ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-25

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匿名ユーザー

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いつもと変わらぬ朝食。
いつもと変わらぬ授業風景。
いつもと変わらぬトリスティン魔法学院。
多くの生徒達にとっては、いつもと変わらぬ日常だった。

ギーシュは疲れていた。
魔法衛士隊隊長、ワルドの裏切りを知り、ギーシュは自分の人を見る目のなさを恥じた。
半裸のミス・ロングビルを連れて帰ってきたので、モンモランシーに問いつめられ、右の頬に紅い紅葉を作った。
更に、数日間の不在は浮気旅行じゃないのかと詰め寄られ、左の頬にこれまた見事な紅葉を作った。
そして傷の癒えたロングビルに礼を言われたのをケティに目撃され、その情報はモンモランシーに伝わり、年増ババァのどこがいいのかと詰め寄られて頭に大きなたんこぶを作っていた。

タバサは不在だった。
実家からの手紙に何が書かれていたのか知らないが、しばらく学校を休むそうだ。
キュルケの話では、こうしてたびたび実家に呼び出されるのだとか。
シルフィードに乗って実家に帰る前、タバサはルイズを心配していた。

キュルケは少し不機嫌だった。
普段通り授業を受けてはいるものの、タバサがいないと調子が出ない。
その上、ゼロとあだ名される生徒の席が、ここ一週間ばかりずっと空席だった。
その席を見ては、時折ため息をつき、つまらなそうにしていた。

シエスタはどこか落ち着かなかった。
いつものように食堂のテーブルクロスを洗濯する。
いつものように食器を洗う、いつものように配膳をする。
しかし、いつもより一人分足りない。
ルイズの姿を探しては、今日も居ないとため息をつく。
ギーシュやキュルケから、ルイズは今実家に帰っていると聞かされたが、それは嘘だと、なんとなく理解できた。

オスマンは相変わらずだった。
職務に復帰したミス・ロングビルの下着の色を、使い魔のネズミを使って調べるだけでは飽き足らない。
復帰祝いと称してロングビルに過激なビキニをプレゼントしたが、練金で瞬時に土くれに変えられてしまったため、いじけていた。

トリスティンの城、そのゲストルームに置かれた豪華なベッドの上に、一人の少女が眠っていた。
眠る少女の体中には包帯が巻かれており、その姿を同じ年頃の少女が見守っていた。
トリスティンの王女アンリエッタである、彼女はベッドの上に眠るルイズに治癒の魔法をかけていた。
「く…」
アンリエッタから苦しそうな息が漏れる。
キュルケ達がシルフィードでトリスティン城に降り立った時、アンリエッタがすぐに駆けつけなければ、ルイズは失血死していたかもしれない。
傷が塞がらないのだ。
出血はかろうじて止まったが、傷口は開いたまま、どんなに治癒の魔法をかけても、治癒の秘薬を用いても効果がなかった。
しかも秘薬の代金は国庫から出すことは出来ない、これはあくまでもアンリエッタが個人的に頼んだ依頼だからだ。
「アンリエッタ、私が代わろう」
「ウェールズ様…」
「アンリエッタ、君には公務がある、王女としての勤めを果たさなければ、ミス・ヴァリエールに笑われてしまうよ」
「………はい」
部屋に入ってきたウェールズは、アンリエッタの隣に座ると、慣れない治癒の呪文を唱え始めた。
一通り魔力が伝わるが、ルイズの身体に反応はない。
「マザリーニ枢機卿は、なかなかの切れ者だね」
「えっ?」
「僕はここでも身を隠すことになるようだ、当分は地下で過ごすことになる」
「そんな!」
「気にすることはない、本来なら私は死んでいたはずだ、ニューカッスル城と秘密港の崩壊で私は死んだと思われているので、
今の私を外交のカードとして利用させて欲しいととハッキリ言ってくれたよ。だが、その方がありがたい」
「………トリスティンの民から、私とマザリーニ枢機卿がなんと呼ばれているか、ご存じでしょうか」

「知っているよ、だが、王とはそうしたものだよ、王の立場にある者が、不用意に不快感をあらわにすると、王の権威を保つため不快感の原因となる要素は排除される。
平民は浴場で、風呂が熱い、ぬるいだのと文句を言えるそうだね、王族がそれをしたら浴室付きの侍女は皆、お役御免になってしまう、王族とは難儀なものだよ」
「私は、自分は操り人形ではないと意地になっておりました、ですから、私はマザリーニに気づかれぬよう、ルイズを利用したのです。私に…私に王女の資格などありませんわ…」
「アンリエッタ、いいかね、ミス・ヴァリエールは最後まで諦めなかった、最後まで…だ、ワルド子爵の裏切りを一番つらく感じていたのは彼女だろう、それでも彼女は君に与えられた任務を諦めなかった、それどころか、逸脱しようとした」
「逸脱…とは?」
「昨日までは、私は仲間達を残して一人生き残ってしまったと、後悔したよ。しかし、生き残ってしまったからには生きている者の勤めを果たさなければならない、ミス・ヴァリエールを恨もうとも思ったが、今で感謝しようと思っている」
「ウェールズ様、死ぬおつもりだったのですか…?」
「私は、皆の前で共に戦おうと宣言したのだよ、おめおめと生き残っている私を見て、天国の彼らはどう思っているのだろうね」
「そんな!ウェールズ様、どうか、もう死ぬなどとおっしゃらないで下さい!」
アンリエッタがウェールズの腕に、しがみつくようにして叫ぶ。
するとウェールズは微笑み、アンリエッタ手に手を重ねて言った。
「私はもう死ぬつもりはないよ、無様でも、部下を裏切ってでも、私は生きてアルビオンの魂を伝えねばならない。でなければ、私は彼女に顔向けできないからね…アンリエッタ、君はどうなのだ?」
「わたくし…ですか?わたくしは…」
アンリエッタはルイズの姿を見た。
包帯だらけで、呼吸も消えてしまいそうなほど細い、このまま治癒を続けても無駄だと王家の侍医は言っていた。つまり絶望的な状態なのだ。
「わたくしは…」
言葉を続けることの出来ないアンリエッタの肩を抱き、ウェールズはアンリエッタを自分へと向き直らせた。

「私は仲間を見殺しにした罪悪感にさいなまれた、だが助けられた以上は生きた王族としての使命を果たさねばならぬ、
彼女を使わせたアンリエッタ、君も彼女を傷つけた罪悪感に苛まれるのであれば、なおさら彼女のためにも君は王女として威厳を示さねばならないだろう…
でなければ、私は彼女の決意を、無碍にすることになると思う」
「ウェールズ様…」
アンリエッタが何か言いかけたとき、扉を軽く叩く音が聞こえた。
「姫殿下、マザリーニでございます」
「入りなさい」
マザリーニは部屋にはいると、アンリエッタに一礼した。
「殿下、どうか公務にも顔をお出し下さい、それと、もはやミス・ヴァリエールを治癒して七日が過ぎました、どうかお考えを…」
「…わかりました、すぐにそちらに戻ります、下がりなさい」
アンリエッタはルイズの顔を見る、ルイズは相変わらず死んだように眠っていた。
マザリーニの言った『お考えを』というのは、ルイズへの治癒を打ち切るという事だ。
アンリエッタは、心の中でルイズに謝った。
「ウェールズ様、ルイズに、最後に、治癒をかけてあげたいのです、どうか、一緒に…」
「喜んで」
そう言うと二人は息を合わせ、同時に呪文を唱え始めた。
水のトライアングルメイジと、風のトライアングルメイジが、二つの魔法を一つにするという強力な秘術、王家にしか伝わらないこの技術をヘキサゴンスペルという。
本来ならヘキサゴンスペルは攻撃に利用するのだが、今回は慣れない治癒の魔法を二人で唱えた。
奇跡を願って、最後の可能性にかけたのだ。

そのころルイズは、暗闇の中にいた。
暗闇の中で、ルイズは承太郎に詰め寄られていた。
ウェールズを連れて帰る決意は、アルビオン貴族派の矛先をトリスティンに向けさせるという大きな代償を払う事となる。
それを知っておきながら、なぜルイズがウェールズを助けようとしたのかを、問いつめていたのだ。
「…難しいから、何なのよ、これで戦争が始まっっても、私には責任なんか取りようがないわよ、でも、でも! あんなところで死んでいい人じゃないわ!」
ルイズの声が、漆黒の闇に響く。
『”覚悟”…いや、ワガママだな』
「何とでも言いなさいよ、それに、ウェールズ殿下が誇り高きアルビオンの魂を伝えたいと言うのなら、死ぬべきじゃないわ」
聴きようによっては、自暴自棄になった人間の台詞にも聞こえた。
『俺のいた世界には、”武士道”という本がある』
「ブシド-?」
『この世界風に言えば、貴族道とでも言ったところか…その本には、確かこんなことが書かれていた』

『武士道という花が散っても
 その香りは残り
 人々の人生を豊かにし続けるだろう』

『ウェールズはその”残り香”になろうとした、それを邪魔するのは、ウェールズに対する冒涜じゃないのか』
「ち、違うわよ!」
『どう違う!』
「………わ、私は…私は!」
言葉を続けることが出来ず、ルイズは黙ってしまった。
『ルイズ、俺は”正しい答え”なんか期待しちゃいない、”お前の答え”が聴きたい』
しばらくルイズは黙っていたが、意を決して、口を開いた。
「アンの…アンリエッタの恋人を助けられないなんて、友達失格じゃない。私は王女から密命を受けたんじゃないわ、友達の頼みを聞いたのよ、だから、よけいなお節介をしたのよ!」
承太郎は笑みを浮かべた。
『やれやれ、やっと言ったか』

「へ?」
『貴族としてとか、貴族らしいとか、そんなのは言い訳に過ぎない、ルイズ、お前は『友達の頼みに応じた』それこそ命がけでな、それを覚悟して自覚しているのなら、俺が言うことも無い』
「フン!何よ分かったような口聞いて、使い魔のくせに…偉そうに…」
『俺はもうアドバイスできなくなる…だから、その覚悟だけは聞いておきたかった』
「………えっ?」
承太郎の背後からスタープラチナが現れる、すると、周囲の暗闇がはれ、足下にルイズが見えた。
すぐ傍らにはアンリエッタとウェールズが、二人で治癒の魔法を詠唱している。
「これ、私? え、私、どうなってるの?」
驚いているルイズを無視して、スタープラチナの手がルイズの頭に入り、そして、銀色の円盤をゆっくりと引き出し始めた。
「これ…貴方の、ディスクって奴よね」
『ああ』
「どうして取り出すの?」
『ワルドとの戦いで受けた傷は、俺が引き受けると言ったはずだ』
「でも、秘薬とか魔法で治せばいいじゃない」
『それは無理だな、幽霊のような状態で見ていたが、俺がいると魔法がかからないようだな』
話していくうちにも、円盤がゆっくりと引き出されていく、半分ほど姿を見せたところで、ビシッ、と音を立てて円盤にひびが入った。
『水の魔法でも、魂までは直せないようだ』
ビシビシと音を立てて円盤に日々が広がっていく、それと同時に、承太郎の姿にもヒビが入っていった。
「ちょっと!ねえ、やめてよ  郎!…   ? あれ…?」
『これからお前は目が覚める、目が覚めたら俺のことは忘れてしまうだろう』
「待って!そんな、こんな急に、駄目よ!私はまだ、貴方が居ないと、戦えない!」
『俺はお前の記憶を操作した覚えはない、ただ、夢を見せただけだ。ルイズ、お前は俺の記憶を見ただけであれだけの『覚悟』を決めて、成長した、自分に自信を持て』
「イヤだ!忘れたくない!わすれたく…」
ルイズの魂が肉体に引き寄せられると、承太郎の姿はそれにあわせてゆっくり消えていく。

『………もし、娘に会ったら、その時は助けてやってくれ』

そうして、ルイズの意識は闇に落ちた。

「げほっ」

アンリエッタの目の前で、ルイズが咳き込む。
「ルイズ…!」
アンリエッタは詠唱を止めて、ルイズの顔をのぞき込んだ。
「げほっ…はぁ…あ、アンリエッタ姫さま…おはようございます」
「ルイズ…ルイズ!」
「ま、待ちたまえ!」
ルイズに飛びつこうとしたアンリエッタを、ウェールズは慌てて押さえた。
「ウェールズ殿下、私なら、大丈夫です、ほら」
そう言ってルイズが頭の包帯を取ると、顔や頬につけられていた傷は綺麗に治っているのが見えた。
それを見たウェールズはアンリエッタの肩から手を離した、アンリエッタはルイズに抱きつくと、まるで子供のように泣きじゃくった。

ルイズは、アンリエッタを抱きしめながら、何か大事な夢を見ていたはずだと考えたが、とりあえず今はアンリエッタに抱きしめ返すことが先だ。



外した包帯の中から、ヒビの入った円盤が、きらりと輝いた。




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