ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-19

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「全く。手間のかかる子だわ」
 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールとジョセフ・ジョースターが、二人、凛と立つ。
 垣間見えた表情は、あんな巨大ゴーレムを前にしてるというのに恐れなんか微塵も無い。むしろ敵とすら認識してない感じ。
 ここまで随分と時間をかけさせてくれたものだわ。私達もそうだけど、フーケにしたっていい面の皮ってものだわね。あたしならここまでバカにされたら怒り狂うわ。
 精神力は随分と消耗したし、気を抜いたら今にも眠ってしまいそう。こんな埃っぽい場所で徹夜だなんて肌に悪いわ。東の空なんか白み始めてるじゃない。
 あの二人と来たら、戦場だというのに見てて恥ずかしくなるようなやり取りを平気でしてるし。あたし達が見てるってことを忘れてるのかしら。それとも気にしてないのかしら。あれは多分、気にしてない方だ。
 あーあーやだやだ、これだからバカップルってものは。まあその御代としてこれからあのおチビをからかう材料くらいにはしとかないとワリに合わない。ダーリンはからかっても軽くあしらうけど、ルイズを恥ずかしがらせるトスだと考えたらそれはそれで。
「ごめんねータバサ。とんだモノに付き合わせたわね」
 タバサは気にしてないと思うけど、それでも一応の礼儀として謝りは入れておく。
「あれはあの二人にとっての通過儀礼として必要と判断。どうせフーケはハーミットパープルで幾らでも追跡可能」
 あ、でもちょっと眠そう。私以外には判りにくいくらい、無表情の陰に隠れてるけど。
 ここからが本番なんだし、もうちょっと頑張るわよ。お互い。
 それにしても。タバサのシルフィードにしたって、ルイズのジョセフにしたって。
 私のフレイムは大当たりも大当たりのはずなんだけど。
 ……自信なくすわー。

「で、ジョセフ。勝つ方法があるのよね。どうすればいいの」
「うむ。まず下準備がちと必要での」
 ジョセフはひとまずルイズを背中に背負うと、いきなりゴーレムに背を向けて走り出す。
「ちょ! いきなり逃げるとかナシじゃない!?」
「じゃから下準備がいるっつったじゃろ!」
 さっきまでのやり取りはどこへやら、普段の雰囲気に逆戻りした二人。だがあさっての方向に向かって走っているわけではなく、シルフィードが飛んでいる方向へ向かっている。
「タバサ! イチゴのパスケットを渡してくれ!」
 ジョセフの声にタバサが風の魔法でイチゴ一杯のバスケットを包み込むと、そのままジョセフに向かって投げ渡す。
 精密動作に優れたタバサの風は、イチゴの一つも落とすことなくジョセフにバスケットを届けた。
「この期に及んでイチゴなんか何の役に立つのよ!」
 普通の人間は巨大ゴーレムの戦いにイチゴを持って行かない。ルイズの怒りももっともだ。
 だが、ジョセフは背中のルイズにイチゴを一粒投げて渡し、自分も一粒口に放り込んだ。
「コイツがなァ……あのゴーレムをブッちめるわしの切り札なんじゃよ。ルイズよォ~~~」
 ヘタを地面に吐き捨てて、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるジョセフ。
 非常に信用ならないが、ルイズはイチゴと罵詈雑言を飲み込んで、言った。
「……信じるわよ」
「オーケーご主人様! んじゃ、もうちょい下準備に時間がかかりますんでのォ! もうちょい逃げさせてもらいますかのォ! 二人とも! もうちょい空におっとってくれ!」
 ゴーレムを小馬鹿にするように、ジョセフは勢い良くクレーターばかりの地面を駆け巡る。

 おんぶされているルイズには、見えないはずのジョセフの顔がありありと見えた。
(ブン殴ってやりたいほど楽しそうな顔してんだろうなあ。コイツ)
 その予想は全く外れていなかった。
 そして一分ほど走った後、ジョセフはシルフィードのほぼ真下へと到着すると、大きく声を上げた。
「三人とも! あやつのドテっ腹にありったけの魔法をブチ込んでくれィッ! パーッと行こうじゃないかッ、せっかくのフィナーレなんじゃからのォッ!!」
 と言ってから、ルイズにゆるりと振り向く。
「まだイケるか、ルイズ」
 不眠で夜明けを迎えようとしている三人に対し、ルイズは仮眠をとっている。その瞳に疲労というものは一切なかった。
「誰に聞いてるのよ。私はアンタのご主人様よ?」
「オーケー! んじゃ、ハデにやっちまってくれィッ!!」
 ジョセフの叫びと同時に、ゴーレムの胴体へ次々と魔法が打ち込まれる。
 炎の槍が外皮を焦がし、風のドリルが胴体を抉り、ゴーレムの腹が爆発する。
 しかしこれまで何度も繰り返されてきた光景と同じように、地面に落ちた土はすぐさま元あった場所に戻ろうとする。
 だが。繰り返されようとした光景に、一人の男が駆け込んで割り込んだ。
 頭に帽子、左手に剣、右手にイチゴ満載のパスケット、背中にピンク髪の美少女という珍妙な出で立ちの男は、元あった場所に戻ろうとする土塊目掛け……
 遠心力をフルに使ってバスケットを振り回し、大量のイチゴをばら撒いたッ!
 しかしばら撒かれたイチゴはただのイチゴではない。一分間走っている間にジョセフがくっつく波紋を大量に流し込んだ、特製波紋イチゴッ!

 土塊に付着した大量のイチゴは、土塊達と共に浮かび上がり、ゴーレムを形成するパーツに含まれようとする。
 そしてジョセフはバスケットを地面に投げ捨てると、続いて右腕をゴーレムに向けて突き出した!
「ハーミットパープルッ! イチゴを追いかけろッッ!!」
 スタンドパワー全開で迸る紫の茨は、普段のように二、三本などというものではない。数十本もの茨が一斉にジョセフの右腕から奔り、再生しようとする土塊達の間を割ってイチゴ達を捕らえていく。
 しかも今回迸ったハーミットパープルも、またただのハーミットパープルではない。
 こちらはイチゴとは違い、大量の反発する波紋を流し込んでいる茨である。土塊の中に入り込んでも、茨に入った波紋が土塊を押し退け、茨が潰れることなどありはしない。
 果たしてゴーレムは再生を遂げたものの、その胴体にはイチゴを追いかけて張り巡らされたハーミットパープルが、まるで人間の身体で言うところの血管のように割り込んでいた。

「さあこっからじゃルイズッ! 『ゴーレムの身体の中』にッ!! ありったけの『魔法』をブチ込んでやれィーーーーッッッ」

 言われるまでもない。ジョセフが奔らせたハーミットパープルがイチゴを追って行った時に、やらなければならないことをルイズは既に理解していた。
 ルイズは返事する代わりに、最初に使うべき呪文の詠唱をとっくに終え――

「ファイアーボールッッッッ!!!」

 今のゴーレムは、土塊がみっちりと詰まった通常のそれではなく、胴体に大量の隙間を作られたもの。そして閉鎖された空間で起こった爆発はエネルギーが逃げることも出来ず、開けた空間と比べて甚大な破壊力を持つことになる。
 ルイズの呪文が完成したと同時に消えたハーミットパープルだが、反発する波紋をたっぷり流されたゴーレムは張り巡らされた空間に土塊を集めて再生することも出来ない。
 しかもルイズの起こす爆発はジョセフをして「威力だけならわしの波紋のビートより遥かに上」とお墨付きの破壊力を持つ。そして思った場所に着弾させる命中率も非常に高い。
 ハーミットパープルが隙間を作ったとは言え、その直径は大きくないどころか、狭いと言うしかない。だがゴーレムの表面では一度も爆発は起こらなかった。完成した空隙に爆発魔法が寸分なく入り込んだことの証明である。
 とにかく早く、とにかく正確に。
『魔法成功率ゼロ』の仇名を払拭する為に幾百回も繰り返された練習の成果が今、ここで結実した。
 ルイズが一度魔法を唱えるたびに、ゴーレムの中から爆発が起こり、胴体が見る見るうちに吹き飛び、削られ、消し飛んでいき――
「これでもッッッッ!!! 食らえぇぇぇぇえええええッッッ!!!!」
 裂帛の気合を込めた魔法が起こした、一際大きな爆発。
 胸も腹も吹き飛ばされ、大地の重力に引かれた頭部が残った下半身に落ち、地響きと土塊混じりの突風が巻き起こり……


 ゴーレムは、土塊の小山に成り果てた。

 荒い呼吸を繰り返すルイズ。ルイズを背負ったまま、当然のように笑みを浮かべているジョセフ。シルフィードに乗ったまま、今しがた起こった出来事に大きく目を見開いているキュルケ。普段通りの無表情な唇の端に、ほんの僅かに笑みを乗せているタバサ。
 ゴーレムを構成していた魔力も消し飛んだ土塊の小山は、もはやぴくりとも動かない。
「…………勝っ、た…………?」
 まだ杖を突き出したままだったルイズの手が、くたり、とジョセフの肩に落ちた。
「勝った、わね……」
 キュルケが、ごくり、と唾を飲み込んだ。
「勝った」
 タバサが、こくり、と頷いた。
「ああ。わしらの勝ちじゃ」
 ジョセフが、にやり、と笑った。
 キュルケは花火のように歓喜を爆発させて、手近にいるタバサに抱き付いた。
「タバサタバサタバサタバサっ! やった、やったわよ、ルイズがやったわ!」
「見たら判る」
 そう言いつつも、タバサはシルフィードを着地させる。まだシルフィードが着地しきってないのにキュルケは待ちきれないとばかりに地面に降り、二人に向かって駆け出す。
 まだルイズは今起こったことが信じられないようで、ジョセフの背から降りてもこれが現実かどうか確かめようとほっぺたをつねって痛がっていた。
「ルイズルイズルイズルイズっ! あんたやったじゃない! やったわよあんた!」
 小柄な身体を力いっぱい抱きしめると、そのまま勢い良く振り回す。
「ちょっ! やめ、目が回るっ!」
 ルイズの抗議もなんのそのとばかりに振り回しているキュルケをよそに、ゆっくりと三人に歩いていくタバサ。

 そんな時だった。
 微笑ましげに少女達を見守っていたジョセフは、まるで操り人形が突然糸を切られたかのような唐突さで、地面に倒れ伏した。
「……え?」
 やっとキュルケから解放されたルイズも、まだ抱きしめ足りないとばかりにもう一度ルイズを捕まえようとしていたキュルケも、やっと三人の近くにやってきたタバサも。
 一瞬呆然と倒れたジョセフを見た後、慌ててジョセフに駆け寄って跪いた。
「ちょっ! ジョセフ!? ジョセフ!」
 パニックになってジョセフの身体を両手で揺さ振り、懸命に名を呼ぶルイズ。
「ウソでしょ!? どうしたのよダーリン!」
 キュルケも今起きた事態を把握すると、ジョセフから顔を上げてタバサを見た。
「……脈は、ある」
 ジョセフの手首をつかんだタバサが、彼女には珍しくルイズにも判るほどの焦りを見せていた。ジョセフはルイズ達の呼びかけにも返事をせず、ただ目を閉じて倒れ伏していた。
「早く学院に連れて帰るのよ! 治癒してもらわなくちゃ!」
「判ってるわ! ジョセフをレビテーションで……!」
 キュルケの声に、タバサが急いでレビテーションの魔法をかけようとした時、何者かがゆっくりと近付いてくる足音が聞こえた。
 精神力もほとんど使い果たした三人は、それでも反射的に足音の主に杖を向けた。
 だが、向けられた杖はゆっくりと下ろされることになった。
「……ミス・ロングビル……?」
 その足音の主は、三人がよく見知った女性だったからだ。
 魔法学院学院長オスマンの秘書である、ミス・ロングビル。

 よくオスマンにセクハラされては彼を容赦なく殴り倒す、緑の髪に眼鏡の美女を見間違えるはずはない。
 どうしてこんなところに? という疑問を三人が抱いたのも仕方がない。
 しかしロングビルは、三人と、地面に倒れ伏したジョセフを一瞥し。

 唱え終えていた呪文を完成させた。

 その瞬間、彼女の横の地面が凄まじい勢いで隆起し。三人の少女が呆然と見上げる前で、あまりにも見覚えのありすぎるゴーレムが、立ち上がった。
「…………ど、どうしてっ…………」
 呻きにも似た絶望的な声が、ルイズの唇から漏れる。
「ジジイがそのザマじゃあ、もうあたしの勝ちは決まったようなモンさ。あの時にちゃんととどめを刺しとけばこんな事にゃならなかったがねッ」
 清楚で理知的な雰囲気はかなぐり捨て、汚い口調で吐き捨てるロングビル。
「ミ……いや、ロングビル! あんたがッ……フーケだったっての!」
 キュルケの詰問に、ロングビルだった彼女は、嫌らしく笑った。
「その通りさ。あのドスケベジジイのセクハラされながらやっと破壊の杖を手に入れたってのに、まさかこんなに早く追いつかれるとは予想もしてなかったさ。しかも私のゴーレムが吹き飛ばされるだなんて、もっと思ってなかったがねッ!」
 だがフーケは自分の勝利を信じて疑わない笑みで、ルイズ達に杖を向けた。
「だがあたしはまだゴーレムを用意できる! アンタ達にはジジイがいないッ! これがどういうことか判るかいッ! あたしはここでアンタ達を始末して、何食わぬ顔で学院に戻るッ! そして秘書ヅラして適当な教師を案内して、破壊の杖の使い方を吐かせるのさッ!」

 勝利を確信したフーケは、自分の計画をさも楽しげに紡ぎ、貴族の小娘達を屈辱と敗北に塗れさせる言葉を投げていた。
 だがフーケの期待とは裏腹に、三人はただ黙って聞いているだけだった。
 そしてその瞳に、恐怖や怯えは全くない。それがロングビルの怒りを煽り立てる。
 不意に、三人が、口を開き。全く同じ言葉を言ってのけた。
「次にお前は『このクソガキどもがゴーレムで踏み潰してミンチにしてやる』と言う」
「こっ……このクソガキどもが! ゴーレムで踏み潰してミンチにしてやッ……はッ!?」
 今から言うはずだった言葉を言い当てられて虚を付かれる。
「ファイアーボールッ!」
 フーケが我に帰った瞬間、ルイズの魔法が炸裂し、爆風がフーケが一瞬前にいた空間で炸裂する。
「こッ……このクソガキがァーーーーーーッッッ」
 爆風から間一髪逃れたフーケは、すぐさま三人めがけて魔法を撃とうとし……晴れていく土煙の向こうに、信じられないものを見た。
 三人の少女は地面にしゃがみこみ、両手で耳を塞いでいる。
 そしてその後ろには、確かに自分が盗み出したはずの破壊の杖を構えているジョセフ――

 凄まじい爆音が轟き、自慢のゴーレムの上半身が消し飛んで。下半身しか残っていないゴーレムが土塊の山に戻る光景さえ、満足に見届けることが出来なかった。
 フーケは知らない。ジョセフが倒れたのは自分を誘い出す為の罠だった事を。倒れたままハーミットパープルを三人の後頭部に這わせ、骨伝導の理論を用いて言葉を伝えていたことを。
 何より、ジョセフに三回も同じ手を使うことは、凡策を通り越して愚策だということを。
 次の瞬間、デルフリンガーを構えたジョセフがフーケの眼前に飛び込み……デルフリンガーの柄が、彼女の鳩尾にめり込んでいた。
「ま…これで戦いの年季の違いというのがよおーくわかったじゃろう。『相手が勝ち誇ったときそいつはすでに敗北している』、これがジョセフ・ジョースターのやり方。
 老いてますます健在というところかな」
 その言葉を最後まで聞くこともなく、フーケは土塊の残骸に崩れ落ちた。


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