法学院にいるという『愛』の人の噂とやらを耳にしたし。
 正直アヌビス神を甘く見ていた。まさか次々と捕まえたスリの心を読んで、衛士が長期間に渡って捜査しても見つけられない様な規模でスリを、しかも小一時間で瞬く間に一網打尽にしてしまうとは思いもよらなかった。
 心底『そのスタンドってのすごい怖いわ』と思った。
 アヌビス神としては相手を斬り殺せ無くても、大義名分の元に沢山の対人戦闘を楽しむチャンスだった訳で、大興奮だったのだ。
一応ルイズの身体に負担をかけて怒られ無い様に気も使ったし。『おれ怒られる様な事、何もしてねーよなァ?』である。
 ちなみに力技にならない為にした流れる様なステップの動きが観衆にすごい受けが良かった。

 その痛快劇が幸か不幸か。それは一つの事件の噂を掻き消してしまう事となった。裏通りにある御禁制の秘薬等も扱うとある店とその周辺で起こった事件の……。
 スタンド使いは引かれ合う。例えスタンド使いがこの世に一人しか居なくとも、それは何らかの影響をばら撒き、時に新たにスタンド使いを生み出し、そしてやがて引かれ合う。
 そう、それは運命。抗う事のできぬ定めである。

 一方突然盛り上がった噂程度では話題から消え去る事の無いものも有る、それは……。
 伝説の捨て身の愛の人『ギーシュさん』!!
 それもそうだが、そうではなくて、
『土くれ』の二つ名で呼ばれ、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れているメイジの盗賊がいる。土くれのフーケである。
 フーケは北の貴族の屋敷に、宝石が散りばめられたティアラがあると聞けば、早速赴きこれを頂戴し、南の貴族の別邸に先帝から賜りし家宝の杖がある時けば、別荘を破壊してこれを頂戴し、東の……。
 兎に角貴族がお宝、こと強力なマジックアイテムを手にしているとの噂があれば現れ盗み出す。神出鬼没の大怪盗。メイジの大盗賊。それが土くれのフーケなのだ。
 その盗み方は、繊細に屋敷に忍び込んだかと思えば、別荘を粉々に破壊して、大胆に盗み出したり、白昼堂々王立銀行を襲ったかと思えば、夜陰に乗じて邸宅に侵入する。
 行動パターンが読めず、トリステインの治安を預かる王室衛士隊の魔法衛士たちも、振り回されているのだった。
 しかし、盗みの方法には共通する点があった。『錬金』の魔法を使うのである。扉や壁を粘度や砂に変えてしまう。例え強力なメイジによって『固定化』され守られていても例外でなく、フーケの『錬金』の前には土くれとなるのみ。
 だからこその『土くれ』の二つ名なのである。
 そして高度な『錬金』を使いこなす以上、非常に強力な『土』系統のメイジ。
 フーケの操る身の丈三十メイルに達する巨大な土のゴーレムは非常に強力であり、何者であろうとそれを押し留めることはできない。屋敷すらも力任せに粉々に破壊するのだから。
 その正体は不明。男か女かすらも判っていない。

 さてその日の晩、土くれのフーケは魔法学院にいた。五階に宝物庫のある本塔の壁を宙を浮きながら撫でている。
「今日でどうにかできれば良いんだけどね」
 屋内からもたっぷりと調べた。壁の厚さも念入りに調査し『固定化』の魔法の穴が無いかと念入りにも調べた。
 魔法で勝れなくとも、物理的な大質量による衝撃で勝る事でも『固定化』を破ることはできるらしい。今ここに掛っている『固定化』に勝るだけの打撃力を念入りに計算しなければならない。
「これはやはり私のゴーレムの腕力だけじゃ駄目ね」
 コンコンと軽く叩きながら考える。つまりはゴーレムの腕力を利用して更に高い破壊力を生み出せば良い。要は遠心力を利用すれば良い。長く巨大な鉄のハンマーを錬金しそれを叩きつければ良い。
 だがゴーレムを生み出した上に、この壁を破壊できるだけのハンマーを『錬金』できるか。それを壁を叩き最も薄い場所を探し、計算する。
「少しひびでも入ってる場所があれば、もっと楽なんだけどね……」
 その白い指をゆっくりと壁に這わせ、その表面を調べていく。
「『破壊の杖』絶対手に入れてやるわよ」

 突然の気配、そして足音。

 彼女がした予想よりもはるかに早いタイミングで人影が現れた。これは余りに誤算。この時間帯ここを通る者は居なかった筈。
人影も宙に浮くフーケに気付く。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」

 絹を裂く様で、かつ大きな悲鳴が響き渡った。

 誰の?
 フーケの。
 恐怖の悲鳴と言うより卑猥に対する反射的なやつ。

「この学園は変態の巣窟なの!?」
 何故唐突に全裸モロ出し小太り少年が剣一本だけを持ってハァハァ呼吸を乱しながら走ってくるのか。こっちへ向って一直線に!
 土くれのフーケ、人生それなりに色々経験して色んな人間も見て来たが……ここまで直球ド変態に遭遇したのは初めてだった。
 人の裏をかく事には相当な自身があったのに自身をなくしそう。
 昔子供の頃親に教えられたわ。『夜道で変質者に遭った時は兎に角声を上げなさい』とか。きっと今の悲鳴はその賜物ね。
 フーケは悲鳴をあげた自分の口を押さえながら思った。

 正体不明のはずのフーケの性別が初めて判明した。それは女性。
 しかしそれを知る事になった今その場に居る唯一の存在はフーケの事も知らなければ、性別も気にはしないのだが。


 ルイズの命令、それは連日毎晩マリコルヌを操り全裸で走り回って風邪をひかせること。アヌビス神、これは正直無駄だと思っている。分厚い皮下脂肪は風邪を跳ね退けける。
そして日々のこの運動でマリコルヌの身体はその皮下脂肪の下に筋肉が付き、より一層寒さへの抵抗力を増し頑丈になってゆく。
多分今トリステイン魔法学院でもっとも健康な肉体を持つ貴族はマリコルヌだ。

 その行為は一部の生徒の間では噂になっていたが、極力目立たないようにしろ、特に教師達にばれたら元も子もないというルイズの指示でそれなりに隠密裏に行われていた。フーケの調査網からもそのためすり抜けたのだ。

 そしてアヌビス神は今本塔の側に浮くいかにも妖しい人影を発見していた。
「泥棒ならちょっとぐらい斬っちまっても怒られないよなァ?」
 斬るチャンス斬るチャンス。生徒でも職員でも無い、勿論飛んでいるのだから平民でも無い。ならば侵入者だ。
 五階の高さ、これは流石に鍛えた身体から力を引き出しても簡単に跳躍できる高さではない。もし飛べても失速し有効打は狙えない。
 ならば登るのみだ。己を次々と壁に付きたて駆け上る。
 そして壁に突きたてようとする。

 全裸の少年は壁に剣を突き立てようとしている。どうやら剣を壁に突き立てる事でここまで登ろうと言うのだろうか。
 つまりはあの変質者はメイジでは無い。フーケは余裕を取戻しニヤリと笑う。
 あの壁に剣が突き立つはずが無い。圧倒的な物理的な質量破壊力でも無い限りこの塔の壁を破壊できる筈は無いのだから。

 キンッと音がして剣は弾かれる。
「バカね。どんな良質な剣でもその壁に叩き付けちゃ鉄くずよ」
 そう思った。
 だがフーケは目を疑う事になる。トライアングルの自分すら魔法で手におえなかった、強力な、強力すぎる『固定化』が掛ったこの分厚い壁をその剣は2度目には貫いた。
 ザクッザクッザクッ
 凄まじい勢いで壁を登り始めた。フーケは緊張した。
 その剣にそしてその技に。確かに全裸の男が凄まじい勢いで迫ってくるのは怖いが、その動きにはそれを上回る迫力がある。

 階の狭間にある僅かな引っ掛かりを利用し、一気に加速する。そのまま壁を斬り裂きながら駆けあがる様にしてフーケへと一気に迫る。
 全裸の人影の顔が月明かりに照らされる。
 あれは一生徒であるマリコルヌ?何故彼が?フーケの纏うフードから僅かに覗く口から困惑の表情が浮かぶ。
 あの決闘を重視していなかったフーケにはマリコルヌの動きとその手にある剣は調査不足である為精神的衝撃が大きい。
 月明かりの中空に浮かぶ全裸の衝撃もキツイ。

 あとやはり今まで影になってはっきり見えてなかった、見たく無い物が鮮明な映像として一気に迫り来るのは非常に嫌だ。
 フーケは反撃すらせずに、「ひィっ」とか言いながら反射的に逃げる様に一気に塔から離れる。
 マリコルヌから放たれた斬撃はフーケのローブの裾を深く切り裂き、そして彼は其の侭五階分の高さを一気に地面へと落下していく。
 だむっ。四つん這い気味の体勢で大地に降り立ち、其の侭上をキッと向く。
「し、信じられないわね……フライもレビテーションも使わずに……」
 とても動きが速い。兎に角足止めをして逃げるかめくらましを行わなければ、逃げることができる気がしない。ともあれそれでは戦うしか無い。
 決意したフーケが素早くルーンを口にすると、地面が盛り上がり巨大なゴーレムが姿を現す。

「結局毎晩あんなことさせてんのか……」
 今までならアヌビス神が出かけた後はルイズにとって静かな時間だった。
 だが先日からは違う。増えたもう一本の喋る剣が喧しく喋っている。ワンセットで出撃させた方が良かったかも知れないと昨日ぐらいから考えていたりする。
このデルフリンガーとか言う剣、アヌビス神より五月蝿いが、良識面ではアヌビス神より遥かにマトモだと言うことが判った。お目付け役としてつけても良いかもしれない。
 アヌビス神が『き、きき、斬りてェー』とか言えば『おいおい、物騒だなお前。やたらと斬りたがるんじゃねえよ』と突っ込む。
 『斬るために存在してるのに何が悪い』だの『それは違う。戦うべき時を選べ』だの、正直喧しかったけど。
 同じ剣でも(アヌビス神は自分の事を『刀』だと言うが)作られた意義が違えば考え方?が違うものなのねと、ルイズは少し思いいったりもした。
 つまりは斬る為に作られた刀であるアヌビス神と言う剣は、本質的な部分で違うようだ。
 デルフリンガーを買った翌日の出来事だが、アヌビス神を出撃させた後の、タバサが様子を見にきたといって初めて一人ルイズの部屋に尋ねてきた時の事だ。
 デルフリンガーいわく『ありゃ包丁だね。人を斬る為の包丁だ。剣と包丁じゃ斬り方が違うんだから性質も違うに決まってらあ』だそうで。
 タバサいわく『アヌビス神はカミソリ。デルフリンガーはペーパーナイフ』研いだ刃で斬るのと、頑丈な刃で押し切り叩き切るのは違うとかなんとか。前者は短命、後者は長命なのが普通だとか。
 結局その話しをしてた時には『あの人斬り狂を良くもまぁあんなに手懐けて、てぇしたもんだ』と褒められた。

 ともあれ今日もアヌビス神が出かけていくのを見たデルフリンガーが多少呆れた様に言った。そろそろマリコルヌを本当に『かぜっぴき』にしてしまえとか、そういう事はどうでも良くなっていたが、静かな時間が欲しかったので何度もやらせていたのだ。


 そしてタバサ。
 彼女は興味を持った。デルフリンガーは判ったようだがアヌビス神が毎晩何をしているのか。人との接点が少ない彼女には噂による情報は余り入ってこない為、マリコルヌ全裸疾走話しはまだ耳にしていなかった。

 移動中のアヌビス神の後を追ったのだが姿を見失いった。動物を利用して移動しているアヌビス神は空に地表に屋根裏にと人の目が兎に角届き難い場所を動く為、後を追うのが非常に難しかったのだ。
 そんな時だ。本塔の方向から女性の悲鳴が聞こえてきたのは。
 警戒をしながらゆっくりと本塔へと向う。
 そうすると巨大なゴーレムが暴れているのが目に入った。緊張し身に力が入る。
 杖を構えゆっくりと近づく。

 その時だ。

 タバサの視界に突然上から何か肌色が降ってきた。
「!?」
 何か一瞬顔の前をぷらぷらと揺れる何かが通りぬけた気がした。続けて見覚えのある顔がやたらと残虐な表情で見えた気がしたがもう目に映らない。
 滅多に表情が変わることのないタバサの顔が真赤に染まる。
「……っ!?」
 声が出ない。出したくても出せない。
「ん?タバサじゃないか」
「!?!?!?」
 しかも声をかけられた。名前まで呼ばれた。

 視線を合わせちゃ駄目!そう思い視線を逸らす。すると今まで探していた、きらきらした姿がそこにあった。
 少しだけ後退って、深呼吸を軽くしてから下半身を見ない様にして向き直る。
 マリコルヌだった。
「??????」
 何故全裸……。何故全裸のマリコルヌをアヌビス神が操っているんだろう。疑問が頭を埋め尽くす。
 しかしそんな思考をめぐらせる余裕ある時間も瞬く間に消し飛ぶ。
 ゴーレムの巨体が迫りきていた。



 キュルケはちょっと暇つぶしにタバサの部屋を訪ねた
 しかし不在。そう言えばルイズのとこのインテリジェンスソード二本に興味津々のタバサが最近時々ルイズの部屋に赴いていたのを思い出した。
 ということでルイズの部屋に行く事にする。
 がちゃり。ノックもせずに開けようとする。タバサが来てるなら良いわよねと考えての行為だったのだが。鍵は閉まっていなかった。
「ルイズ、タバサは来てるかしら?」
「ちょっあんたノックぐらいしなさいよ!」
「良いじゃない別に」
「良くないわ。これだからツェルプストーの人間はっ」
「鍵かけてないからよ」
「あんたかけてても開けるじゃない!」

「おー、こないだ一緒にいた姉ちゃんか。へぇールイズおめえ、アヌビスばっか仲間作って生意気みたいなこと言ってたがちゃんと友達いるじゃねえか」
 今にも口論を始めそうだった二人に声をかけたデルフリンガーは、
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ
「な、何事だおめえらぁぁぁぁぁぁ、いやァー、ちょ、やめっー!」
 何故か顔を赤くした二人に揃って踏みつけられた。

「何かデジャヴね。
 まあ良いわ。タバサ来てないかしら?」
「来てないわよ、何か用でもあったの?」
「ん~特別に用は無いわ。ちょっと尋ねたらいなかったから気になっただけよ。
 そう言えばあなた、もう一本の方はどうしたの?」
 ルイズはその問いに散歩でしょと一言答えておいた。
 剣が散歩などあまりにありえない話しなのだが、先日ルイズの日記を盗み読みしてしまったキュルケにはなんとなく通じたらしく。ふぅーんと軽く返し其の侭椅子に座る。
「何で座るのよ。帰りなさいよ」
「たまには良いじゃないの。わたしだって女友達の部屋で過ごしたい日だったあるのよ」
 その会話を聞き、デルフリンガーはまた軽口を叩く。
「おめーらやっぱ友達じゃねえか」

「タバサが戻ってくるまでで良いのよ」
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ
「ここは暇つぶし場所でもカフェテリアでもないのよ」
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ
「そうねお茶でも飲みたいわねお茶」
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ
「あんただからここはカフェじゃないって言ってるの聞こえないの」
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシゲシッゲシッゲシッゲシッ





 ゴーレムと剣を持ったマリコルヌの戦場からも充分距離も取れたのでフーケはそろそろ逃げようかと考えていた。だがその時気付いた。
 目的の宝物庫の壁が深深と切裂かれている事に。ここまで見事に傷が付いていれば充分だ。ゴーレムの拳だけで充分砕ける。
 戦場を再び塔の側に導き、ドサクサで壁を破壊し侵入する。多少リスクは有るが今ならばそれをするだけの価値はある。
 宝物庫内の大体の見取り図も把握している、手早く事を行えば間に合う。
 フーケは決意した。


 戦い慣れているタバサは素早く思考を切り返る。
 アヌビス神に目配せをし、続けて使い魔のシルフィードを呼ぶ為の合図を空に向けて送る。
 その一瞬の後、二人は左右に散る。
 ルーンを素早く唱え、エアハンマーをゴーレムに向け叩き付ける。
 牽制のつもりが意外と効果が有った?とタバサは疑問に思う。ゴーレムは少し後ろへと後退する。
 そこへ続けてアヌビス神はゴーレムの脚を斬り付ける。

「糞っ、やっぱ手応えが少ないな」
「粉々にしないと駄目、それか術者をどうにかする」
「前者は俺じゃ無理だな。タバサはどうだ」
「無理」
「じゃあ後者だな……ってそういや奴は何処行った?」
 アヌビス神はフーケの姿を見失った事に気付いた。
 そもそもその敵の正体も目的が何かも知らないままに戦いを始めてしまったのだからお手上げである。
 タバサも本塔への道中で遭遇したのだから何も判らぬままである。
 ただ本塔前に何時の間にか居る事に気付いた。
「誘い込まれた?」
 この場所に出た途端ゴーレムの動きが手強くなった気がする。
「またここに戻っちまったか」
 アヌビス神の言葉に確信する。
「多分術者の目的はここにある」
 だがタバサがそう気付いた時は遅く、ゴーレムが大振りした腕が宝物庫の壁に突き刺さっていた。
 腕に続けて何か人影が、ゴーレムの腕を伝って開いた穴から中に入るのが見えた気がした。

 宝物庫から腕を引き抜いたゴーレムは、今度はタバサ達の動きを止めるように積極的に襲いかかってきた。
 動きは緩慢なものの巨体ゆえに先端部結果速く、そして歩幅が広い為移動速度も速い。
 それは人の足の速さでは振り切れるものでも無くタバサは壁際に追い込まれてしまった。

 ようやく念願の宝物庫の中へと入り込んだフーケ。ちょっぴり今までの苦労がフラッシュバックする。
私頑張ったわと思いながらも早速目的の『破壊の杖』を探す。流石魔法学院の宝物庫、様々なマジックアイテムが所狭しと並んでいる。
 そしてその中に目的の『破壊の杖』は有った。明かに他の物品とは異質な存在である、それはどう見ても魔法の杖には見えない代物であったが、確かに『破壊の杖。持ち出し不可』のプレートが下がっている。
 ホント今回は何時もの倍以上に大変だったわ。と思いながらそれを手に取る。思ったよりもとても軽い。
 一瞬考え込んでいると突然ドンっと揺れる。ゴーレムが壁を思いっきり殴ってしまった様だ。
 頭をぶんぶんと振り、感情持ち出してる暇は無いと思い直し自前の杖を振る。
 すると『破壊の杖、確かに領収しました。土くれのフーケ』と壁に文字が刻まれる。

 フーケが入って来た穴からそっと外を覗くと、ウィンドドラゴンがゴーレムの脇をくぐり牽制する様に飛んでいるところだった。ウィンドドラゴンの首には先程途中から現われた小さな青髪の少女がぶら下る様にして抱きついている。
 フーケは迷う事無くゴーレムの肩に向って飛びつく。
 ウィンドドラゴンまで出てきた以上さっさとしないと逃げるのが更に困難になる。それにあの全裸とはこれ以上関りたくも無い、フーケはゴーレムを外に向け急がせた。




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